ケーズデンキなど家電量販店を展開するケーズホールディングスは郊外型の出店スタイルで今年度(2016年3月期)も着実に店舗数を増やしている。直営 店で32店舗を新規出店し、期末にはグループ合計で468店舗を計画する。ライバルが閉店に追い込まれるなか、郊外型店舗で新規に出店しつづけることはで きるのか。「がんばらない経営」を経営スローガンに掲げる同社にとっては、頑張り時ではないのか。遠藤裕之代表取締役社長兼COOに疑問をぶつけた。
──少子高齢化や人口減でマーケットが縮小するなか、郊外では家電量販店が閉店するなど競争が激化しています。都市型店舗がないケーズデンキも影響があるのではないですか。
遠藤 家電量販店はオーバーストアだとみなさん言います が、われわれの店の周りの家電量販店やパパママショップが次々と閉店しているので、みなさんが思っているほど競争は激しくなっていませんよ。毎年、コンス タントに新規出店しているのはわが社ぐらいだし、各エリアで本当に競争は激しくなっているのですかね。
──ケーズデンキは元気だけど、ほかの家電量販店が苦しんでいると。
遠藤 確かに客数の伸びは以前ほどの勢いはありません。売上高が前年比で120%も伸びるような時代ではありません。しかし、客単価は前年比で120数%の勢いで伸びています。
各家庭に家電製品がある程度行き渡り、家電業界は買い替え需要がベースになっています。冷蔵庫が壊れたからといって、冷蔵庫のない生活をする方はいらっしゃらないでしょう。この確実に起きる買い替え需要を、どう取りながらシェアを上げていくかという戦略です。
──他社が撤退する郊外の市場でケーズデンキが残っている理由はなんですか。
遠藤 どこかに勝つとか、どこかから奪い取るというイメージはありません。ただ、お客様に選んでいただくことを意識しながら、社員のみなさんは日々取り組んでいます。大切なのはファンづくりです。
では、ケーズデンキのファンになっていただくために何をするのか。これについては細かい項目まで落とし込んで、理想に近づける取り組みを続けています。
──例えばどんな取り組みですか。
遠藤 一つひとつ挙げればきりがありませんが、例えば駐車場に車をとめる時に、隣の車との距離がギリギリの幅しかなく、ラインが一本しか引かれていない駐車場と、ダブルのラインが引かれている駐車場と、お客様はどちらの駐車場のある店に行きたいと思いますか。
前者では隣の車との距離にハラハラしながら止めなくてはいけませんが、後者では二本の線が引かれているので内側のラインギリギリに止めても、隣の車との 距離が確保されているので余裕をもって止められます。駐車場のラインひとつとっても、細かい積み重ねをどこまでするかということです。
遠藤 一切考えていません。普通であれば、人口が減っていくので多くのお客様がいる都市部に出店した方が売り上げが増えると考えますよね。年商5億円の店を4店つくるよりも、年商20億円の店をボーンとつくっちゃった方が効率的だと。
しかし、都市型と郊外型では運用手法がまるで異なります。同じ家電製品を扱っているのだから一緒でしょ、という話ではありません。両方を手がけると、結果的に時間がかかるし、コストも高くつきます。
──大きなマーケットに大型店を出店した方が売上拡大のスピードは速まりそうですが。
遠藤 われわれが飛び地にいきなり出店せず、ドミナント で出店しているのには理由があります。ケーズデンキが1店あったら、その店の商圏の一部がかぶるようにして新規に出店します。半分のお客様はケーズデンキ を知っているけど、残り半分のお客様はケーズデンキをそれほど知らない新規客となります。
この方が、利用していたお客様の口コミや評判が広がりやすく、コストを抑えてファンを増やすことができるからです。ケーズデンキをまったく知らないお客 様だけの土地にいきなり大型店を出店しても、周りには競合の量販店がいるんですよ。競合がいるなか、一から自分たちのお客様をつくっていくのは、時間もコ ストもかかるのです。
われわれのようなドミナント出店をみなさんはカニバルと言いますが、商圏が重なる部分の売り上げは減ってもいいんです。1店だけだったときより、2店の方がトータルのシェアは広がっているのですから。シェアが広がれば、販促コストはその分、抑えられます。
──1店あたりの平均売場面積は約3700m2になっています。スクラップ&ビルド(SB)を今後も進めていくのですか。
遠藤 年間10店ぐらいのペースで、われわれは何十年もかけてずっとSBを続けています。いま一斉に閉めている(他社の)店は、SBをせずにずっとリニューアルしなかった店でしょう。
SBは、長い時間をかけて閉店と同じことを行っているのです。SBをせずにほったらかしにしていたら、今から100店閉めなければならないとなるわけです。
──インターネット販売についてはどうですか。
遠藤 われわれも自社サイトで販売していて、売上構成比で1%の約70億円ぐらいです。今後も増やす考えはありません。
多くは商圏内のお客様の利用です。ケーズデンキで購入しようと思ったけど、今日は都合があって店に行けないからネットで購入するという使われ方が多いです。ネット販売こそ、店が近くにあった方が便利なのです。
商品が気に入らなければ、店に返品しにいけば済みますから。自分で梱包して配送センターに返品する面倒はいらないのです。
──リアル店舗を持っている方が、価格面で不利ではないですか。
遠藤 物流センターなど新たに投資する必要がないので有利です。販売する商品を店舗で在庫しておけるので、お客様が注文した商品は一番近くの店から配送できます。
ネット販売を経営している方は、リアル店舗よりもコストが高くかかっているジレンマを抱えていると思いますよ。ECサイトに出店するフィーを支払って、なおかつ高い宅配便の配達料を負担するのですから。
われわれはその分を現金値引きにあてても利益はネット販売と同じか、それよりも多いですから。ECは、どこまでいっても店に来られない人へのサービスのひとつです。
――ありがとうございました。(文中敬称略)
(文・BCNランキング 細田立圭志 写真・大星直輝)
BCNランキングの取材に応じるケーズホールディングスの遠藤裕之社長兼COO
駐車場のラインひとつにもこだわり
──少子高齢化や人口減でマーケットが縮小するなか、郊外では家電量販店が閉店するなど競争が激化しています。都市型店舗がないケーズデンキも影響があるのではないですか。
遠藤 家電量販店はオーバーストアだとみなさん言います が、われわれの店の周りの家電量販店やパパママショップが次々と閉店しているので、みなさんが思っているほど競争は激しくなっていませんよ。毎年、コンス タントに新規出店しているのはわが社ぐらいだし、各エリアで本当に競争は激しくなっているのですかね。
──ケーズデンキは元気だけど、ほかの家電量販店が苦しんでいると。
遠藤 確かに客数の伸びは以前ほどの勢いはありません。売上高が前年比で120%も伸びるような時代ではありません。しかし、客単価は前年比で120数%の勢いで伸びています。
各家庭に家電製品がある程度行き渡り、家電業界は買い替え需要がベースになっています。冷蔵庫が壊れたからといって、冷蔵庫のない生活をする方はいらっしゃらないでしょう。この確実に起きる買い替え需要を、どう取りながらシェアを上げていくかという戦略です。
──他社が撤退する郊外の市場でケーズデンキが残っている理由はなんですか。
遠藤 どこかに勝つとか、どこかから奪い取るというイメージはありません。ただ、お客様に選んでいただくことを意識しながら、社員のみなさんは日々取り組んでいます。大切なのはファンづくりです。
では、ケーズデンキのファンになっていただくために何をするのか。これについては細かい項目まで落とし込んで、理想に近づける取り組みを続けています。
──例えばどんな取り組みですか。
遠藤 一つひとつ挙げればきりがありませんが、例えば駐車場に車をとめる時に、隣の車との距離がギリギリの幅しかなく、ラインが一本しか引かれていない駐車場と、ダブルのラインが引かれている駐車場と、お客様はどちらの駐車場のある店に行きたいと思いますか。
前者では隣の車との距離にハラハラしながら止めなくてはいけませんが、後者では二本の線が引かれているので内側のラインギリギリに止めても、隣の車との 距離が確保されているので余裕をもって止められます。駐車場のラインひとつとっても、細かい積み重ねをどこまでするかということです。
ドミナント出店で着実にシェア拡大
「確実に起きる買い替え需要を、どのように取ってシェアを上げていくかが重要」
遠藤 一切考えていません。普通であれば、人口が減っていくので多くのお客様がいる都市部に出店した方が売り上げが増えると考えますよね。年商5億円の店を4店つくるよりも、年商20億円の店をボーンとつくっちゃった方が効率的だと。
しかし、都市型と郊外型では運用手法がまるで異なります。同じ家電製品を扱っているのだから一緒でしょ、という話ではありません。両方を手がけると、結果的に時間がかかるし、コストも高くつきます。
──大きなマーケットに大型店を出店した方が売上拡大のスピードは速まりそうですが。
遠藤 われわれが飛び地にいきなり出店せず、ドミナント で出店しているのには理由があります。ケーズデンキが1店あったら、その店の商圏の一部がかぶるようにして新規に出店します。半分のお客様はケーズデンキ を知っているけど、残り半分のお客様はケーズデンキをそれほど知らない新規客となります。
この方が、利用していたお客様の口コミや評判が広がりやすく、コストを抑えてファンを増やすことができるからです。ケーズデンキをまったく知らないお客 様だけの土地にいきなり大型店を出店しても、周りには競合の量販店がいるんですよ。競合がいるなか、一から自分たちのお客様をつくっていくのは、時間もコ ストもかかるのです。
われわれのようなドミナント出店をみなさんはカニバルと言いますが、商圏が重なる部分の売り上げは減ってもいいんです。1店だけだったときより、2店の方がトータルのシェアは広がっているのですから。シェアが広がれば、販促コストはその分、抑えられます。
──1店あたりの平均売場面積は約3700m2になっています。スクラップ&ビルド(SB)を今後も進めていくのですか。
遠藤 年間10店ぐらいのペースで、われわれは何十年もかけてずっとSBを続けています。いま一斉に閉めている(他社の)店は、SBをせずにずっとリニューアルしなかった店でしょう。
SBは、長い時間をかけて閉店と同じことを行っているのです。SBをせずにほったらかしにしていたら、今から100店閉めなければならないとなるわけです。
インターネット販売はリアル店舗がある方が便利
──インターネット販売についてはどうですか。
遠藤 われわれも自社サイトで販売していて、売上構成比で1%の約70億円ぐらいです。今後も増やす考えはありません。
多くは商圏内のお客様の利用です。ケーズデンキで購入しようと思ったけど、今日は都合があって店に行けないからネットで購入するという使われ方が多いです。ネット販売こそ、店が近くにあった方が便利なのです。
商品が気に入らなければ、店に返品しにいけば済みますから。自分で梱包して配送センターに返品する面倒はいらないのです。
──リアル店舗を持っている方が、価格面で不利ではないですか。
遠藤 物流センターなど新たに投資する必要がないので有利です。販売する商品を店舗で在庫しておけるので、お客様が注文した商品は一番近くの店から配送できます。
ネット販売を経営している方は、リアル店舗よりもコストが高くかかっているジレンマを抱えていると思いますよ。ECサイトに出店するフィーを支払って、なおかつ高い宅配便の配達料を負担するのですから。
われわれはその分を現金値引きにあてても利益はネット販売と同じか、それよりも多いですから。ECは、どこまでいっても店に来られない人へのサービスのひとつです。
――ありがとうございました。(文中敬称略)
(文・BCNランキング 細田立圭志 写真・大星直輝)