• ホーム
  • トレンド
  • ASUSのジョニー・シー会長に聞く、ZenFone2開発の舞台裏とZenの心

ASUSのジョニー・シー会長に聞く、ZenFone2開発の舞台裏とZenの心

特集

2015/05/08 17:15

 ASUS JAPANは4月20日、SIMロックフリースマートフォンの新製品「ZenFone 2」を5月16日に発売すると発表した。自身が「性能怪獣」と名付けるほどのハイスペックモデルを投入した同社の狙いはどこにあるのか。また、このところ日本での存在感が急速に大きくなってきたASUSを率いるのはどんな人物なのか。発表会出席のため来日したASUSTeK Computerのジョニー・シー会長にBCNの道越一郎チーフエグゼクティアナリストが話を聞いた。

デザインとパフォーマンスを両立――ZenFone 2ではブレイクスルーが実現



道越一郎(以下M) 今回発表したZenFone 2は、前作のZenFone 5よりもかなりハイスペックなモデルになりましたが、なにか大きな戦略変更でもあったんですか。

ジョニー・シー(以下J) 最初のモデルから哲学は変わりません。誰もが楽しめるワンランク上の贅沢・豪華さというところを目指しました。前モデルのZenFone 5は、まだグローバルなモデルとはいえませんでしたが、今回のZenFone 2では周波数のカバレッジも広がり、完全に世界で通用するモデルに仕上がりました。その上で、ZenFone 2ではブレイクスルーをすることができたと思います。

ASUSTeK Computerのジョニー・シー会長

M その「ブレイクスルー」とはどのようなものだったんですか。

J メタリックな質感で美しく持ちやすい人間工学的なデザインでありながら、同時に高いパフォーマンスが実現できました。両端が薄く中心部にボリュームをもたせるデザインを採用したことで、余裕が生まれました。そこに、パフォーマンスを上げるための多くの部品を搭載することができたんです。ここにブレイクスルーがありました。デュアルSIM構成にできたのも、このおかげです。

M CPUがインテルのAtom Z3580でメモリが4GB、ストレージ64GB、5.5型のディスプレイとほとんどPCのようなスペックですが、デザインも犠牲にしていません。記者発表会でジョニーさんは、たくさんの汗と涙を流してつくりあげたと話していましたが、どんな点で最も苦労しましたか。

BCNの道越一郎チーフエグゼクティブアナリスト

J まず正しい基本設計を行う、というのが最初の難関でした。そこで間違うと後々全部間違ってしまう。ただし、そこが適切でも、まだまだ解決しなければならない課題は山積みでした。結局、iPhoneやGalaxyなどの競合製品との比較になります。高いパフォーマンスを実現しながら、コストを抑えていく必要があります。そのバランスをとるのに苦労しました。また、部品メーカーとの連携もとても重要でした。ASUSのブレイクスルーを歓迎してくれるパートナーシップがあって、すばらしい端末が実現しました。

新製品を生み出すにあたって、本当にワクワクしたのは我々のチーム



M ジョニーさんは生粋の技術者ですから、いつも本当にうれしそうに新製品を紹介します。今回のZenFone 2を生み出すにあたっても、とってもワクワクしたところがあると思うのですが。

J 一番ワクワクしたのは我々のチームですね。ベストのユーザー体験を実現しつつ低コストに抑えるために、チームでさまざまな模索を行ったんです。例えば、カメラ機能に搭載したローライトモード。暗闇のような場所で撮影しても、ノイズを抑えながら、鮮明に撮ることができます。これはiPhoneよりもGalaxyよりも優れた特長です。同時に、明るい日中でも高解像度の美しい写真を撮るというのは、実は両立がとても難しいのですが、われわれのチームが汗と涙を流して実現させました。


M 一言でチーム力と言っても、簡単にできることではありませんよね。

J ASUSの社風として、お互いにポジティブにチャレンジしていく、というところがあるんです。優れたエンジニアであっても、手をつかんで無理やり何かをやらせるということはできません。それぞれが、テクノロジーやチャレンジに正面から向き合っていくという姿勢を持っています。そんな多くの人たちの「脳力」によって新たな製品が生まれました。とはいっても、「技術ありき」であってはならない。ユーザーのニーズも意識していく必要があります。価格も大事です。いい端末ができても高すぎてはだめですよね。そういったバランスをチームで満たしていくチャレンジでした。

「私自身Zenが大好き」。ASUSにとってのZenはシンプルさの基準



M ところで、ZenFoneだけでなくZenBookもそうですが、ASUSにはZenを冠した製品が多くあります。ZenFone 2にも採用されている同心円のヘアラインデザインなど、おそらく日本庭園の石庭をイメージしたものだと思うのですが、ジョニーさんはZenがお好きなんですね。

J 私自身が仏教徒ですし、Zenがとても好きです。一口にZenと言っても表面的なものから、奥深いものまでとさまざまな層に分かれています。シンプル、平和的といったわかりやすいイメージや、おっしゃるような石庭に見られる同心円の模様も、Zenの一つのアイコンということができます。深いところでは、会社の中で一貫した「共通の知恵」とも言えるようなものだと思います。ASUSの文化にも影響していて、美しさの追求だけでなく、企業の文化精神にも反映されています。


M とはいっても、世界中に製品を販売していくことを考えると、Zenという言葉は、必ずしも理解されやすいとは言えないのではないですか。

J なぜZenか、ということで、たくさん議論をしました。特にマーケティング担当からは、あまりにも東洋的過ぎて、西洋では売れないのではないか、と心配する声も上がっていたのも事実です。ところが、先日もパリで記者発表をしましたが、とても好意的に受け入れられました。フランスでもZenにはとても関心が高いようですね。そして、Zenはまた、経営にも影響を及ぼします。

M Zenの経営とはどんなモノなんでしょうか。例えば、なにか決まりのようなものがあるんですか。

J 一言で言えば、シンプルということです。例えば経営を振り返って、複雑になりすぎていたらそれは間違っているということだ、と思うようにしています。また普通の人に対して、簡単に説明できないのであれば、それはまだ課題が残っているということです。シンプルにするというのは一つの基準になっています。「ASUS WAY」という我々の流儀があります。まず、本質を見極めるために「なぜ? を知ること」から始めるんです。


M ただ、あまり宗教的な感じになってしまうと逆にZenの精神から外れてしまうような感じもしますが。

J そうですね。Zenを宗教的なものとはとらえないようにしています。社員には、それぞれ信じている宗教があったりもします。宗教ではなく、精神の一つの基準のようなものです。まずシンプルでであるということ。往々にして組織は複雑化しがちです。「なぜ」を知ることから始め、理由を知って、次にその事象が発生している根源を知る。その根源がわかったら、シンプルさを徹底していく。マネジメントにも技術にも、同じようなことが言えます。

時計型ウェアラブルデバイスは、スマートフォンのコンパニオン



M そういえば、今回は新しいZenWatchは登場しませんでしたね。Apple Watchを筆頭にウェアラブル機器はいま、とてもホットな市場になってきていますが、次のZenWatchはどうなるんでしょう。


J 現在のウェアラブル機器、特に時計は、やはりスマートフォンの「コンパニオン的なもの」でなければならないんだろうと思います。なかにはスマートウォッチをそれだけで独立して使えるようにする方がいいという人もいますが、私はそうは思いません。第一、スクリーンが小さすぎます。時計型のディバイスを独立した端末とした製品は成功を収めることはできないでしょう。

M やっぱりApple Watchはとても気になる存在ですが、ジョニーさんはどのように見ていますか

J 先ほど言った「コンパニオン」ということなら、Apple Watchはたくさん出荷されるでしょう。そもそも、iPhoneの出荷量が多いですから。ただ、コンパニオンとしてどう使われるのか、についてはまだ考えてる余地があると思います。普通の腕時計を置き換える側面がある一方、機能を欲張りすぎて1日18時間しかバッテリーが持たない。確かにiOSとは違うOSを使いCPUも変えて工夫をしていますが、それでも18時間という持続時間は短いですね。時間という意味で何か補完できるようなコンパニオンシップ、それからさらに長い電池寿命は必要でしょう。また、健康情報をどう扱っていくかという側面もとても重要になります。

M なるほど。ジョニーさんが考える次のZenWatchの方向性が見えてきました。

J おっとっと。ちょっと情報開示しすぎたかもしれません(笑)。

重要なのはユーザーの支持。メーカーは日々の変化への対応が必須



M ところで、このところ日本では個人向けのPC市場は前年割れを続けていて元気がありません。まだまだPCの存在意義は失われていないと思うのですが、タブレット端末やスマートフォンの台頭で徐々にPCの存在感が薄れていく状況です。長年のPCユーザーとして、また市場を見てきた立場として、一抹の寂しさを感じます。私にとってASUSといえば、やはりPCメーカーという認識が強くあります。そんな意味から、ジョニーさんから見て、現在のデバイスの力関係の変化をどう見ていますか?


J つい2か月前にはキーボード着脱式の2 in 1 Windows ノートPC「TransBook Chi」シリーズを発表したばかりですが、スマートフォンもPCもタブレット端末も、まだまだ進化の途上にあると思っています。例えば、Androidのタブレット端末は、まだまだ情報生産には向きません。やはり情報消費型のディバイスです。ですから、我々としては、スマートフォンにもPCにもタブレットにも投資を続けていきます。私自身は、毎朝TransBook Chiに新聞の写真を収めて、空いた時間に読むといった使い方をしています。その一方で、仕事上の重要な情報を取り扱ったりもしています。

M とはいえ、製品の開発や発売にあたっては、どこに重点を置くかを決めなければならないと思うのですが、それはどうやって決めているんですか。

J 重要なのはユーザーの支持です。いろいろなユーザーがいます。例えば、仕事も遊びも同じ端末で済ませたい、という人もいれば、タブレットを情報消費に、PCを仕事にと、使い分けを望む人もいるわけです。そのように、全く異なるユーザーがいるということを意識して、どのくらいのユーザーが本当に支持してくれるのかを見極め、どの分野に投資していくかを決めていくことが重要です。ユーザーは日々進化し、そして変わっていきます。それに合わせてメーカーも変わっていかなければなりません。モバイルネットワークが進化した現在、変化のスピードも速くなりました。昔だったら、Windows 95の次は3年後の98でした。それが今では毎日変わっているよう状況です。

国境を越えた世界感覚がスーパースターを生む



M BCNでは、ITジュニア育成交流協会というNPO法人をつくり、将来のIT業界を担う人たちを応援しています。というのも、日本からジョニーさんやビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズのようなスーパースターを輩出したいと考えているからなんです。ジョニーさんは、どうすれば日本からそういう人たちを生み出すことができるとお考えですか。


J 私が住む台湾は特別なところです。中国も日本もアメリカも混在する文化です。そして、台湾はとても小さい。そのため、グローバルを意識せざるを得ないんですね。まず意識をグローバルに変える必要があるんじゃないでしょうか。日本人、台湾人、アメリカ人といった区別はなくなってきています。国境を超えて、本当の意味でのグローバルな世界になってきました。そこでは、次世代の人たちは、もっと世界に心を開く必要があります。また、経済も変わってきています。家や洋服をシェアしたり、さまざまなコラボレーション、情報の流れもエネルギーも製造も、3Dプリンティングも含め、どんどん分散化が進んでいます。これはとても大きな世界的な潮流です。これに直面しなければなりません。変化は毎日起きている。そして正しいコンセプトはユーザーにあります。

M お話は尽きないですが、時間になってしまったようです。本日はどうもありがとうございました。

J こちらこそありがとうございました。

(聞き手・文:道越一郎)