土砂降りのPC市場でVAIOはどう戦う?
VAIOは2月16日、新会社として初めてゼロから開発したノートPC「VAIO Z」とタブレットPC「VAIO Z Canvas」を発表した。最小構成時の税別実勢価格は「VAIO Z」が19万円前後からで16日受注開始。「VAIO Z Canvas」が20万円台後半からで5月に発売する。ソニーがPC事業の売却を発表して1年。新生VAIOはどう戦うのか。
新製品発表会で関取高行・代表取締役社長は「VAIOは2014年7月1日、『自由だ 変えよう』という宣言からスタートし、本質プラスアルファのものづくりを目指してきた。我々の力でつくり上げた新製品を発表できる今日こそが本当のスタート」とし、「すべてのVAIOを長野県安曇野で一台一台仕上げる、安曇野フィニッシュにこだわり、1人ひとりのお客様に目を向ける『個客視点』でお客様に本当に必要な製品づくりを行っていく」と語った。
また、「『自由であるか 独創的であるか』を問い続け、さまざまな分野でチャレンジしていきたい」としながら、スマートフォンで日本通信との協業を行うことを発表。「SIMロック解除の義務化をチャンスと捉え、ハードウェアでだけでなくトータルな新しい形でのスマートフォンビジネスに挑戦したい」と語った。
「VAIO Z」は、「研ぎ澄まされた道具をつくりたい」(伊藤好文・商品プロデューサー 商品企画担当ダイレクター)という思いで開発した、2 in 1タイプのノートPC。「マルチフリップ機構」を採用し、従来のクラムシェル型ノートPCとして使用できる一方、ディスプレイ部を折りたたむことでタブレットPCとして使うこともできるのが特徴。さらに、28Wタイプの高速CPU Core i7やi5を搭載し、デスクトップPCに匹敵する高いパフォーマンスを維持しながら、約1.34kgの重量で連続15時間駆動を実現する。
一方、「VAIO Z Canvas」はクリエイター向けタブレットPCで、今回漫画家や写真家などにプロトタイプを使ってもらいながら完成度を高める「共創」という新しいプロセスを経て完成させた製品。主に、動画や写真を加工したり、イラストや漫画を描くような用途を想定している。スペックは4KシネマRAWデータをリアルタイムで現像再生できるほど高速なのが特徴で、視差の小さいデジタイザースタイラスペンが付属する。
例えば、今回発表した「VAIO Z」は、随所に細かい心配りが施されている。2基搭載したファンの仕様をあえて異なるものにすることにより静音性を実現したり、心地よいキーボードの打鍵感やタッチパッドの操作感を高めるため素材を工夫したりなどで、スペック表には表しにくい「モノ」としての高い完成度をもつ製品に仕上がっている。まさにメイドイン・ジャパン、メイドイン・安曇野と誇れる製品だ。
しかし、税別価格は19万円前後と高い。一昔前であればノートPCに19万円という価格はそれほど珍しくなかったし、仕事に使う道具としてその程度の価格は妥当な線だと受け入れられていた。しかし、家電量販店の実売データを集計する「BCNランキング」で算出した2015年1月のノートPCの税別平均単価は7万7200円。「VAIO Z」は、実にその2.5倍の価格だ。もちろん、他社からもこの価格帯の製品は販売されているが、ノートPCの台数構成比では、わずか2%に過ぎない小さな市場だ。
実は、ノートPCの平均単価は12年10月の6万5500円をボトムに上昇を続けていた。しかし14年3月につけた9万5500円をピークに下落に転じ、この1月、ついに8万円を割り込んだ。VAIOが設立された14年7月時点ではかろうじて平均単価は9万円台を維持していたが、その時点では、すでに価格はじりじりと下がりはじめていた。
さらに、現在の個人向けノートPC市場の状況は極めて悪い。消費税増税の反動減とWindows XPの駆け込み購入による反動減のダブルパンチからまだ傷が癒えておらず、14年6月以降8か月連続で販売台数・金額とも前年を大きく割り込んでいる。そのうえ、11月以降マイナス幅が大きくなってきており、この1月では販売台数が前年同月比で73.8%、販売金額に至っては66.2%と大きく落ち込んでいる。平均単価が下がっても販売が一向に伸びないという、まさに「土砂降り」状態だ。
ソニー時代末期のVAIOは、販売台数シェアで10%前後を維持しており、NEC、東芝、富士通の御三家に続く4位の位置につけていた。しかし、大企業ソニーから切り離されたいま、数を追う選択肢はない。このPC市場で、VAIOがどこまで戦えるのかは、PC業界だけでなく、多くのメーカーにとって非常に重要な意味を持つ。もしかすると、これまでのメーカー各社は製品にあるべき価値を見逃していたのかもしれない。そのために、今の惨状を生んでいるのかもしれない。関取社長が、ことあるごとに繰り返す「本質プラスアルファのものづくり」が、どこまで通用するのか。新生VAIOのチャレンジを、期待をもって見守りたい。(道越一郎)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからPC本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(PCの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。
我々の力で作り上げた新製品を発表できる今日こそが本当のスタートと語る、関取高行・代表取締役社長
本当のスタートを切ったVAIO、個客視点でものづくりに取り組む
新製品発表会で関取高行・代表取締役社長は「VAIOは2014年7月1日、『自由だ 変えよう』という宣言からスタートし、本質プラスアルファのものづくりを目指してきた。我々の力でつくり上げた新製品を発表できる今日こそが本当のスタート」とし、「すべてのVAIOを長野県安曇野で一台一台仕上げる、安曇野フィニッシュにこだわり、1人ひとりのお客様に目を向ける『個客視点』でお客様に本当に必要な製品づくりを行っていく」と語った。
また、「『自由であるか 独創的であるか』を問い続け、さまざまな分野でチャレンジしていきたい」としながら、スマートフォンで日本通信との協業を行うことを発表。「SIMロック解除の義務化をチャンスと捉え、ハードウェアでだけでなくトータルな新しい形でのスマートフォンビジネスに挑戦したい」と語った。
左から伊藤好文・商品プロデューサー 商品企画担当ダイレクター、関取高行・代表取締役社長、黒崎大輔・商品企画担当
道具として、完成度を高めた2製品をリリース
「VAIO Z」は、「研ぎ澄まされた道具をつくりたい」(伊藤好文・商品プロデューサー 商品企画担当ダイレクター)という思いで開発した、2 in 1タイプのノートPC。「マルチフリップ機構」を採用し、従来のクラムシェル型ノートPCとして使用できる一方、ディスプレイ部を折りたたむことでタブレットPCとして使うこともできるのが特徴。さらに、28Wタイプの高速CPU Core i7やi5を搭載し、デスクトップPCに匹敵する高いパフォーマンスを維持しながら、約1.34kgの重量で連続15時間駆動を実現する。
新生VAIOがゼロから作った最初の製品「VAIO Z」
一方、「VAIO Z Canvas」はクリエイター向けタブレットPCで、今回漫画家や写真家などにプロトタイプを使ってもらいながら完成度を高める「共創」という新しいプロセスを経て完成させた製品。主に、動画や写真を加工したり、イラストや漫画を描くような用途を想定している。スペックは4KシネマRAWデータをリアルタイムで現像再生できるほど高速なのが特徴で、視差の小さいデジタイザースタイラスペンが付属する。
クリエイターと共創してつくられた「VAIO Z Canvas」
完成度も高いが価格も高い。市場は全体の2%
例えば、今回発表した「VAIO Z」は、随所に細かい心配りが施されている。2基搭載したファンの仕様をあえて異なるものにすることにより静音性を実現したり、心地よいキーボードの打鍵感やタッチパッドの操作感を高めるため素材を工夫したりなどで、スペック表には表しにくい「モノ」としての高い完成度をもつ製品に仕上がっている。まさにメイドイン・ジャパン、メイドイン・安曇野と誇れる製品だ。
しかし、税別価格は19万円前後と高い。一昔前であればノートPCに19万円という価格はそれほど珍しくなかったし、仕事に使う道具としてその程度の価格は妥当な線だと受け入れられていた。しかし、家電量販店の実売データを集計する「BCNランキング」で算出した2015年1月のノートPCの税別平均単価は7万7200円。「VAIO Z」は、実にその2.5倍の価格だ。もちろん、他社からもこの価格帯の製品は販売されているが、ノートPCの台数構成比では、わずか2%に過ぎない小さな市場だ。
土砂降りのPC市場でVAIOはどう戦う?
実は、ノートPCの平均単価は12年10月の6万5500円をボトムに上昇を続けていた。しかし14年3月につけた9万5500円をピークに下落に転じ、この1月、ついに8万円を割り込んだ。VAIOが設立された14年7月時点ではかろうじて平均単価は9万円台を維持していたが、その時点では、すでに価格はじりじりと下がりはじめていた。
さらに、現在の個人向けノートPC市場の状況は極めて悪い。消費税増税の反動減とWindows XPの駆け込み購入による反動減のダブルパンチからまだ傷が癒えておらず、14年6月以降8か月連続で販売台数・金額とも前年を大きく割り込んでいる。そのうえ、11月以降マイナス幅が大きくなってきており、この1月では販売台数が前年同月比で73.8%、販売金額に至っては66.2%と大きく落ち込んでいる。平均単価が下がっても販売が一向に伸びないという、まさに「土砂降り」状態だ。
ソニー時代末期のVAIOは、販売台数シェアで10%前後を維持しており、NEC、東芝、富士通の御三家に続く4位の位置につけていた。しかし、大企業ソニーから切り離されたいま、数を追う選択肢はない。このPC市場で、VAIOがどこまで戦えるのかは、PC業界だけでなく、多くのメーカーにとって非常に重要な意味を持つ。もしかすると、これまでのメーカー各社は製品にあるべき価値を見逃していたのかもしれない。そのために、今の惨状を生んでいるのかもしれない。関取社長が、ことあるごとに繰り返す「本質プラスアルファのものづくり」が、どこまで通用するのか。新生VAIOのチャレンジを、期待をもって見守りたい。(道越一郎)
製品発表の会場で配られた「安曇野フィニッシュ」の水「あづみ野湧水」
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからPC本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベース(PCの場合)で、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。