中国で外資系家電量販が失敗した理由と成功へのヒント――場所、時期、付加価値
【中国・上海発】中国で、外資系家電量販店の撤退が相次いでいる。アメリカのベストバイに続いて、今年はドイツのメディアマルクトも撤退した。さらに日本最大の家電量販店、ヤマダ電機が南京に続いて天津からも撤退するなど、中国での家電量販店を展開する難しさが改めて浮き彫りになっている。ジェトロ上海経済情報部の劉元森副部長に、その背景や要因、成功へのヒントを聞いた。
2012年の中国の地域別経済成長率は、天津の13.8%を筆頭に、重慶の13.6%など、中西部を中心に2ケタ成長を遂げている。一方、北京や上海といった大都市は、7%台と低い成長率にとどまっている状況だ。これについて劉副部長は「08年以降、加工を中心とする製造業は中国内陸部や東南アジアに移転しつつある。反面、沿岸部の大都市では付加価値の高い製造業がまだ育っていない」と指摘。
さらに「上海の一人あたり2012年GDPは1万3500ドルで、これは日本の3分の1から4分の1ぐらいだ。中国平均は6100ドルほどなので、上海は人件費が2倍以上ということになる。これも成長を鈍化させる要因だ。付加価値の低い製造業は、上海ではやっていけない」と語る。しかし、中国の内需はまだ弱く、結果として成長力が鈍ってきているという。
中国の家電量販市場は、蘇寧電器と国美電器という2大家電量販チェーンがつくってきた。一方、「外資系のベストバイやメディアマルクト、ヤマダ電機は、この中国のスタイルを変えようとして失敗したのではないか」と劉副部長は語る。
蘇寧も国美も、店頭で製品を販売するのはメーカーから派遣された販売員が多い。彼らは大きな値引きの裁量権をもっているので、同じ店舗内でもメーカー間の競争は激しくなる。ライバルメーカーの価格を見ながら、その場で値下げをすることができるわけだ。「中国の消費者は価格にすごく敏感だから、そういった値引きのスタイルがあたりまえだと思っている」(劉副部長)。
しかし、外資系の量販店では店員に与えられた値引きの裁量権は小さく、また店内でメーカー間の競争が起こることはない。結果として、価格が高くなってしまっていた、ということのようだ。「いくら店がきれいでも、価格が高ければ消費者は離れてしまう。アフターサービスは結局メーカーがやるので、どの店で買っても大差ない」(劉副部長)という状況に陥ってしまった。結果として、外資系量販店は消費者にとって「どこがいいのかわからない」ということになった。
さらに、「蘇寧も国美も、地価が安かった頃に購入した自社物件が多いうえに、両社合わせて全国で3000を超える店舗を擁している。バイイングパワーも大きい。こうしたことがローコストでの店舗運営を可能にし、外資系量販店との差をつけることができた」という。
一方で、蘇寧や国美をも悩ます事態も進行している。それがネット販売の急伸だ。「2012年の調査では、中国の無店舗販売は前年比50%増。これに対して実店舗は、専門店が1割減。百貨店が1.2%減。大型スーパーが0.8%減、大規模ショッピングセンターが3.4%増という状況だ」(劉副部長)。
「ネットで買い物をする人だけでも2億5000万人いるといわれるように、中国はそもそも母数が非常に大きい」。家電を扱うネット通販は6年ほど前に参入した京東商城が最大で、売上げは前年の倍を記録した。実店舗より3割程度安い価格で売っているのが急成長の要因で、これには蘇寧と国美も苦しめられている。中国の有力家電量販店ですら苦しめられている時期に、そもそもハンデのある外資系が成功する要素は少なかったということができそうだ。
では、中国で外資系家電量販店が成功するにはどうすればいいのか。そのヒントを聞くと、劉副部長は、「漠然と蘇寧と国美と競争してもだめ。特定の人に対する販売に絞ったり、地域を選んだり、そのなかで独自性を伸ばしていくことが重要」と語る。
例えば、コンビニエンスストアのローソンが好例だという。ローソンは1996年に中国の1号店を上海に出店。2010年7月に、それまで日本のコンビニがまったくなかった中国の内陸部に進出するにあたって、重慶を選択した。前述した通り、経済成長率が13.6%と非常に高い地域だ。
実は重慶は、「これまで進出を試みたコンビニはすべて失敗に終わった」(劉副部長)という都市でもある。まず、坂が多く、人々の歩く範囲が狭いというコンビニには厳しい条件がある。また、比較的早く寝るという地方都市の生活パターンが定着しているので、24時間営業にしても夜間の入店者が極端に少なく、採算が取れない。
それでも、「このところの自動車の普及や、工場の増加で労働者が沿岸部から戻ってくるなど、街に活気が生まれてきていることで、コンビニのビジネスチャンスは拡大している」(劉副部長)という。ローソンは、ここに目をつけた。成功にはタイミングも重要だ。ローソンは、その後、上海、大連にも進出し、現在は中国国内に371店舗を出店している。
また、エアコンのダイキンも成功事例の一つとして挙げられる。業務用から始めて民生品を投入したダイキンだが、中国の国内メーカー製品より価格が高く、当初はあまり売れなかった。しかし、劉副部長によれば「何台もエアコンを買う富裕層を中心に、価格よりも性能を求める動きが出始め、他の製品より2割以上高いにもかかわらず、よく売れるようになってきている」という。
内陸部など、まだまだ伸びしろがあって競合が少ないエリアを選び、進出のタイミングを見計らうこと。そして、独自のサービスや付加価値をぶれずに提供し続けることが、成功の条件だといえそうだ。(BCN・道越一郎)
都市部で鈍化し始めている成長率
2012年の中国の地域別経済成長率は、天津の13.8%を筆頭に、重慶の13.6%など、中西部を中心に2ケタ成長を遂げている。一方、北京や上海といった大都市は、7%台と低い成長率にとどまっている状況だ。これについて劉副部長は「08年以降、加工を中心とする製造業は中国内陸部や東南アジアに移転しつつある。反面、沿岸部の大都市では付加価値の高い製造業がまだ育っていない」と指摘。
ジェトロ上海の劉元森経済情報部副部長
さらに「上海の一人あたり2012年GDPは1万3500ドルで、これは日本の3分の1から4分の1ぐらいだ。中国平均は6100ドルほどなので、上海は人件費が2倍以上ということになる。これも成長を鈍化させる要因だ。付加価値の低い製造業は、上海ではやっていけない」と語る。しかし、中国の内需はまだ弱く、結果として成長力が鈍ってきているという。
蘇寧と国美がつくった家電量販のスタイル
中国の家電量販市場は、蘇寧電器と国美電器という2大家電量販チェーンがつくってきた。一方、「外資系のベストバイやメディアマルクト、ヤマダ電機は、この中国のスタイルを変えようとして失敗したのではないか」と劉副部長は語る。
蘇寧も国美も、店頭で製品を販売するのはメーカーから派遣された販売員が多い。彼らは大きな値引きの裁量権をもっているので、同じ店舗内でもメーカー間の競争は激しくなる。ライバルメーカーの価格を見ながら、その場で値下げをすることができるわけだ。「中国の消費者は価格にすごく敏感だから、そういった値引きのスタイルがあたりまえだと思っている」(劉副部長)。
中国の大都市を歩けば、至るところに蘇寧か国美の店舗がある(蘇寧電器南京新街口店)
しかし、外資系の量販店では店員に与えられた値引きの裁量権は小さく、また店内でメーカー間の競争が起こることはない。結果として、価格が高くなってしまっていた、ということのようだ。「いくら店がきれいでも、価格が高ければ消費者は離れてしまう。アフターサービスは結局メーカーがやるので、どの店で買っても大差ない」(劉副部長)という状況に陥ってしまった。結果として、外資系量販店は消費者にとって「どこがいいのかわからない」ということになった。
さらに、「蘇寧も国美も、地価が安かった頃に購入した自社物件が多いうえに、両社合わせて全国で3000を超える店舗を擁している。バイイングパワーも大きい。こうしたことがローコストでの店舗運営を可能にし、外資系量販店との差をつけることができた」という。
中国でも急拡大するネット通販
一方で、蘇寧や国美をも悩ます事態も進行している。それがネット販売の急伸だ。「2012年の調査では、中国の無店舗販売は前年比50%増。これに対して実店舗は、専門店が1割減。百貨店が1.2%減。大型スーパーが0.8%減、大規模ショッピングセンターが3.4%増という状況だ」(劉副部長)。
「ネットで買い物をする人だけでも2億5000万人いるといわれるように、中国はそもそも母数が非常に大きい」。家電を扱うネット通販は6年ほど前に参入した京東商城が最大で、売上げは前年の倍を記録した。実店舗より3割程度安い価格で売っているのが急成長の要因で、これには蘇寧と国美も苦しめられている。中国の有力家電量販店ですら苦しめられている時期に、そもそもハンデのある外資系が成功する要素は少なかったということができそうだ。
6月に閉店したヤマダ電機天津店。中国で開店した3店(瀋陽、天津、南京)のなかで最も好調といわれていたが、撤退の結果に終わった
成功のカギは成長率の高い地域への出店と独自性
では、中国で外資系家電量販店が成功するにはどうすればいいのか。そのヒントを聞くと、劉副部長は、「漠然と蘇寧と国美と競争してもだめ。特定の人に対する販売に絞ったり、地域を選んだり、そのなかで独自性を伸ばしていくことが重要」と語る。
例えば、コンビニエンスストアのローソンが好例だという。ローソンは1996年に中国の1号店を上海に出店。2010年7月に、それまで日本のコンビニがまったくなかった中国の内陸部に進出するにあたって、重慶を選択した。前述した通り、経済成長率が13.6%と非常に高い地域だ。
実は重慶は、「これまで進出を試みたコンビニはすべて失敗に終わった」(劉副部長)という都市でもある。まず、坂が多く、人々の歩く範囲が狭いというコンビニには厳しい条件がある。また、比較的早く寝るという地方都市の生活パターンが定着しているので、24時間営業にしても夜間の入店者が極端に少なく、採算が取れない。
それでも、「このところの自動車の普及や、工場の増加で労働者が沿岸部から戻ってくるなど、街に活気が生まれてきていることで、コンビニのビジネスチャンスは拡大している」(劉副部長)という。ローソンは、ここに目をつけた。成功にはタイミングも重要だ。ローソンは、その後、上海、大連にも進出し、現在は中国国内に371店舗を出店している。
また、エアコンのダイキンも成功事例の一つとして挙げられる。業務用から始めて民生品を投入したダイキンだが、中国の国内メーカー製品より価格が高く、当初はあまり売れなかった。しかし、劉副部長によれば「何台もエアコンを買う富裕層を中心に、価格よりも性能を求める動きが出始め、他の製品より2割以上高いにもかかわらず、よく売れるようになってきている」という。
内陸部など、まだまだ伸びしろがあって競合が少ないエリアを選び、進出のタイミングを見計らうこと。そして、独自のサービスや付加価値をぶれずに提供し続けることが、成功の条件だといえそうだ。(BCN・道越一郎)