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<フォトキナ2012>「いいね!」が押される写真が撮れるカメラを――オリンパスイメージング五味俊明取締役営業本部長

インタビュー

2012/10/05 10:43

 ドイツ・ケルンで9月18~23日に開かれた世界最大のカメラ・映像機器の見本市「フォトキナ2012」。オリンパスの目玉は、フォトキナに合わせて発表したミラーレス一眼「PEN Lite E-PL5」「PEN mini E-PM2」の2機種と、新コンセプトのコンパクトデジタルカメラ「STYLUS」シリーズの「XZ-2」だ。会場のケルンメッセで、オリンパスイメージングの五味俊明取締役営業本部長に、新製品の特徴や今後について聞いた。

五味俊明オリンパスイメージング取締役営業本部長

「OM-D」のセンサとエンジンをそのまま搭載した「E-PL5」と「E-PM2」



 「『E-PL5』と『E-PM2』の特徴は、ズバリ、高機能化。3月に発売したミラーレス一眼のフラッグシップモデル『OM-D』のイメージセンサと画像エンジンをそのまま搭載して製品化した」と五味本部長は語る。まさにファインダーを省いた「OM-D」だ。「当社の測定基準によるオートフォーカスのスピードも世界最速」だという。

フォトキナ2012のオリンパスブース

 「フォトキナ2012」のキーワードの一つである「コネクティビティ(接続性)」に対応する機能も搭載した。東芝製の無線LAN搭載SDHDカードの「FlashAir」に対応。iPhoneやAndroid端末に専用アプリをインストールすることで、写真の新しい楽しみ方でもあるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にも写真がアップロードできるようになる。

 「コンパクトカメラはスマートフォンに食われている。『つなぐ』『飛ばす』という機能は、カメラといえども避けて通ることができない。しかし、ただ無線接続ができるだけでは、スマートフォンと同じ。そこに、カメラメーカーとしての工夫をひと味加えていきたい」という発想から、撮影した画像をさまざまな調子に加工するアートフィルターをかけて、SNSにアップロードすることもできるようにした。

ミラーレス一眼の新モデル「PEN mini E-PM2」(左)と「PEN Lite E-PL5」

 「SNSの世界は、いい写真、きれいな写真で、いかに『いいね!』を押してもらえるかだと思う。そうしたニーズを受け止める製品を送り出していきたいですね」と五味本部長。さらに「同じシーンをいくつかのアートフィルターで撮りたいというニーズもある。そこで、『アートフィルターブラケット』といって、自分の好きなフィルターを12種類から自由に選んで、一度に撮ることができるようにした」という。

 同社のデジタル一眼レフから受け継ぎ、ミラーレス一眼の最初のモデル「PEN E-P1」からすでに搭載していたアートフィルター。ポップアートやラフモノクロームといったおもしろい効果を演出する特殊な加工が、1枚の写真に新たな命を吹き込む。こうした画像加工はパソコンでもできるが、「『撮影の時点でどんなアートフィルターが合うのかを確認したい』という根強いニーズがある。カメラだけでいろんな表現が楽しめる」という理由から、カメラにも積極的に搭載してきた。

フラッグシップモデル「OM-D E-M5」の5軸手対応ブレ補正の実力を体感できるコーナーも

 オリンパスのユーザーは、他社に比べると女性の比率が高いのが特徴。柔らかい画像に加工する「ライトーン」も人気のアートフィルターだという。このほか「E-PL5」では、液晶画面を被写体側に向けることができ、自分撮りがしやすくなっているなど、SNS向きの機能を随所に盛り込んでいる。

コンパクトの新コンセプト「STYLUS」、裏面照射CMOSで性能大幅アップ



 オリンパスが「フォトキナ2012」で発表したコンパクトデジタルカメラは、新ブランド「STYLUSシリーズ」の「XZ-2」だ。「STYLUS」は、「テクノロジー」「デザイン」「スタイル」「インテリジェンス」「アクティブ」の五つのコンセプトを盛り込んだ新しいブランド。「コンパクトデジタルカメラは縮小傾向にある市場だが、より高性能な製品に集中していく。現在、欧米で主流になっている1万円以下のモデルでは、利益が出ているメーカーはないと思う。だから各社とも、上のクラスの製品を目指している。オリンパスも、経営資源をそこに集中していくことを決めた」(五味本部長)。

「STYLUS XZ-2」は、レンズ左のレバーでハイブリッドコントロールリングの状態を切り替えられる

 「XZ-2」は、F1.8-2.5という明るいレンズと裏面照射のCMOSセンサを搭載。暗所での撮影にも強い。五味本部長は「技術が飛躍的にアップしてきた。特に裏面照射CMOSセンサは、少し前まではコストと性能の両方で問題があったが、今では暗いとこでよく撮れるし、消費電力も小さいなど、かなり『使えるセンサ』になってきた」と語る。また、レンズの周りには最近流行のリング状のコントローラ「ハイブリッドコントロールリング」を搭載。クリック感のあり/なしをレバーで切り替えられるユニークな機構だ。絞りなどのクリック感がほしい場合と、ピントやズームなどスムーズに動かしたい場合の両方に対応できる。「PEN」シリーズ新製品2機種と同様、「FlashAir」にも対応している。

XZ-2の暗所撮影体験コーナー。暗い筒の底に置かれたフィギュアを明るく鮮明に撮ることができた

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センサー・エンジン・レンズのバランスが「いい写真」を生み出す



 今年のフォトキナのトレンドとして、センササイズの大型化や高画素数化が挙げられる。APS-Cより小さなサイズのセンサを軸に、メーカーをまたがるフォーサーズとマイクロフォーサーズ規格を担ぐオリンパスにとっては、少々頭の痛い展開なのではないだろうか。

 「より大きなセンサの製品について、今の段階で可能性は排除しない。ただ、高い画質を得るためには、センサの大きさもさることながら、画像処理エンジンとレンズの性能も揃わなければならない。マイクロフォーサーズ機で撮影した写真とフルサイズの一眼レフで撮影した写真を比較してみても、マイクロフォーサーズだからといって決してひけを取ってはいない。大きなセンサを搭載したカメラとも、画質で十分戦うことができると考えている」と、五味本部長はセンサー・エンジン・レンズのバランスの重要性を説く。

回転寿司のようにカメラやフィギュアを乗せたコンベアが回る趣向の展示コーナー

 さらに高画素数化に関しても、「あまりにも画素数が多くなりすぎると、パソコンをはじめ、いろいろな機器を買い替えなければならないし、また、写真店のプリンタがハングアップする事態も起きているようだ。いいことばかりではない」と語る。

 センサが小さめのフォーサーズ系システムの長所は、レンズを小さくできること。「センサの大きなシステムのレンズと比べると、フォーサーズ系のレンズは、同じサイズなら明るくできる、また、同じ明るさなら小さくできる、という特徴がある。明るいレンズは、画質にも大いに貢献する。光学メーカーの腕の見せどころだ」。

 マイクロフォーサーズ機が登場した当初、明るいレンズはまだ少なかったが、ここに来て、ラインアップは充実してきた。今回もマクロレンズ「ED 60mm F2.8 Macro」を発表。「お客さまの要望が非常に多く、最近は明るいレンズを継続して出している。この60mmマクロは、初日からすごい引きがあった。このほか、45mmのF1.8、ED 75mmF1.8なども人気だ。今後も明るいレンズを中心に出していく」と、レンズにも力が入っている。

プレスイベントに登場したドイツ出身のクリエイティブディレクター兼テレビパーソナリティー、トーマス・ハヨ氏。ユーザーとして新製品の使い勝手をレポートした

 オリンパスのレンズ交換型カメラには、ミラーレスのマイクロフォーサーズ規格だけでなく、フォーサーズ規格のデジタル一眼レフ「E」シリーズもある。しかし、最近はフォーサーズの動きはあまり聞こえてこない。「今回のフォトキナでは新製品はありませんでしたが、オリンパスとして、フォーサーズについても引き続きやっていくと宣言している」。一方で「ミラーレスモデルに残された課題は、スピード感。しかし、近い将来には解決できだろう」と、ミラーレス一眼の進化に自信をみせた。

 一眼レフに比べ、機械の動作部分が少ないミラーレス一眼では、海外勢、例えば韓国メーカーにすぐに追いつかれてしまうのではないか、という声もある。五味本部長は「いや、そうではない。一番大きいのは光学技術、レンズの部分。ここは光学メーカーでなければできない。機械技術では追いつけても、光学技術ではなかなか追いつけない。実際に撮影テストを行うと、画質の違いは如実に現れる」と、日本のカメラメーカーの優位性を語った。

文化をつくり出すものだからこそ強い



 テレビをはじめとするデジタル製品で日本企業の存在感がどんどん薄まるなか、デジタルカメラは別格の存在。依然として日本企業が世界をリードしている。「カメラ業界は、今でこそ世界の年間販売台数が1億2000万台を超えるような規模になったが、デジタルカメラになる前は3000万~4000万台程度だった。この数字が、基本的なお客さまの数だと考えている。つまり、趣味として文化をつくることを楽しむという、デジタルカメラユーザーのコアになる人たちだ。写真は文化をつくるもの。ここに、他の製品とは違う強みがある。テレビは文明の利器ではあるけれど、テレビという機械だけでは文化をつくることはできない」と五味本部長。「文化的な活動をするお客さまに対して、新しい価値を提案し続けるのがカメラメーカーの役割」と言い切る。

プレスイベントではファッションショー風に新製品を手にしたモデルが登場

 さらに、「東日本大震災では、瓦礫のなかで写真を探した方が大勢いらした。掘り出した写真を洗って、復元させるプロジェクトも話題を呼んだ。思い出としての写真の存在をきちんと意識しながら、そのうえで、文化をつくるという部分を大事にして事業を展開していけば、絶対に生き残っていくことができる」と力強く語った。(道越一郎)