デジタルカメラ市場を切り開いたカシオ「EXILIM」が10周年、「デジタルならでは」の価値を求めて
カシオのデジタルカメラブランド「EXILIM」が、発売から10周年を迎えた。カシオは、コンパクトデジタルカメラ市場で常に上位に位置している。カシオの「EXILIM」の歴史と、「EXILIM」が影響を与えたデジタルカメラ市場の歴史を振り返った。
まずは簡単にデジタルカメラの歴史を振り返ろう。米国のイーストマン・コダックが世界初のデジタルカメラを開発した1975年以降、ソニー、キヤノン、富士フイルムがデジタルカメラの試作機や新製品を発表した。しかし、当時のデジタルカメラは高額で、一般向けではなく、普及には至らなかった。
1995年3月10日、カシオが6万5000円ほどのデジタルカメラ「QV-10」を発売した。画素数は25万画素と、いまのデジタルカメラと比べものにならないほど低かったが、カメラ市場に大きな衝撃を与えた。
それまでの銀塩フィルムを使うカメラは、現像するまで撮影結果がわからず、その場で写真を見たいときはポラロイドカメラを使うしか方法がなかった。しかし、「QV-10」は、背面に液晶パネルを搭載し、撮った写真をその場で確認することができた。「QV」は「クイックビュー」の略だ。
「QV-10」の登場によって、カメラ市場はフィルムからデジタルへと急激に舵を切った。「QV-10」の開発に携わったカシオの執行役員、中山 仁QV事業部長は、当時を振り返って「デジタルカメラ市場に参入するメーカーが急増し、多い時期には30社以上がデジタルカメラを開発・発売していた。同時にセンサの画素数や性能などの技術革新が急激に進んだ」と話す。
その後もカシオがデジタルカメラ市場をけん引し続けたかといえば、そうではなかった。「QV-10」「QV-10A」の発売直後こそ、市場を独占していたものの、次々と参入するメーカーの勢いに押され、「後塵を拝していた」(中山部長)という状態が続くことになる。
この時期、賑わうデジタルカメラ市場を横目で見ながら、カシオのデジタルカメラ部隊はある疑問を抱えていた。「当時、銀塩フィルムの画質に追いつこうと、画素数競争が激しくなっていた。しかし、このままではフィルムカメラをデジタル化しただけになってしまうのではないだろうか。『QV-10』を開発したとき、われわれはデジタルならではの価値や用途を提案したかったのではなかったのか」と中山部長は振り返る。
この答を出すために、カシオは2000年4月、QV事業部をこれまでのQV部隊とデジタルカメラの開発部隊の二つに分けた。そして、フィルムカメラでは実現できない新たなデジタルカメラの開発に心血を注ぎ、2002年6月に生まれたのが「EXILIM」シリーズの第一号「EX-S1」だ。ブランド名も「QV」からラテン語で「驚き」を意味する「Eximius(エクシミウス)」と英語の「Slim(スリム)」を合わせた「EXILIM (エクシリム)」へと生まれ変わった。
「EX-S1」は、ポケットに入れて持ち歩くことができるほど小型・軽量の名刺サイズ。1983年にクレジットカードサイズの電卓「SL-800」を発売したカシオらしい製品だ。それまでカメラは旅行やイベントなど、写真を撮る目的があるときに持ち出すものだったが、小型・薄型にすることで、ポケットに入れて常に持ち歩くという新しい利用シーンをつくり出した。フィルムがない特徴を最大限に生かしたともいえる。
さらに、記憶媒体に当時主流だったコンパクトフラッシュではなく、SDメモリカードを採用。その後、SDメモリカードを採用するデジタルカメラが増えた。
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カシオの躍進は止まらない。液晶サイズは1.6インチ前後が主流だったが「撮ってその場ですぐ写真を確認できるのがデジタルカメラの強み。液晶サイズを大きくしなくては」(中山部長)と、2003年3月、2インチの液晶を搭載した「EXILIM ZOOM EX-Z3」を発売。「発売から8~9か月、市場で1位を守った」(中山部長)というスタートを記録する。
さらに、2004年3月にはバッテリ容量も見直し、それまで200枚以下だった撮影枚数を、300枚以上にする新バッテリを搭載した「EXILIM ZOOM EX-Z40」を発売。2006年5月には、有効1000万画素の「EXILIM ZOOM EX-Z1000」を発売した。
カシオは常に新しいトレンドを生み出してきた。最近では、高速連写ができる「HIGH SPEED」シリーズや、自分撮りに特化した「EX-TR100」など、デジタルカメラの新しい価値と用途を提供し続けている。
現在、デジタルカメラ市場で注目を浴びているのは、何といってもミラーレス一眼だ。パナソニック、オリンパスが口火を切り、その後、ソニー、ペンタックス、ニコンが参入した。さらに、今年9月にはキヤノンもミラーレス一眼カメラ「EOS M」を発売する予定。ほとんどのデジタルカメラメーカーがミラーレス一眼市場に参入することになる。しかし、デジタルカメラ市場を切り開いたカシオは、いまだ参入表明をしていないだけでなく、聞けば現時点では参入する予定もないという。
中山部長は「ミラーレス一眼は一過性のブームだ」と断言する。ミラーレス一眼のメリットは、軽量・コンパクトでレンズを交換して広角から望遠までいろいろな画角に対応でき、さらに撮像素子が大きく、きれいな画像を撮影できることにある。しかし、残念ながら、実際にレンズを交換して使っているミラーレス一眼ユーザーは、そう多くない。
「それなら、コンパクトデジカメに広角から望遠までカバーできるレンズを搭載すれば、レンズ交換の手間もなくなり、ユーザーはうれしいだろう。また、コンパクトデジカメのセンササイズは年々大きくなっている。コンパクトがミラーレスに取って代わる日も遠くない」と中山部長は説明する。
それでは、カシオは今後どの方向へ進んでいくのだろうか。中山部長は「これからは、写真を共有するネットワーク機能が重要になる。また、スマートフォンが市場を食っているといわれているが、画質やズーム倍率、ストロボなど、きれいな写真を撮る機能に関しては歴然とした差がある。今後は高性能なカメラが伸びていくだろう」と話し、高性能・高級モデルの開発に力を注ぐ。(BCN・山下彰子)
中山 仁QV事業部長。左は「EXILIM」第一号の「EX-S1」、右は最新の「EX-ZR200」
民生用デジタルカメラの第一号「QV-10」でデジカメ市場が花開く
まずは簡単にデジタルカメラの歴史を振り返ろう。米国のイーストマン・コダックが世界初のデジタルカメラを開発した1975年以降、ソニー、キヤノン、富士フイルムがデジタルカメラの試作機や新製品を発表した。しかし、当時のデジタルカメラは高額で、一般向けではなく、普及には至らなかった。
1995年3月10日、カシオが6万5000円ほどのデジタルカメラ「QV-10」を発売した。画素数は25万画素と、いまのデジタルカメラと比べものにならないほど低かったが、カメラ市場に大きな衝撃を与えた。
カシオ初のデジタルカメラ「QV-10」
それまでの銀塩フィルムを使うカメラは、現像するまで撮影結果がわからず、その場で写真を見たいときはポラロイドカメラを使うしか方法がなかった。しかし、「QV-10」は、背面に液晶パネルを搭載し、撮った写真をその場で確認することができた。「QV」は「クイックビュー」の略だ。
「QV-10」の登場によって、カメラ市場はフィルムからデジタルへと急激に舵を切った。「QV-10」の開発に携わったカシオの執行役員、中山 仁QV事業部長は、当時を振り返って「デジタルカメラ市場に参入するメーカーが急増し、多い時期には30社以上がデジタルカメラを開発・発売していた。同時にセンサの画素数や性能などの技術革新が急激に進んだ」と話す。
「QV」から「EXILIM」への転向 「デジタル」らしさを求めて
その後もカシオがデジタルカメラ市場をけん引し続けたかといえば、そうではなかった。「QV-10」「QV-10A」の発売直後こそ、市場を独占していたものの、次々と参入するメーカーの勢いに押され、「後塵を拝していた」(中山部長)という状態が続くことになる。
この時期、賑わうデジタルカメラ市場を横目で見ながら、カシオのデジタルカメラ部隊はある疑問を抱えていた。「当時、銀塩フィルムの画質に追いつこうと、画素数競争が激しくなっていた。しかし、このままではフィルムカメラをデジタル化しただけになってしまうのではないだろうか。『QV-10』を開発したとき、われわれはデジタルならではの価値や用途を提案したかったのではなかったのか」と中山部長は振り返る。
この答を出すために、カシオは2000年4月、QV事業部をこれまでのQV部隊とデジタルカメラの開発部隊の二つに分けた。そして、フィルムカメラでは実現できない新たなデジタルカメラの開発に心血を注ぎ、2002年6月に生まれたのが「EXILIM」シリーズの第一号「EX-S1」だ。ブランド名も「QV」からラテン語で「驚き」を意味する「Eximius(エクシミウス)」と英語の「Slim(スリム)」を合わせた「EXILIM (エクシリム)」へと生まれ変わった。
「EXILIM」シリーズ第一号の「EX-S1」
「EX-S1」は、ポケットに入れて持ち歩くことができるほど小型・軽量の名刺サイズ。1983年にクレジットカードサイズの電卓「SL-800」を発売したカシオらしい製品だ。それまでカメラは旅行やイベントなど、写真を撮る目的があるときに持ち出すものだったが、小型・薄型にすることで、ポケットに入れて常に持ち歩くという新しい利用シーンをつくり出した。フィルムがない特徴を最大限に生かしたともいえる。
さらに、記憶媒体に当時主流だったコンパクトフラッシュではなく、SDメモリカードを採用。その後、SDメモリカードを採用するデジタルカメラが増えた。
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液晶サイズの大型化、バッテリの大容量化と次々とトレンドを生み出す
カシオの躍進は止まらない。液晶サイズは1.6インチ前後が主流だったが「撮ってその場ですぐ写真を確認できるのがデジタルカメラの強み。液晶サイズを大きくしなくては」(中山部長)と、2003年3月、2インチの液晶を搭載した「EXILIM ZOOM EX-Z3」を発売。「発売から8~9か月、市場で1位を守った」(中山部長)というスタートを記録する。
2インチの液晶を搭載した「EXILIM ZOOM EX-Z3」
さらに、2004年3月にはバッテリ容量も見直し、それまで200枚以下だった撮影枚数を、300枚以上にする新バッテリを搭載した「EXILIM ZOOM EX-Z40」を発売。2006年5月には、有効1000万画素の「EXILIM ZOOM EX-Z1000」を発売した。
カシオは常に新しいトレンドを生み出してきた。最近では、高速連写ができる「HIGH SPEED」シリーズや、自分撮りに特化した「EX-TR100」など、デジタルカメラの新しい価値と用途を提供し続けている。
中国で爆発的人気となった「EX-TR100」
デジタルカメラ市場の未来 コンパクトデジタルカメラは高級化の道へ
現在、デジタルカメラ市場で注目を浴びているのは、何といってもミラーレス一眼だ。パナソニック、オリンパスが口火を切り、その後、ソニー、ペンタックス、ニコンが参入した。さらに、今年9月にはキヤノンもミラーレス一眼カメラ「EOS M」を発売する予定。ほとんどのデジタルカメラメーカーがミラーレス一眼市場に参入することになる。しかし、デジタルカメラ市場を切り開いたカシオは、いまだ参入表明をしていないだけでなく、聞けば現時点では参入する予定もないという。
中山部長は「ミラーレス一眼は一過性のブームだ」と断言する。ミラーレス一眼のメリットは、軽量・コンパクトでレンズを交換して広角から望遠までいろいろな画角に対応でき、さらに撮像素子が大きく、きれいな画像を撮影できることにある。しかし、残念ながら、実際にレンズを交換して使っているミラーレス一眼ユーザーは、そう多くない。
「それなら、コンパクトデジカメに広角から望遠までカバーできるレンズを搭載すれば、レンズ交換の手間もなくなり、ユーザーはうれしいだろう。また、コンパクトデジカメのセンササイズは年々大きくなっている。コンパクトがミラーレスに取って代わる日も遠くない」と中山部長は説明する。
それでは、カシオは今後どの方向へ進んでいくのだろうか。中山部長は「これからは、写真を共有するネットワーク機能が重要になる。また、スマートフォンが市場を食っているといわれているが、画質やズーム倍率、ストロボなど、きれいな写真を撮る機能に関しては歴然とした差がある。今後は高性能なカメラが伸びていくだろう」と話し、高性能・高級モデルの開発に力を注ぐ。(BCN・山下彰子)
【Profile】
中山 仁(なかやま じん)
カシオ計算機 執行役員 QV事業部長
1981年4月、カシオ計算機に入社。世界初の液晶搭載デジタルカメラ「QV-10」の商品企画を担当し、2002年には厚さ11.3ミリのカードサイズ液晶デジタルカメラ「EXILIM」の一号機を企画・開発した。開発本部QV統括部 商品企画部長を経て、2009年10月に執行役員 QV事業部長に就任。
中山 仁(なかやま じん)
カシオ計算機 執行役員 QV事業部長
1981年4月、カシオ計算機に入社。世界初の液晶搭載デジタルカメラ「QV-10」の商品企画を担当し、2002年には厚さ11.3ミリのカードサイズ液晶デジタルカメラ「EXILIM」の一号機を企画・開発した。開発本部QV統括部 商品企画部長を経て、2009年10月に執行役員 QV事業部長に就任。