世界中に高品質パソコンを供給する製造の最前線、東芝情報機器杭州社を訪ねて
上海から新幹線で40分。交通の便も飛躍的によくなってきた浙江省・杭州市は、西安、北京、洛陽などと並ぶ中国八大古都の一つで、古くは南宋の首都だった都市だ。ここに、東芝の自社パソコン製造最大の拠点、東芝情報機器杭州社(TIH=Toshiba Information Equipment Hangzhou Co., Ltd.)がある。杭州市内から東に30km、中国でも有数の開発区の杭州経済技術開発区にある同社を訪ね、八重樫昭徳総経理に、パソコン製造最前線の現状とこれからについて話を聞いた。
TIHの設立は2002年6月で、03年4月に操業を開始。当時は東京の青梅工場が親工場の位置づけで、またフィリピンと上海にも工場があり、杭州も含めて4工場でパソコンを生産していた。05年に、これらの製造拠点をすべて杭州に集約。以降、TIHは東芝最大の自社パソコン工場になった。10年には、TIHでのパソコン製造888万8888台を達成。さらに今年2月には、携帯端末100万台の製造も達成している。2交代制で24時間稼動しており、月間でおよそ25万台のパソコンを生産できる能力がある。
17万3000m2の敷地に、縦100m、横230mで2階建て、延床面積4万600m2の工場が建つ。1階は、部品のストックと梱包・出荷を行うエリア、設計評価エリアに分かれる。2階がパソコン組み立てエリア、プリント基板製造エリア、携帯端末組み立てエリア、設計事務所などになっている。敷地は、今後のビジネス拡大に対応できるよう、同規模の工場が2棟建てられる余裕がある。従業員数は約3000名。設計部隊を除いて、うち1割が管理職を含めた間接部門、残りが直接部門だ。直接部門の平均年齢は22歳で、女性が6割を占める。
TIHでは、東芝が全世界に販売するパソコンのうち、高付加価値機種を中心に製造しているので、出荷地域は日本が最も多く、欧州向けと米州向けがほぼ同程度の比率で続く。
八重樫総経理は、経営企画部長としてTIHを立ち上げた後、いったん東京の青梅工場でパソコンの製造技術に携わり、10年5月、TIHのスタンスを大きく変えるために、総経理として再びTIHに赴任した。操業開始当初は、2~3機種を大量につくる生産拠点として稼動していたが、そうした生産はODMパートナーに任せ、自らは一挙に10機種以上を並行生産しながら、高い品質を維持する柔軟な工場に変化させていったのである。
現在、パソコンの受注では、まったく同一仕様の製品の80%が100台以下の単位。同社で製造しているのは大きくくくれば10機種程度だが、そのカスタマイズは多種多様で、1か月で2000種類を常につくり分けている。こうした小ロット受注に対応し、細かなつくり分けができるよう、1ロットを60台に設定。例えば100台のオーダーがあった場合でも、複数ロットに分けて生産することになる。
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生産ラインは、20mに満たない「フレキシブルショートライン」を中心に効率的に運用。部品供給なども含め、1ラインを20名ほどで担当する。「短いラインをたくさん動かすことで、こまめなライン調整にも対応できるようにした」(八重樫総経理)。さらに、同一ラインでも1日に何度も製造機種が変わっていき、多種多様なニーズに応える。またスピードも速い。オーダーがかかってから、工場出荷までで最短24時間、平均でも36時間という速さだ。
ノートパソコンの組み立ては、部品が実装されたプリント基板を入れ込みながら、ユニットを組み立てていくイメージ。各ユニットにはバーコードを付しており、トレーサビリティを確保している。また、ユニット部品についても、すべてベンダーがつけているシリアル番号からトレースができるようになっている。それ以外、ネジのようなバーコード管理できないものは、ロット番号で管理。どのロットのものがどの製造グループで使われたか、入荷日付をもとに管理している。
最近のパソコンは、基板そのものが非常に小さい。同社の主力製品「Portege R700(dynabook RX3)」はスリムモデルだが、きょう体が薄く小さくなればなるほど、組み立て技術が重要になり、作業の安定性も高める必要がある。そのため、ゆっくり動きながら作業しなければならないコンベアラインを廃止。作業者が動かず、小さなパレットに部材などを乗せて動かすパレットラインに変更した。コンベアを動かさないと作業者任せになる部分も増え、生産性が落ちるのではないかという懸念もあったが、パレットラインに変更後は作業が定型化し、品質・生産性ともに上がったという。
一般にパソコンの製造ではチェックの工程が長くなるが、TIHでも同様だ。1ラインのうち半分以上を検査やチェックのエリアに割いている。また、エイジング・動作検査も時間がかかる工程だが、以前は10時間以上必要だったこの工程を3時間程度にまで短縮。エラーレートやユニットの品質を保ちながら、検査の自動化や効率化を進めている。1ラインで300台以上、10ライン分3000台以上を一度にエイジングを行うスペースを有している。
最終検査は、人間の五感検査――聴く、観る、キーボードの打鍵感などのチェックだ。例えば「Qosmio」など、音響が重要になるパソコンでは、音響ボックスを使ってスピーカーの音圧や周波数特性を計測する。もちろん、パスしなければ出荷できない。
検査が終了すると、ソフトのインストールだ。パソコンのROMには、すでに顧客を判別するコードが入っており、そのデータにもとづいてOSやプレインストールするソフトを判別。サーバーからのダウンロード、インストールを自動で行う。
インストールが終わると、梱包だ。梱包の最初の工程で、今までやっていた作業がすべて終わっているかを、サーバーにアクセスして30秒程度でチェック。完了が確認されて、初めて出荷ラベルと機体銘板が出てくる。多種多様な製品を扱う関係上、ラベルを貼る場所もまちまち。そこで、ラベルを間違えないように貼るため、プロジェクタで上から位置をきょう体に投影して、正しい位置に貼れるよう工夫している。以前は、テンプレートを使っていたが、あまりにも種類が多すぎるので、このスタイルにしたという。
さまざまなチェック、検査と同時に抜き取り検査も行っている。製造ロットごとに組み立て後の1台を抜き取り、一度全部バラして、正しくつくられているかを確認し、ロット単位での組み立て状態が良好であること確認するものだ。もし、何らかの問題があれば、組み立て工程にすぐフィードバック。どこの工程の誰がその作業をしたかが全部わかっているので、すぐに問題を発見し、ラインの品質を上げていくことができる。
通常の「フレキシブルショートライン」のほかにも、主に新人の作業用に用意した長めのラインも稼動している。新人の作業者は、ここで実際に作業をしながら工程に習熟していく。標準のラインに比べ、1つの工程あたりの作業量が半分以下に設定されており、覚える作業量を少なくして習熟を早める。ここで習熟度を上げた後、作業者は通常ラインに投入される。TIHの作業員の勤務年数は2年以内が70~80%を占めており、毎月7~8%が入れ替わる。そのため、オペレータの質の維持が課題になっているが、こうした専用ラインを活用することで対応している。
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TIHの大きな特徴は、品質へのこだわりだ。同社が考える品質とは、第1段階が「品質不適合品を市場に出さない」ことで、出荷検査の強化で対応。第2段階が「品質不適合品を造り続けない」ことで、製造の異常に対する迅速な対応する。第3段階が「品質不適合品を造らない」ことで、工程制御によって、歩留まりを向上させる。第4段階が「品質不適合品を造らせない」で、設計段階から不良が出ない工程にすることを指す。「現在、第3段階と第4段階の間にある」と八重樫総経理は語る。
この品質への取り組みが最もわかりやすいのが、パソコン組み立てラインの隣にあるプリント基板の製造工程だ。工程ごとに「傾向管理」を徹底してDB化し、不良が出る前にその芽を摘んでいく。例えば、マウンターと呼ばれる自動機械で、基板に部品を装着していくわけだが、その際に使われるクリームハンダ一つとっても、品質確保のために使用期限を決めており、一定期間(数十時間程度)を超えたものは使用しないなどのノウハウがある。空気と湿気でハンダ付けの品質が変化するからだ。
適正なハンダの量や材質を選び、どのように検査するか、といったことも、不良率を抑えるための重要なポイント。でき上がった基板をチェックし、不良には至らないまでも、不良になりやすい傾向が出てきた時点ですぐに調整し、不良を出さないように運用している。さらに、各基板に付けた2次元バーコードをもとに全工程を管理しており、どの基盤にどのハンダを使ったかも全部トレースできるようになっている。部品のロット管理はもちろん、不良の原因をハンダにまでさかのぼることができるわけだ。
こうした品質維持の取り組みで活躍するのが、現場の品質センターだ。現場で問題が生じた現物をもってきて、製造技術、品質、そして現場の担当者が議論をして原因を究明。可能な限り即座に現場にフィードバックしていく。問題が生じた時点で検討し、すばやく製造工程に改善策を反映する。こうした地道な取り組みの積み重ねが不良率の低下に結びついている。
それでも生産過程で不具合が生じた基板は、解析・修理専用のエリアを設け、専門の技術者が修正していく。作業の難度は高く、現在でも1日一人あたり10枚程度しか処理できない。しかし、06年度から基板の製造品質が1万ppm(1%)を大きく下回る水準にまで飛躍的に向上したことと、技術者のレベルも上がってきたことから、過去に150名程度いた人員は、現在では半数以下に減り、エリア面積もほぼ半減した。
同じ建屋に設計センターがあるので、製造現場でわからないことは、すぐに開発陣に問い合わせることができる。これによって、問題解決までの時間を大いに短縮することができる。開発部隊には、従業員と協力会社の駐在員をあわせて300名弱が働いている。部品の選定から始まり、パソコンの設計ができる陣容と設備を有している。
これまでは、ノートパソコンのインターフェースアクセサリの「ドック」を独自開発したり、米国だけで販売しているUSB接続のLCD「モバイルLCD」、デジタルフォトフレームなども独自に開発したりしてきた。最近では、デザイン面を中心に、中国人が考えた中国人受けするパソコンの開発も始めている。
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製品や部品の評価も、開発部隊の重要な業務だ。TIHは大規模な10m級の電波暗室をもっており、製品開発時に電磁波測定検査を実施するほか、量産時にも、1か月に1~2回の抜き取り検査を実施している。また、RoHS指令に対応するため、有害物質などの分析も、蛍光X線分析装置や臭素計などを駆使して行う。基準ぎりぎりの場合には詳細解析を外部に委託する場合もあるが、自社で最初の段階のチェックを行うことで、コストダウンに貢献している。購入部材や開発中の製品など、月間約2000点のチェックを行っている。
基板の不良を検査するX線検査装置や、断線の有無をチェックする電子顕微鏡も備えている。環境試験では、振動や温度変化による劣化などを試験する装置のほか、東芝独自の自主基準で、ノートパソコンのヒンジの耐久性試験を行う専用の機械ももつ。また、世界的には70センチあたりが標準、中国では1mという梱包箱ごとの落下試験にも対応している。
TIHでは、4月に新規事業推進室を設立した。今後、中国市場向けのパソコンの開発・製造を加速する一方で、テレビ用プリント基板や車載用基板の製造などを計画している。
八重樫総経理は「中国市場向けのパソコン、『Made in 杭州』のパソコンをつくっていく」と、まずは中国市場向けの製品の製造に本格的に着手する構えだ。そのうえで「共通のプリント基板製造をやりたい。一番のターゲットは、テレビのプリント基板だ。過去に一度経験があるものの、当時よりはるかにデジタル化し、パソコンの基板とさほど変わらないものになってきた。検査はパソコンとは異なるが、TIHの製造技術を生かしたい」と語る。
さらに「中国には東芝の製造現地法人が約40社あり、それぞれいろんなものづくりをしているが、今ではほとんどの製品がマイコンを内蔵していて、何がしかのプリント基板が必要。それを個々につくるのではなく、TIHの製造技術を生かしてプリント基板の製造全般を担っていきたい」という。
次のステップとしては、電気自動車も含めた車載用基板の製造も視野に入れている。「クルマの世界では、パソコンの基準とはひとケタもふたケタ違う品質が要求される。不良率は全体でもふたケタppm台で、個々の部品では例えば1~2ppmに抑えなければならない」と、ハードルは高い。当然、製造だけでなく、部品の調達の部分からレベルを上げていかなければならない。そのうえ、製造工程で出た不具合の「修理」は原則的に許されない。一発で良品を製造しなければならないので、ロスが多くなり、コスト管理も難しくなっていく。
パソコンの製造では、これまで培った品質の維持・向上のノウハウを生かし、より高品質で低コストの製品を製造する一方、さまざまな製品が内蔵する基板製造までも行いながら、電子基板全般の製造拠点になることを目指す。そして、さらに高い目標である車載基板にもチャレンジしていく――。TIHはパソコンの製造工場から東芝全体の電子製品製造の中核を担う一大生産センターへと、大きく飛躍していくことになりそうだ。(BCN・道越一郎)
4箇所の製造拠点をTIHに集約
TIHの設立は2002年6月で、03年4月に操業を開始。当時は東京の青梅工場が親工場の位置づけで、またフィリピンと上海にも工場があり、杭州も含めて4工場でパソコンを生産していた。05年に、これらの製造拠点をすべて杭州に集約。以降、TIHは東芝最大の自社パソコン工場になった。10年には、TIHでのパソコン製造888万8888台を達成。さらに今年2月には、携帯端末100万台の製造も達成している。2交代制で24時間稼動しており、月間でおよそ25万台のパソコンを生産できる能力がある。
杭州経済技術開発区にある東芝情報機器杭州社(TIH)
17万3000m2の敷地に、縦100m、横230mで2階建て、延床面積4万600m2の工場が建つ。1階は、部品のストックと梱包・出荷を行うエリア、設計評価エリアに分かれる。2階がパソコン組み立てエリア、プリント基板製造エリア、携帯端末組み立てエリア、設計事務所などになっている。敷地は、今後のビジネス拡大に対応できるよう、同規模の工場が2棟建てられる余裕がある。従業員数は約3000名。設計部隊を除いて、うち1割が管理職を含めた間接部門、残りが直接部門だ。直接部門の平均年齢は22歳で、女性が6割を占める。
TIHでは、東芝が全世界に販売するパソコンのうち、高付加価値機種を中心に製造しているので、出荷地域は日本が最も多く、欧州向けと米州向けがほぼ同程度の比率で続く。
八重樫昭徳総経理
八重樫総経理は、経営企画部長としてTIHを立ち上げた後、いったん東京の青梅工場でパソコンの製造技術に携わり、10年5月、TIHのスタンスを大きく変えるために、総経理として再びTIHに赴任した。操業開始当初は、2~3機種を大量につくる生産拠点として稼動していたが、そうした生産はODMパートナーに任せ、自らは一挙に10機種以上を並行生産しながら、高い品質を維持する柔軟な工場に変化させていったのである。
大量生産体制から「きめ細かくつくり分けができる体制」にシフト
現在、パソコンの受注では、まったく同一仕様の製品の80%が100台以下の単位。同社で製造しているのは大きくくくれば10機種程度だが、そのカスタマイズは多種多様で、1か月で2000種類を常につくり分けている。こうした小ロット受注に対応し、細かなつくり分けができるよう、1ロットを60台に設定。例えば100台のオーダーがあった場合でも、複数ロットに分けて生産することになる。
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生産ラインは、20mに満たない「フレキシブルショートライン」を中心に効率的に運用。部品供給なども含め、1ラインを20名ほどで担当する。「短いラインをたくさん動かすことで、こまめなライン調整にも対応できるようにした」(八重樫総経理)。さらに、同一ラインでも1日に何度も製造機種が変わっていき、多種多様なニーズに応える。またスピードも速い。オーダーがかかってから、工場出荷までで最短24時間、平均でも36時間という速さだ。
オーダーから出荷まで、最短で24時間
ノートパソコンの組み立ては、部品が実装されたプリント基板を入れ込みながら、ユニットを組み立てていくイメージ。各ユニットにはバーコードを付しており、トレーサビリティを確保している。また、ユニット部品についても、すべてベンダーがつけているシリアル番号からトレースができるようになっている。それ以外、ネジのようなバーコード管理できないものは、ロット番号で管理。どのロットのものがどの製造グループで使われたか、入荷日付をもとに管理している。
各基板は2次元バーコードで管理されている
最近のパソコンは、基板そのものが非常に小さい。同社の主力製品「Portege R700(dynabook RX3)」はスリムモデルだが、きょう体が薄く小さくなればなるほど、組み立て技術が重要になり、作業の安定性も高める必要がある。そのため、ゆっくり動きながら作業しなければならないコンベアラインを廃止。作業者が動かず、小さなパレットに部材などを乗せて動かすパレットラインに変更した。コンベアを動かさないと作業者任せになる部分も増え、生産性が落ちるのではないかという懸念もあったが、パレットラインに変更後は作業が定型化し、品質・生産性ともに上がったという。
パレットラインなので、安定した状態で作業できる
ロットごとに1台は組み立てた製品をバラしてチェック
一般にパソコンの製造ではチェックの工程が長くなるが、TIHでも同様だ。1ラインのうち半分以上を検査やチェックのエリアに割いている。また、エイジング・動作検査も時間がかかる工程だが、以前は10時間以上必要だったこの工程を3時間程度にまで短縮。エラーレートやユニットの品質を保ちながら、検査の自動化や効率化を進めている。1ラインで300台以上、10ライン分3000台以上を一度にエイジングを行うスペースを有している。
最終検査は、人間の五感検査――聴く、観る、キーボードの打鍵感などのチェックだ。例えば「Qosmio」など、音響が重要になるパソコンでは、音響ボックスを使ってスピーカーの音圧や周波数特性を計測する。もちろん、パスしなければ出荷できない。
音響試験も行う。キズがつかないようにモニタにカバーをかけるなど、細かい心遣いも
検査が終了すると、ソフトのインストールだ。パソコンのROMには、すでに顧客を判別するコードが入っており、そのデータにもとづいてOSやプレインストールするソフトを判別。サーバーからのダウンロード、インストールを自動で行う。
インストールが終わると、梱包だ。梱包の最初の工程で、今までやっていた作業がすべて終わっているかを、サーバーにアクセスして30秒程度でチェック。完了が確認されて、初めて出荷ラベルと機体銘板が出てくる。多種多様な製品を扱う関係上、ラベルを貼る場所もまちまち。そこで、ラベルを間違えないように貼るため、プロジェクタで上から位置をきょう体に投影して、正しい位置に貼れるよう工夫している。以前は、テンプレートを使っていたが、あまりにも種類が多すぎるので、このスタイルにしたという。
エイジングスペース。棚にはそれぞれパソコンを格納し動作チェックも兼ねてエイジングを行う
さまざまなチェック、検査と同時に抜き取り検査も行っている。製造ロットごとに組み立て後の1台を抜き取り、一度全部バラして、正しくつくられているかを確認し、ロット単位での組み立て状態が良好であること確認するものだ。もし、何らかの問題があれば、組み立て工程にすぐフィードバック。どこの工程の誰がその作業をしたかが全部わかっているので、すぐに問題を発見し、ラインの品質を上げていくことができる。
通常の「フレキシブルショートライン」のほかにも、主に新人の作業用に用意した長めのラインも稼動している。新人の作業者は、ここで実際に作業をしながら工程に習熟していく。標準のラインに比べ、1つの工程あたりの作業量が半分以下に設定されており、覚える作業量を少なくして習熟を早める。ここで習熟度を上げた後、作業者は通常ラインに投入される。TIHの作業員の勤務年数は2年以内が70~80%を占めており、毎月7~8%が入れ替わる。そのため、オペレータの質の維持が課題になっているが、こうした専用ラインを活用することで対応している。
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品質へのこだわりは、ハンダのロット管理にまで及ぶ
TIHの大きな特徴は、品質へのこだわりだ。同社が考える品質とは、第1段階が「品質不適合品を市場に出さない」ことで、出荷検査の強化で対応。第2段階が「品質不適合品を造り続けない」ことで、製造の異常に対する迅速な対応する。第3段階が「品質不適合品を造らない」ことで、工程制御によって、歩留まりを向上させる。第4段階が「品質不適合品を造らせない」で、設計段階から不良が出ない工程にすることを指す。「現在、第3段階と第4段階の間にある」と八重樫総経理は語る。
基板の異常を目視でもチェック。その姿は真剣そのものだ
この品質への取り組みが最もわかりやすいのが、パソコン組み立てラインの隣にあるプリント基板の製造工程だ。工程ごとに「傾向管理」を徹底してDB化し、不良が出る前にその芽を摘んでいく。例えば、マウンターと呼ばれる自動機械で、基板に部品を装着していくわけだが、その際に使われるクリームハンダ一つとっても、品質確保のために使用期限を決めており、一定期間(数十時間程度)を超えたものは使用しないなどのノウハウがある。空気と湿気でハンダ付けの品質が変化するからだ。
適正なハンダの量や材質を選び、どのように検査するか、といったことも、不良率を抑えるための重要なポイント。でき上がった基板をチェックし、不良には至らないまでも、不良になりやすい傾向が出てきた時点ですぐに調整し、不良を出さないように運用している。さらに、各基板に付けた2次元バーコードをもとに全工程を管理しており、どの基盤にどのハンダを使ったかも全部トレースできるようになっている。部品のロット管理はもちろん、不良の原因をハンダにまでさかのぼることができるわけだ。
ズラリと並んだマウンター。クリームハンダを塗った基板に部品を自動で高速装着していく
こうした品質維持の取り組みで活躍するのが、現場の品質センターだ。現場で問題が生じた現物をもってきて、製造技術、品質、そして現場の担当者が議論をして原因を究明。可能な限り即座に現場にフィードバックしていく。問題が生じた時点で検討し、すばやく製造工程に改善策を反映する。こうした地道な取り組みの積み重ねが不良率の低下に結びついている。
それでも生産過程で不具合が生じた基板は、解析・修理専用のエリアを設け、専門の技術者が修正していく。作業の難度は高く、現在でも1日一人あたり10枚程度しか処理できない。しかし、06年度から基板の製造品質が1万ppm(1%)を大きく下回る水準にまで飛躍的に向上したことと、技術者のレベルも上がってきたことから、過去に150名程度いた人員は、現在では半数以下に減り、エリア面積もほぼ半減した。
高度な技術を必要とする解析・修理。製造品質の飛躍的な向上で、人員と面積はほぼ半減した
中国人が考える中国向け製品の開発が始まる
同じ建屋に設計センターがあるので、製造現場でわからないことは、すぐに開発陣に問い合わせることができる。これによって、問題解決までの時間を大いに短縮することができる。開発部隊には、従業員と協力会社の駐在員をあわせて300名弱が働いている。部品の選定から始まり、パソコンの設計ができる陣容と設備を有している。
TIHで独自開発したドックやモバイルLCDなど。パソコンも自社開発できる環境が整ってきた
これまでは、ノートパソコンのインターフェースアクセサリの「ドック」を独自開発したり、米国だけで販売しているUSB接続のLCD「モバイルLCD」、デジタルフォトフレームなども独自に開発したりしてきた。最近では、デザイン面を中心に、中国人が考えた中国人受けするパソコンの開発も始めている。
___page___
製品や部品の評価も、開発部隊の重要な業務だ。TIHは大規模な10m級の電波暗室をもっており、製品開発時に電磁波測定検査を実施するほか、量産時にも、1か月に1~2回の抜き取り検査を実施している。また、RoHS指令に対応するため、有害物質などの分析も、蛍光X線分析装置や臭素計などを駆使して行う。基準ぎりぎりの場合には詳細解析を外部に委託する場合もあるが、自社で最初の段階のチェックを行うことで、コストダウンに貢献している。購入部材や開発中の製品など、月間約2000点のチェックを行っている。
浙江省で唯一の10m級電波暗室。自社の試験がない間は他社にも貸し出している
基板の不良を検査するX線検査装置や、断線の有無をチェックする電子顕微鏡も備えている。環境試験では、振動や温度変化による劣化などを試験する装置のほか、東芝独自の自主基準で、ノートパソコンのヒンジの耐久性試験を行う専用の機械ももつ。また、世界的には70センチあたりが標準、中国では1mという梱包箱ごとの落下試験にも対応している。
「プリント基板の製造技術をクルマやテレビでも生かしたい」
TIHでは、4月に新規事業推進室を設立した。今後、中国市場向けのパソコンの開発・製造を加速する一方で、テレビ用プリント基板や車載用基板の製造などを計画している。
八重樫総経理は「中国市場向けのパソコン、『Made in 杭州』のパソコンをつくっていく」と、まずは中国市場向けの製品の製造に本格的に着手する構えだ。そのうえで「共通のプリント基板製造をやりたい。一番のターゲットは、テレビのプリント基板だ。過去に一度経験があるものの、当時よりはるかにデジタル化し、パソコンの基板とさほど変わらないものになってきた。検査はパソコンとは異なるが、TIHの製造技術を生かしたい」と語る。
さらに「中国には東芝の製造現地法人が約40社あり、それぞれいろんなものづくりをしているが、今ではほとんどの製品がマイコンを内蔵していて、何がしかのプリント基板が必要。それを個々につくるのではなく、TIHの製造技術を生かしてプリント基板の製造全般を担っていきたい」という。
電子基板の高い製造ノウハウを生かしてパソコン以外の分野にもチャレンジ
次のステップとしては、電気自動車も含めた車載用基板の製造も視野に入れている。「クルマの世界では、パソコンの基準とはひとケタもふたケタ違う品質が要求される。不良率は全体でもふたケタppm台で、個々の部品では例えば1~2ppmに抑えなければならない」と、ハードルは高い。当然、製造だけでなく、部品の調達の部分からレベルを上げていかなければならない。そのうえ、製造工程で出た不具合の「修理」は原則的に許されない。一発で良品を製造しなければならないので、ロスが多くなり、コスト管理も難しくなっていく。
パソコンの製造では、これまで培った品質の維持・向上のノウハウを生かし、より高品質で低コストの製品を製造する一方、さまざまな製品が内蔵する基板製造までも行いながら、電子基板全般の製造拠点になることを目指す。そして、さらに高い目標である車載基板にもチャレンジしていく――。TIHはパソコンの製造工場から東芝全体の電子製品製造の中核を担う一大生産センターへと、大きく飛躍していくことになりそうだ。(BCN・道越一郎)