電子書籍、これからどうなる?(1) 携帯キャリアに聞く現状と今後の課題
電子書籍向けの情報端末として、12月10日、シャープが「GALAPAGOS(ガラパゴス)」、ソニーが「Reader(リーダー)」を発売した。電子書籍は今後日本で定着するのか、いま注目を集めている。そこで、12月から来年1月にかけて、端末やコンテンツの観点から、電子書籍をめぐる動きを3回にわたって紹介する。
今回は、電子書籍を楽しむことができる身近な端末として、携帯電話とスマートフォンを取り上げる。キャリアは端末だけでなく、データ通信という本業を生かしてコンテンツをユーザーに供給できるのが強みだ。ソフトバンクモバイル、NTTドコモ、KDDI(au)の3キャリアに電子書籍の方向性を聞いた。
電子書籍とは、紙の書籍を電子化したコンテンツのこと。PCや、iPadのような通信機能を備えたタッチパネル搭載の板状端末(スレート)、携帯電話、スマートフォン、専用端末などで閲覧することができる。コンテンツは、基本的に端末専用のオンライン書店で購入する。2007年11月、米国でアマゾンが専用端末「Kindle(キンドル)」を発売したことで、電子書籍の認知が高まった。
米アマゾンは、10年8月に第3世代「Kindle」を発売しているが、Kindleは日本語に対応しておらず、日本での普及には至っていない。国内では、これまで携帯電話向けのコミックなど、電子化したコンテンツとそれを閲覧する端末がなかったわけではない。しかし、コンテンツの種類は限られ、一部のユーザーが利用しているという状況だった。
2010年は、アップルのiPadのほか、オンキヨーの「TWシリーズ」やマウスコンピューター「LuvPad(ラヴパッド)」などのスレートが登場したことに加え、シャープやソニーが電子書籍向け端末を発売。選択肢は増えている。携帯電話と比べると、いずれも画面サイズが大きく、文字の拡大・縮小ができるなど、文書の閲覧をサポートする機能をもつのが特徴だ。
端末だけでなく、メーカー各社は独自の専用オンライン書店を開設することで、コンテンツの提供にも力を入れている。携帯電話やスマートフォンを扱うキャリアも、いま、電子書籍向けの端末・コンテンツ供給に取り組みだした。今回は、ソフトバンクモバイル、NTTドコモ、KDDI(au)に、取り組みと今後の展望を聞いた。
アップルのiPadで、国内の電子書籍市場に火をつけたソフトバンクモバイル。商品統括プロダクト・マーケティング本部の蓮実一隆副本部長は、「iPadがブレイクした一番の理由は、9.7型という画面サイズ」と断言する。
「iPadのような書籍に近い画面サイズの端末が登場したことで、日本の電子書籍市場はスタートラインに立った。しかし、今はまだ黎明期。電子書籍を体験したことのある人は、世の中にほとんどいない。仮に端末を渡されても、どのように読んでいいか分からない人が多い。そして、まだどの端末も、帯に短したすきに長しだ」と分析する。
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「いまは市場全体のパイが増えていく時期。圧倒的No.1の端末があってもいいけれど、ニーズの異なるさまざまなユーザーに対して提供するものがあっていい」と話す。また、「iPadが売れているといっても、発売からまだ1年も経っていない。これからさまざまな端末が登場するので、電子書籍向けの端末としてiPadが一番だとはいえない。ほかの端末と比べた優位性はとくに感じていない」と冷静だ。
蓮実副本部長が注目しているのは、自身が社長として手がけているコンテンツ提供サービス「ビューン」だ。「ビューン」は、雑誌では『週刊朝日』『PRESIDENT』、新聞は毎日新聞など、雑誌や新聞など約40コンテンツを揃える。「これだけ著名なコンテンツが集まっているサービスはほかにはない。世界的にもユニークなサービスだ」と自信をみせる。「ビューン」はiPadのほか、スマートフォンとしてiPhoneやOSにAndroidを搭載した端末、通常の携帯電話で利用できる。
多彩なコンテンツを提供する「ビューン」だが、書籍の内容をどこまで公開するのかという判断は、各出版社に委ねられている。したがって、媒体によって閲覧できるページの範囲が異なるのが実情だ。例えば、ある雑誌のページは、紙の雑誌の発売日を考慮して、電子コンテンツの情報開示のタイミングに時差を設けているものがある。また、一部の写真が非公開のページもある。
「出版社も、まだコンテンツのすべてを電子化して出そうとは思っていない。あくまでも限定してチャレンジしている状態」だという。蓮実副本部長は、「媒体数を増やすよりも、コンテンツの質と量を強化していく」方針だ。
NTTドコモは、電子書籍が閲覧できる端末として、サムスン電子製のAndroidスマートフォン「GALAXY」を提供している。ラインアップは、画面サイズが4型の「GALAXY S SC-02B」と7型の「GALAXY Tab SC-01C」。このほか、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の「Xperia」なども対応している。電子書籍のサービスでこだわっているのは、コンテンツの見やすさだ。
「GALAXY SとGALAXY Tabでは、コンテンツの見せ方を変えている」と話すのは、ユビキタスサービス部マシンコムサービス企画の船本道子担当部長。例えば、雑誌では、Sは画面サイズが小さいので、ページ内のコンテンツを細かく区切って掲載しているが、Tabでは1ページをそのまま見せている。「今後当社が投入するさまざまな端末についても、どうしたら書籍として扱いやすいかを追求していく」と話す。
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ドコモは、スマートフォン向けの電子書籍のトライアルサービスをポータルサイト「ドコモマーケット」で開始。10月下旬から12月下旬まで期間限定で、『東京カレンダー』『ぴあ』など約50コンテンツを無料で提供している。
「ユーザーがどのようなコンテンツを望んでいるのか、検証してみないとわからない」(船本担当部長)ので、利用者にアンケートを実施し、ユーザーの属性を把握して今後のサービスに生かす方針だ。「ある程度のラインアップがないと、ユーザーは選択に困る。今後は書籍の数を増やし、誰もが知っているような作品を提供していく」とする。
電子書籍サービスで想定するユーザーは、対応する最初の端末がスマートフォンということから、「デジタル好きの男性」が中心となる。しかし、ターゲットとしては、「しっかりと本を読む習慣のある中高年を想定している」と船本担当部長は語る。
3キャリアのなかで、唯一、消費電力が少なく、視認性にすぐれた電子ペーパーを採用した電子書籍の専用端末を発表しているのがKDDI(au)だ。フォックスコン製の「biblio Leaf SP02」で、画面サイズは約6型、重さは約296g(暫定)と非常に軽い。新規ビジネス推進本部メディアビジネス部書籍サービスグループの権正和博グループリーダーは、「紙の書籍のように文字が読みやすいので、電子ペーパーにはこだわっている」と自信をみせる。
「携帯電話やスマートフォンは、通話やインターネット利用の頻度を考えると、やはり電池のもちが気になる。biblio Leaf SP02のような専用端末なら、1週間充電しなくても大丈夫」と、権正グループリーダーは専用端末ならではの利便性を強調する。製品は12月下旬の発売を予定しているが、発売後はユーザーの反応によって、専用端末のラインアップの拡充を検討していく。
「biblio Leaf SP02」の発売に伴い、auは小説、実用書などを揃えたオンライン書店のサービスを年内に開始する予定だ。コンテンツは専用端末のほか、Android搭載スマートフォンにも提供する。権正グループリーダーは「これまで携帯電話向けコンテンツの売れ筋はコミックが中心だった。これからは、文字のコンテンツを扱いやすい端末・サービスを提供し、これまで電子書籍を利用できていなかった人に向けて提供していきたい」と意気込む。
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これから端末・コンテンツともに広がりをみせていくと予想される電子書籍市場。今後の課題を3キャリアに聞いた。
ソフトバンクモバイルの蓮実副本部長は、「端末やサービス、コンテンツの価格などを工夫していかなければならない。少なくとも日本では、単にオンライン書店に書籍を置くだけでは売れないだろう。リンクや動画、辞書機能など、ウェブ上で当たり前となっていることが電子書籍ではできていないので、まずはそこをクリアすることが課題」と話す。
NTTドコモの船本担当部長は、「まずはユーザーが読みたいと思うコンテンツを揃えることが不可欠だ。なるべく安価に、簡単にコンテンツを購入できる仕組みを構築する必要がある」と話す。さらに、「作品の違法コピーが出回るといったことのないよう、作品をつくっている作家にとっても満足のいく環境を整えなければならない」とする。
KDDIの権正グループリーダーは、コンテンツのファイル形式を課題として挙げる。「ファイル形式はできるだけ共通化して、コンテンツを提供する出版社側の無駄な制作コストはかけないほうがいい。ファイル形式が乱立していると、ユーザーも困る。ソニー、凸版印刷、朝日新聞社、KDDIの4社で7月に立ち上げた電子書籍配信事業準備株式会社(現ブックリスタ)は、こうしたバックグラウンドの部分を共通化・効率化するために準備を進めている。電子書籍の流通をうまく構築していきたい」と述べた。
また、主に出版社が縮小を懸念している紙の書籍の市場動向について、NTTドコモの船本担当部長は「紙と電子の相乗効果で市場を拡大していくことができる」とみる。「例えば、まずデジタルコンテンツの先行配信で話題づくりをしてから紙の書籍を発売したり、紙の書籍を購入することでデジタルの限定コンテンツが手に入るなど、販売方法を組み合わせてユーザーに訴求できる」とする。権正グループリーダーも同様に、「紙と電子で出版文化を盛り上げていきたい」と話す。
ただし、ソフトバンクモバイルの蓮実副本部長は、コンテンツの提供側の問題として、「いまは書籍をつくる人とウェブの仕組みをつくる人が連携していない。電子書籍は、コンテンツをもつメディアと通信を担うキャリアが協力しないと実現しない」と業界の垣根を越えた協力が不可欠であることを指摘した。
少なくとも、3キャリアに共通しているのは、書籍の電子化に取り組むことで、紙の書籍の市場活性化に貢献できると確信している点だ。また、ユーザーにとっては、当然のことながら、読書の利用シーンが広がるという喜びがある。端末・コンテンツともに課題は山積しているが、各社の今後の新しい取り組みに期待したい。(BCN・井上真希子)
*BCNでは、2010年以降に発売された製品で、画面サイズが5型以上12.1型以下、Wi-Fiや3Gなどによるインターネット接続が可能で、タッチパネルを搭載した板状の汎用モバイル端末を「スレート」と定義しています(電子書籍専用端末、PNDなどは除く)。
今回は、電子書籍を楽しむことができる身近な端末として、携帯電話とスマートフォンを取り上げる。キャリアは端末だけでなく、データ通信という本業を生かしてコンテンツをユーザーに供給できるのが強みだ。ソフトバンクモバイル、NTTドコモ、KDDI(au)の3キャリアに電子書籍の方向性を聞いた。
2010年は電子書籍の端末・サービスが続々登場
電子書籍とは、紙の書籍を電子化したコンテンツのこと。PCや、iPadのような通信機能を備えたタッチパネル搭載の板状端末(スレート)、携帯電話、スマートフォン、専用端末などで閲覧することができる。コンテンツは、基本的に端末専用のオンライン書店で購入する。2007年11月、米国でアマゾンが専用端末「Kindle(キンドル)」を発売したことで、電子書籍の認知が高まった。
シャープのメディアタブレット「GALAPAGOS(EB-W51GJ)」
米アマゾンは、10年8月に第3世代「Kindle」を発売しているが、Kindleは日本語に対応しておらず、日本での普及には至っていない。国内では、これまで携帯電話向けのコミックなど、電子化したコンテンツとそれを閲覧する端末がなかったわけではない。しかし、コンテンツの種類は限られ、一部のユーザーが利用しているという状況だった。
2010年は、アップルのiPadのほか、オンキヨーの「TWシリーズ」やマウスコンピューター「LuvPad(ラヴパッド)」などのスレートが登場したことに加え、シャープやソニーが電子書籍向け端末を発売。選択肢は増えている。携帯電話と比べると、いずれも画面サイズが大きく、文字の拡大・縮小ができるなど、文書の閲覧をサポートする機能をもつのが特徴だ。
ソニーの専用端末「Reader」
端末だけでなく、メーカー各社は独自の専用オンライン書店を開設することで、コンテンツの提供にも力を入れている。携帯電話やスマートフォンを扱うキャリアも、いま、電子書籍向けの端末・コンテンツ供給に取り組みだした。今回は、ソフトバンクモバイル、NTTドコモ、KDDI(au)に、取り組みと今後の展望を聞いた。
著名な媒体のコンテンツ強化を目指す――ソフトバンクモバイル
アップルのiPadで、国内の電子書籍市場に火をつけたソフトバンクモバイル。商品統括プロダクト・マーケティング本部の蓮実一隆副本部長は、「iPadがブレイクした一番の理由は、9.7型という画面サイズ」と断言する。
ソフトバンクモバイルの商品統括プロダクト・マーケティング本部の蓮実一隆副本部長
「iPadのような書籍に近い画面サイズの端末が登場したことで、日本の電子書籍市場はスタートラインに立った。しかし、今はまだ黎明期。電子書籍を体験したことのある人は、世の中にほとんどいない。仮に端末を渡されても、どのように読んでいいか分からない人が多い。そして、まだどの端末も、帯に短したすきに長しだ」と分析する。
___page___
「いまは市場全体のパイが増えていく時期。圧倒的No.1の端末があってもいいけれど、ニーズの異なるさまざまなユーザーに対して提供するものがあっていい」と話す。また、「iPadが売れているといっても、発売からまだ1年も経っていない。これからさまざまな端末が登場するので、電子書籍向けの端末としてiPadが一番だとはいえない。ほかの端末と比べた優位性はとくに感じていない」と冷静だ。
iPad
蓮実副本部長が注目しているのは、自身が社長として手がけているコンテンツ提供サービス「ビューン」だ。「ビューン」は、雑誌では『週刊朝日』『PRESIDENT』、新聞は毎日新聞など、雑誌や新聞など約40コンテンツを揃える。「これだけ著名なコンテンツが集まっているサービスはほかにはない。世界的にもユニークなサービスだ」と自信をみせる。「ビューン」はiPadのほか、スマートフォンとしてiPhoneやOSにAndroidを搭載した端末、通常の携帯電話で利用できる。
「ビューン」のトップページ
多彩なコンテンツを提供する「ビューン」だが、書籍の内容をどこまで公開するのかという判断は、各出版社に委ねられている。したがって、媒体によって閲覧できるページの範囲が異なるのが実情だ。例えば、ある雑誌のページは、紙の雑誌の発売日を考慮して、電子コンテンツの情報開示のタイミングに時差を設けているものがある。また、一部の写真が非公開のページもある。
「出版社も、まだコンテンツのすべてを電子化して出そうとは思っていない。あくまでも限定してチャレンジしている状態」だという。蓮実副本部長は、「媒体数を増やすよりも、コンテンツの質と量を強化していく」方針だ。
読書好きが多い中高年層を想定――NTTドコモ
NTTドコモは、電子書籍が閲覧できる端末として、サムスン電子製のAndroidスマートフォン「GALAXY」を提供している。ラインアップは、画面サイズが4型の「GALAXY S SC-02B」と7型の「GALAXY Tab SC-01C」。このほか、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の「Xperia」なども対応している。電子書籍のサービスでこだわっているのは、コンテンツの見やすさだ。
GALAXY S SC-02B
「GALAXY SとGALAXY Tabでは、コンテンツの見せ方を変えている」と話すのは、ユビキタスサービス部マシンコムサービス企画の船本道子担当部長。例えば、雑誌では、Sは画面サイズが小さいので、ページ内のコンテンツを細かく区切って掲載しているが、Tabでは1ページをそのまま見せている。「今後当社が投入するさまざまな端末についても、どうしたら書籍として扱いやすいかを追求していく」と話す。
___page___
ドコモは、スマートフォン向けの電子書籍のトライアルサービスをポータルサイト「ドコモマーケット」で開始。10月下旬から12月下旬まで期間限定で、『東京カレンダー』『ぴあ』など約50コンテンツを無料で提供している。
GALAXY Tab SC-01C
「ユーザーがどのようなコンテンツを望んでいるのか、検証してみないとわからない」(船本担当部長)ので、利用者にアンケートを実施し、ユーザーの属性を把握して今後のサービスに生かす方針だ。「ある程度のラインアップがないと、ユーザーは選択に困る。今後は書籍の数を増やし、誰もが知っているような作品を提供していく」とする。
電子書籍サービスで想定するユーザーは、対応する最初の端末がスマートフォンということから、「デジタル好きの男性」が中心となる。しかし、ターゲットとしては、「しっかりと本を読む習慣のある中高年を想定している」と船本担当部長は語る。
電子ペーパーを採用した専用端末の利便性が強み――KDDI
3キャリアのなかで、唯一、消費電力が少なく、視認性にすぐれた電子ペーパーを採用した電子書籍の専用端末を発表しているのがKDDI(au)だ。フォックスコン製の「biblio Leaf SP02」で、画面サイズは約6型、重さは約296g(暫定)と非常に軽い。新規ビジネス推進本部メディアビジネス部書籍サービスグループの権正和博グループリーダーは、「紙の書籍のように文字が読みやすいので、電子ペーパーにはこだわっている」と自信をみせる。
KDDIの新規ビジネス推進本部メディアビジネス部書籍サービスグループの権正和博グループリーダー
「携帯電話やスマートフォンは、通話やインターネット利用の頻度を考えると、やはり電池のもちが気になる。biblio Leaf SP02のような専用端末なら、1週間充電しなくても大丈夫」と、権正グループリーダーは専用端末ならではの利便性を強調する。製品は12月下旬の発売を予定しているが、発売後はユーザーの反応によって、専用端末のラインアップの拡充を検討していく。
biblio Leaf SP02
「biblio Leaf SP02」の発売に伴い、auは小説、実用書などを揃えたオンライン書店のサービスを年内に開始する予定だ。コンテンツは専用端末のほか、Android搭載スマートフォンにも提供する。権正グループリーダーは「これまで携帯電話向けコンテンツの売れ筋はコミックが中心だった。これからは、文字のコンテンツを扱いやすい端末・サービスを提供し、これまで電子書籍を利用できていなかった人に向けて提供していきたい」と意気込む。
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紙と電子の相乗効果で書籍市場の活性化を図る
これから端末・コンテンツともに広がりをみせていくと予想される電子書籍市場。今後の課題を3キャリアに聞いた。
ソフトバンクモバイルの蓮実副本部長は、「端末やサービス、コンテンツの価格などを工夫していかなければならない。少なくとも日本では、単にオンライン書店に書籍を置くだけでは売れないだろう。リンクや動画、辞書機能など、ウェブ上で当たり前となっていることが電子書籍ではできていないので、まずはそこをクリアすることが課題」と話す。
ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の4社は事業企画会社「電子書籍配信事業準備(現ブックリスタ)」を7月に設立
NTTドコモの船本担当部長は、「まずはユーザーが読みたいと思うコンテンツを揃えることが不可欠だ。なるべく安価に、簡単にコンテンツを購入できる仕組みを構築する必要がある」と話す。さらに、「作品の違法コピーが出回るといったことのないよう、作品をつくっている作家にとっても満足のいく環境を整えなければならない」とする。
KDDIの権正グループリーダーは、コンテンツのファイル形式を課題として挙げる。「ファイル形式はできるだけ共通化して、コンテンツを提供する出版社側の無駄な制作コストはかけないほうがいい。ファイル形式が乱立していると、ユーザーも困る。ソニー、凸版印刷、朝日新聞社、KDDIの4社で7月に立ち上げた電子書籍配信事業準備株式会社(現ブックリスタ)は、こうしたバックグラウンドの部分を共通化・効率化するために準備を進めている。電子書籍の流通をうまく構築していきたい」と述べた。
家電量販店には多彩なタブレット型端末が並ぶ(写真はビックカメラ有楽町店本館)
また、主に出版社が縮小を懸念している紙の書籍の市場動向について、NTTドコモの船本担当部長は「紙と電子の相乗効果で市場を拡大していくことができる」とみる。「例えば、まずデジタルコンテンツの先行配信で話題づくりをしてから紙の書籍を発売したり、紙の書籍を購入することでデジタルの限定コンテンツが手に入るなど、販売方法を組み合わせてユーザーに訴求できる」とする。権正グループリーダーも同様に、「紙と電子で出版文化を盛り上げていきたい」と話す。
ただし、ソフトバンクモバイルの蓮実副本部長は、コンテンツの提供側の問題として、「いまは書籍をつくる人とウェブの仕組みをつくる人が連携していない。電子書籍は、コンテンツをもつメディアと通信を担うキャリアが協力しないと実現しない」と業界の垣根を越えた協力が不可欠であることを指摘した。
少なくとも、3キャリアに共通しているのは、書籍の電子化に取り組むことで、紙の書籍の市場活性化に貢献できると確信している点だ。また、ユーザーにとっては、当然のことながら、読書の利用シーンが広がるという喜びがある。端末・コンテンツともに課題は山積しているが、各社の今後の新しい取り組みに期待したい。(BCN・井上真希子)
*BCNでは、2010年以降に発売された製品で、画面サイズが5型以上12.1型以下、Wi-Fiや3Gなどによるインターネット接続が可能で、タッチパネルを搭載した板状の汎用モバイル端末を「スレート」と定義しています(電子書籍専用端末、PNDなどは除く)。