「理想のテレビ」を具現化した東芝「CELLレグザ」の全貌に迫る! 第二回
東芝の次世代液晶テレビ「CELLレグザ 55X1」の開発を担当した東芝デジタルメディアネットワーク社の映像マーケティング事業部・映像グローバルマーケティング部の本村裕史参事にうかがう当企画。第二回の今回は、本村氏が「テレビの基本」と語る「画質・音質」について説明していただいた。
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CELLレグザを開発するにあたって、本村氏は「これまでのテレビの常識を壊すことから始めた」という。「理想のテレビを具現化する」という考えに基づいたとき、それまでの「常識」はある面で障害となって存在するからである。キーワードは「非常識」。インタビュー中、ことあるごとにこのキーワードを使った本村氏の開発意図は、どんなところにあったのだろうか。
「テレビの基本は画質・音質」と語る本村氏。製品のポイントとして「まず最初にお話しすべき」と切り出したのは、やはり「画質」だった。「理想を具現化した」とまでいうCELLレグザの画質だが、根底に意識していたのは意外なことにブラウン管テレビだったという。なぜなのか。
「解像度やひずみがないという点では、薄型テレビの圧勝。ブラウン管には解像度がないからもうボケボケです。ただ、薄型テレビが絶対にブラウン管を超えられなかったのが、キラリと光るコントラスト、輝き感なんです。それと漆黒のような黒の表現力。これはもうブラウン管でしか出せない」
そこで、CELLレグザの画質を作りこんでいくにあたっては、まず薄型テレビがすでにブラウン管を超えている精細感を追求し、「頂点までもっていく」作業から始めた。それが、CELLブロードバンドエンジンの得意分野である「超解像技術」だ。
従来の薄型テレビを越えるキラリと光るコントラストを表現するには、あるツールとの「決定的な出会い」があった。それがLEDバックライトだ。本村氏は「LEDバックライトをCELLプラットフォームでコントロールすると、こんなことができるよ、というのを研究所で見せられて、これだ! と。これを使ってCELLレグザを完成させると、すごいテレビになるぞ、という自信になった」とまで言い切る。
確かにLEDバックライトは、従来の薄型テレビが使っていた蛍光管のバックライトに比べ、コントラスト比や動画追従性の向上が図ることができる。LEDは蛍光管に比べてサイズが小さいので、バックライトを形成するには多くのLEDを並べる必要があり、その分個別に発光量を調節できるからだ。しかし、LEDバックライトがあったとしても、その光らせ方を緻密に計算・コントロールできるCELLの存在がなければ、CELLレグザは存在し得なかっただろう。その意味では、まさにCELLとLEDバックライトの「出会い」だった。
この出会いを無駄にしないよう、東芝はCELLレグザ専用のメガLEDバックライトシステムを自社で開発した。画面の明るさを示す輝度は1250カンデラ。一般的なテレビは500カンデラほどなので、およそ2.5倍の明るさがあることになる。さらに、LEDの発光を画面を512分割にしてコントロールした。これによって、「光らせる場所はキラリと光るし、光らせない場所はもう漆黒を作ることができるんです。非常識なLEDバックライトですよ、これは」と本村氏も苦笑する。
しかし、その甲斐あって「半分忘れかけていたブラウン管の時の『キラリ』と光り輝くところが復元できた」という。「LEDの個数も、LEDエリアコントロールの緻密さも、同業の方が『よくやるわ』っていうくらいの手間と労力がかかった」というが、本村氏は「我々にとって最高画質のテレビはそうなるべきだ、ということ」と満足感をにじませる。
「音は我々の弱みだった」と本村氏は言う。「販売店さんからもお叱りを受けることがあるんですが、確かにいまの薄型テレビの音は悪い。なぜなら薄いですから」。本村氏によると、薄型にすると必然的に音は悪くなる、そこで、今までのテレビには、音質面はAVラックで補完しましょうという「常識」があったのだという。
この点に関して「まあ、しょうがないかと思いながらも悔しいわけです。いつかは必ず、という思いがありました。本来テレビって、画と音で感動するものなので、自己完結するのがあるべき姿です」と語る本村氏は、音質に関しても「非常識」へのチャレンジを始める。
まずは社内で人探し。テレビ担当でもオーディオ担当でもなく、高級DVDレコーダー・プレーヤーの回路系を設計している人物に白羽の矢を立てた。その理由を本村氏は「テレビのオーディオ担当っていうのはテレビの常識の中で作りますから、与えられたコスト、物理的な面積、制約条件の中で最大限努力をするのがミッション。だけど、今回はテレビの音ではない音を作る必要があったんです」と説明する。
「実は彼はかなり有名なマニアでして、土日になると評論家とオーディオ談義をしてしまうくらいのポテンシャルを持っている。そこで、彼を呼んできて、だましてすかしてやってくれと(笑)。で、彼をヘッドに、我々のオーディオ担当も一緒になって作りました。さらに、FOSTER電機さんという高級オーディオのスピーカーを作っているメーカーさんと共同で、こだわり抜いて作りました」
完成したスピーカーは、キャビネットにアルミを採用。そこにHi-Fiオーディオ用のソフトドームツイーターとダブルウーファーを入れ、それぞれ専用で駆動するマルチアンプで、総合出力60Wという大型のシステムを組み上げた。通常のレグザのフラグシップモデルであるZXシリーズの最大出力が20Wということを考えると、その実力は推して知るべしというところだろう。
本村氏も「こんなシステムを構成するなんて、やっぱり非常識」としながらも、「ピュアオーディオと同じ作り方で、物理の法則に完全に則って実直なほど真面目に作ったスピーカーシステム。すごく正しい、低音から高音までピュアでフラットな音が出るシステムになりました」と胸を張る。
さらに、一般的な薄型テレビのスピーカーは、画面の両脇に設置するサイドスピーカー式だが、CELLレグザは画面下に設置するアンダースピーカー式を採用している。「当初はサイドスピーカー案もあったんですが、横にスピーカーがあると分厚くなりますから、デザインバランス的にありえない。ということでアンダーでやることになりました」と本村氏は説明するが、ここにもう一つの「非常識」が隠れている。
「アンダースピーカーにするメリットは、高級オーディオと組み合わせたときに、5.1chのセンタースピーカーとして使えること。実はCELLレグザのスピーカーにはセンタースピーカーが一個付いていて、専用に20Wのモノラルアンプがあるんですけど、これ、通常は鳴りません。普通はツイーターとダブルウーファーの合計6つのスピーカーが鳴るんですが、5.1chを組んだときには、ツイーターの音が止まって、真ん中のスピーカーが鳴り始める。この五つのスピーカーでセンタースピーカーとして使っていただけるんです」
これだけこだわって作ったスピーカーだが、件の設計者が、本村氏いわく「調子こいちゃった(笑)」という出来事が起きる。「某AV専門誌の取材のときに、彼がCELLレグザのスピーカーについて、100万円のスピーカーと組み合わせてちょうどいいバランスですよ、と言ったんです」
「馬鹿なこと言うよな、と思ってたら、その雑誌がホントに100万円のスピーカー持ってきて試聴したんですね。で、ドキドキしながら出てきた雑誌を読んだら、すごくいいバランスだったと書いてあった(笑)。なんだかおかしかったですね」
図らずもその音質の高さが証明されることになったわけだが、そもそも本村氏本人にも、音質に関しては相当の自信があった。それは、CELLレグザが完成したときに、画質よりも音質から受けた衝撃の方が大きかったからだ。「テレビの画質がよくなるというのは、私はその道で長くメシを食っているので想定内なんです。CELLレグザの画質を見て、液晶テレビとはとても思えない、と感動はしましたけど、そこまで。しかし、音質に関しては想像すらしていなかった」という。
「テレビの音がいいとこんなことになるのか、というのを絶対的真理として感じました。そも
そもテレビって画と音しかないわけですから、二感で感じるものです。でも、現実の世界できれいな景色を見たり、感動する時って、実は人間は空気感や匂い、温度も含めて五感で感じてると思うんです」と本村氏。
「それを二感で感じるには、やっぱり二感を超えて五感を震わせるような画であり音でありを再現しないと、感動する領域までいかないというのがあります。本音を言うと、CELLレグザを作るまでは、音でこんなに感動できるとは思っていなかった。私は100万円のオーディオがどんな音をするかは知っていますけど、テレビ自己完結ですごくいい音がするというのはそれとは違う。やっぱりテレビってそういうことだったんだよね、とあらためて感動しました」と感慨深げに語ってくれた。
今回は、本村氏の考える「理想の画質・音質」とはどういう過程で生み出されたかをお届けした。次回は、「画質・音質」に次ぐCELLレグザのポイントである「録画」「ネットワーク」機能について紹介し、本企画の最終回とする。(BCN・山田五大)
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開発担当が「非常識」と言い切るCELLレグザの機能
本村裕史 映像マーケティング事業部 映像グローバルマーケティング部 参事
CELLレグザを開発するにあたって、本村氏は「これまでのテレビの常識を壊すことから始めた」という。「理想のテレビを具現化する」という考えに基づいたとき、それまでの「常識」はある面で障害となって存在するからである。キーワードは「非常識」。インタビュー中、ことあるごとにこのキーワードを使った本村氏の開発意図は、どんなところにあったのだろうか。
画質の「非常識」
「テレビの基本は画質・音質」と語る本村氏。製品のポイントとして「まず最初にお話しすべき」と切り出したのは、やはり「画質」だった。「理想を具現化した」とまでいうCELLレグザの画質だが、根底に意識していたのは意外なことにブラウン管テレビだったという。なぜなのか。
「解像度やひずみがないという点では、薄型テレビの圧勝。ブラウン管には解像度がないからもうボケボケです。ただ、薄型テレビが絶対にブラウン管を超えられなかったのが、キラリと光るコントラスト、輝き感なんです。それと漆黒のような黒の表現力。これはもうブラウン管でしか出せない」
そこで、CELLレグザの画質を作りこんでいくにあたっては、まず薄型テレビがすでにブラウン管を超えている精細感を追求し、「頂点までもっていく」作業から始めた。それが、CELLブロードバンドエンジンの得意分野である「超解像技術」だ。
従来の薄型テレビを越えるキラリと光るコントラストを表現するには、あるツールとの「決定的な出会い」があった。それがLEDバックライトだ。本村氏は「LEDバックライトをCELLプラットフォームでコントロールすると、こんなことができるよ、というのを研究所で見せられて、これだ! と。これを使ってCELLレグザを完成させると、すごいテレビになるぞ、という自信になった」とまで言い切る。
確かにLEDバックライトは、従来の薄型テレビが使っていた蛍光管のバックライトに比べ、コントラスト比や動画追従性の向上が図ることができる。LEDは蛍光管に比べてサイズが小さいので、バックライトを形成するには多くのLEDを並べる必要があり、その分個別に発光量を調節できるからだ。しかし、LEDバックライトがあったとしても、その光らせ方を緻密に計算・コントロールできるCELLの存在がなければ、CELLレグザは存在し得なかっただろう。その意味では、まさにCELLとLEDバックライトの「出会い」だった。
この出会いを無駄にしないよう、東芝はCELLレグザ専用のメガLEDバックライトシステムを自社で開発した。画面の明るさを示す輝度は1250カンデラ。一般的なテレビは500カンデラほどなので、およそ2.5倍の明るさがあることになる。さらに、LEDの発光を画面を512分割にしてコントロールした。これによって、「光らせる場所はキラリと光るし、光らせない場所はもう漆黒を作ることができるんです。非常識なLEDバックライトですよ、これは」と本村氏も苦笑する。
しかし、その甲斐あって「半分忘れかけていたブラウン管の時の『キラリ』と光り輝くところが復元できた」という。「LEDの個数も、LEDエリアコントロールの緻密さも、同業の方が『よくやるわ』っていうくらいの手間と労力がかかった」というが、本村氏は「我々にとって最高画質のテレビはそうなるべきだ、ということ」と満足感をにじませる。
音質の「非常識」
「音は我々の弱みだった」と本村氏は言う。「販売店さんからもお叱りを受けることがあるんですが、確かにいまの薄型テレビの音は悪い。なぜなら薄いですから」。本村氏によると、薄型にすると必然的に音は悪くなる、そこで、今までのテレビには、音質面はAVラックで補完しましょうという「常識」があったのだという。
この点に関して「まあ、しょうがないかと思いながらも悔しいわけです。いつかは必ず、という思いがありました。本来テレビって、画と音で感動するものなので、自己完結するのがあるべき姿です」と語る本村氏は、音質に関しても「非常識」へのチャレンジを始める。
テレビの画と音は、テレビ単体で自己完結するべきと語る本村氏
まずは社内で人探し。テレビ担当でもオーディオ担当でもなく、高級DVDレコーダー・プレーヤーの回路系を設計している人物に白羽の矢を立てた。その理由を本村氏は「テレビのオーディオ担当っていうのはテレビの常識の中で作りますから、与えられたコスト、物理的な面積、制約条件の中で最大限努力をするのがミッション。だけど、今回はテレビの音ではない音を作る必要があったんです」と説明する。
「実は彼はかなり有名なマニアでして、土日になると評論家とオーディオ談義をしてしまうくらいのポテンシャルを持っている。そこで、彼を呼んできて、だましてすかしてやってくれと(笑)。で、彼をヘッドに、我々のオーディオ担当も一緒になって作りました。さらに、FOSTER電機さんという高級オーディオのスピーカーを作っているメーカーさんと共同で、こだわり抜いて作りました」
CELLレグザのスピーカーシステム
完成したスピーカーは、キャビネットにアルミを採用。そこにHi-Fiオーディオ用のソフトドームツイーターとダブルウーファーを入れ、それぞれ専用で駆動するマルチアンプで、総合出力60Wという大型のシステムを組み上げた。通常のレグザのフラグシップモデルであるZXシリーズの最大出力が20Wということを考えると、その実力は推して知るべしというところだろう。
本村氏も「こんなシステムを構成するなんて、やっぱり非常識」としながらも、「ピュアオーディオと同じ作り方で、物理の法則に完全に則って実直なほど真面目に作ったスピーカーシステム。すごく正しい、低音から高音までピュアでフラットな音が出るシステムになりました」と胸を張る。
さらに、一般的な薄型テレビのスピーカーは、画面の両脇に設置するサイドスピーカー式だが、CELLレグザは画面下に設置するアンダースピーカー式を採用している。「当初はサイドスピーカー案もあったんですが、横にスピーカーがあると分厚くなりますから、デザインバランス的にありえない。ということでアンダーでやることになりました」と本村氏は説明するが、ここにもう一つの「非常識」が隠れている。
「アンダースピーカーにするメリットは、高級オーディオと組み合わせたときに、5.1chのセンタースピーカーとして使えること。実はCELLレグザのスピーカーにはセンタースピーカーが一個付いていて、専用に20Wのモノラルアンプがあるんですけど、これ、通常は鳴りません。普通はツイーターとダブルウーファーの合計6つのスピーカーが鳴るんですが、5.1chを組んだときには、ツイーターの音が止まって、真ん中のスピーカーが鳴り始める。この五つのスピーカーでセンタースピーカーとして使っていただけるんです」
通常使用時は両サイドのツイーターとウーファーが鳴る
これだけこだわって作ったスピーカーだが、件の設計者が、本村氏いわく「調子こいちゃった(笑)」という出来事が起きる。「某AV専門誌の取材のときに、彼がCELLレグザのスピーカーについて、100万円のスピーカーと組み合わせてちょうどいいバランスですよ、と言ったんです」
「馬鹿なこと言うよな、と思ってたら、その雑誌がホントに100万円のスピーカー持ってきて試聴したんですね。で、ドキドキしながら出てきた雑誌を読んだら、すごくいいバランスだったと書いてあった(笑)。なんだかおかしかったですね」
図らずもその音質の高さが証明されることになったわけだが、そもそも本村氏本人にも、音質に関しては相当の自信があった。それは、CELLレグザが完成したときに、画質よりも音質から受けた衝撃の方が大きかったからだ。「テレビの画質がよくなるというのは、私はその道で長くメシを食っているので想定内なんです。CELLレグザの画質を見て、液晶テレビとはとても思えない、と感動はしましたけど、そこまで。しかし、音質に関しては想像すらしていなかった」という。
「テレビの音がいいとこんなことになるのか、というのを絶対的真理として感じました。そも
そもテレビって画と音しかないわけですから、二感で感じるものです。でも、現実の世界できれいな景色を見たり、感動する時って、実は人間は空気感や匂い、温度も含めて五感で感じてると思うんです」と本村氏。
本村氏は、二感しか使わないテレビで、五感が震える感動を届けたいという
「それを二感で感じるには、やっぱり二感を超えて五感を震わせるような画であり音でありを再現しないと、感動する領域までいかないというのがあります。本音を言うと、CELLレグザを作るまでは、音でこんなに感動できるとは思っていなかった。私は100万円のオーディオがどんな音をするかは知っていますけど、テレビ自己完結ですごくいい音がするというのはそれとは違う。やっぱりテレビってそういうことだったんだよね、とあらためて感動しました」と感慨深げに語ってくれた。
今回は、本村氏の考える「理想の画質・音質」とはどういう過程で生み出されたかをお届けした。次回は、「画質・音質」に次ぐCELLレグザのポイントである「録画」「ネットワーク」機能について紹介し、本企画の最終回とする。(BCN・山田五大)
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