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学校のICT、学力向上や非デジタルネイティブの子どもたちへのIT教育にも期待

特集

2009/07/17 17:09

 今年度補正予算に「学校ICT(情報通信技術)環境整備の事業費総額4000億円」が組み込まれた。ICT活用による学力向上を目的とした、国をあげた大規模な取り組みだ。公立の小・中・高・特別支援学校数3万7050校で単純に割ると1校あたり1100万円がICT整備費用として使える。学校のICT化により、どんなことができるのだろうか。

学力向上と授業の効率化を目指す



 これまでの公立学校のICTは、パソコンを触り、ソフトを操作することを中心とした、操作に慣れる授業という性格が強かったが、今後は、パソコンに慣れるだけでなく、各種IT機器を活用することで、授業をわかりやすくしていく方向に進化していきそうだ。つまり、ICTを活用して授業・教育を効率化させ、学力向上にむすびつける、という狙いだ。

プロジェクターや電子黒板を用いた授業のイメージ

 わかりやすい授業を行い、学力を向上させる方法として注目されているのが、プロジェクターや電子黒板の活用。写真や図表を大画面で映したり、視覚的にインパクトを与えて集中力を高める効果が期待できるという。また、教師と児童・生徒のパソコンをネットワークでつなぎ、授業中にネットワーク上に意見を記入するといったスタイルもある。

 あるパソコンメーカーには、タッチパネルを搭載したデスクトップパソコンを導入したいという特別支援学校の教師からの声が寄せられた。キーボードやマウスに抵抗を持つ子どもたちのために、タッチパネルによる操作に魅力を感じたというのだ。

 タッチパネルを活用した学習では、インテルと内田洋行が、インテルの教育用PC「インテル クラスメイトPC」を使い、漢字の書き取り、計算問題の反復学習などの実験を進めているほか、デルが今年5月から、教育向けに設計したタッチパネル搭載のノートPCを5月に販売開始しているなど、システムを供給するメーカーやIT企業の動きは活発化してきている。手軽に操作できるタッチパネルやタブレットPCは、教育用パソコンに欠かせない機能になっていくといえそうだ。

 今回の「学校ICT環境の整備」では、電子黒板やパソコンなどハードウェアの導入が脚光を浴びているが、ソフトウェアの整備も対象になる。今や企業の会計は、ソフトを使うのが当たり前だが、いまだに手書きの帳簿を使って授業を行う商業高校もあるという。ハードウェアを生かすために不可欠なのがソフトウェア。高校のICT教育では、社会で役立つ実務教育として、ソフトウェアの活用が一層求められる。

パソコンやネットに触れるということも重要



 そのほか学校のICT化は、学力向上という目的だけでなく、家庭にIT環境がない子どもたちに、パソコン、インターネットなどに触れる機会を増やすという側面もある。パソコンの世帯普及率は07年3月に7割を超え、09年3月時点では73.2%(内閣府の調べ)。もの心が付いた時には、家庭にパソコンがあったという子どもはそれほど珍しくないだろう。

 こういった「デジタルネイティブ」と呼ばれる子どもたちがいる一方で、児童養護施設で生活する子どもたちは、施設に充実したネットワーク環境が整っていない場合が多く、パソコンやインターネットに触れる機会が少ない。また、パソコンの世帯普及率は7割を超えたといっても、3割弱の家庭にはパソコンがない。学校のICT化は、この3割弱の家庭の子どもたちや、施設から学校に通う子どもたちなどに、家庭環境に関わらず、IT教育をする重要な役割だ。

 一方で、多くの問題点も指摘されている。授業の効率化を目指す学校のICT推進により、かえって複雑になり、副作用が出ないか、不安を抱く保護者も多い。子どもたちの情報モラル教育についても、不十分だと問題視されている。

 文章を書くのではなく、パソコンを使って漢字を変換しながら打ち込んでいくという書き方が、子どものころから当たり前になってしまうと、パソコンに頼る思考回路になってしまわないか、と危惧する声もある。漢字や英単語は、何度もノートに書いて覚えたほうがいいのかもしれない。

 しかし、世の中がIT化していくなかで、教育のIT化を置き去りにしておくわけにはいかない。子どもたちや保護者が安心でき、信頼のおけるIT教育、また、時代に沿った格差のないIT教育が必要だ。そのなかで、誰のためにどんな目的で教育のIT化を進め、何をゴールにすえるのか、しっかりとした理念が求められている。(BCN・田沢理恵)