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09年は日本市場で売上倍増を目指す――日本エイサー、ボブ・セン社長に聴く

インタビュー

2009/03/31 11:42

 ネットブック(ミニノートPC)という新ジャンルマシン「Aspire one」の大ヒットで、一気に高いプレゼンスを獲得した台湾のPC企業acer。世界的な不況にあっても元気な企業の1つだ。その日本法人、日本エイサーのボブ・セン社長に09年のPC業界の展望と同社の戦略を聴いた。

――世界的な不況が09年のPC市場とacerに与える影響は?

 09年は、世界のPC市場全体にとっても厳しい年になるだろう。08年、売り上げが前年比でマイナスに転じた国も多く、全体で前年並みを維持できるかどうかは微妙なところだ。一方、08年にグループ全体で約2兆5千億円を売り上げたacerは09年、さらに10-30%の伸びを見込んでいる。もともと高いシェアをもっているヨーロッパでは、全体のパイが縮んだことで深く落ち込んでいるが、アメリカ、アジアは依然として大きな成長力がある。09年のアメリカ市場は30-50%程度の伸びを見込んでいる。日本市場も引き続き拡大し、100%の成長を計画している。


――自動車など比べ、PC市場が底堅いのは?

 製品ライフサイクルの違いが影響している。例えば自動車はメンテナンスをしっかりすれば長く乗れる。頻繁な買い替えは贅沢ということになる。しかしPCはそんなに長くは使えない。だから底堅い。不況とはいえ、全部がだめになることはない。ユニクロもマクドナルドも元気だ。最も大切なのはポートフォリオ、割り振りだ。

 さらに日本では個人需要はそれほど弱っていない。さすがに不況の報道などに接して少し保守的にはなっているようだが、「Value for Money」つまり、払った金額に見合う価値を感じさせる製品に対する需要は絶対消えないのではないかと思う。

 日本のPC需要も同様に、景気後退でそれほど大きな影響を受けないのではないかと思う。世界的に見てPCの保有台数が少ない日本には、まだPC市場拡大の潜在力がある。テレビの普及率は高いのに、PCの世帯普及率はアメリカより低い。ヨーロッパ各国に比べてもまだ成長する余地があるはず。複数台のPCを買ってもいいはずだ。

 一方でPC業界には、LCDパネルやDRAM業界で経験したような変化は起きるだろう。国内メーカーが高付加価値商品にシフトししたり、プレーヤーの入れ替わることもありそうだ。

――日本市場でネットブックがヒットしたのは?

 ネットブック「Aspire one」が、なぜ、あれだけヒットしたのか。まず、持ち運んで使えるモバイルPCが、合理的な価格で手に入るようになったということ。もう1つは、イー・モバイル回線との一括販売などでイニシャルコストが安くなり、購入意欲が刺激された、ということが理由だろう。こうしたポイントを抑えておけば、まだまだ市況は活性化する。


 PCにはたくさんの機能があるが、多くの場合せいぜい3割程度の能力しか活用されていない。そんな用途に10万円とか7万・8万という価格は高すぎる。そこで生まれたのがAspire One。メールのやり取りやWebサイトの閲覧といった、ネット利用を中心にして軽く小さく安くというコンセプトのネットブックだ。似たジャンルのasusの「EeePC」は発売はもっと早かったが、こちらは200ドルPCのコンセプトから来ており、若干異なっている。

 国内メーカーを含め競合各社は08年後半、このジャンルに製品を投入してきた。しかし、従来のPCをより軽く小さく安くしただけ。いずれもコンセプトがぶれている。もっと明確なコンセプトを打ち出せばもっと需要はまだまだ拡大する。ネットブックのセールスポイントをもっとハッキリさせたほうがいい。もったいないと思っている。

――プレミアムなネットブックは「あり」?

 現在のAspire oneは、安くてもチープな感じはせず、ネットブックでありながら、あまり不自由を感じないマシンが欲しい……そんな顧客の要望に応えた製品だ。一方、ソニーの「Vaio Type P」のようなプレムアムなネットブックも「あり」だと思う。ネットブックに出せる金額も、製品の性格やユーザーの状況によって、10万円だったり、5万だったり、3万だったりとさまざま。今後は、そういったそれぞれの顧客の要望に見合った製品をラインアップしていきたい。

 ちなみに、OSをLinuxにすればもっと安くすることもできた。しかし、日本ではLinuxバージョンのネットブックは発売していない。日本向け製品でWindowsを選択したのは、1つはサポートの問題。プリンタ1つつなぐにしても、Windowsでないと「使えない」ということになってしまう。そういった意味で、日本市場のハードルは高い。

――法人向けのビジネスは?

 世界市場では展開しているサーバービジネスも、日本ではこれから。3月6日には、個人向けのホームサーバー「Aspire easyStore H340」を発売した。あるカメラ系量販店では発売直後の週末に、用意した50台が売り切れ、驚いている。1TBと3TBのモデルがあるが、高画素数のカメラのユーザーなどに支持されているようだ。

 このホームサーバーも1つの足がかりにしながら、09年は法人需要を拡大していきたい。日本での法人向けビジネスは08年4月から展開をはじめたばかりだが、早速官庁、地方自治体教育関係での実績を挙げている。例えば高知県の県庁からの1800台クラスの受注があったのをはじめ、金沢医大や飯能市役所などからも注文を受けている。地域の販社などと協業し、保守も含めたサービスを展開しながら、こうした法人ビジネスを拡大していく。

 IT投資が先延ばしされたり、見直しされたりという機運が高まっている中、クラウドコンピューティング、SaaSのような用途は逆に広がっている。それによって、端末としてのネットブックの重要性は高まってくるものと見ている。法人需要にもネットブックは使われていくことになるだろう。

――今後の目標は?

 日本エイサーでは、2011年までに日本市場でTOP5入りすることを目指している。08年はネットブックのウエイトが高かったが、09年は他のA4ノートもなど伸ばしていく。また、去年は8-9割がコンシューマーだったが、法人ビジネスにも一層力を入れていきたい。製品の方向性に関しては、4月中旬に発表する下半期の新製品を見ていただければ、お分かりいただけるだろう。


 acerブランドの認知度は、日経が07年9月に調査した時点では17%だった。しかし08年11月に行った自社調査では40%まで拡大している。販売店の反応も良くなってきた。今後もエイサーならではという製品を提供していき、09年の日本市場で売上倍増を達成していきたい。(BCN・道越一郎)