販売不振は止められるか 携帯メーカー08年冬商戦の戦略は?
割賦による新販売制度の導入や景気減速で販売が低迷する携帯電話市場。08年冬商戦で国内の携帯電話メーカーは新機能を搭載した端末や人気機種にさらに磨きをかけたモデルをアピールすることで、冷え込む市場を活性化したい考えだ。大手端末メーカー3社の動向をまとめた。
「ケータイ不況で(他社の勢いが鈍化しており)、NECにとっては(シェア拡大の)チャンス到来だと思っている」。11月10日に開催した08年の冬商戦モデル説明会で、NECの山崎耕司・執行役員は力を込めてこう述べた。
NECはNTTドコモ向け端末でトップシェア獲得を目標に、「最新機能」と「デザイン」で攻勢をかける。「最新機能」ではタッチパネル端末「N-01A」を開発。「N-01A」は、縦・横表示と、タッチパネル操作の3通りに画面を変えることができる携帯電話だ。「デザイン」では厚さ12.9mmの薄型端末「N-02A」を供給する。
ブランドとのコラボレーションモデルの拡充も図る。冬モデルでは有名パティシエのピエール・エルメ氏が監修した端末「N-03A」、デザイン家電ブランド「amadana(アマダナ)」とのコラボした第2弾のスライドモデル「N-04A」を揃えた。小島立・モバイルターミナル事業本部副本部長は「今回の4機種でドコモでの端末シェアトップをとる。それができれば利益が出る」と説明する。
パナソニックの薄型テレビ「VIERA(ビエラ)」を冠したワンセグ対応端末「VIERA ケータイ」が、「08年上期では2位のシェア17%で好調」(石井圭介・取締役商品企画担当)というパナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)は、同端末をバリエーション展開することでシェア1位を狙う。
冬モデルでは操作性とワンセグ、カメラ機能を向上させた「P-01A」(NTTドコモ向け)、厚さ14.7mmで人気キャラクター、スヌーピーとコラボした薄型モデル「P-03A」(同)、スライド式を初めて採用した「P-02A」(同)をラインアップした。
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「P-01A」は縦に端末を開いた場合にはキーが縦に表示、横に開いた場合には横に表示する「2WAYキー」を採用し使い勝手を追求。ワンセグ機能では6000:1の高コントラスト機能を搭載した。有効画素数が約510万のカメラはISO1600相当の高感度撮影ができる。
「P-02A」は、液晶ディスプレイ部が顔の形に添うように斜めにスライドする。そのため、端末が顔に密着し通話がしやすいという。携帯電話事業から撤退した三菱電機から許諾を受けたダイヤル式コントローラーを搭載しており、メニューなどの操作がスムーズに行えるようにした。
そのほか、au(KDDI)向けに厚さ12.9mmの端末「W62P」、ソフトバンクモバイル向けには壁紙設定や新着メール表示などがワンタッチで可能な使い勝手を高めた「830P」も投入する。PMCでは供給先の携帯電話会社を広げることで、「08年中は無理だが、来年、再来年にはトップシェアを獲得したい」(石井取締役)考えだ。
「08年上期の国内携帯電話出荷台数も23.2%でトップ。引き続きナンバーワンを目指す」――シャープの松本雅史副社長は11月19日に開催した08年冬モデル説明会で、こう宣言。シャープでは08年冬モデルで「元気なケータイ!」をスローガンに掲げ、「大画面・高精細液晶」「タッチパネル」「カメラ機能の強化」をポイントに挙げた。
最も注力したのが「カメラ機能の強化」。「今のユーザーはケータイとデジカメの両方を持ち歩いている。ケータイのカメラに必ずしも満足していない」(長谷川祥典・執行役員通信システム事業本部長)という理由からだ。
同社ではカメラ機能の強化に向け、有効800万画素のCCDを開発。新型CCDは暗い場所でも高い色再現性を確保できる高感度撮影が可能。動く被写体を撮影した場合も画像のゆがみを抑える。
同時に、肌色をきれいに再現したり、暗い画像のノイズを抑える画像処理回路「ProPix(プロピックス)」も開発した。新型CCDと組み合わせることで、「デジタルカメラと同等の画質を実現した」と、長谷川執行役員は胸を張る。
新しいCCDと画像処理回路は「AQUOS(アクオス)ケータイ SH-01A」(NTTドコモ向け)、「SH-03A」(同)、「930SH」(ソフトバンクモバイル向け)に採用した。
シャープは2000年に業界初のカメラ付き携帯電話「J-SH04」をJ-フォン(現ソフトバンク)に供給。「カメラ付きケータイの進化を牽引してきた」(長谷川執行役員)という自負がある。ここ最近の競争ポイントだったワンセグ機能が一巡するなか、「カメラ機能という原点回帰を図る」(長谷川執行役員)ことで、トップシェアの維持を図る。「ライバルはコンパクトデジタルカメラ。携帯電話ではない」と、長谷川執行役員は強調する。
「今年はデジカメケータイ元年。今回のモデルで今までにないカメラ付きケータイを発売し、デジカメいらずの時代がきた。販売料金施策などで市場が大幅に縮小している状況だが、(新製品で)市場を活性化させていく」と、松本副社長は強調する。
「大画面・高精細液晶」では画面サイズが3.5インチの「W64SH」(au向け)など3機種、「タッチパネル」では「AQUOSケータイ FULLTOUCH(フルタッチ) 931SH」(ソフトバンク向け)など3機種を用意。冬モデルでは8機種33バリエーションをラインアップした。「08年は25%以上のシェアを獲得する」と、松本副社長は意気込む。
シェア拡大に向け意欲をみせる携帯メーカー各社だが、新販売制度に景気低迷が加わり、国内の市場環境は厳しさを増している。「上期では販売台数が前年と比べて20%も減っている」と、PMCの石井取締役は話す。シャープの松本副社長は「07年度は5000万台の需要があり、08年度も4000万台はあると思っていたが、実際は3800万台まで下がる」と予測する。
国内の携帯電話契約数は1億を超え市場は飽和状態。そんななか、メーカー各社は端末開発・生産コストを削減し利益確保を目指す一方、海外市場の攻略を今後の成長戦略に見据える。
シャープは中国市場の開拓に本格的に乗り出した。08年6月に第1弾モデル「AQUOSケータイ SH9010C」を発売。第2弾の「SH8010C」を9月に投入し、第3弾の「SH9020C」も近日中に発売する。第1弾モデルは「4000元(約5万6000円)以上の携帯電話では、中国市場でも上位に食い込む売れ行き」(松本副社長)だという。
また、欧州ではスマートフォンを販売する予定だ。シャープでは08年の携帯電話販売で1170万台を計画しており、そのうち約20%にあたる200万台を海外で売る方針。松本副社長は「ゆくゆくは国内・海外の販売比率を50%ずつにしたい」と話す。
PMCも「2010年度以降を見据えて海外展開を考えている」(石井取締役)という。NECは「考えていないわけではないが、まずは国内でトップシェアをとって足場を固める」(小島副本部長)考えだ。
ただ、海外市場に打って出るにしても、国内市場で安定したシェアを確保できなければ足元が揺らぎかねない。不況で家計の生活防衛に拍車がかかってきており、売れる・売れない端末で明暗の差が鮮明になりそうだ。
携帯電話市場は「BCNランキング」でみると現在、国内メーカーは10社が参入。しかし、今春には三菱電機が携帯事業から撤退するなど、業界再編が進む。「今後は3-4社になる」(石井取締役)との見方もある。
海外メーカーも見切りをつけ始めた。ノキアはドコモ、ソフトバンク向け端末の供給を打ち切ると発表。ソニー・エリクソンもドコモへの供給を休止した。縮小する国内市場で、果たして消費者の需要は喚起できるのか。08年のケータイ冬商戦ではメーカーの生き残りをかけた戦いが激しさを増しそうだ。(BCN・米山淳)
「タッチパネル」「ブランドコラボ」で攻勢をかけるNEC
「ケータイ不況で(他社の勢いが鈍化しており)、NECにとっては(シェア拡大の)チャンス到来だと思っている」。11月10日に開催した08年の冬商戦モデル説明会で、NECの山崎耕司・執行役員は力を込めてこう述べた。
NECの08年冬モデル。タッチパネルや
有名パティシエとのコラボ端末など4機種を投入する
有名パティシエとのコラボ端末など4機種を投入する
NECはNTTドコモ向け端末でトップシェア獲得を目標に、「最新機能」と「デザイン」で攻勢をかける。「最新機能」ではタッチパネル端末「N-01A」を開発。「N-01A」は、縦・横表示と、タッチパネル操作の3通りに画面を変えることができる携帯電話だ。「デザイン」では厚さ12.9mmの薄型端末「N-02A」を供給する。
画面を3通りに変えることができるNTTドコモ向けのタッチパネル端末「N-01A」
ブランドとのコラボレーションモデルの拡充も図る。冬モデルでは有名パティシエのピエール・エルメ氏が監修した端末「N-03A」、デザイン家電ブランド「amadana(アマダナ)」とのコラボした第2弾のスライドモデル「N-04A」を揃えた。小島立・モバイルターミナル事業本部副本部長は「今回の4機種でドコモでの端末シェアトップをとる。それができれば利益が出る」と説明する。
俳優の玉木宏さんと、モデルの橋本麗香さんを
CMキャラクターに起用し端末をPRする
CMキャラクターに起用し端末をPRする
「VIERA ケータイ」のバリエーション展開を図るパナソニック
パナソニックの薄型テレビ「VIERA(ビエラ)」を冠したワンセグ対応端末「VIERA ケータイ」が、「08年上期では2位のシェア17%で好調」(石井圭介・取締役商品企画担当)というパナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)は、同端末をバリエーション展開することでシェア1位を狙う。
PMCは08年上期に販売が好調だった「VIERA ケータイ」の
バリエーションを展開することで端末メーカーシェアトップを狙う
バリエーションを展開することで端末メーカーシェアトップを狙う
冬モデルでは操作性とワンセグ、カメラ機能を向上させた「P-01A」(NTTドコモ向け)、厚さ14.7mmで人気キャラクター、スヌーピーとコラボした薄型モデル「P-03A」(同)、スライド式を初めて採用した「P-02A」(同)をラインアップした。
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「P-01A」は縦に端末を開いた場合にはキーが縦に表示、横に開いた場合には横に表示する「2WAYキー」を採用し使い勝手を追求。ワンセグ機能では6000:1の高コントラスト機能を搭載した。有効画素数が約510万のカメラはISO1600相当の高感度撮影ができる。
縦・横の端末の開き方にあわせてキーの表示が変わる「2WAYキー」や
ワンセグの高画質機能などを備えた「P-01A」(NTTドコモ向け)
ワンセグの高画質機能などを備えた「P-01A」(NTTドコモ向け)
「P-02A」は、液晶ディスプレイ部が顔の形に添うように斜めにスライドする。そのため、端末が顔に密着し通話がしやすいという。携帯電話事業から撤退した三菱電機から許諾を受けたダイヤル式コントローラーを搭載しており、メニューなどの操作がスムーズに行えるようにした。
ダイヤル式コントローラーを搭載したスライドタイプの
VIERA ケータイ「P-02A」(NTTドコモ向け)。
液晶ディスプレイ部は顔の形に添うように斜めにスライドする(写真右)
VIERA ケータイ「P-02A」(NTTドコモ向け)。
液晶ディスプレイ部は顔の形に添うように斜めにスライドする(写真右)
そのほか、au(KDDI)向けに厚さ12.9mmの端末「W62P」、ソフトバンクモバイル向けには壁紙設定や新着メール表示などがワンタッチで可能な使い勝手を高めた「830P」も投入する。PMCでは供給先の携帯電話会社を広げることで、「08年中は無理だが、来年、再来年にはトップシェアを獲得したい」(石井取締役)考えだ。
“原点回帰”でカメラ機能の向上に注力したシャープ
「08年上期の国内携帯電話出荷台数も23.2%でトップ。引き続きナンバーワンを目指す」――シャープの松本雅史副社長は11月19日に開催した08年冬モデル説明会で、こう宣言。シャープでは08年冬モデルで「元気なケータイ!」をスローガンに掲げ、「大画面・高精細液晶」「タッチパネル」「カメラ機能の強化」をポイントに挙げた。
シャープは08年冬モデルではカメラ機能を強化した端末に注力した。
シャープが開発した800万画素CDDとAF機能を搭載した携帯電話用カメラモジュール。 |
最も注力したのが「カメラ機能の強化」。「今のユーザーはケータイとデジカメの両方を持ち歩いている。ケータイのカメラに必ずしも満足していない」(長谷川祥典・執行役員通信システム事業本部長)という理由からだ。
同社ではカメラ機能の強化に向け、有効800万画素のCCDを開発。新型CCDは暗い場所でも高い色再現性を確保できる高感度撮影が可能。動く被写体を撮影した場合も画像のゆがみを抑える。
同時に、肌色をきれいに再現したり、暗い画像のノイズを抑える画像処理回路「ProPix(プロピックス)」も開発した。新型CCDと組み合わせることで、「デジタルカメラと同等の画質を実現した」と、長谷川執行役員は胸を張る。
新しいCCDと画像処理回路は「AQUOS(アクオス)ケータイ SH-01A」(NTTドコモ向け)、「SH-03A」(同)、「930SH」(ソフトバンクモバイル向け)に採用した。
800万画素カメラを搭載したNTTドコモ、ソフトバンクモバイルの端末。
左から「SH-03A」(カメラ側・背面の2機種、NTTドコモ向け)、
「SH-01A」(NTTドコモ向け)、「930SH」(ソフトバンク向け)。
一番右はau(KDDI)向け端末「W64SH」。カメラはCMOSセンサーで画素数は520万
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「SH-01A」(NTTドコモ向け)、「930SH」(ソフトバンク向け)。
一番右はau(KDDI)向け端末「W64SH」。カメラはCMOSセンサーで画素数は520万
シャープは2000年に業界初のカメラ付き携帯電話「J-SH04」をJ-フォン(現ソフトバンク)に供給。「カメラ付きケータイの進化を牽引してきた」(長谷川執行役員)という自負がある。ここ最近の競争ポイントだったワンセグ機能が一巡するなか、「カメラ機能という原点回帰を図る」(長谷川執行役員)ことで、トップシェアの維持を図る。「ライバルはコンパクトデジタルカメラ。携帯電話ではない」と、長谷川執行役員は強調する。
暗い場所にある花を新型CCDの搭載端末で撮影した写真(左)と
従来の端末で撮影した写真の比較
従来の端末で撮影した写真の比較
「今年はデジカメケータイ元年。今回のモデルで今までにないカメラ付きケータイを発売し、デジカメいらずの時代がきた。販売料金施策などで市場が大幅に縮小している状況だが、(新製品で)市場を活性化させていく」と、松本副社長は強調する。
新型CCDは、暗い場所でも人物などを鮮やかに撮影できる
高感度撮影機能も備える
高感度撮影機能も備える
「大画面・高精細液晶」では画面サイズが3.5インチの「W64SH」(au向け)など3機種、「タッチパネル」では「AQUOSケータイ FULLTOUCH(フルタッチ) 931SH」(ソフトバンク向け)など3機種を用意。冬モデルでは8機種33バリエーションをラインアップした。「08年は25%以上のシェアを獲得する」と、松本副社長は意気込む。
ソフトバンク向けのタッチパネル端末「AQUOSケータイ FULLTOUCH 931SH」
不振が続く国内市場、メーカーは海外に活路を求める
シェア拡大に向け意欲をみせる携帯メーカー各社だが、新販売制度に景気低迷が加わり、国内の市場環境は厳しさを増している。「上期では販売台数が前年と比べて20%も減っている」と、PMCの石井取締役は話す。シャープの松本副社長は「07年度は5000万台の需要があり、08年度も4000万台はあると思っていたが、実際は3800万台まで下がる」と予測する。
国内の携帯電話契約数は1億を超え市場は飽和状態。そんななか、メーカー各社は端末開発・生産コストを削減し利益確保を目指す一方、海外市場の攻略を今後の成長戦略に見据える。
シャープは中国市場の開拓に本格的に乗り出した。08年6月に第1弾モデル「AQUOSケータイ SH9010C」を発売。第2弾の「SH8010C」を9月に投入し、第3弾の「SH9020C」も近日中に発売する。第1弾モデルは「4000元(約5万6000円)以上の携帯電話では、中国市場でも上位に食い込む売れ行き」(松本副社長)だという。
また、欧州ではスマートフォンを販売する予定だ。シャープでは08年の携帯電話販売で1170万台を計画しており、そのうち約20%にあたる200万台を海外で売る方針。松本副社長は「ゆくゆくは国内・海外の販売比率を50%ずつにしたい」と話す。
PMCも「2010年度以降を見据えて海外展開を考えている」(石井取締役)という。NECは「考えていないわけではないが、まずは国内でトップシェアをとって足場を固める」(小島副本部長)考えだ。
ただ、海外市場に打って出るにしても、国内市場で安定したシェアを確保できなければ足元が揺らぎかねない。不況で家計の生活防衛に拍車がかかってきており、売れる・売れない端末で明暗の差が鮮明になりそうだ。
携帯電話市場は「BCNランキング」でみると現在、国内メーカーは10社が参入。しかし、今春には三菱電機が携帯事業から撤退するなど、業界再編が進む。「今後は3-4社になる」(石井取締役)との見方もある。
海外メーカーも見切りをつけ始めた。ノキアはドコモ、ソフトバンク向け端末の供給を打ち切ると発表。ソニー・エリクソンもドコモへの供給を休止した。縮小する国内市場で、果たして消費者の需要は喚起できるのか。08年のケータイ冬商戦ではメーカーの生き残りをかけた戦いが激しさを増しそうだ。(BCN・米山淳)