ダントツの省エネ液晶テレビ「BRAVIA JE1」開発秘話

インタビュー

2008/08/25 19:40

 世界的に環境保護の気運が高まり、家電メーカー各社も環境対策に力を入れている。そんななか、ソニーは業界No.1という低消費電力の液晶テレビ「BRAVIA(ブラビア) KDL-32JE1(JE1)」を7月に発売した。「省エネNo.1」をうたう「JE1」は、どんな狙いで開発されたのか。担当者を取材した。


●省エネNo.1の液晶テレビを他社よりも早く出すことを目指す

 「KDL-32JE1」は、画素数が水平1366×垂直768で、画面サイズが32V型の液晶テレビ。光沢塗装の高級感あるデザインで、シルバーとシャンパンゴールドのカラーバリエーションで展開する。

 最大の特長は圧倒的な省エネ性能だ。年間消費電力量は86kWh/年。05年に発売したBRAVIA1号機の32V型モデルよりも年間消費電力を半分以下にまで減らした。消費電力は150Wから89Wまで削減。。省エネ基準達成率も232%を達成している。

 「省エネ基準達成率」とは省エネ法に定められた目標基準値に対する達成率を表す数値のこと。32V型の液晶テレビの場合、年間消費電力量が200kWh/年が100%に相当する。86kWh/年のJE1は業界初の200%を超えた液晶テレビだという。

 ソニーではCO2削減に積極的に取り組んでいる。同社はWWF(世界自然保護基金)の温暖化対策プログラム「クライメート・セイバーズ・プログラム」に参加し、今年2月にはハワード・ストリンガー会長が温室効果ガス削減を宣言。手がける製品では最もCO2排出量が多い、液晶テレビで対応に乗り出した。

 こうした取り組みを受け、「ダントツの低消費電力の液晶テレビを業界で先駆けて出したかった」と、商品企画を担当したテレビ事業本部商品企画部の長原絵美さんはJE1開発の狙いを話す。

 一般に消費者がテレビの購入理由で環境対応を選ぶ重要度は決して高くはないといわれている。しかし、長原さんは消費者の環境意識は高まっており、省エネモデルのニーズはあると感じていたという。

 「『エコ』や『環境』という言葉は今、買物の軸になっています。特に女性はその意識が高い。白物家電では低消費電力の省エネ製品を当たり前のように選んでいます。家電の購入で家族の中で一番反映されるのは主婦などの女性の意見。だから、これからAV機器も白物家電のような省エネ性能が必ず求められてくると思った」と、長原さんは説明する。

 JE1は7月の発売を目指し、3月から企画がスタートした。約4か月という短期間で商品化が進められたのは「環境がテーマの洞爺湖サミットが開催されて、世間の関心が高まる時期に何としても間に合わせたい」(長原さん)という考えがあったからだ。

 製品は32V型モデルから着手した。「リビング、寝室や子供部屋といったセカンドユースにも対応できて、市場のボリュームが大きい」(長原さん)ことが理由だ。

●圧倒的な省エネ性能の裏に商品化を目指した技術者の想いあり

 JE1は3つの新技術を導入して高い省エネを実現した。1つは発光効率が高い蛍光管の採用。1本あたりの蛍光管を効率よく光るようにして、バックライトに使う本数を減らした。


 2つめは供給電圧の削減。低い電圧でも蛍光管が十分に光るようにした。3つめは透過率が高い光学フィルムの使用で、光のロスを少なくした。これらの技術を使うことで省エネだが従来機種と変わらない画質を確保したという。

 実は、3つの技術は07年秋には開発済みだった。そのため、JE1は短期間で製品化ができた。しかし、省エネ技術は開発当初、「それを生かす商品企画がなかった」と、井原優・テレビ事業本部品質保証部門社会環境室環境マネージャーは説明する。

 「開発した技術を何とかして商品化したかった。そこで技術者と内容をまとめて、経営陣にアピールした」と、井原マネージャーは振り返る。その訴えは社内の環境保護の取り組みも追い風となり、結果、役員からゴーサインをもらうことができた。

 しかし、その時点ではまだ具体的な企画はなく、技術を生かせる製 品を求めていた。一方、商品企画では長原さんが省エネ液晶テレビのアイデアを温めており、技術に打診したことで、JE1の企画と結び付いた。
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●部品の70%がリサイクル材、可能にしたのはブラウン管時代からの取り組み

 環境対策では、資源の有効活用も重要だ。JE1では「リサイクル材を積極的に利用した省資源化」(井原マネージャー)にも取り組んだ。リサイクル材を使うことは、新材の使用を抑えると同時に、製造時のCO2が削減できるからだ。

 リサイクル材は業者から購入するのが一般的だ。しかし、ソニーでは自社製テレビの部品や製造時の廃材を再生し、リサイクル材として使う「自社循環」を特に重視している。ソニーによると、自社循環のリサイクル材は、コストダウンはもちろん、製品生産時のCO2を40%も削減できるという。

 JE1はソニーのブラウン管テレビのプラスチック部品やテレビの製造過程で発生する発泡スチロール廃材を再生したプラスチックを部品に利用。前面のベゼル(額)やリアカバーなど本体のプラスチック部品の70%にリサイクル材を使っている。


 リサイクル材の導入では、廃棄テレビの回収と再生材の確保が課題だ。テレビの回収では家電リサイクル法の施行で、指定のリサイクル工場にソニーの製品が集められることになったことで、「安定した調達が可能になった」(井原マネージャー)という。

 一方、再生材の確保では、回収したテレビの材料が再生可能か判別できることが問題になる。実はソニーでは90年代初めからブラウン管テレビの本体に材料や難燃材の種類を表示する取り組みに着手。テレビの背面を見れば再生可能かが一目で分かるようにした。そのため、「リサイクル工程で回収した部品の材料選別と再生が容易にできる」(井原マネージャー)という。


 ソニーではリサイクルを考えたブラウン管テレビの回収が01年から本格化。07年12月に発泡スチロールの再生と合わせた自社循環の仕組みを業界で初めて確立できたことで、08年の春に発売したBRAVIAのF1、V1、J1シリーズから一部部品で使用を始めた。

 JE1では、その利用をさらに拡大。液晶テレビの光学フィルム製造で発生する廃材を再生した部品も使用した。ソニーでは光学フィルム廃材を再利用する自社循環の仕組みを新たに構築。そのリサイクル材を採用した。


 「自分たちの製品をリサイクルする自社循環は、各社がやりたいと思っているが、材料の判別などの問題があって、なかなかできない。ソニーでは10年以上前から環境配慮に取り組んできたからこそ実現できた。これからも積極的に推進していきたい」と、井原マネージャーは胸を張る。

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●発売後は「エコ」や「環境」を意識した主婦や20代の女性から支持

 画質や機能がセールスポイントになる液晶テレビでは、JE1の持つ低消費電力といった特長は、ユーザーにわかりにくいのも事実だ。販売を担当するソニーマーケティング ディスプレイマーケティング部ディスプレイMK課の森山友嵩氏は「いい製品だとは思ったが、『省エネNo.1』という点をどう訴求していくかとまどった」と話す。

 そこで、「省エネNo.1」をキャッチフレーズに消費電力の低さなどの数値を示すシールをJE1本体に貼るほか、店頭では同様の数値を大きく示したPOP(店頭広告)などで消費者にアピールするようにした。一方で、「消費者に受け入れてもらえるかどうか、発売前は不安だった」と、森山氏は打ち明ける。

 しかし、それも取り越し苦労に終わった。発売後は予想通り、電気代に敏感な主婦や環境に関心を持った20代の女性が購入した。「思っていたよりも好調な滑り出しで、環境に配慮している人が多いことがあらためてわかった」と、森山氏は胸をなでおろす。家電量販店が環境保護に取り組んでおり、省エネ製品を積極的に販売していることや、昨今の原油高も追い風になった。

 森山氏は「液晶テレビはフルハイビジョンや倍速表示などの付加価値で単価アップを図ってきたが、それでも価格下落が激しい。そのなかで『環境対応』は新たな付加価値になる」と、意気込む。

 今後の展開については、「32V型よりも大きい画面サイズの開発も検討しています。環境対策が進んでいるEU(欧州連合)など、世界的にもJE1シリーズを展開していきたい」と、長原さんは話す。

 薄型テレビは「高画質」や「機能」を競ってきた。そのなかで「省エネ」「省資源」を前面に出したJE1の登場は「環境配慮」という、新たな競争のポイントを生み出すことになるかもしれない。(BCN・米山淳)