電子ペーパー本格普及へ秒読み、各社の取り組みは?
表示中に電力が不要で、薄く丸めることもできて紙のように視認性が高い夢の表示装置、電子ペーパー。4月中旬に東京ビックサイトで開催されたディスプレイの国際展「Display 2008」でも、特別展示コーナーを設けるなど賑わいをみせた。本格的な実用化を目前にした電子ペーパーの今をまとめた。
●紙に代わる新たな表示媒体
電子ペーパーとは、紙の長所も持ち合わせる携帯型ディスプレイのこと。書き換え時に微力の電力を使うだけで表示中の電力不要。半永久的に表示を維持できる。その上コントラストが高く、文字の読みやすさも紙と同程度。丸めることもできる。このような特性をもつ電子ペーパーは、まるで紙のように使える全く新しい表示装置として注目を集めている。
最近では、米amazonが発売した電子ブック「Kindle」(キンドル)のディスプレイ部分に採用されたり、JR恵比寿駅の改札機に広告パネルとして実験的に使われるなど実用化が進んでいる。自発光式ではないので暗いところでは読みづらいという紙と同じようなデメリットもあるが、市場規模は現在100億円程度。2012年には、500億円を超える規模に拡大すると見られている。
電子ペーパーがここにきて注目を集めている背景には、環境問題に対する関心の高まりもある。紙の代わりに使うことで、紙の消費を押さえ、森林の保全やインクの使用量の削減、焼却によるCO2の排出抑制など、環境負荷を軽減できるのではないかと見られている。またディスプレイとして利用すれば、大幅に消費電力を抑えることができる。7月に開催される洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策をはじめとする環境問題も主要なテーマ。環境にやさしい電子ペーパーも実用化に向けた動きが活発化しそうだ。
●3社3様の電子ペーパー技術、フルカラー表示が可能なものも
「Display 2008」では、米イー・インク、富士通/富士通フロンテック、ブリヂストンの3社が電子ペーパーに関する展示を行っていた。この3社は、各社違う技術を使って電子ペーパーを実現している。
米イー・インクは、「マイクロカプセル型電気泳動方式」と呼ばれる表示方式を採用。マイクロカプセルの中にある、白と黒の粒子に電圧を掛け、粒子を移動させて表示を制御する。紙と同じく反射型の表示で、視野角はほぼ180度。新聞紙よりコントラストが高く読みやすいうえ、暗い室内から直射日光の室外まで、さまざまな明るさの環境で高い視認性を維持できる。テキスト表示とモノクロ画像に強いのが特徴だ。
同社の電子ペーパーを使った製品も既に販売されている。例えば電子ブックでは、米amazon「Kindle」、ソニー「LIBRIe」(リブリエ)などに同社のパネルが採用されている。また4月に日立が発売したau向け携帯電話「W61H」のサブディスプレイも同社の電子ペーパーだ。このほか海外では、ポイントカードのカード台や腕時計、携帯電話用パネルなどで実際に使われている。
一方、富士通と富士通フロンテックは、特定の波長(光)のみを反射する「コレステリック液晶」と呼ばれる技術を電子ペーパー技術として採用。液晶に入った光のうち、赤色、緑色、青色など、特定の色のみ反射できる特性を利用して、フルカラー表示も可能にする。同社は無線・有線LAN機能を内蔵した電子ペーパーパネルや曲面にも設置可能な曲面カラー電子ペーパーなども開発。実用化も進めており、07年4月には、12型電子ペーパーパネルとWindows CE5.0を搭載した情報端末「FLEpia」の企業向けサンプル販売を始めている。
___page___
ブリヂストンは、タイヤメーカーとして培った材料設計やナノテクノロジーを駆使して、粒子と液体の中間的特性を兼ね備える「電子粉流体」と呼ばれる物質を開発。この技術を使った電子ペーパー「QR-LPD(Quick-Responce Liquid Powder Display)」を開発している。「QR-LPD」は、超低消費電力ながら紙に匹敵する圧倒的な視認性を備えているのが特徴。パネルサイズもフルカラーでA7-A3までと幅広い。「Display 2008」会場では、A3サイズの電子ペーパーを2枚使った新聞配信の実証実験を披露していた。
●電子ブックの次は「電子ノート」
現在、電子ペーパーは棚札やPOP広告など比較的小さいサイズでの使用が中心で、大型スーパーなどで試験的に利用されている。大型化に関しては、コストと用途の関係であまり進んでいないというものの、電子新聞など、A4-A3サイズ程度の文字メディアとしての利用に関心が高い。業界としても、液晶ディスプレイの代替よりも紙に代わる技術として捉えているようだ。
そんななか、米イー・インクはエプソンと共同で、電子ペーパーに専用ペンで書き込んだり、消したりすることができる技術を開発。今まで表示することしかできなかった電子ペーパーに、書き込んだり消したり修正したりという機能が追加されることで、電子教科書や電子ノートなどへの応用も見えてきた。
新たな技術も加わり、目前に迫ってきた電子ペーパーの実用化。米イー・インクは、他社との共同開発を積極的に進め、実際に製品として使ってもらいながら電子パーペーの本格的な実用化を目指している。一方、富士通やブリヂストンなど日本企業は、製品化は「需要との相談」と慎重。温度差は大きい。
電子ペーパーは、上記2社以外にも多くの日本企業が研究・開発を進めている。そのレベルは、日本が世界に誇れる技術のひとつといえるほど高い。しかし、実用化への思い切りは各社今ひとつ。このまま実証実験レベルにとどまっていては、市場はなかなか盛り上がらないだろう。
電子ペーパーは、真の意味での「電子ブック」「電子ノート」を可能にする夢の技術。特にモバイル機器への応用には期待が高い。環境にもやさしいディバイスだ。経済産業省が07年12月開いた「グリーンITニシアティブ会議」では、ITの省エネとITを活用した省エネを進めるよう提言している。さらに今年は洞爺湖サミットもひかえている。環境問題に関心が高まることは電子ペーパーの実用化にとって追い風だ。日本の各企業も、そろそろ電子ペーパー製品を市場に投入し、本格的な普及を目指す時期に来ているといえるだろう。(BCN・津江昭宏)
●紙に代わる新たな表示媒体
電子ペーパーとは、紙の長所も持ち合わせる携帯型ディスプレイのこと。書き換え時に微力の電力を使うだけで表示中の電力不要。半永久的に表示を維持できる。その上コントラストが高く、文字の読みやすさも紙と同程度。丸めることもできる。このような特性をもつ電子ペーパーは、まるで紙のように使える全く新しい表示装置として注目を集めている。
最近では、米amazonが発売した電子ブック「Kindle」(キンドル)のディスプレイ部分に採用されたり、JR恵比寿駅の改札機に広告パネルとして実験的に使われるなど実用化が進んでいる。自発光式ではないので暗いところでは読みづらいという紙と同じようなデメリットもあるが、市場規模は現在100億円程度。2012年には、500億円を超える規模に拡大すると見られている。
電子ペーパーがここにきて注目を集めている背景には、環境問題に対する関心の高まりもある。紙の代わりに使うことで、紙の消費を押さえ、森林の保全やインクの使用量の削減、焼却によるCO2の排出抑制など、環境負荷を軽減できるのではないかと見られている。またディスプレイとして利用すれば、大幅に消費電力を抑えることができる。7月に開催される洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策をはじめとする環境問題も主要なテーマ。環境にやさしい電子ペーパーも実用化に向けた動きが活発化しそうだ。
●3社3様の電子ペーパー技術、フルカラー表示が可能なものも
「Display 2008」では、米イー・インク、富士通/富士通フロンテック、ブリヂストンの3社が電子ペーパーに関する展示を行っていた。この3社は、各社違う技術を使って電子ペーパーを実現している。
米イー・インクは、「マイクロカプセル型電気泳動方式」と呼ばれる表示方式を採用。マイクロカプセルの中にある、白と黒の粒子に電圧を掛け、粒子を移動させて表示を制御する。紙と同じく反射型の表示で、視野角はほぼ180度。新聞紙よりコントラストが高く読みやすいうえ、暗い室内から直射日光の室外まで、さまざまな明るさの環境で高い視認性を維持できる。テキスト表示とモノクロ画像に強いのが特徴だ。
同社の電子ペーパーを使った製品も既に販売されている。例えば電子ブックでは、米amazon「Kindle」、ソニー「LIBRIe」(リブリエ)などに同社のパネルが採用されている。また4月に日立が発売したau向け携帯電話「W61H」のサブディスプレイも同社の電子ペーパーだ。このほか海外では、ポイントカードのカード台や腕時計、携帯電話用パネルなどで実際に使われている。
一方、富士通と富士通フロンテックは、特定の波長(光)のみを反射する「コレステリック液晶」と呼ばれる技術を電子ペーパー技術として採用。液晶に入った光のうち、赤色、緑色、青色など、特定の色のみ反射できる特性を利用して、フルカラー表示も可能にする。同社は無線・有線LAN機能を内蔵した電子ペーパーパネルや曲面にも設置可能な曲面カラー電子ペーパーなども開発。実用化も進めており、07年4月には、12型電子ペーパーパネルとWindows CE5.0を搭載した情報端末「FLEpia」の企業向けサンプル販売を始めている。
___page___
ブリヂストンは、タイヤメーカーとして培った材料設計やナノテクノロジーを駆使して、粒子と液体の中間的特性を兼ね備える「電子粉流体」と呼ばれる物質を開発。この技術を使った電子ペーパー「QR-LPD(Quick-Responce Liquid Powder Display)」を開発している。「QR-LPD」は、超低消費電力ながら紙に匹敵する圧倒的な視認性を備えているのが特徴。パネルサイズもフルカラーでA7-A3までと幅広い。「Display 2008」会場では、A3サイズの電子ペーパーを2枚使った新聞配信の実証実験を披露していた。
●電子ブックの次は「電子ノート」
現在、電子ペーパーは棚札やPOP広告など比較的小さいサイズでの使用が中心で、大型スーパーなどで試験的に利用されている。大型化に関しては、コストと用途の関係であまり進んでいないというものの、電子新聞など、A4-A3サイズ程度の文字メディアとしての利用に関心が高い。業界としても、液晶ディスプレイの代替よりも紙に代わる技術として捉えているようだ。
そんななか、米イー・インクはエプソンと共同で、電子ペーパーに専用ペンで書き込んだり、消したりすることができる技術を開発。今まで表示することしかできなかった電子ペーパーに、書き込んだり消したり修正したりという機能が追加されることで、電子教科書や電子ノートなどへの応用も見えてきた。
新たな技術も加わり、目前に迫ってきた電子ペーパーの実用化。米イー・インクは、他社との共同開発を積極的に進め、実際に製品として使ってもらいながら電子パーペーの本格的な実用化を目指している。一方、富士通やブリヂストンなど日本企業は、製品化は「需要との相談」と慎重。温度差は大きい。
電子ペーパーは、上記2社以外にも多くの日本企業が研究・開発を進めている。そのレベルは、日本が世界に誇れる技術のひとつといえるほど高い。しかし、実用化への思い切りは各社今ひとつ。このまま実証実験レベルにとどまっていては、市場はなかなか盛り上がらないだろう。
電子ペーパーは、真の意味での「電子ブック」「電子ノート」を可能にする夢の技術。特にモバイル機器への応用には期待が高い。環境にもやさしいディバイスだ。経済産業省が07年12月開いた「グリーンITニシアティブ会議」では、ITの省エネとITを活用した省エネを進めるよう提言している。さらに今年は洞爺湖サミットもひかえている。環境問題に関心が高まることは電子ペーパーの実用化にとって追い風だ。日本の各企業も、そろそろ電子ペーパー製品を市場に投入し、本格的な普及を目指す時期に来ているといえるだろう。(BCN・津江昭宏)