HDD「非搭載」BDレコでVHSユーザーを狙え、シャープのレコーダー戦術を探る
シャープは07年10月27日、録画用のHDDを搭載せず、ブルーレイディスク(BD)への記録のみが可能なレコーダー「BD-AV1」「BD-AV10」を発売した。BD記録だけでなくHDDを搭載したレコーダーを販売するソニーや松下電器産業には無いモデルだ。また08年2月18日にはHDDを搭載したBDレコーダーも発売。他社とは異なるラインアップを展開する同社のレコーダー戦略を取材した。
●HDDを搭載しないBDレコーダー、ターゲットはビデオデッキユーザー
「アナログの録画機からデジタルの録画機に変えるきっかけが足りない」――シャープの居石勘資・AVシステム事業本部 デジタルメディア営業部 参事は現状のレコーダー市場を分析する。ビデオデッキの世帯普及率は82.6%で約4000万世帯に普及していると同社は推計。その中でわずか7.4%、360万世帯(07年5月 総務省)にしか地上デジタル放送(地デジ)に対応したレコーダーは普及していない。
残りの3640万世帯は地デジに対応しないアナログレコーダーとビデオデッキのユーザーで、そのうち5割強がビデオデッキのユーザーだと同社は推定。このビデオユーザーを取り込むにはこれまでのハイビジョンレコーダーやBDレコーダーでは難しいと考えた。というのも「先端技術が盛り込まれたレコーダーは録画機を初めて購入する人にはとっつきにくい」(同)からで、ビデオデッキユーザーからの新規の購入にはつながらない。
「買い替えユーザーも大事だが、まずは21世紀のビデオとして提案できる商品を作ろうと思った」(同)。07年10月に発売したHDDを搭載しないBDレコーダー「BD-AV1/AV10」についてそのコンセプトを語る。従来のHDD搭載のレコーダーのようにテレビ番組を「録画する」という機能をHDDとBDの2通りに分けるのではなくBDに一本化した。さらに使用するディスクも繰り返し書き換えて使用できる「BD-RE」を採用することでビデオデッキと同じ「分かりやすさ」と「使いやすさ」を強調した。
しかしHDDを搭載せず、BD録画のみに対応することにも弱点がある。録画用BDの1枚あたりの単価が従来のDVDに比較するとまだ高いことだ。一度だけ書き込みができる「BD-R」は1枚あたり2層50GBタイプで実勢2000円前後、今回のシャープのレコーダーで使用する「BD-RE」は1層タイプでも1枚あたり1700円前後、2層のものでは4000?5000円前後にもなる。しかし、BDと対立していたHD DVDを主導していた東芝が撤退を表明して規格が一本化したことで、BDの製造量の増加が期待できる。さらに低コストでディスクが製造できる「有機色素」を使った製造技術が実用化されて製品が出始めていることから、徐々に価格が下がり始めるとと考えられる。
もう1つの弱点は、貯め録りをしておいて時間をずらして後から見るという「タイムシフト」用途のユーザーにはHDDがないのでは物足りないことだ。シャープはこのユーザーに対して、07年12月に容量1TBのHDDを搭載した「BD-HDW20」と500GBHDD搭載の「BD-HDW15」を発売することで取り込みを狙った。しかしここで思わぬ事態が起きる。
●HDD搭載レコーダーが年末商戦に間に合わず、シェア1桁台で苦戦
HDD搭載モデルの発売が予定より大きく遅れてしまったのだ。同社は10月末発売の「BD-AV1/AV10」に加えて、BDに対応したHDD搭載レコーダー2モデルを12月1日に発売するとしていた。しかし発売のわずか1週間前に12月8日に延期すると発表し、その後22日、さらに年明けの08年1月末と発売延期を繰り返した。しかし1月に入っても延期を行い、最終的に2月18日に発売になるまで合計4回もの延期を行った。この延期の理由を同社では「レコーダーソフトウェアの不具合の検証と全体の見直しのため」(シャープ広報)としている。
同社が年末商戦で描いていたレコーダー戦略は、他社がHDD搭載モデルをそろえる中で、唯一HDD搭載モデルだけでなくHDD非搭載で簡単操作のレコーダーをラインアップして従来のレコーダーからの買い替え層だけでなく、ビデオデッキユーザーをメインに狙ったものだった。しかし「BD-HDW15/20」の発売が遅れ、その結果、同社は年末商戦を「BD-AV1/AV10」のみで戦うことになった。
07年12月の次世代レコーダーの販売台数シェアで1位になったのは、シェア23.2%で容量320GBのHDDを搭載したソニーの「BDZ-T70」だった。3位は松下の250GBのHDDを搭載した「DMR-BW700」。シャープのBDレコーダーは2社よりも順位を落とし、シェア5.0%で7位に入ったHDD非搭載で2層50GBのBDに対応する「BD-AV10」が最高順位。1層25GBのBDに対応する「BD-AV1」はシェア2.9%で9位だった。
両モデルともなかなか上位に食い込めずにいたが、「ビデオデッキユーザーを狙ったBDレコーダーとして、発売スタート時の実績は十分だった。実際に狙いにぴったり合ったユーザーが購入していく」(居石氏)。ただ「ビデオデッキのユーザーはなかなかレコーダーの売り場に来ないので商品を目にする機会が少なく」(同)それほど大きなシェアは獲得できなかったのだという。
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「一番のきっかけになるのはテレビの買い替えを検討してAQUOSを買いに来た時」だといい、テレビとセットで購入するユーザーが多いという。今では当たり前のように店頭のテレビ売り場に一緒にレコーダーが展示されているが、この方式はシャープが始めたもの。液晶テレビとして認知度が高い「AQUOS」が同社のレコーダーの売り上げも牽引しているようだ。
また、「テレビと展示することで、テレビとレコーダーの動作が連携するファミリンクやリモコン機能を提案できる」(同)メリットがある。今回の「BD-AV1/AV10」はブラック系、シルバー系、ホワイト系、レッド系とカラー展開している。同じようにカラー展開している液晶テレビ「AQUOS Dシリーズ」と並べることで効果的な露出ができたという。
他社のHDD搭載レコーダーに比べるとシェアはまだ低いが、2011年にはアナログ放送が終了し、デジタル放送に切り替わるので「あと3年間でビデオデッキはどっちにしろ使えなくなる。その時に(ビデオデッキのような)使いやすさで、ある程度リーズナブルな価格の商品というのは十分に魅力があるはず。勝負はこれからだと思っている」と話す。
●BD以外のレコーダーも継続、目標はすべてのAQUOSにレコーダーをつけること
07年12月の次世代レコーダーの販売台数別メーカーシェアでソニーが61.1%、松下が23.7%で、シャープは10.1%と低迷した。しかし08年2月18日にHDD搭載BDレコーダーを発売してからは、2月第3週の週次で14.2%、最新の第4週(2月25?3月2日)でも14.4%と2週間連続で14%台をキープしている。
シャープはソニーのようにレコーダーの新製品をBDのみに一本化することはせず、「従来のDVDレコーダーとBDレコーダーの両方あわせてトップシェアをとっていく」(居石氏)方針。今後の販売目標については「基本的にレコーダー単品で戦っているという気はあまりない。目標はアクオスに100%つけること。他社と勝ち負けをつけるというよりアクオスを購入したユーザーに全員に届けたい」と語る。
また、今後検討する可能性がある機能・性能として、「小型化」に注目しているという。松下電器産業が子ども部屋などのセカンドルーム需要を狙い、奥行きを短くしてコンパクトにしたハイビジョンレコーダーを発表していることもあり、「小型化も機能の1つとしてはある。ビデオデッキなら1部屋に1台という可能性もあり、まずはリビング以外に入った小型のAQUOSにも合うような製品については検討する必要がある」(同)。
また松下やソニーが採用する映像記録方式「MPEG-4 AVC」についても「今後の選択肢の1つとして考えている」と述べた。この方式は高画質で容量も大きい地デジなどのハイビジョン放送を画質の劣化を抑えながら圧縮して長時間録画できる技術。シャープはこの方式を採用しておらず、そのため他社のような低容量なHDDを搭載したエントリーモデルがない。しかし「BDが普及する頃にはラインアップの拡張も重要になるのは間違いない」(同)ことから検討しているという。
他社にはないHDD「非搭載」で使いやすさをアピールするBDレコーダーでビデオデッキユーザーを取り込もうとするシャープ。さらにHDDを搭載したモデルもようやく発売にこぎつけたことでさらなるシェア拡大を狙う。現時点でBDレコーダーを製造しているメーカーはシャープ、ソニー、松下電器産業のわずか3社のみ。さらに東芝が主導するHD DVDが退場してBDに一本化されたことで次世代DVDレコーダー市場はBDレコーダー市場になった。今後いっそうの激戦が予想される。(BCN・岡本浩一)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など24社・2300を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで119品目を対象としています。
●HDDを搭載しないBDレコーダー、ターゲットはビデオデッキユーザー
「アナログの録画機からデジタルの録画機に変えるきっかけが足りない」――シャープの居石勘資・AVシステム事業本部 デジタルメディア営業部 参事は現状のレコーダー市場を分析する。ビデオデッキの世帯普及率は82.6%で約4000万世帯に普及していると同社は推計。その中でわずか7.4%、360万世帯(07年5月 総務省)にしか地上デジタル放送(地デジ)に対応したレコーダーは普及していない。
残りの3640万世帯は地デジに対応しないアナログレコーダーとビデオデッキのユーザーで、そのうち5割強がビデオデッキのユーザーだと同社は推定。このビデオユーザーを取り込むにはこれまでのハイビジョンレコーダーやBDレコーダーでは難しいと考えた。というのも「先端技術が盛り込まれたレコーダーは録画機を初めて購入する人にはとっつきにくい」(同)からで、ビデオデッキユーザーからの新規の購入にはつながらない。
「買い替えユーザーも大事だが、まずは21世紀のビデオとして提案できる商品を作ろうと思った」(同)。07年10月に発売したHDDを搭載しないBDレコーダー「BD-AV1/AV10」についてそのコンセプトを語る。従来のHDD搭載のレコーダーのようにテレビ番組を「録画する」という機能をHDDとBDの2通りに分けるのではなくBDに一本化した。さらに使用するディスクも繰り返し書き換えて使用できる「BD-RE」を採用することでビデオデッキと同じ「分かりやすさ」と「使いやすさ」を強調した。
しかしHDDを搭載せず、BD録画のみに対応することにも弱点がある。録画用BDの1枚あたりの単価が従来のDVDに比較するとまだ高いことだ。一度だけ書き込みができる「BD-R」は1枚あたり2層50GBタイプで実勢2000円前後、今回のシャープのレコーダーで使用する「BD-RE」は1層タイプでも1枚あたり1700円前後、2層のものでは4000?5000円前後にもなる。しかし、BDと対立していたHD DVDを主導していた東芝が撤退を表明して規格が一本化したことで、BDの製造量の増加が期待できる。さらに低コストでディスクが製造できる「有機色素」を使った製造技術が実用化されて製品が出始めていることから、徐々に価格が下がり始めるとと考えられる。
もう1つの弱点は、貯め録りをしておいて時間をずらして後から見るという「タイムシフト」用途のユーザーにはHDDがないのでは物足りないことだ。シャープはこのユーザーに対して、07年12月に容量1TBのHDDを搭載した「BD-HDW20」と500GBHDD搭載の「BD-HDW15」を発売することで取り込みを狙った。しかしここで思わぬ事態が起きる。
●HDD搭載レコーダーが年末商戦に間に合わず、シェア1桁台で苦戦
HDD搭載モデルの発売が予定より大きく遅れてしまったのだ。同社は10月末発売の「BD-AV1/AV10」に加えて、BDに対応したHDD搭載レコーダー2モデルを12月1日に発売するとしていた。しかし発売のわずか1週間前に12月8日に延期すると発表し、その後22日、さらに年明けの08年1月末と発売延期を繰り返した。しかし1月に入っても延期を行い、最終的に2月18日に発売になるまで合計4回もの延期を行った。この延期の理由を同社では「レコーダーソフトウェアの不具合の検証と全体の見直しのため」(シャープ広報)としている。
同社が年末商戦で描いていたレコーダー戦略は、他社がHDD搭載モデルをそろえる中で、唯一HDD搭載モデルだけでなくHDD非搭載で簡単操作のレコーダーをラインアップして従来のレコーダーからの買い替え層だけでなく、ビデオデッキユーザーをメインに狙ったものだった。しかし「BD-HDW15/20」の発売が遅れ、その結果、同社は年末商戦を「BD-AV1/AV10」のみで戦うことになった。
07年12月の次世代レコーダーの販売台数シェアで1位になったのは、シェア23.2%で容量320GBのHDDを搭載したソニーの「BDZ-T70」だった。3位は松下の250GBのHDDを搭載した「DMR-BW700」。シャープのBDレコーダーは2社よりも順位を落とし、シェア5.0%で7位に入ったHDD非搭載で2層50GBのBDに対応する「BD-AV10」が最高順位。1層25GBのBDに対応する「BD-AV1」はシェア2.9%で9位だった。
両モデルともなかなか上位に食い込めずにいたが、「ビデオデッキユーザーを狙ったBDレコーダーとして、発売スタート時の実績は十分だった。実際に狙いにぴったり合ったユーザーが購入していく」(居石氏)。ただ「ビデオデッキのユーザーはなかなかレコーダーの売り場に来ないので商品を目にする機会が少なく」(同)それほど大きなシェアは獲得できなかったのだという。
___page___
「一番のきっかけになるのはテレビの買い替えを検討してAQUOSを買いに来た時」だといい、テレビとセットで購入するユーザーが多いという。今では当たり前のように店頭のテレビ売り場に一緒にレコーダーが展示されているが、この方式はシャープが始めたもの。液晶テレビとして認知度が高い「AQUOS」が同社のレコーダーの売り上げも牽引しているようだ。
また、「テレビと展示することで、テレビとレコーダーの動作が連携するファミリンクやリモコン機能を提案できる」(同)メリットがある。今回の「BD-AV1/AV10」はブラック系、シルバー系、ホワイト系、レッド系とカラー展開している。同じようにカラー展開している液晶テレビ「AQUOS Dシリーズ」と並べることで効果的な露出ができたという。
他社のHDD搭載レコーダーに比べるとシェアはまだ低いが、2011年にはアナログ放送が終了し、デジタル放送に切り替わるので「あと3年間でビデオデッキはどっちにしろ使えなくなる。その時に(ビデオデッキのような)使いやすさで、ある程度リーズナブルな価格の商品というのは十分に魅力があるはず。勝負はこれからだと思っている」と話す。
●BD以外のレコーダーも継続、目標はすべてのAQUOSにレコーダーをつけること
07年12月の次世代レコーダーの販売台数別メーカーシェアでソニーが61.1%、松下が23.7%で、シャープは10.1%と低迷した。しかし08年2月18日にHDD搭載BDレコーダーを発売してからは、2月第3週の週次で14.2%、最新の第4週(2月25?3月2日)でも14.4%と2週間連続で14%台をキープしている。
シャープはソニーのようにレコーダーの新製品をBDのみに一本化することはせず、「従来のDVDレコーダーとBDレコーダーの両方あわせてトップシェアをとっていく」(居石氏)方針。今後の販売目標については「基本的にレコーダー単品で戦っているという気はあまりない。目標はアクオスに100%つけること。他社と勝ち負けをつけるというよりアクオスを購入したユーザーに全員に届けたい」と語る。
また、今後検討する可能性がある機能・性能として、「小型化」に注目しているという。松下電器産業が子ども部屋などのセカンドルーム需要を狙い、奥行きを短くしてコンパクトにしたハイビジョンレコーダーを発表していることもあり、「小型化も機能の1つとしてはある。ビデオデッキなら1部屋に1台という可能性もあり、まずはリビング以外に入った小型のAQUOSにも合うような製品については検討する必要がある」(同)。
また松下やソニーが採用する映像記録方式「MPEG-4 AVC」についても「今後の選択肢の1つとして考えている」と述べた。この方式は高画質で容量も大きい地デジなどのハイビジョン放送を画質の劣化を抑えながら圧縮して長時間録画できる技術。シャープはこの方式を採用しておらず、そのため他社のような低容量なHDDを搭載したエントリーモデルがない。しかし「BDが普及する頃にはラインアップの拡張も重要になるのは間違いない」(同)ことから検討しているという。
他社にはないHDD「非搭載」で使いやすさをアピールするBDレコーダーでビデオデッキユーザーを取り込もうとするシャープ。さらにHDDを搭載したモデルもようやく発売にこぎつけたことでさらなるシェア拡大を狙う。現時点でBDレコーダーを製造しているメーカーはシャープ、ソニー、松下電器産業のわずか3社のみ。さらに東芝が主導するHD DVDが退場してBDに一本化されたことで次世代DVDレコーダー市場はBDレコーダー市場になった。今後いっそうの激戦が予想される。(BCN・岡本浩一)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など24社・2300を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで119品目を対象としています。