今年は熱いぞデジタル一眼、先陣切ったキヤノン「EOS 40D」好調の理由は?
●3つの“コア機能”強化を目指した「40D」
「EOS 40D」は「30D」の後継機種を待ちわびていたユーザーをはじめ、ボディのみで実勢価格が15万円と、中級デジタル一眼レフでは手ごろな価格が受け、販売は好調だ。レンズキットモデルなどを合算したデジタル一眼レフの販売台数シェアを「BCNランキング」で見ると、8月の発売以降売り上げを伸ばし、10月には13.9%で3位のシェアを獲得している。
同社が考えるコア機能とは「(1)快速(2)快適(3)高画質の3点」(戸倉部長)だといい、「40D」は「『30D』の単なる後継モデルではなく、全ての性能をフルモデルチェンジしたまったく別のカメラ」(同)と強調する。この3点を強化したカメラが「40D」というわけだ。
まず「快速」では撮影スピードの向上を図った。9点測拒の新型センサーを使ったオートフォーカス(AF)を搭載し、高速なピント合わせを実現。また、撮影した画像データの読み込みスピードや画像処理回路の速度をアップすることで、1秒間に6.5コマの撮影を可能にした。
「快適」では撮影スタイルとゴミ対策に力点が置いた。新たに設計した倍率が0.95倍のファインダーで見やすさも追求。「ライブビュー」機能も盛り込み、コンパクトデジカメのように液晶モニターを見ながらの撮影にも対応し、マクロ撮影などを簡単にできるようにした。また、ゴミなどの発生と付着の抑制、除去を行う総合的なセンサーダスト対策を施している。
「高画素」では有効1010万画素のCMOSを撮像素子に採用。「画素数の向上はもちろん、写真のディテールを緻密にし、高感度での長時間撮影機能も向上させた」(同)という。さらに自慢は撮影感度の幅広さだ。
●幅広い撮影感度と高速処理を実現
40DのCMOSはISO100の低感度での撮影にも対応しており、真夏の日中など、非常に明るい状況でも階調やカラーバランスを崩すことなく高画質な写真が撮影できるという。一方、高感度ではISO3200までの撮影が可能だ。
画像処理部分を担当した久間賢治・イメージコミュニケーション事業本部カメラ開発センター室長は「低感度で撮影できるデジタル一眼レフは他社にはない。低感度から高感度までキレイな写真が撮れるのは当社のセンサーだけ」と自信を見せる。
40Dでは画像処理回路もさまざまな改良を行った。ポイントは「クロックのスピードアップ(処理速度の向上)」(久間室長)。40Dは30Dよりも高画素化が図ったが、画素が増えれば、それだけ回路に負担がかかって処理が遅くなり、撮影スピードが落ちる。「快速」を実現するためにも高速処理には力を入れた。
加えて、アナログからデジタルへの変換処理も12ビットから14ビットに拡大。階調表現の幅を広げたほか、高感度撮影の処理も「よそよりも強い」(同)と自信をもつまで手を加えた。
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●性能と並行して低価格も追求
40Dでは性能を高めると同時に低価格も追求している。開発チームは、中級デジタル一眼レフで消費者が手の届きやすいと考える15万円の実勢価格を念頭に開発を進めたという。
なぜ、15万円なのか。40Dの国内販売を担当するキヤノンンマーケティングジャパン コンスーマイメージングカンパニー イメージコミュニケーション企画本部の中村真一課長は「中級デジタル一眼レフは、より安い価格にシフトしている」と説明する。
以前、中級デジタル一眼レフは30万円ほどしていたが、ここ数年で低価格化が進み、現在は20万円程度まで価格が下がった。しかし、「『20万円』は一般の人が背伸びして買うにはまだ高い。『性能が良いものが欲しいが安い方がいい』というお客さんの声は多い」と、中村課長は話す。
キヤノンでは中級機について、高い機能はもちろんのこと、「価格」もユーザーが製品を選択する大きな要素になると見ている。戸倉部長も「価格は重要」と強調する。
高機能と価格の追求は相反する要素だが、カメラの高い性能を維持しながらコストを抑えるのは、キヤノンが得意とするところ。コスト面から、部品などの見直しを徹底的に行った。中でも「(1)センサー(2)メカ構造(3)基板の3点がコストダウンに大きく寄与した」と戸倉部長は話す。
センサーは自社開発・生産による量産効果でコストを抑えることができた。センサーの内製化は、「カメラの設計と共同で開発できることで、ムダな費用がかからずに済んだ」(戸倉部長)というメリットもあった。メカ構造ではボディの設計や部品を30Dよりもシンプルにすることで、部品点数を抑えた。
基板では回路を集約して部品点数を減らした。電気回路を担当した小島輝之・イメージコミュニケーション事業本部カメラ開発センター主任研究員は「1010万の高画素の画像を高速処理できるようにしながら、一方でコストダウンを進めるというバランスをとるのが非常に難しかった」と話す。
コストダウンを進める過程で開発チームは、2回の作業の仕切り直しを余儀なくされている。カメラボディで使うシャーシが目標コストに達していないことが原因だった。部品点数の削減が十分ではなかったのだ。幸い、入門機の「EOS KissデジタルX」で導入されたコストダウン技術あり、詳細は明かさなかったが、これを活用することで乗り越えた。
小島研究員は「こうしたことはめったにない。非常な危機感をもった」と振り返る。戸倉部長も「前の機種のマイナーチェンジであれば安定して開発を進められるが、それではカメラのステップアップ度が低い。40Dは新規開発で大変なことはわかっていたが、何としても成功させたかった」と胸の内を語る。
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●プライドをくすぐる「本物感」と、触ってわかる「使いやすさ」が2本柱
キヤノンでは40Dのターゲットをハイアマチュアやプロカメラマンにしている。しかし、「それだけではユーザー層の拡大は見込めない。デジタル一眼を使ったことがない人、コンパクトデジカメからの乗り換えユーザーも積極的に獲得していきたい」と中村課長は話す。そうしたユーザーには40Dの性能と価格は大きな武器になると見ている。
販売のキーワードは「本物感」。キヤノンの調査によると中級デジタル一眼レフの購入者層は「初心者に見られたくないというプライドがある」(中村課長)という。そこで、販売では高画素、高速・高感度撮影など、40Dがもつ高機能を前面に出し、本格的なデジタル一眼レフカメラとしてアピールしていく戦略だ。
高性能な中級一眼レフカメラは操作が難しく敷居が高いと感じている人は多い。しかし、40Dは「EOS KissデジタルX」の操作性を踏襲することで、「触ってもらうと操作がわかりやすく使いやすいカメラ」(中村課長)に仕上げている。
キヤノンでは「本物感」を打ち出しながらも店頭に来た人が実際に手にとると使い勝手が良く、「高性能だけれど、自分にも使いこなせるデジタル一眼レフ」を実感してもらうことで、ユーザーのすそ野を広げる狙いだ。
40Dがもつ高い性能と消費者に手が届くと感じさせる価格は、他社にはない大きな強み。11月には他社の中級機も次々と発売されるが、一番手の利を生かし、ユーザーの獲得とシェア拡大をさらに進めることになれば、ライバルの戦略にも大きな影響を与えそうだ。(BCN・米山淳)
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