セキュリティソフト例年にない接戦、トップ3社のユーザー獲得戦略は?
シマンテックとトレンドマイクロ、ソースネクストが年間販売本数No.1をかけてぶつかり合う――。毎年10月は、セキュリティソフトの新版が出揃う時期。各メーカーは早くも年末商戦に向けて臨戦態勢を整えた。特に今年は例年になく3社のシェアが接近。接戦を繰り広げている。そこで「BCNランキング」では、販売本数上位3社のキーマンに単独取材を敢行。どんな作戦でユーザー獲得を目指すのか? それぞれの戦略を探った。
●例年以上に熱いNo.1争い
コンピュータウイルスやインターネット上の詐欺、情報を勝手に盗み出すスパイウェアなどからユーザーを守るセキュリティソフト。ネット犯罪が多い昨今、セキュリティソフトはPCソフトのなかでもっとも売れているジャンルだ。毎年10月は、各社が新版をリリースし、販売本数No.1をかけた戦いが激化するシーズン。各メーカーのプロモーション合戦も加熱してPCソフト売り場が活気付く。
セキュリティソフトを販売するメーカーは多く、10社以上存在する。そのなかでも、「3強」と呼ばれるメーカーがシマンテック、トレンドマイクロ、ソースネクストの3社だ。販売本数シェアはこの3社で約85%、つまりセキュリティソフトを買ったユーザー10人うち8.5人は、3社のどれかを選んでいることになる。
今年はNo.1の座を巡る争いが例年以上に白熱している。「BCNランキング」がセキュリティソフト部門を設けたのは01年だが、それから6年連続で年間販売本数の上位3社の顔ぶれと順位は変わっていない。1位はシマンテック、2位トレンドマイクロ、3位がソースネクストだ。今年1?9月の累計シェアでも3社の順位は例年通り。ところが今年は1位と3位の差はわずか8.2ポイント。「BCNランキング」史上もっとも僅差の戦いを繰り広げている。パソコンショップで何気なく買ったその1本のソフトウェアが、6年間不変の順位を動かす可能性もあるわけだ。
シェア1位のシマンテックは、新バージョンのパッケージ版を9月21日に発売。2位のトレンドマイクロは新版を10月26日に発売して追いかける。ソースネクストは2社と一線を画し、新機能・技術をその都度取り入れる仕組みで新版を出さずに年末商戦に挑む。
●シェア4割を狙う、強気の王者シマンテック
6年連続トップシェアのシマンテックは、今年1?9月の累計シェアでも依然としてトップ。ただ、年間No.1にもっとも近い存在とはいえシェアは下落傾向だ。これに関して大岩憲三・執行役員コンシューマ営業統括本部統括本部長は、「(シェアは)落ちているが、販売本数は昨年に比べて伸びており順調。来年3月までにシェア40%は獲る。年末までのシェアは可能な限り40%に近づけたい」と、7年連続のNo.1獲得を疑っていない。
9月21日に発売した総合セキュリティソフト「ノートン・インターネットセキュリティ(NIS) 2008」と、ウイルス対策ソフト「ノートン・アンチウイルス(NAV) 2008」では、ブラウザの脆弱性を突いた不正攻撃からPCを守る「BrowserDefender」という技術を新搭載。一般的な不正プログラム検知・駆除技術では防げないウイルスを防御可能にした。また、数年前から研究・開発に力を注いでいたソフト動作速度向上を追及。PCにかける負荷を大幅に改善した。「NIS 2008」では、旧版に比べソフトの操作速度を22%向上させ、スキャン速度も39%速めたという。
新機能・技術の搭載だけではない。1本買えば3台のPCにインストールできるライセンス方式を採用し、値頃感を打ち出した。バックアップなどのユーティリティ機能を備えたセキュリティソフト「ノートン 360」ではすでに1本で3台のPCにインストールできるようにしていたが、「NIS」と「NAV」では今回が初めて。他メーカーは、すでに昨年からこのライセンス形式を取り入れており、シマンテックが追随した格好だ。1本で3台に使えるとなれば、単純に考えれば販売本数が減りシェアも下がる可能性がある。だが、そのリスクを冒してもほかのメーカーと同じ土俵に上がることをシマンテックは選択した。
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●「初」や「過去最高」なPR大作戦
では、この新技術・新しい取り組みをシマンテックはどうやってユーザーに訴えようとしているのか。まず「NIS 2008」「NAV 2008」、「ノートン 360」の3製品を購入したユーザーに対し、販売価格の約25%を返金するキャッシュバックキャンペーンを実施。50万本限定だが「返金額は過去最高」(同)で、No.1死守に向けた意気込みを感じさせる。
プロモーションでは、発売直後の3連休で東京・千代田区の家電量販店「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」で独自制作した特撮ヒーロー「ノートン・ファイター」を交えたイベントを開催した。キャラクターを使ったイベントは初めてで、「品のよい会社」とIT業界では囁かれるシマンテックにとっては極めて異例。これまでシマンテック製品に目を向けなかった消費者層にアピールしたい狙いが垣間見える。
シマンテックの問題点は、商品が多いためにユーザーに「どれを選べばよいか分からない」と思われてしまうことだろう。「NIS」「NAV」、「ノートン 360」など6つの製品があるからだ。トレンドマイクロとソースネクストが基本戦略として1製品しか商品化していないのに対し、シマンテックは「消費者の選択肢を増やしたい」(同)との方針で複数ラインアップを以前から貫く。
だが、「NIS」と今年3月に発売した「ノートン 360」は機能が似ており選択が難しい。「初心者には全自動で手間要らずのノートン360、自分の好みに合わせて設定したい人にはNISと棲み分けができている」と大岩氏は主張するが、それとは裏腹に「モデルが多すぎて、何が違うのか、どの製品を選べばよいか悩んでいるユーザーがいる」(都内家電量販店店員)との声もある。
ユーザーの要望を聞き入れるために用意した多様な商品群が、逆にユーザーに混乱を与えてしまったケースもあるようだ。大岩氏も「PR不足だった面がある」と認めており、この点をどう改善し店頭で説明するかが焦点だろう。
●トップをあきらめないトレンドマイクロ
トレンドマイクロも当然トップを狙っている。今年こそNo.1を獲得しようとアクセル全開だ。沢昭彦・バイスプレジデントマーケティング統括本部統括本部長は、今年1月に「シェア35%を獲ってNo.1を目指す」と宣言、その目標値は今も変わっていないという。1?9月のシェアは25.5%で、シマンテックとの差は7.9ポイント。過去を振り返ると、残り3か月でシェア約8ポイントの差はトップ奪取にはかなり厳しいものの、シマンテックとの差は過去4年でもっとも詰まっており、可能性がないとはもちろん言い切れない。
新版のポイントは「3つの技術で守る」。不正プログラムからPCを守るには、新しい不正プログラムを検知・駆除するためのワクチンのようなデータ「定義ファイル」をパソコンに順次組み込み、ウイルスを退治する「パターンマッチング」という方式を使うのが一般的。
しかし、「パターンマッチング」による防御では技術的に限界が来ているようだ。トレンドマイクロの独自調査では、「パターンマッチング」で防げない不正プログラムが全体のうち約10%も存在するという。そのため、新版では新たに2つの対策技術を導入した。そのうち、「Webレピュテーション技術」は、企業の情報システムで使う高度なテクノロジーを応用した自信作で、満を持して「ウイルスバスター」に搭載したものだ。
新たに備えた技術で、この10%の不正プログラムを検知・駆除でき、他社に比べて技術的に勝っていることをPRする。また、シマンテックと同じように、PCにかける負担軽減を追及。PCのメモリ使用量を約50%削減し、スキャン時間を約20%削減した。高い検知・駆除率と軽さを武器に勝負に出る。
●「原点回帰」で分かりやすさをPR
プロモーション作戦として、トレンドマイクロが重視したのが「シンプルさ」。ロゴも分かりやすくシンプルなデザインに変更し、03年から07年まで「ウイルスバスター」の後に「リアルセキュリティ」などのサブタイトルを付けていたが今年は削除。パッケージの裏面に記載する商品解説文は、複雑な言葉を省き分かりやすさを重視した。「“原点回帰”で、信頼感と分かりやすさをコンセプトにした」(沢バイスプレジデント)。家電量販店では、主要600店を販売強化店として重点的にラウンダーと呼ばれる販売員を配置。重点店舗で積極PRをかける方針だ。
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●常識を覆す更新料0円を武器に上位2社に迫るソースネクスト
ソースネクストは、3位ながらもシェア上昇率はもっとも高い。そのエネルギーになっているのが「更新料0円」だ。セキュリティソフトは新種の不正プログラムを検知・駆除するために自動的にソフトを更新している。ほかのソフトと違って一般的に1年間でソフトの有効期限が切れ、その後も最新の状態でソフトを使いたい場合は更新費用が必要。シマンテックとトレンドマイクロは、1?3年毎に更新料がかかる。
ソースネクストはこの通例をぶち破り、1度買えばOSのサポート期間が続く限り更新料なしで使える「ウイルスセキュリティ ZERO」という新コンセプト製品を06年夏に発売。それからシェアは急上昇している。「ウイルスセキュリティ ZERO」投入前の05年はシェアが15.7%だったのに対し、06年は20.6%、今年1?9月の累計シェアは25.2%と着実にシェアを伸ばしている。
青谷征夫・取締役プロデュースグループ担当執行役員は、独自アンケート調査の結果を引き合いに出してヒットの理由をこう説明する。「『ZERO』を発売する前に問い合わせがもっとも多かったのは『更新の仕方が分からない』だった。更新作業に対する戸惑いを多くのユーザーが抱えていた」。
「今年のトップは難しいかもしれない」(小嶋智彰・経営企画室執行役員)とトップシェア獲得への見通しには慎重だが、2位のトレンドマイクロとの差はすでに1ポイント未満。3位とはいえ、トップは射程圏内に入ってきた。
では、ソースネクストのヒットに追随し、シマンテックとトレンドマイクロが更新料を0円に変更する可能性はあるのか。両社の見解は共通で完全否定。きっぱりと「可能性はない」と言い切った。シマンテックの大岩氏は、「未知のウイルスにその都度対応するためには、ある程度の人員と設備が必要。高品質のサービスを提供するためには投資が必要」と、更新料金はサービス維持のために必要だと強調する。トレンドマイクロの沢氏も同様の意見で、今後シマンテックとトレンドマイクロが更新料金を0円にする可能性は極めて低い。更新料金0円は引き続きソースネクスト製品だけの状態が続きそうだ。
●品質とサポートの訴求がポイントか?
ソースネクストがトップを獲得するのに必須の条件が品質とサポートの訴求だろう。日本人が抱きがちな「安かろう、悪かろう」のイメージをどれほど払拭できるかだ。溝口宗太郎・プロデュースグループディベロップメントチームチーフは、「軽さの追求と『ヒューリスティックエンジン』の改善でウイルス検知技術には自信があり品質はトップレベル」と主張。その証として世界的ウイルス対策ソフトの品質を証明する第3者機関認証を数多く戦略的に取得してきた。取得した認証を武器に、「高品質ながら安価」を猛烈にアピールする。
もう1つのシェア拡大の足かせ要因が、他社が採用し始めた複数台PCでの利用だ。ソースネクストも3台のPCで利用可能なモデルを用意しているが、1台向けより割高。他社が1製品で3台のPCに使える製品を発売した時も、価格を変更しなかった。更新料金こそ0円だが、3台のPCで使いたい人にとってはソースネクスト製品が高価に見えてしまいかねない。
青谷取締役はこれに対し、「独自調査では2台以上で利用可能なモデルは全販売本数の20%未満」と複数台のPCにインストールするニーズはまだ高まっていないとしており、悪影響はないときっぱり否定している。
●過去の傾向みると今年のトップは
過去6年の傾向を見ると、9月までの合算シェアでトップだったベンダーは、年間トップを獲得している。傾向でいえば、シマンテックがトップにもっとも近い位置にいるのは間違いない。ただ、今年は例年以上にシェア争いは接戦。この10‐12月の3か月の販売動向で年間トップが決まる。これから年末にかけてPCの買い替えを検討したり、セキュリティソフトの新規購入・買い替えを考えている人も多いだろう。こうした競争の激化で、セキュリティーソフトも機能やサービスのバリエーションが増え選択の幅もひろがった。まず自分の利用形態を考えてもっともマッチする製品を選ぶようにしたい。(BCN・木村剛士)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など23社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。
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セキュリティソフトを販売するメーカーは多く、10社以上存在する。そのなかでも、「3強」と呼ばれるメーカーがシマンテック、トレンドマイクロ、ソースネクストの3社だ。販売本数シェアはこの3社で約85%、つまりセキュリティソフトを買ったユーザー10人うち8.5人は、3社のどれかを選んでいることになる。
今年はNo.1の座を巡る争いが例年以上に白熱している。「BCNランキング」がセキュリティソフト部門を設けたのは01年だが、それから6年連続で年間販売本数の上位3社の顔ぶれと順位は変わっていない。1位はシマンテック、2位トレンドマイクロ、3位がソースネクストだ。今年1?9月の累計シェアでも3社の順位は例年通り。ところが今年は1位と3位の差はわずか8.2ポイント。「BCNランキング」史上もっとも僅差の戦いを繰り広げている。パソコンショップで何気なく買ったその1本のソフトウェアが、6年間不変の順位を動かす可能性もあるわけだ。
シェア1位のシマンテックは、新バージョンのパッケージ版を9月21日に発売。2位のトレンドマイクロは新版を10月26日に発売して追いかける。ソースネクストは2社と一線を画し、新機能・技術をその都度取り入れる仕組みで新版を出さずに年末商戦に挑む。
●シェア4割を狙う、強気の王者シマンテック
6年連続トップシェアのシマンテックは、今年1?9月の累計シェアでも依然としてトップ。ただ、年間No.1にもっとも近い存在とはいえシェアは下落傾向だ。これに関して大岩憲三・執行役員コンシューマ営業統括本部統括本部長は、「(シェアは)落ちているが、販売本数は昨年に比べて伸びており順調。来年3月までにシェア40%は獲る。年末までのシェアは可能な限り40%に近づけたい」と、7年連続のNo.1獲得を疑っていない。
9月21日に発売した総合セキュリティソフト「ノートン・インターネットセキュリティ(NIS) 2008」と、ウイルス対策ソフト「ノートン・アンチウイルス(NAV) 2008」では、ブラウザの脆弱性を突いた不正攻撃からPCを守る「BrowserDefender」という技術を新搭載。一般的な不正プログラム検知・駆除技術では防げないウイルスを防御可能にした。また、数年前から研究・開発に力を注いでいたソフト動作速度向上を追及。PCにかける負荷を大幅に改善した。「NIS 2008」では、旧版に比べソフトの操作速度を22%向上させ、スキャン速度も39%速めたという。
新機能・技術の搭載だけではない。1本買えば3台のPCにインストールできるライセンス方式を採用し、値頃感を打ち出した。バックアップなどのユーティリティ機能を備えたセキュリティソフト「ノートン 360」ではすでに1本で3台のPCにインストールできるようにしていたが、「NIS」と「NAV」では今回が初めて。他メーカーは、すでに昨年からこのライセンス形式を取り入れており、シマンテックが追随した格好だ。1本で3台に使えるとなれば、単純に考えれば販売本数が減りシェアも下がる可能性がある。だが、そのリスクを冒してもほかのメーカーと同じ土俵に上がることをシマンテックは選択した。
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●「初」や「過去最高」なPR大作戦
では、この新技術・新しい取り組みをシマンテックはどうやってユーザーに訴えようとしているのか。まず「NIS 2008」「NAV 2008」、「ノートン 360」の3製品を購入したユーザーに対し、販売価格の約25%を返金するキャッシュバックキャンペーンを実施。50万本限定だが「返金額は過去最高」(同)で、No.1死守に向けた意気込みを感じさせる。
プロモーションでは、発売直後の3連休で東京・千代田区の家電量販店「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」で独自制作した特撮ヒーロー「ノートン・ファイター」を交えたイベントを開催した。キャラクターを使ったイベントは初めてで、「品のよい会社」とIT業界では囁かれるシマンテックにとっては極めて異例。これまでシマンテック製品に目を向けなかった消費者層にアピールしたい狙いが垣間見える。
シマンテックの問題点は、商品が多いためにユーザーに「どれを選べばよいか分からない」と思われてしまうことだろう。「NIS」「NAV」、「ノートン 360」など6つの製品があるからだ。トレンドマイクロとソースネクストが基本戦略として1製品しか商品化していないのに対し、シマンテックは「消費者の選択肢を増やしたい」(同)との方針で複数ラインアップを以前から貫く。
だが、「NIS」と今年3月に発売した「ノートン 360」は機能が似ており選択が難しい。「初心者には全自動で手間要らずのノートン360、自分の好みに合わせて設定したい人にはNISと棲み分けができている」と大岩氏は主張するが、それとは裏腹に「モデルが多すぎて、何が違うのか、どの製品を選べばよいか悩んでいるユーザーがいる」(都内家電量販店店員)との声もある。
ユーザーの要望を聞き入れるために用意した多様な商品群が、逆にユーザーに混乱を与えてしまったケースもあるようだ。大岩氏も「PR不足だった面がある」と認めており、この点をどう改善し店頭で説明するかが焦点だろう。
●トップをあきらめないトレンドマイクロ
トレンドマイクロも当然トップを狙っている。今年こそNo.1を獲得しようとアクセル全開だ。沢昭彦・バイスプレジデントマーケティング統括本部統括本部長は、今年1月に「シェア35%を獲ってNo.1を目指す」と宣言、その目標値は今も変わっていないという。1?9月のシェアは25.5%で、シマンテックとの差は7.9ポイント。過去を振り返ると、残り3か月でシェア約8ポイントの差はトップ奪取にはかなり厳しいものの、シマンテックとの差は過去4年でもっとも詰まっており、可能性がないとはもちろん言い切れない。
新版のポイントは「3つの技術で守る」。不正プログラムからPCを守るには、新しい不正プログラムを検知・駆除するためのワクチンのようなデータ「定義ファイル」をパソコンに順次組み込み、ウイルスを退治する「パターンマッチング」という方式を使うのが一般的。
しかし、「パターンマッチング」による防御では技術的に限界が来ているようだ。トレンドマイクロの独自調査では、「パターンマッチング」で防げない不正プログラムが全体のうち約10%も存在するという。そのため、新版では新たに2つの対策技術を導入した。そのうち、「Webレピュテーション技術」は、企業の情報システムで使う高度なテクノロジーを応用した自信作で、満を持して「ウイルスバスター」に搭載したものだ。
新たに備えた技術で、この10%の不正プログラムを検知・駆除でき、他社に比べて技術的に勝っていることをPRする。また、シマンテックと同じように、PCにかける負担軽減を追及。PCのメモリ使用量を約50%削減し、スキャン時間を約20%削減した。高い検知・駆除率と軽さを武器に勝負に出る。
●「原点回帰」で分かりやすさをPR
プロモーション作戦として、トレンドマイクロが重視したのが「シンプルさ」。ロゴも分かりやすくシンプルなデザインに変更し、03年から07年まで「ウイルスバスター」の後に「リアルセキュリティ」などのサブタイトルを付けていたが今年は削除。パッケージの裏面に記載する商品解説文は、複雑な言葉を省き分かりやすさを重視した。「“原点回帰”で、信頼感と分かりやすさをコンセプトにした」(沢バイスプレジデント)。家電量販店では、主要600店を販売強化店として重点的にラウンダーと呼ばれる販売員を配置。重点店舗で積極PRをかける方針だ。
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●常識を覆す更新料0円を武器に上位2社に迫るソースネクスト
ソースネクストは、3位ながらもシェア上昇率はもっとも高い。そのエネルギーになっているのが「更新料0円」だ。セキュリティソフトは新種の不正プログラムを検知・駆除するために自動的にソフトを更新している。ほかのソフトと違って一般的に1年間でソフトの有効期限が切れ、その後も最新の状態でソフトを使いたい場合は更新費用が必要。シマンテックとトレンドマイクロは、1?3年毎に更新料がかかる。
ソースネクストはこの通例をぶち破り、1度買えばOSのサポート期間が続く限り更新料なしで使える「ウイルスセキュリティ ZERO」という新コンセプト製品を06年夏に発売。それからシェアは急上昇している。「ウイルスセキュリティ ZERO」投入前の05年はシェアが15.7%だったのに対し、06年は20.6%、今年1?9月の累計シェアは25.2%と着実にシェアを伸ばしている。
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「今年のトップは難しいかもしれない」(小嶋智彰・経営企画室執行役員)とトップシェア獲得への見通しには慎重だが、2位のトレンドマイクロとの差はすでに1ポイント未満。3位とはいえ、トップは射程圏内に入ってきた。
では、ソースネクストのヒットに追随し、シマンテックとトレンドマイクロが更新料を0円に変更する可能性はあるのか。両社の見解は共通で完全否定。きっぱりと「可能性はない」と言い切った。シマンテックの大岩氏は、「未知のウイルスにその都度対応するためには、ある程度の人員と設備が必要。高品質のサービスを提供するためには投資が必要」と、更新料金はサービス維持のために必要だと強調する。トレンドマイクロの沢氏も同様の意見で、今後シマンテックとトレンドマイクロが更新料金を0円にする可能性は極めて低い。更新料金0円は引き続きソースネクスト製品だけの状態が続きそうだ。
●品質とサポートの訴求がポイントか?
ソースネクストがトップを獲得するのに必須の条件が品質とサポートの訴求だろう。日本人が抱きがちな「安かろう、悪かろう」のイメージをどれほど払拭できるかだ。溝口宗太郎・プロデュースグループディベロップメントチームチーフは、「軽さの追求と『ヒューリスティックエンジン』の改善でウイルス検知技術には自信があり品質はトップレベル」と主張。その証として世界的ウイルス対策ソフトの品質を証明する第3者機関認証を数多く戦略的に取得してきた。取得した認証を武器に、「高品質ながら安価」を猛烈にアピールする。
もう1つのシェア拡大の足かせ要因が、他社が採用し始めた複数台PCでの利用だ。ソースネクストも3台のPCで利用可能なモデルを用意しているが、1台向けより割高。他社が1製品で3台のPCに使える製品を発売した時も、価格を変更しなかった。更新料金こそ0円だが、3台のPCで使いたい人にとってはソースネクスト製品が高価に見えてしまいかねない。
青谷取締役はこれに対し、「独自調査では2台以上で利用可能なモデルは全販売本数の20%未満」と複数台のPCにインストールするニーズはまだ高まっていないとしており、悪影響はないときっぱり否定している。
●過去の傾向みると今年のトップは
過去6年の傾向を見ると、9月までの合算シェアでトップだったベンダーは、年間トップを獲得している。傾向でいえば、シマンテックがトップにもっとも近い位置にいるのは間違いない。ただ、今年は例年以上にシェア争いは接戦。この10‐12月の3か月の販売動向で年間トップが決まる。これから年末にかけてPCの買い替えを検討したり、セキュリティソフトの新規購入・買い替えを考えている人も多いだろう。こうした競争の激化で、セキュリティーソフトも機能やサービスのバリエーションが増え選択の幅もひろがった。まず自分の利用形態を考えてもっともマッチする製品を選ぶようにしたい。(BCN・木村剛士)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など23社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。
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