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07年はテレビ需要の方向性が変わる変革点――シャープ寺川取締役に液晶テレビ戦略を聞く

インタビュー

2007/07/13 18:47

 液晶テレビが売れている。去年は同時期に開催されたサッカーワールドカップの需要が見込まれたが、今年は購入につながる目ぼしいイベントがなく、上半期は苦戦すると見られていた。しかし、「BCNランキング」の6月の販売金額データでは、前年同月比で21増%と好調だ。その背景や今後の見通しなどについて、液晶テレビ「AQUOS(アクオス)」を擁してトップシェアを走るシャープの寺川雅嗣・取締役AV・大型液晶事業統轄兼AVシステム事業本部長にうかがった。



■アナログ停波前の09-10年に駆け込み需要が発生

――上半期を振り返って、国内の液晶テレビの需要動向をどう見ていますか

「結果的には予想以上に頑張ることができたと思います。去年はサッカーワールドカップなどの山があり、それが販売増につながった。その中で、大型化への流れは間違いなく出てきました。そこで、今年度は需要の方向性が変わる変革点だと認識して、初期の液晶テレビを購入した人の買い換え需要を狙った『Rシリーズ』、買い増し需要を見込んだ『Dシリーズ』と、ラインアップをちょっと変えました。結果的に両方とも支持していただけたことで、間違ってはいなかったと思っています」

――下半期の需要についてはどう見ていますか

「07年度の全世界での販売目標を900万台、そのうち、国内は320万台と設定していますが、あくまで計画なので、実績で集計するともう少し違う数字になるかもしれません。買い増し需要を狙った『Dシリーズ』でも32インチが意外に売れている。今年度は、26-32インチの山、20インチの小さなゾーンの山、46-52インチと、3つの山がもっと明確になると思います」

――2台目を狙った20V型前後の機種は、思ったほど需要が伸びていません

「小型では、画面比率が4:3から16:9へのシフトが起こっています。そのため、他社も含め業界全体のモデル数が不足し、提案力が低下しているかもしれません。各社の16:9の機種ラインアップが揃った時点で、もう一度需要が戻ってくると思います。ただ、国内は2011年のアナログ停波に向けた動きがどうなるかで、需要はずいぶんブレてくるでしょう」

「1つの世帯には、平均すると2.6台くらいのテレビがあります。しかし、3、4台をもつ家の場合、すべてのテレビが常に稼動しているわけではありません。停波するからといって、消費者がすべてのテレビをデジタルテレビに買い換えるわけではないんです。アナログ停波の時期は十分浸透したと思いますが、消費活動に結び付くのは、来年になるのか再来年になるのか――」

――薄型テレビ全体について今後の需要見通しはいかがでしょうか

「駆け込みの09?10年のところで動く可能性はあります。06年国内の薄型テレビの出荷台数は900万台弱ですが、今後は1000万?1200万台に拡大する見通しです。その中で、アナログ停波までに業界全体として売らなければいけない数は1億台くらいとみています」

――来年の北京五輪は、国内のテレビ需要にどう影響しますか

「北京五輪需要は、来年の3?4月くらいから始まると見ています。来年の国内のテレビ需要は、何もイベントがなければ120%弱にとどまるかもしれませんが、五輪特需が今年度並みの伸び率まで押し上げるでしょう。それがオリンピック効果の数字だと見ています」


■米国市場は価格重視だが、フルHDへの評価も高い

――松下電器産業が37V型で液晶テレビを投入するといわれていますが、シャープにとってはやりにくくありませんか

「やりやすいほうが勝っています。37V型でプラズマがすぐれているとか、あるいは液晶がすぐれているというユーザにとって何のメリットもない論争をこれ以上しなくてすむからです。37V型は意外と参入メーカーが少ない。そこに商品のラインアップが広がることで、業界全体の数字が上がると期待しています」

「去年このゾーンに参入したメーカーは、結果的には伸びています。技術革新もまったく同じです。集中するとそこで競争と革新が起きる。技術者の数は、台湾、韓国を入れると圧倒的に液晶陣営のほうが多い。それに対してプラズマは、残念ながら国内の技術で終わってしまっている」


   ――海外、特に力を入れている米国市場の手応えは・・・・・・

「米国は、間違いなく値段一本の非常に厳しい市場です。また、画質に無頓着だと一部でいわれていますが、それは間違い。昔、画質があまりよくない42インチのリアプロジェクションテレビが10万円という価格を基準に選ばれたから、画質に無頓着だと思われているだけです。フルハイビジョン(フルHD)の比率はまだまだ低いですが、よいものはよいと認める非常に明確な市場でもあります。ただ、米国の消費者が求める値段に合わないから、大きく伸びていないだけです」

――有機ELやSED(表面電界)といった液晶のライバルテレビも登場してきます

「有機ELは、液晶と比べると値段が横並びではありません。SEDは生産技術が難しく、よほどの技術のブレイクスルーがない限り参入してこないと見ていました。もう発売のタイミングは逸したと思っています」


■次世代DVDは08年にブレイク、価格は10万円以下がカギに

 ――DVDレコーダーは、シャープや松下の「リンク機能付きモデル」で販売台数が伸びてきましたが

「DVDレコーダーは、VHSデッキ時代の普及率や事業規模まで届いていません。これは業界として反省しないといけない。録画・再生機能付きの周辺機として、本来、日本ではVHSと同じくらいのポテンシャルがあるわけですから。魅力ある商品提案ができなかったことを反省しなければなりません。しかし、提案の仕方次第で、まだまだ市場を創造できると思っています」

――DVDレコーダーも薄型テレビ並みの2ケタの安定成長は可能ですか

「ブルーレイ・ディスク(BD)かHD DVDという争いをしていますが、やはりハイビジョンが扱える機器でないと難しい。VHSデッキのように需要のすそ野を広げるためのポイントは、テレビと連携したリンク機能など、どこまで魅力的な商品を投入できるかだと思っています。まだやるべきことは多いので、『頑張れ』とお尻を叩いているところ。ユーザーに受け入れられるような商品提案も考えています」

――次世代DVDは、どれくらいの実勢価格になれば需要に火がつくのでしょう

「2008年が本格的な普及時期になると思っていますが、もっと早めたい。それにはBDの値段が、もう少し下がる必要があります。『20万』『10万』『5万』というマジックプライスが一般的にいわれています。『15万』は疎遠、『10万』を切れば少しずつ段階的に需要が上がる。そして『5万』を切った時点で“ボン”とさらに需要が高まる。目標としては10万を切りたい。儲かりませんが、業界でもそういう目標設定にしていると思います。できれば北京五輪で大ブレイクさせたいですね」

――ハイビジョン機器では、シャープはデジタルビデオカメラを手がけていませんが

「やらないと決めたわけではありません。まだビジョンだけの段階ですが、『従来型の延長商品ではなく、シャープらしいもの』をとハッパをかけているところです」

(写真:大星直輝)

シャープ=http://www.sharp.co.jp/