写真はとにかく「寄り」だ! 今日から写真家が気取れる広角レンズのススメ
――夏休み特別企画:魔法のレンズ「広角レンズ」で遊ぼう
ソニーや松下の参入で、今年の夏はレンズ交換式のデジタル一眼レフカメラが熱い。人気の源は、なんと言っても多彩な交換レンズが楽しめることだろう。数あるレンズの中でも、特にオススメしたいのは広角レンズだ。しかし、望遠レンズに比べると、その魅力がなかなかが伝えにくい。そこで、夏休みの特別企画として、広角レンズで遊びながら、その楽しみ方をご紹介してみたい。
●広角レンズで遊べるのはズバリ「歪み」と「遠近感の誇張」
望遠レンズは「遠くのものが大きく写せるレンズ」と説明すれば簡単でわかりやすい。撮れる写真もすぐ想像できる。しかし、広角レンズとなると、なかなか説明が難しい。一言で言うなら「広い範囲が写せるレンズ」ということになる。例えば、「狭い部屋の中で親戚の集合写真を撮るような場合、標準レンズでは入りきらなくても、広角レンズを使えば全員を写すことができます」などと、昔からよく説明されてきた。まさにその通りではあるのだが、それだけではあまりにつまらない。もっと面白い使い方がたくさんある。例えば、広角レンズ特有の「歪み」と「遠近感の誇張」を意識した撮影だ。
つたない作例だが、実際に撮った写真でその面白さの片鱗でもお伝えできればと思う。なお、今回使用したのは、35mmフィルムカメラ換算で15-30mmの超広角ズームレンズ。それから比較のために一部25.5-82.5mmの標準域のズームレンズも使用した。実際の焦点距離は前者が10-20mm、後者が17-55mmだが、以下、特に断りのない場合は、すべての焦点距離は35mmフィルムカメラ換算の数値で表記する。また断りのない作例はすべて最も広角側の15mmを使って撮影した。
まず歪みの例として、新宿の高層ビル群の写真を見ていただきたい。中央にそびえるビルはまっすぐ建っているが、両端のビルは斜めに「生えている」ように見える。実際にはこんな風に斜めになっているわけはなく、当然ながらどのビルもまっすぐだ。焦点距離が15mmと超広角なので特に歪みが激しくなっているが、広角レンズの撮影で生じる「歪み」の典型的な例。画面の端になるにしたがって歪みは大きくなっていく。
最近はこうした歪みを画像ソフトで修正できるようにもなってきた。しかし独特の映像は肉眼では体験できないもの。使いようによってはなかなか面白い表現手段ともなる。例えば次のお台場で撮った写真も、なかなかダイナミックな表現(笑)ができているのではないだろうか。自由の女神像もなんだか倒れそうな感じだが、そこもまた面白いと思う。
●寄って撮れば誰でもダイナミックな絵が撮れる
50mm前後の「標準レンズ」は最も一般的なレンズだ。35mmフィルム一眼レフカメラ全盛の時代は、ボディとセットで売られるレンズは、大抵50mmと相場が決まっていた。人間が普通に見た感じに最も近いことから「標準」レンズと言われている。普通に写せば実にナチュラルに写る。裏を返せば「無難でありふれた絵」になってしまうレンズとも言える。つまり、個性的でインパクトのある写真を撮ろうと思うと実はけっこう難しい。要するに腕が要求されるレンズなのだ。
そこで、レンズを交換し焦点距離を変えて写真に新鮮な視点を吹き込む。道具に頼るアマチュア発想の典型だが、これはこれでなかなか面白い。それをもたらすのが、広角レンズのもう1つの特徴「遠近感の誇張」というわけだ。特に「もうこれ以上近寄れない」ぐらいまで徹底的に「寄る」と、いい結果が得られることが多い。
写真の基本は「引き算」と「足し算」と言われている。まるで禅問答のようだが、いかにフレームから余計なものをはずしていくかが「引き算」で、絵にどんどん要素を加えて凝縮していくのが「足し算」だ。要は中途半端は良くないということなのだろう。「寄る」、つまり近づくというのは前者「引き算」の効果をもたらす。広角レンズの場合、とにかく被写体にレンズがくっつくぐらいに徹底的に寄ると、面白い絵が撮れることが多い。写真の良し悪しはともかく、このタヌキも、肉眼では得られない映像とは言えるだろう。実際、ほとんど鼻先にレンズがくっつくようにして撮影した。
広々とした風景や場所を写真に収めようとしても、広すぎてどうしてもその一部分しか収まらないことがある。広々としたところは広々とした絵にしたい。しかし標準レンズでは、この「広々感」を表現するのが難しい。できるだけ多くの要素を加える「足し算」が必要になる場面だ。そこで広角レンズが活躍するわけだが、おそらくこれが広角レンズの一番普通の使い方だろう。有楽町にある東京国際フォーラムの「ガラス棟」は独特の吹き抜け空間が特徴だ。そんな開放的な空間を表現するには、やっぱり広角レンズがぴったりだ。
●標準レンズと広角レンズ、実際にどのくらい違うの?
ここでちょっと、広角とか望遠とかのレンズの種類について、少しおさらいしておこう。一眼レフカメラで交換レンズの「望遠」「広角」は、その焦点距離で判断できる。明確な基準はなく諸説あるとは思うが、おおむね80mm以上が望遠、40mm以下が広角と言っていいだろう。広角の場合、数字が小さくなればなるほど写る範囲が広くなる。中には周囲ほぼ180度が円形に写る魚眼レンズといった特殊なレンズもある。単焦点レンズでは35mm、28mm、24mm、20mm、18mm、16mm、14mm、8mmといったものが一般的だ。ズームレンズでもこれらの焦点距離をカバーするレンズを広角系のズームレンズと呼び、20mm以下では特に「超広角」と言うこともある。
ちなみに、デジタル一眼レフの場合、フィルムの役割を果たす受光センサーは、35mm版のフィルムより小さいものがほとんど。そのため、例えば、35mmフィルムカメラで50mmのレンズで撮った絵と、同じレンズを使ってデジタル一眼レフで撮った絵は写る範囲が違ってくる。カメラによって異なるが、おおむねデジタルになると焦点距離は1.5倍程度になる。先ほどの50mmを使った場合、1.5倍の75mm相当の望遠に近い焦点距離相当になり、より被写体が大きく写る。300mmを使えば、450mm相当の絵が撮れるわけで、望遠効果はより大きくなる。
逆に、広角レンズではその効果が半減することになる。例えば20mmのレンズは35mmフィルムカメラで使うと、非常に広い範囲を写すことができる超広角レンズの定番だ。しかし、デジタル一眼では、1.5倍の30mm相当になるため、標準域に近い普通の広角レンズということになってしまう。もし、35mmフィルムの一眼レフユーザーで、デジタル一眼に乗り換えるなら、こうした焦点距離の違いについては、しっかり理解しておく必要がある。
では、実際広角レンズの写る範囲とはどの程度のものなのか、同じ被写体を使って、焦点距離を変えながら撮ったサンプルをお見せしよう。お台場で撮った貨物船のドックだ。撮影した日は残念ながら貨物船はいなかったので、空にそびえるクレーンを被写体として使った。高所恐怖症だからかもしれないが、下から見上げるだけでも足がすくむほどの非常に大きな構造物だ。撮影したのは標準域の51mmと広角域の28.5mm、21mmmm、15mmの4通り。まったく見え方が違うのがわかるだろう。いずれも三脚を使って、カメラの位置をまったく変えずに撮影したものだ。実際の距離感としては、すぐ目の前に巨大なクレーンがあるような状況だった。
●写り込みと水平に注意して、さあ撮りに出かけよう
広角でも特に10mm台の超広角ともなると、思った以上に広い範囲が写り込むことになる。慣れないうちは、意図しないものが画面の端に写ってしまう失敗も多くなりがちだ。一番多いと思われるのは、自分の足や影などの映り込みだ。意図して入れるのならかまわないが、知らない間に撮影者が写ってしまっているのはなんともカッコ悪い。シャッターを押す前によくファインダーの中を見回して確認しておきたい。
次に気をつけたいのは水平。紹介した作例でも微妙に斜めになっているものもあるが、とにかく斜めになっていると目立つ。撮影後にソフトで修正することは可能だが、その際は若干の画質の低下を覚悟しなければならないし、第一面倒だ。三脚を立てて撮る余裕がある場合は小さな水準器も利用して、常に水平に気をつけながら撮影したい。
また、ストロボ撮影などでは、光が隅々まで届かないことが多い。ストロボに散光アダプタなどをつけたり、バウンスさせたりして光を拡散させる必要がある。逆に、ストロボの光が中心部にしか当たらないことを利用し、スポットライトのような光の当て方をしてあえて人工的な雰囲気を出して撮影するという裏ワザもある。
そして、広角レンズで撮る際に最も気をつけなければならないのは「人物」だ。全体が入らないからといって集合写真に安易に超広角レンズを使ってしまうと端にいる人は大きく歪み、悲惨なことになる。下手をするとガマガエルみたいに写ってしまい、人間関係が終わりかねないほどのインパクトがあるので要注意だ。
とにかく水平に構え、可能な限り寄って撮れば、どんな被写体も面白く取れることは請け合い。デジタル一眼レフを持っているなら広角レンズはイチオシのレンズだ。また、現在広角域までカバーするズームレンズを持っている場合でも、普段広角側はなかなか使わないだろう。それを意図的に使ってみると、新たな発見があるかもしれない。コンパクトデジカメでも、最近は広角レンズ搭載のモデルも増えてきた。一番多いのは28mm近辺の広角で、若干物足りないかもしれないが、それなりの効果は楽しめる。ぜひ試してみて欲しい。(WebBCNランキング編集長・道越一郎)