どう違う? 液晶テレビの「VA」と「IPS」、その特徴と選択のポイント
今や薄型テレビ市場の9割以上を占める液晶テレビ。人気の秘密は画質の向上だ。見る角度で画面が白くなるなどというのは昔の話。最新モデルは斜めから見てもクッキリと鮮やかだ。これを実現するキーワードが「VA」と「IPS」。いずれも高画質化を支える液晶技術のことで、それぞれに特徴がある。あまり知られていないが、現在市販されている液晶テレビは、このいずれかの技術を採用している。そこで、「BCNランキング」での市場動向を交えながら、それぞれの特徴などについてまとめた。
都内近郊にある郊外型量販店のテレビ売り場。一番目立つ通路沿いのスペースには売れ筋の32V型を中心とした液晶テレビが並ぶ。ここでまず目に入るのが「世界の亀山モデル」をうたったシャープの「AQUOS(アクオス)」。そして、最近目立ち始めたのが「斜めからでもクッキリ IPS液晶テレビ」などと「IPS」をうたった液晶テレビの存在だ。
店員は「以前は液晶テレビと言えば『AQUOS』という来店者がほとんどだったが、今ではIPS液晶テレビについてたずねられることも多い」と話す。また、都内大手量販店の店員も「最近では聞かれる前にIPSについて説明することにしている」という。
この「IPS」とは「In-Plane-Switching=横電界」のことで、液晶テレビのパネル方式の1つ。液晶の弱点と言われていた視野角を改善し、高画質化を実現するための技術だ。もう1つ主流なのが、「VA」と呼ばれる技術。「Vertical Alignment=垂直配向」の略だ。こうした新技術投入のおかげで、美しい画面表示が可能になり、液晶テレビは売れ筋商品となったといってもいい。となると、実際に液晶テレビ選ぶ際にも、1つのポイントとして、こうしたパネルの種類や特徴について知っておいたほうがよさそうだ。
●液晶テレビの弱点を克服する「VA」と「IPS」、何がどう違う?
液晶テレビは消費電力が少なく、ブラウン管よりも薄くできるのがメリット。一方で、視野角が狭く、角度によってはコントラスト(明るい部分「白」と暗い部分「黒」との差)や色が変化してしまうことが弱点と言われてきた。そこで、それを克服するために開発されたのが広視野角・高画質技術の「VA」と「IPS」だ。
液晶テレビは、電圧のオン・オフで光を遮ったり通したりするという物質「液晶」の特性を利用してつくられている。液晶自身は光らないため、蛍光灯などの「バックライト」を後ろに置いて、その光を細かい点の単位で高速に遮ったり通したりすることによって、映像を表示する。つまり液晶は細かな「シャッター」の役目を果たしているわけだ。「VA」と「IPS」は、このシャッターとして働いている「液晶」を、「どのように配置するか」という部分で異なっている。
まず「VA」は、電圧をかけない時には液晶が基板に対して垂直に立って光を遮断して「暗(黒)」、電圧をかけた時には倒れて光を通し「明(白)」を作り出す方式。液晶を並べる構造上、光をほぼ完全に遮断できる、という特徴がある。このため、純度の高い「黒」が表現できるとされている。つまり高いコントラストが実現できるのだ。細かな点ではさまざまなバリエーションがあるが、シャープや富士通、韓国のサムスン電子などが開発したものだ。
また、斜めから見ても映像がきれいに見えるようにする「マルチドメイン」という技術も使われている。これは、1つの画素をさらに分割し、どこから見ても同じに見えるように液晶の向きをそれぞれ変えて並べる方法だ。細かな点や呼び方はメーカーごとに異なっているが、基本的な考え方は同じだ。
もう一方の技術が「IPS」。これは、液晶を基板に平行に配置し、水平に回転させることで光を制御する方式。液晶が基板に対して常に寝ている状態になるため、もともと視野角が広く、斜めから見ても色やコントラストなどが変わりにくいのが特徴だ。
開発したのは日立製作所。この「IPS」は「VA」に比べ、コントラストや輝度が低いとの指摘もあったが、日立では光の透過率を上げることなどで高輝度化と高コントラスト化を図り、性能を向上させてきた。IPS方式のパネルは、日立製作所の子会社で、松下電器産業や東芝が出資する液晶パネル製造会社「IPSアルファテクノロジ」が国内で唯一生産している。
●多数派は「VA」陣営のシャープやソニー
それでは、現在売られている液晶テレビは「VA」「IPS」、どちらがどれくらい使われているのだろうか。「BCNランキング」の6月データで、液晶テレビメーカー販売台数別シェアの上位7社のうち、パネル方式についての回答が得られた5社(シャープ、ソニー、松下電器産業、東芝、日立製作所)のモデルに限って集計してみた。その結果、方式別のシェアでは「VA」は83%、IPSは17%となった。
「VA」を採用しているメーカーは、シャープやソニー。シャープは「VA」方式のパネルを「AQUOS」全機種に搭載している。なかでも同社最新の液晶パネル「ブラックASV液晶」は、VAの特性を活かしたもの。正面コントラスト比が暗所で1200:1、リビングなど明るい場所では550:1と「どんな場所でもテレビの画をきれいに出す基本の白と黒がきちんと出る」(水島繁光・取締役ディスプレイ技術開発本部長)ことにこだわったパネルだ。
視野角改善では、1画素を構成するRGBのドットを2つに分割し、細かく階調を制御する「マルチ画素」と呼ぶ独自のマルチドメイン技術を開発。色の階調変化を抑え、上下左右で視野角が176度を実現した。
「ブラックASV液晶」「マルチ画素」は、65V型を除く26V型以上の「AQUOS」に搭載。32V型以上の機種では、青、緑、赤に深紅を加えたバックライトを採用し、深みのある赤色も再現できるようにした。
ソニーは液晶テレビ「BRAVIA(ブラビア)」でVA方式のパネルを採用。「BRAVIA」の液晶パネル「ソニーパネル」は、光漏れを防ぐカラーフィルターを使うことで、ほかのVA方式よりもより高いコントラストを追求したのが特徴だ。暗所での正面コントラスト比は1300:1で「暗い場面が多い映画でもディテールがわかる」(吉田秀史・テレビ事業本部映像デバイス部門LCDパネル技術部担当部長)ほどの細かな表現をできるようにした。
ソニーでは、1つの画素を2つに分割、別々に明るさと暗さを制御するマルチドメイン技術を開発し、上下左右で178度に視野角を広げた。上位機種では、赤・緑の波長を強める新しい蛍光体を使ったバックライトを採用し、色の再現領域を拡大している。「ソニーパネル」はソニーと韓国のサムスン電子が折半出資した液晶パネル製造会社「S-LCD」で生産している。
ここで、「VA」陣営に限って算出した、液晶テレビの機種別ランキング見てみよう。
1位はシェア15.3%でシャープ「AQUOS」の「LC-32BD1」。32V型のアンダースピーカーモデルだ。「ブラックASV液晶」を採用、ハイビジョン放送を高画質で再現する「高精細画像処理LSI」を搭載し、地上・BS・CS110度デジタルチューナーを内蔵する。「AQUOS」はシェア7.6%で2位の20V型「LC-20EX1-S」、5.1%で3位の32V型サイドスピーカーの「LC-32BD2」など5位までを占めた。
ソニーの「BRAVIA」は32V型「KDL-32V2000」がシェア4.6%で6位につけた。「ソニーパネル」に加え、色の再現領域を広げたバックライトシステム「ライブカラークリエーション」、フルデジタル処理の映像処理回路「ブラビアエンジン」が特徴のモデルだ。そのほか「BRAVIA」では、シェア3.9%で7位の20V型「KDL-20S2000」など4機種が入った。
●少数派の「IPS」、陣容は日立、松下、東芝
「IPS」を採用するのは日立、松下、東芝だ。日立は液晶テレビ「Wooo(ウー!)」で「IPS」パネルを搭載する。32V型の上位機種ではIPSアルファテクノロジの最新パネル「IPSαパネル」を採用。「IPSαパネル」は視野角が上下左右で178度、暗所でのコントラスト比は正面で1000:1、パネル周辺部では400:1だ。
最大の特徴である視野角は、VA採用メーカーも技術の進歩で肩を並べ始めているが、IPSアルファテクノロジも兼任する日立の液晶子会社、日立ディスプレイズの小野記久雄TV用TFT開発部部長は「正面コントラストが高いVAと違い、画面全域でコントラストが一定、色飛びも起こらずどんな角度からも安定して見ることができる」と視野角・画質を合わせた表示技術の高さを強調する。
松下も液晶テレビ「VIERA(ビエラ)」で、アナログチューナー内蔵の20V型以外の全機種がIPS。32V型の最上位機種「32LX600」、9月に発売する32V・26V型の普及モデルでは「IPSαパネル」を搭載する。東芝も1部の機種を除き、液晶テレビ「REGZA(レグザ)」で、IPSパネルを採用している。
「IPS」陣営に限って算出した、液晶テレビの機種別ランキングでは、トップはシェア18.6%で松下「VIERA」の32V型普及モデル「TH-32LX60」。視野角は上下左右178度で、色の再現性向上し、コントラストを制御して奥行き感のある映像を映し出す映像処理回路「新PEAKS(ピークス)」を搭載する。松下は2位でシェア13.9%の26V型「TH-26LX60」、11.8%で3位の「TH-15LD60」など4位までを占める。
日立の液晶テレビ「Wooo」も32V型「W32L-HR9000」が4.1%で9位。デジタルハイビジョン画質のTSモードでは23時間の録画が可能な250GBのHDDを内蔵する液晶テレビだ。「IPSαパネル」を採用し、バックライトの光漏れを抑える特殊フィルターを装備することで、IPSの視野角特性をさらに向上させた。
販売台数シェアで17%と「VA」に比べて少数派の「IPS」。この理由について、開発元の日立では、「TV用に展開するのが遅く、技術もこれまで他社に使わせなかった」(小野部長)ことで、液晶テレビ市場で出遅れたためと説明している。しかし今後は、「シェア拡大を図るため、今年後半に向けIPSを徹底的にアピールしていく」(同)方針で、冬のボーナス商戦では巻き返しを図りたい考えだ。
●メリハリある映像を楽しみたいなら「VA」、複数で視聴するなら「IPS」
液晶テレビの2つのパネル方式「VA」と「IPS」。それぞれの特徴のによって、オススメをまとめてみると、まず、コントラストが締まったメリハリのある映像を楽しみたいなら「VA」ということになる。同じVAでも部屋の「明るい」「暗い」を問わず、しっかりとした映像を楽しみたい人であればシャープの「AQUOS」、より色味やディテールにこだわりたいという人であればソニーの「BRAVIA」ということになりそうだ。
一方、食卓やリビング、リビングダイニングにテレビを置いて複数の人がテレビを囲んで見ることが多いのであれば、視野角が広く色やコントラスト変化が少ない日立や松下、東芝のIPS液晶テレビをまず考えたい。
ただし、どちらの方式のテレビを選ぶにしろ、大切なのは自分の目で確かめること。自分がよく見るコンテンツを考えて、店頭で表示モードなども確認しながら製品を選ぶことが重要だ。実際によく観るDVDを店頭に持参して、再生してもらうのもいいだろう。
また、視野角については、どのメーカーも「コントラスト比が10:1を確保できる角度」というJEITA(社団法人・電子情報技術産業協会)の規格基準に準拠して算出している。「10:1」はかなり低いコントラスト比となるため、こちらも店頭で展示されている製品を斜めから見るなどして、実際に自分の目で確認することが重要だ。
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など22社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。
都内近郊にある郊外型量販店のテレビ売り場。一番目立つ通路沿いのスペースには売れ筋の32V型を中心とした液晶テレビが並ぶ。ここでまず目に入るのが「世界の亀山モデル」をうたったシャープの「AQUOS(アクオス)」。そして、最近目立ち始めたのが「斜めからでもクッキリ IPS液晶テレビ」などと「IPS」をうたった液晶テレビの存在だ。
店員は「以前は液晶テレビと言えば『AQUOS』という来店者がほとんどだったが、今ではIPS液晶テレビについてたずねられることも多い」と話す。また、都内大手量販店の店員も「最近では聞かれる前にIPSについて説明することにしている」という。
この「IPS」とは「In-Plane-Switching=横電界」のことで、液晶テレビのパネル方式の1つ。液晶の弱点と言われていた視野角を改善し、高画質化を実現するための技術だ。もう1つ主流なのが、「VA」と呼ばれる技術。「Vertical Alignment=垂直配向」の略だ。こうした新技術投入のおかげで、美しい画面表示が可能になり、液晶テレビは売れ筋商品となったといってもいい。となると、実際に液晶テレビ選ぶ際にも、1つのポイントとして、こうしたパネルの種類や特徴について知っておいたほうがよさそうだ。
●液晶テレビの弱点を克服する「VA」と「IPS」、何がどう違う?
液晶テレビは消費電力が少なく、ブラウン管よりも薄くできるのがメリット。一方で、視野角が狭く、角度によってはコントラスト(明るい部分「白」と暗い部分「黒」との差)や色が変化してしまうことが弱点と言われてきた。そこで、それを克服するために開発されたのが広視野角・高画質技術の「VA」と「IPS」だ。
液晶テレビは、電圧のオン・オフで光を遮ったり通したりするという物質「液晶」の特性を利用してつくられている。液晶自身は光らないため、蛍光灯などの「バックライト」を後ろに置いて、その光を細かい点の単位で高速に遮ったり通したりすることによって、映像を表示する。つまり液晶は細かな「シャッター」の役目を果たしているわけだ。「VA」と「IPS」は、このシャッターとして働いている「液晶」を、「どのように配置するか」という部分で異なっている。
まず「VA」は、電圧をかけない時には液晶が基板に対して垂直に立って光を遮断して「暗(黒)」、電圧をかけた時には倒れて光を通し「明(白)」を作り出す方式。液晶を並べる構造上、光をほぼ完全に遮断できる、という特徴がある。このため、純度の高い「黒」が表現できるとされている。つまり高いコントラストが実現できるのだ。細かな点ではさまざまなバリエーションがあるが、シャープや富士通、韓国のサムスン電子などが開発したものだ。
また、斜めから見ても映像がきれいに見えるようにする「マルチドメイン」という技術も使われている。これは、1つの画素をさらに分割し、どこから見ても同じに見えるように液晶の向きをそれぞれ変えて並べる方法だ。細かな点や呼び方はメーカーごとに異なっているが、基本的な考え方は同じだ。
もう一方の技術が「IPS」。これは、液晶を基板に平行に配置し、水平に回転させることで光を制御する方式。液晶が基板に対して常に寝ている状態になるため、もともと視野角が広く、斜めから見ても色やコントラストなどが変わりにくいのが特徴だ。
開発したのは日立製作所。この「IPS」は「VA」に比べ、コントラストや輝度が低いとの指摘もあったが、日立では光の透過率を上げることなどで高輝度化と高コントラスト化を図り、性能を向上させてきた。IPS方式のパネルは、日立製作所の子会社で、松下電器産業や東芝が出資する液晶パネル製造会社「IPSアルファテクノロジ」が国内で唯一生産している。
●多数派は「VA」陣営のシャープやソニー
それでは、現在売られている液晶テレビは「VA」「IPS」、どちらがどれくらい使われているのだろうか。「BCNランキング」の6月データで、液晶テレビメーカー販売台数別シェアの上位7社のうち、パネル方式についての回答が得られた5社(シャープ、ソニー、松下電器産業、東芝、日立製作所)のモデルに限って集計してみた。その結果、方式別のシェアでは「VA」は83%、IPSは17%となった。
「VA」を採用しているメーカーは、シャープやソニー。シャープは「VA」方式のパネルを「AQUOS」全機種に搭載している。なかでも同社最新の液晶パネル「ブラックASV液晶」は、VAの特性を活かしたもの。正面コントラスト比が暗所で1200:1、リビングなど明るい場所では550:1と「どんな場所でもテレビの画をきれいに出す基本の白と黒がきちんと出る」(水島繁光・取締役ディスプレイ技術開発本部長)ことにこだわったパネルだ。
視野角改善では、1画素を構成するRGBのドットを2つに分割し、細かく階調を制御する「マルチ画素」と呼ぶ独自のマルチドメイン技術を開発。色の階調変化を抑え、上下左右で視野角が176度を実現した。
「ブラックASV液晶」「マルチ画素」は、65V型を除く26V型以上の「AQUOS」に搭載。32V型以上の機種では、青、緑、赤に深紅を加えたバックライトを採用し、深みのある赤色も再現できるようにした。
ソニーは液晶テレビ「BRAVIA(ブラビア)」でVA方式のパネルを採用。「BRAVIA」の液晶パネル「ソニーパネル」は、光漏れを防ぐカラーフィルターを使うことで、ほかのVA方式よりもより高いコントラストを追求したのが特徴だ。暗所での正面コントラスト比は1300:1で「暗い場面が多い映画でもディテールがわかる」(吉田秀史・テレビ事業本部映像デバイス部門LCDパネル技術部担当部長)ほどの細かな表現をできるようにした。
ソニーでは、1つの画素を2つに分割、別々に明るさと暗さを制御するマルチドメイン技術を開発し、上下左右で178度に視野角を広げた。上位機種では、赤・緑の波長を強める新しい蛍光体を使ったバックライトを採用し、色の再現領域を拡大している。「ソニーパネル」はソニーと韓国のサムスン電子が折半出資した液晶パネル製造会社「S-LCD」で生産している。
ここで、「VA」陣営に限って算出した、液晶テレビの機種別ランキング見てみよう。
1位はシェア15.3%でシャープ「AQUOS」の「LC-32BD1」。32V型のアンダースピーカーモデルだ。「ブラックASV液晶」を採用、ハイビジョン放送を高画質で再現する「高精細画像処理LSI」を搭載し、地上・BS・CS110度デジタルチューナーを内蔵する。「AQUOS」はシェア7.6%で2位の20V型「LC-20EX1-S」、5.1%で3位の32V型サイドスピーカーの「LC-32BD2」など5位までを占めた。
ソニーの「BRAVIA」は32V型「KDL-32V2000」がシェア4.6%で6位につけた。「ソニーパネル」に加え、色の再現領域を広げたバックライトシステム「ライブカラークリエーション」、フルデジタル処理の映像処理回路「ブラビアエンジン」が特徴のモデルだ。そのほか「BRAVIA」では、シェア3.9%で7位の20V型「KDL-20S2000」など4機種が入った。
●少数派の「IPS」、陣容は日立、松下、東芝
「IPS」を採用するのは日立、松下、東芝だ。日立は液晶テレビ「Wooo(ウー!)」で「IPS」パネルを搭載する。32V型の上位機種ではIPSアルファテクノロジの最新パネル「IPSαパネル」を採用。「IPSαパネル」は視野角が上下左右で178度、暗所でのコントラスト比は正面で1000:1、パネル周辺部では400:1だ。
最大の特徴である視野角は、VA採用メーカーも技術の進歩で肩を並べ始めているが、IPSアルファテクノロジも兼任する日立の液晶子会社、日立ディスプレイズの小野記久雄TV用TFT開発部部長は「正面コントラストが高いVAと違い、画面全域でコントラストが一定、色飛びも起こらずどんな角度からも安定して見ることができる」と視野角・画質を合わせた表示技術の高さを強調する。
松下も液晶テレビ「VIERA(ビエラ)」で、アナログチューナー内蔵の20V型以外の全機種がIPS。32V型の最上位機種「32LX600」、9月に発売する32V・26V型の普及モデルでは「IPSαパネル」を搭載する。東芝も1部の機種を除き、液晶テレビ「REGZA(レグザ)」で、IPSパネルを採用している。
「IPS」陣営に限って算出した、液晶テレビの機種別ランキングでは、トップはシェア18.6%で松下「VIERA」の32V型普及モデル「TH-32LX60」。視野角は上下左右178度で、色の再現性向上し、コントラストを制御して奥行き感のある映像を映し出す映像処理回路「新PEAKS(ピークス)」を搭載する。松下は2位でシェア13.9%の26V型「TH-26LX60」、11.8%で3位の「TH-15LD60」など4位までを占める。
日立の液晶テレビ「Wooo」も32V型「W32L-HR9000」が4.1%で9位。デジタルハイビジョン画質のTSモードでは23時間の録画が可能な250GBのHDDを内蔵する液晶テレビだ。「IPSαパネル」を採用し、バックライトの光漏れを抑える特殊フィルターを装備することで、IPSの視野角特性をさらに向上させた。
販売台数シェアで17%と「VA」に比べて少数派の「IPS」。この理由について、開発元の日立では、「TV用に展開するのが遅く、技術もこれまで他社に使わせなかった」(小野部長)ことで、液晶テレビ市場で出遅れたためと説明している。しかし今後は、「シェア拡大を図るため、今年後半に向けIPSを徹底的にアピールしていく」(同)方針で、冬のボーナス商戦では巻き返しを図りたい考えだ。
●メリハリある映像を楽しみたいなら「VA」、複数で視聴するなら「IPS」
液晶テレビの2つのパネル方式「VA」と「IPS」。それぞれの特徴のによって、オススメをまとめてみると、まず、コントラストが締まったメリハリのある映像を楽しみたいなら「VA」ということになる。同じVAでも部屋の「明るい」「暗い」を問わず、しっかりとした映像を楽しみたい人であればシャープの「AQUOS」、より色味やディテールにこだわりたいという人であればソニーの「BRAVIA」ということになりそうだ。
一方、食卓やリビング、リビングダイニングにテレビを置いて複数の人がテレビを囲んで見ることが多いのであれば、視野角が広く色やコントラスト変化が少ない日立や松下、東芝のIPS液晶テレビをまず考えたい。
ただし、どちらの方式のテレビを選ぶにしろ、大切なのは自分の目で確かめること。自分がよく見るコンテンツを考えて、店頭で表示モードなども確認しながら製品を選ぶことが重要だ。実際によく観るDVDを店頭に持参して、再生してもらうのもいいだろう。
また、視野角については、どのメーカーも「コントラスト比が10:1を確保できる角度」というJEITA(社団法人・電子情報技術産業協会)の規格基準に準拠して算出している。「10:1」はかなり低いコントラスト比となるため、こちらも店頭で展示されている製品を斜めから見るなどして、実際に自分の目で確認することが重要だ。
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など22社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。