iPod動画対応の真意は? 発表イベントで来日中の米アップル開発者に聞いた
アップルコンピュータは10月13日午前10時、米国でスティーブ・ジョブズCEOが行った、新しい「iMac G5」や「iPod」の発表プレゼンテーションをビデオ上映する報道関係者向けのイベントを東京国際フォーラムで開催、日本発売を正式発表した。この模様を紹介しながら、アップルの新製品開発の意図やこれからの方向性などについてリポートする。
これは、イベントにあわせて来日した米国アップル開発担当の2 人のキーマン、iMac担当のトム・ボーガー氏とiPod担当のスタン・イング氏に、WebBCNランキング編集部が行った単独インタビューで明らかになったもの。
●Photo Boothの特殊効果にノリノリのジョブズCEO
ジョブズCEOがプレゼンテーションの最初に発表したのは、04年9月に登場した「iMac G5」の後継となる新型「iMac G5」。さらにスリムになり、まるで液晶テレビさながらのスタイル。アップルのウェブカメラ「iSight」が画面上部に内蔵され、「Front Row」と呼ばれるリモコンシステムが搭載された。
「iSight」を使った新アプリケーション「Photo Booth」は、街角の証明写真BOXになぞらえた自分撮りが楽しめる茶目っ気たっぷりの撮影ソフト。残念ながら本体に「ストロボ」は内蔵していないが、撮影時に画面が一瞬真っ白になり「なんちゃってストロボ」的な効果を生み出す。画像をさまざまに加工して撮影する特殊効果も楽しめ、ジョブズCEOはノリノリで自分の「ヘンな顔」を何枚も撮影して会場を沸かせた。ビデオチャット「iChat AV」もカメラを活かす目玉機能。自分も含め4人でのビデオチャットの模様も披露した。
また、新たに搭載した音楽や写真、ビデオなどの再生をコントロールするリモコンシステム「Front Row」については、そのシンプルさをアピール。40個以上もボタンがある他社製リモコンと、たった6個のボタンしかない「Front Row」のリモコンを比較して、笑いをとっていた。
●メインディッシュは動画対応の新iPodと、テレビドラマのiTMS販売
「そろそろHDDタイプも取り替える時期だろう?」と、本気ともジョークともとれるコメントに続いてジョブズCEOが発表したのは、新iPod。その冒頭で動画再生に対応したことを明らかにした。2.5型の大型液晶で動画が楽しめるようになったというのはもちろん、音楽プレーヤーとしての完成度も高まったとコメント。また薄さについては、旧20GBモデルに比べ、30GBモデルで31%、60GBモデルでも12%も薄くなったと強調した。新iPodはビデオ対応が目玉機能だが、動画機能はあくまでも「ボーナス」とし、最高の音楽プレーヤーをつくったとiPodの発表をしめくくった。続いてアナウンスされたのが、iTunes6のリリース。新iPodの動画機能に対応したもので、目玉はミュージックビデオや短編映画が購入できるようになったことだ。さらに、米ABCとの連携によってテレビドラマもiTunes Music Store(iTMS)で購入できるコンテンツのラインアップに加わったことが明かされた。
一通りプレゼンテーションを終えた後、「アンコール」として登場したのは、ジャズとクラシック両部門でのグラミー賞受賞を史上初に果たしたトランペット奏者、ウイントン・マルサリスだった。ドラムス、ベース、ピアノを引き連れ、約15分間にわたって「神がかったテクニック」を披露した後、ジョブズCEOのプレゼンテーションは終了した。
●キーマン2人に聞く、iPodとiMac、3つのなぜ
イベント後、WebBCNランキング編集部では、トム・ボーガー ワールドワイドデスクトッププロダクトマーケティング担当シニアディレクターと、スタン・イング プロダクトマーケティングiPod担当ディレクターに単独インタビューを行った。
まず、「iPod」にビデオ再生機能を搭載した理由について、イング氏に尋ねた。再度確認したかったのは、これから「iPod」を携帯ビデオプレーヤーとして展開していくつもりなのかどうか、という点である。これに対してイング氏ははっきりと、「iPodはこれからもベストミュージックプレーヤーであり続ける」と答えた。
「iPod」にとって、ビデオ再生はあくまで音楽を楽しむためのオマケ的な機能と割り切っているという。音楽シーンでは、いまやミュージックビデオはとてもポピュラーな存在となってきている。自分の音楽ライブラリを持ち歩くように、好きなアーティストのミュージックビデオも持ち歩きたい、というユーザーの要望に応えたものだ。
●動画に対応しても、iPodのデザインを変えなかったのは、なぜ?
「iPodは音楽を楽しむためのデバイスであって、ビデオプレーヤーではない」とイング氏。だから、iTMSでは、ミュージックビデオやショートムービーなど、音楽を聞く楽しさを邪魔しない程度の動画を扱う。本格的な長編映画をiTMSで提供するようなことは、当面考えていないという。アップルの真意は決してデジタルコンテンツのプロバイダになることではないようだ。
「iPod」はミュージックプレーヤー、という考え方は、そのデザインにも現れている。今回の動画対応で確かに液晶ディスプレイは大きくなった。しかし「iPod」としての基本デザインは変更されていない。発表前にネットで飛び交ったさまざまな憶測の中には、本体前面をおおうようなもっと大型のディスプレイになるとか、クリックホイールではなくビデオ操作に適したインタフェースに変わるといったものもあった。
なぜデザインを変更しなかったのかをイング氏に問うと、「iPodのデザインは、すでに1つのアイコンとして認知されているから」との答が返ってきた。「iPod nano」が発売から17日間で100万台を売ったのも、あのサイズ、薄さで、「iPod」としてのデザインや操作性を実現しているところにあるからだ、とイング氏は分析する。
●HD-DVDレコーダーなどのデジタル家電と連携しないのは、なぜ?
動画に対応したといっても、例えば、HD-DVD レコーダーに撮りためたテレビ番組をiPodに直接転送して楽しむ、といった使い方は想定されていない。「iPod」は、「iTunes」と連携してはじめて機能するデバイスなわけだが、これを変える意図はないのだろうか。イング氏の答えは「ない」だった。
アップルのコンセプトは、「MacやPCがデジタルハブとなり、そこにさまざまなデバイスがつながる」というもの。デジタルライフの中心は今後もパソコンにある、という考え方だ。「パソコンを経由して音楽や動画や写真にアクセスすることで、私たちは、それらを自分なりのスタイルで楽しむ創造性を発揮することができる」というものだ。
日本では、テレビが観られるパソコンが当たり前のようになってきているが、新型「iMac G5」にもテレビチューナーは搭載されていない。ビデオ「iPod」の登場で、テレビ番組をキャプチャして「iPod」で観たい、という要望も多く出てきそうに思うが、パソコンがテレビになることは、こうしたデジタルハブの考え方とは相容れないもののようだ。
「Macがテレビになるのではなく、MacはあくまでMacとしてあり、その中に取り込んだ写真や音楽を楽しむというスタイルを提案したい。そのために我々が新しいiMac G5に搭載したのが、Front Rowだ」と、ボーガー氏は言う。
●iMacにカメラを組み込んだのは、なぜ?
「Front Row」とリモートコントローラーの「Apple Remote」の組み合わせは、写真の楽しみ方、音楽の楽しみ方、映像の楽しみ方に新しい体験をもたらす。ソファでくつろぎながら、ミュージックビデオを観たり、思い出の写真のスライドショーで盛り上がったり。「そうした楽しみを提供する中心は、常にMacにある。「Front Row」は、Macがハブとなったデジタルライフをさらに豊かなものにしてくれるだろう」というのが、ボーガー氏の意見だ。
「iMac G5」にiSightカメラをビルトインした理由についても、ボーガー氏はこう語る。「ビデオ会議やビデオチャットのニーズはますます高まってきている。とくに、Mac OS X 10.4 Tigerの登場によって、誰でも簡単にビデオ会議ができる環境が整った。そうしたテクノロジーの進化によって、これまで経験したことのない楽しさが現実のものになるのだということをさらに多くの人たちに知ってほしいと考えた結果、iSightカメラをビルトインすることにした」
パーソナルコンピュータという概念を生み出したアップルだからこそ、iPodが大ヒットしている状況にあっても基本的なスタンスに変化はないようだ。つまり、パソコンをデジタルライフスタイルのハブとして位置づけ、人々が未体験の豊かな生活を実現できるようなコンピュータ環境を作り続ける。さらに、ハードばかりでなく使っていて楽しくなるようなソフトウェアを提供し続ける、そんなスタンスだ。パーソナルコンピュータが創造する未来や可能性を信じて製品を世に送り出し続ける企業、それがアップルだ、というメッセージを今回の取材を通じて改めて強く感じた。(フリーライター・中村光宏/WebBCNランキング編集長・道越一郎)
これは、イベントにあわせて来日した米国アップル開発担当の2 人のキーマン、iMac担当のトム・ボーガー氏とiPod担当のスタン・イング氏に、WebBCNランキング編集部が行った単独インタビューで明らかになったもの。
●Photo Boothの特殊効果にノリノリのジョブズCEO
ジョブズCEOがプレゼンテーションの最初に発表したのは、04年9月に登場した「iMac G5」の後継となる新型「iMac G5」。さらにスリムになり、まるで液晶テレビさながらのスタイル。アップルのウェブカメラ「iSight」が画面上部に内蔵され、「Front Row」と呼ばれるリモコンシステムが搭載された。
「iSight」を使った新アプリケーション「Photo Booth」は、街角の証明写真BOXになぞらえた自分撮りが楽しめる茶目っ気たっぷりの撮影ソフト。残念ながら本体に「ストロボ」は内蔵していないが、撮影時に画面が一瞬真っ白になり「なんちゃってストロボ」的な効果を生み出す。画像をさまざまに加工して撮影する特殊効果も楽しめ、ジョブズCEOはノリノリで自分の「ヘンな顔」を何枚も撮影して会場を沸かせた。ビデオチャット「iChat AV」もカメラを活かす目玉機能。自分も含め4人でのビデオチャットの模様も披露した。
また、新たに搭載した音楽や写真、ビデオなどの再生をコントロールするリモコンシステム「Front Row」については、そのシンプルさをアピール。40個以上もボタンがある他社製リモコンと、たった6個のボタンしかない「Front Row」のリモコンを比較して、笑いをとっていた。
●メインディッシュは動画対応の新iPodと、テレビドラマのiTMS販売
「そろそろHDDタイプも取り替える時期だろう?」と、本気ともジョークともとれるコメントに続いてジョブズCEOが発表したのは、新iPod。その冒頭で動画再生に対応したことを明らかにした。2.5型の大型液晶で動画が楽しめるようになったというのはもちろん、音楽プレーヤーとしての完成度も高まったとコメント。また薄さについては、旧20GBモデルに比べ、30GBモデルで31%、60GBモデルでも12%も薄くなったと強調した。新iPodはビデオ対応が目玉機能だが、動画機能はあくまでも「ボーナス」とし、最高の音楽プレーヤーをつくったとiPodの発表をしめくくった。続いてアナウンスされたのが、iTunes6のリリース。新iPodの動画機能に対応したもので、目玉はミュージックビデオや短編映画が購入できるようになったことだ。さらに、米ABCとの連携によってテレビドラマもiTunes Music Store(iTMS)で購入できるコンテンツのラインアップに加わったことが明かされた。
一通りプレゼンテーションを終えた後、「アンコール」として登場したのは、ジャズとクラシック両部門でのグラミー賞受賞を史上初に果たしたトランペット奏者、ウイントン・マルサリスだった。ドラムス、ベース、ピアノを引き連れ、約15分間にわたって「神がかったテクニック」を披露した後、ジョブズCEOのプレゼンテーションは終了した。
●キーマン2人に聞く、iPodとiMac、3つのなぜ
イベント後、WebBCNランキング編集部では、トム・ボーガー ワールドワイドデスクトッププロダクトマーケティング担当シニアディレクターと、スタン・イング プロダクトマーケティングiPod担当ディレクターに単独インタビューを行った。
まず、「iPod」にビデオ再生機能を搭載した理由について、イング氏に尋ねた。再度確認したかったのは、これから「iPod」を携帯ビデオプレーヤーとして展開していくつもりなのかどうか、という点である。これに対してイング氏ははっきりと、「iPodはこれからもベストミュージックプレーヤーであり続ける」と答えた。
「iPod」にとって、ビデオ再生はあくまで音楽を楽しむためのオマケ的な機能と割り切っているという。音楽シーンでは、いまやミュージックビデオはとてもポピュラーな存在となってきている。自分の音楽ライブラリを持ち歩くように、好きなアーティストのミュージックビデオも持ち歩きたい、というユーザーの要望に応えたものだ。
●動画に対応しても、iPodのデザインを変えなかったのは、なぜ?
「iPodは音楽を楽しむためのデバイスであって、ビデオプレーヤーではない」とイング氏。だから、iTMSでは、ミュージックビデオやショートムービーなど、音楽を聞く楽しさを邪魔しない程度の動画を扱う。本格的な長編映画をiTMSで提供するようなことは、当面考えていないという。アップルの真意は決してデジタルコンテンツのプロバイダになることではないようだ。
「iPod」はミュージックプレーヤー、という考え方は、そのデザインにも現れている。今回の動画対応で確かに液晶ディスプレイは大きくなった。しかし「iPod」としての基本デザインは変更されていない。発表前にネットで飛び交ったさまざまな憶測の中には、本体前面をおおうようなもっと大型のディスプレイになるとか、クリックホイールではなくビデオ操作に適したインタフェースに変わるといったものもあった。
なぜデザインを変更しなかったのかをイング氏に問うと、「iPodのデザインは、すでに1つのアイコンとして認知されているから」との答が返ってきた。「iPod nano」が発売から17日間で100万台を売ったのも、あのサイズ、薄さで、「iPod」としてのデザインや操作性を実現しているところにあるからだ、とイング氏は分析する。
●HD-DVDレコーダーなどのデジタル家電と連携しないのは、なぜ?
動画に対応したといっても、例えば、HD-DVD レコーダーに撮りためたテレビ番組をiPodに直接転送して楽しむ、といった使い方は想定されていない。「iPod」は、「iTunes」と連携してはじめて機能するデバイスなわけだが、これを変える意図はないのだろうか。イング氏の答えは「ない」だった。
アップルのコンセプトは、「MacやPCがデジタルハブとなり、そこにさまざまなデバイスがつながる」というもの。デジタルライフの中心は今後もパソコンにある、という考え方だ。「パソコンを経由して音楽や動画や写真にアクセスすることで、私たちは、それらを自分なりのスタイルで楽しむ創造性を発揮することができる」というものだ。
日本では、テレビが観られるパソコンが当たり前のようになってきているが、新型「iMac G5」にもテレビチューナーは搭載されていない。ビデオ「iPod」の登場で、テレビ番組をキャプチャして「iPod」で観たい、という要望も多く出てきそうに思うが、パソコンがテレビになることは、こうしたデジタルハブの考え方とは相容れないもののようだ。
「Macがテレビになるのではなく、MacはあくまでMacとしてあり、その中に取り込んだ写真や音楽を楽しむというスタイルを提案したい。そのために我々が新しいiMac G5に搭載したのが、Front Rowだ」と、ボーガー氏は言う。
●iMacにカメラを組み込んだのは、なぜ?
「Front Row」とリモートコントローラーの「Apple Remote」の組み合わせは、写真の楽しみ方、音楽の楽しみ方、映像の楽しみ方に新しい体験をもたらす。ソファでくつろぎながら、ミュージックビデオを観たり、思い出の写真のスライドショーで盛り上がったり。「そうした楽しみを提供する中心は、常にMacにある。「Front Row」は、Macがハブとなったデジタルライフをさらに豊かなものにしてくれるだろう」というのが、ボーガー氏の意見だ。
「iMac G5」にiSightカメラをビルトインした理由についても、ボーガー氏はこう語る。「ビデオ会議やビデオチャットのニーズはますます高まってきている。とくに、Mac OS X 10.4 Tigerの登場によって、誰でも簡単にビデオ会議ができる環境が整った。そうしたテクノロジーの進化によって、これまで経験したことのない楽しさが現実のものになるのだということをさらに多くの人たちに知ってほしいと考えた結果、iSightカメラをビルトインすることにした」
パーソナルコンピュータという概念を生み出したアップルだからこそ、iPodが大ヒットしている状況にあっても基本的なスタンスに変化はないようだ。つまり、パソコンをデジタルライフスタイルのハブとして位置づけ、人々が未体験の豊かな生活を実現できるようなコンピュータ環境を作り続ける。さらに、ハードばかりでなく使っていて楽しくなるようなソフトウェアを提供し続ける、そんなスタンスだ。パーソナルコンピュータが創造する未来や可能性を信じて製品を世に送り出し続ける企業、それがアップルだ、というメッセージを今回の取材を通じて改めて強く感じた。(フリーライター・中村光宏/WebBCNランキング編集長・道越一郎)