鉄腕アトムは中村俊輔の夢を見るのか?
<strong><産業を変える力あふれるロボカップ></strong><br /><br /> 2050年の「大目標」に向けて世界のロボット技術は着実な進化を遂げている。7月19日に終了した「ロボカップ05大阪世界大会」では、ロボカップサッカー、ロボカップレスキュー、ロボカップジュニアの各分野で、昨年のリスボン大会からさらに一歩進んだ内容となり、ロボット産業の今後に大きな期待を抱かせる「精鋭」たちが顔をそろえた。
<産業を変える力あふれるロボカップ>
2050年の「大目標」に向けて世界のロボット技術は着実な進化を遂げている。7月19日に終了した「ロボカップ05大阪世界大会」では、ロボカップサッカー、ロボカップレスキュー、ロボカップジュニアの各分野で、昨年のリスボン大会からさらに一歩進んだ内容となり、ロボット産業の今後に大きな期待を抱かせる「精鋭」たちが顔をそろえた。
●ロボカップが掲げた「大目標」とは?
2050年にロボットによるサッカーチームが人間のサッカーワールドカップの優勝チームを打ち破ることを「大目標」とする「ロボカップ」。発想は92年に遡る。浅田稔、北野宏明、松原仁といった精鋭のロボット研究者が中心となって「ロボカップ」を発足、95年には「ロボカップ構想」として具体化、97年に名古屋で第1回世界大会を開催した。ちなみに、この「大目標」については、ロボカップ発足当初、北野宏明氏が評論家の立花隆との対談で刹那的に決まったものだが、今ではロボカップの顔として全世界に通用している。
しかし本当に2050年にロボットチームは人間のワールカップサッカー優勝チームに勝てるのか? ロボカップ国際委員会委員長・浅田稔教授はこう語る。「現在の技術レベルを考えると、まだ決定的ともいえる差があることは事実。鉄腕アトムに象徴される全能的なロボットという意味では、その実現は容易ではない。しかしサッカーという分野に限った上で運動能力を高めるということであれば、充分に可能だ。この場合、運動能力を高めると同時に、人間と同じフィールドで危険性をはらみながらも人間を傷つけることなく戦えるロボットでなければならない。この実現が2050年に可能かどうかということであれば、かなりの期待が持てると考えている」。
●ボールを追いかけて走り回る? それとも……
ロボカップでは2足歩行のヒューマノイドリーグの人気が高い。鉄腕アトムのイメージもありメディアの注目度もNO1だ。しかしロボットが2足歩行するという難しさが理解できたとしても、ヒューマノイドリーグを見てサッカーを「楽しむ」という気持ちになるには、人並み外れた広い心と豊かな想像力が必要だ。現在のヒューマノイドロボットは、ゆっくりと歩くことがやっと。今大会で初の試みとなった2対2のゴールキック対戦でも、ほんの1m先のボールを見つけて蹴るまでに何分もかかり、ボールを蹴るどころか倒れて前にすら進めないロボットが続出。試合ともなれば、ロボットが入り乱れて走り回るというイメージからはほど遠いのが現状だ。
ヒューマノイドリーグには優勝したチーム大阪の「VisionNexta」をはじめ、現時点での最高のロボットが出場していることを考えると、ヒューマノイドロボットの実用化などまだまだ先の話。ましてや人間との共生など夢の話と言わざるを得ない。すでに産業として成熟の域にある産業ロボットを製造する立場からは、所詮は趣味の話と冷ややかに見る向きも少なくない。
●産業と深くつながるロボカップの「選手」たち
しかし実際は、ロボカップと産業ロボットは深くつながりあっている。2足歩行のヒューマノイドロボットが、人間のロマンをかきたてるランドマーク・プロジェクトとして注目を集め、ロボット・テクノロジーをリードするためのシンボルであることは確か。だが、決してそれだけではない。ランドマーク・プロジェクトを手掛ける中で開発したさまざまな技術は、当然のことながら産業ロボットにとっても大きな成果として反映される。ロボットらしいロボットもあればロボットらしくないロボットもある。しかしテクノロジーは共通している。人と同じようにロボットも、外見だけで判断してはいけないのだ。
「人と共生する人工物はすべてロボット」というのがロボカップ国際委員会委員長・浅田稔教授の持論だ。これからさまざまな分野でさまざまな形のロボットが生まれて実践の時代に入る。携帯ストラップタイプのロボットから、重量級では人間大のアンドロイドロボットがあり、この中間に位置するのが掃除ロボットなど家電系やパソコンなど情報家電系だ。
浅田稔教授の考え方を進めると、パソコンも家電製品もすべてロボットということになる。特にパソコンの場合は、外部から情報を入手してこれを自身で処理・判断して動くので、テクノロジーとしても共有する部分が多い。音声応答による操作アドバイスなどを考えれば、これをロボットと呼んでもさして違和感はない。広大な底辺に支えられた人間のロマン――これがロボット産業の原動力になる。
●ロボカップから生まれた技術が産業構造を変える
ロボットが今後の産業として期待されるのは、巨大資本の大手メーカーが主導権を握るという従来の産業構造を打ち破る可能性が高いからだ。ホンダのASIMOやソニーのQRIOなど、話題性では大手メーカーに一日の長があるが、実際に活躍している企業を見ると必ずしも大手メーカーに偏ってはいない。今後のロボット産業の盛衰を決する高度な要素技術を持つ中小企業は数多い。しかしロボットは総合技術であり、単独でのロボット開発は難しい。だから企業群がグループを形成してロボット産業を盛り立てていく必要がある。中小企業が大企業の下請けとして機能するのではなく、中小企業群が並列で連携することによって主導権を握り得る。この産業構造の変化に対する期待が、ロボット産業への期待につながっている。
ロボカップはそのきっかけとして重要な役割を担う。サッカー、レスキュー、ジュニアという3つの分野から構成されるロボカップだが、企業の要求が強まれば産業関連のリーグが追加されてもおかしくない。F1の過酷なレースを戦い抜いた技術の成果がやがて一般車に反映されるように、ロボカップを戦い抜いた先端技術が次々とロボット産業に反映されてくる日も近い。これがロボカップのもう一つの大きな目標である。(倉増 裕)
<産業を変える力あふれるロボカップ>
2050年の「大目標」に向けて世界のロボット技術は着実な進化を遂げている。7月19日に終了した「ロボカップ05大阪世界大会」では、ロボカップサッカー、ロボカップレスキュー、ロボカップジュニアの各分野で、昨年のリスボン大会からさらに一歩進んだ内容となり、ロボット産業の今後に大きな期待を抱かせる「精鋭」たちが顔をそろえた。
●ロボカップが掲げた「大目標」とは?
2050年にロボットによるサッカーチームが人間のサッカーワールドカップの優勝チームを打ち破ることを「大目標」とする「ロボカップ」。発想は92年に遡る。浅田稔、北野宏明、松原仁といった精鋭のロボット研究者が中心となって「ロボカップ」を発足、95年には「ロボカップ構想」として具体化、97年に名古屋で第1回世界大会を開催した。ちなみに、この「大目標」については、ロボカップ発足当初、北野宏明氏が評論家の立花隆との対談で刹那的に決まったものだが、今ではロボカップの顔として全世界に通用している。
しかし本当に2050年にロボットチームは人間のワールカップサッカー優勝チームに勝てるのか? ロボカップ国際委員会委員長・浅田稔教授はこう語る。「現在の技術レベルを考えると、まだ決定的ともいえる差があることは事実。鉄腕アトムに象徴される全能的なロボットという意味では、その実現は容易ではない。しかしサッカーという分野に限った上で運動能力を高めるということであれば、充分に可能だ。この場合、運動能力を高めると同時に、人間と同じフィールドで危険性をはらみながらも人間を傷つけることなく戦えるロボットでなければならない。この実現が2050年に可能かどうかということであれば、かなりの期待が持てると考えている」。
●ボールを追いかけて走り回る? それとも……
ロボカップでは2足歩行のヒューマノイドリーグの人気が高い。鉄腕アトムのイメージもありメディアの注目度もNO1だ。しかしロボットが2足歩行するという難しさが理解できたとしても、ヒューマノイドリーグを見てサッカーを「楽しむ」という気持ちになるには、人並み外れた広い心と豊かな想像力が必要だ。現在のヒューマノイドロボットは、ゆっくりと歩くことがやっと。今大会で初の試みとなった2対2のゴールキック対戦でも、ほんの1m先のボールを見つけて蹴るまでに何分もかかり、ボールを蹴るどころか倒れて前にすら進めないロボットが続出。試合ともなれば、ロボットが入り乱れて走り回るというイメージからはほど遠いのが現状だ。
ヒューマノイドリーグには優勝したチーム大阪の「VisionNexta」をはじめ、現時点での最高のロボットが出場していることを考えると、ヒューマノイドロボットの実用化などまだまだ先の話。ましてや人間との共生など夢の話と言わざるを得ない。すでに産業として成熟の域にある産業ロボットを製造する立場からは、所詮は趣味の話と冷ややかに見る向きも少なくない。
●産業と深くつながるロボカップの「選手」たち
しかし実際は、ロボカップと産業ロボットは深くつながりあっている。2足歩行のヒューマノイドロボットが、人間のロマンをかきたてるランドマーク・プロジェクトとして注目を集め、ロボット・テクノロジーをリードするためのシンボルであることは確か。だが、決してそれだけではない。ランドマーク・プロジェクトを手掛ける中で開発したさまざまな技術は、当然のことながら産業ロボットにとっても大きな成果として反映される。ロボットらしいロボットもあればロボットらしくないロボットもある。しかしテクノロジーは共通している。人と同じようにロボットも、外見だけで判断してはいけないのだ。
「人と共生する人工物はすべてロボット」というのがロボカップ国際委員会委員長・浅田稔教授の持論だ。これからさまざまな分野でさまざまな形のロボットが生まれて実践の時代に入る。携帯ストラップタイプのロボットから、重量級では人間大のアンドロイドロボットがあり、この中間に位置するのが掃除ロボットなど家電系やパソコンなど情報家電系だ。
浅田稔教授の考え方を進めると、パソコンも家電製品もすべてロボットということになる。特にパソコンの場合は、外部から情報を入手してこれを自身で処理・判断して動くので、テクノロジーとしても共有する部分が多い。音声応答による操作アドバイスなどを考えれば、これをロボットと呼んでもさして違和感はない。広大な底辺に支えられた人間のロマン――これがロボット産業の原動力になる。
●ロボカップから生まれた技術が産業構造を変える
ロボットが今後の産業として期待されるのは、巨大資本の大手メーカーが主導権を握るという従来の産業構造を打ち破る可能性が高いからだ。ホンダのASIMOやソニーのQRIOなど、話題性では大手メーカーに一日の長があるが、実際に活躍している企業を見ると必ずしも大手メーカーに偏ってはいない。今後のロボット産業の盛衰を決する高度な要素技術を持つ中小企業は数多い。しかしロボットは総合技術であり、単独でのロボット開発は難しい。だから企業群がグループを形成してロボット産業を盛り立てていく必要がある。中小企業が大企業の下請けとして機能するのではなく、中小企業群が並列で連携することによって主導権を握り得る。この産業構造の変化に対する期待が、ロボット産業への期待につながっている。
ロボカップはそのきっかけとして重要な役割を担う。サッカー、レスキュー、ジュニアという3つの分野から構成されるロボカップだが、企業の要求が強まれば産業関連のリーグが追加されてもおかしくない。F1の過酷なレースを戦い抜いた技術の成果がやがて一般車に反映されるように、ロボカップを戦い抜いた先端技術が次々とロボット産業に反映されてくる日も近い。これがロボカップのもう一つの大きな目標である。(倉増 裕)