ゲスト:青空文庫の創始者 富田倫生 VS ホスト:BCN社長 奥田喜久男 青空文庫創始者の富田倫生さんを迎えての対談の第二弾(前回)。自著「パソコン創世記」を後世に残そうという思いから電子本にたどり着き、やがて古典名著を万人共有の文化としていきたいとの意思が青空文庫の原型を誕生させた。今回は、青空文庫の運営の実際、そして今後の展望などについて語ってもらった。【取材:2007年1月17日、BCN本社にて】
「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
<1000分の第4回【後編】>
※編注:文中の企業名は敬称を省略しました。
※編注:文中の企業名は敬称を省略しました。
空は万人の共有、本だって同じ
奥田 青空文庫って誰が名づけたの?富田 私です。青空のぬくもりや気持ちの良さは、誰でもタダで味わえる。そんなふうに、読みたいと思ったとき、ふと青空を見上げれば、そこに本が開かれる環境が、つくれるんじゃないかと。
奥田 ここまで発展すると思ってました?
富田 全然。こんなふうに仕立てれば、こんなふうに使えると見せたかっただけで、発展だとか成長だとかいったイメージは、まったくありませんでした。
最初のファイルは、与謝野晶子の「乱れ髪」、森鴎外の「高瀬舟」など5つだけ。それが、「手伝おう」という人がどんどん出てきて、10になり50になっていく。そうするとアクセス数も増える。サーバーは間借りしていたんですが、本業へのアクセス1に対し、われわれの方が10くらいになってしまった。それで「勘弁してよ」ということになり、間借り先を何度か変えました。
奥田 無料公開というと、収入は?
富田 トップページの広告で、サーバーの維持費をまかなっています。作業はすべて、ボランティア。この前の記事(週刊BCN2006年12月11月号・18面)で、奥田さんにバラされちゃいましたが、青空文庫が始まってから、私は髪結いの亭主です。
ただ、少なくとも私自身は、本の電子化は「ボランティアで進めるべきだ」と考えているわけではありません。青空文庫はこの形で成果をあげてきたけれど、ボランティアで進めることの制約も、はっきり見えています。
青空文庫では、公開前に、入力者とは別の人が必ず校正するようにしています。ところが、なかなか引き受け手がなくて、数年間ハードディスクの肥やしになっている作品がかなりある。少しでも回せるお金があるなら、慢性的な担い手不足の校正を仕事として頼むという考え方はあるだろうし、ごく初期には、漢字コード策定の基礎資料をつくるために、トヨタ財団からもらった支援金の一部で校正してもらったこともありました。ただ、大きなボランティアの枠の中に一部、有償の作業を組み込むのは大変難しい。「この形しかない」とは思わないけれど、青空文庫はこのままボランティアで進んでいくでしょう。
著作権期間の延長には反対
奥田 青空文庫では、著作権の死後70年延長問題に反対なさってますね。理由をわかりやすく説明してください。
富田 「保護」が強調されますが、著作権制度の目的は、著作者の権利を守ることそのものではありません。著作権法の第一条に、目的は「文化の発展に寄与すること」だとはっきり書いてある。権利を守ることは、そのための手段です。手段にはもう一つあって、「公正な利用」を促すこと。つまり、権利と利用のバランスをとって、文化が発展しやすい環境を作っていくことが目指されている。だからこそ、作者の死後50年を過ぎたら保護は打ち切って、公共財として扱おうと規定してあるわけです。
ただ、紙の本は、作って、配って、みんなの手元に届けるまでに、大きなお金がかかる。著作権が切れて印税分の10%程度がかからなくなっても、それで本が劇的に安くなるなんてことはありません。ところが電子ファイルなら、誰かがファイルを作りさえすれば、無料公開も夢じゃない。著作権制度に昔から組み込まれていた期待が、インターネットの時代がきて、ようやく力を発揮し始めた。本だけじゃない。音楽でも映像の分野でも、今後成果が上がるでしょう。そのタイミングで、保護期間を20年延ばせば、アーカイブで自由に公開できる作品はそれだけ古くなる。せっかくの可能性がしぼむ。だから延長には反対。青空文庫では、延長しないよう求める、署名活動を始めました。保護期間はこのままにして、電子アーカイブをどんどん育てるほうが、よほど賢明だと思います。