ゲスト:松下電器産業元副社長 水野博之 VS ホスト:BCN社長 奥田喜久男 前回は、トランジスタを発明したショックレイの話からシリコンバレーの誕生秘話に至るまでの“IT産業界の歴史”について、水野さんの博識ぶりを披露してもらった。続いて、現在のIT関連産業の状況を鋭く指摘していただく。【取材:2007年5月17日、BCN本社にて】
「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
<1000分の第12回【後編】>
※編注:文中の企業名は敬称を省略しました。
※編注:文中の企業名は敬称を省略しました。
プラズマと液晶の戦いの帰趨は水銀が握る
奥田 ここで少し、現在の実業の話も聞かせてください。いま、薄型テレビが激しいシェア争奪戦を展開していますね。BCNランキングによると、国内のプラズマテレビのシェアは半年間の累計では台数シェアで10.4%、金額シェアで16.6%となっています。液晶が有利に展開している状況です。プラズマと液晶の戦いはどのように推移していくとみておられますか。水野 数字だけ眺めると、液晶の圧勝のようにみえますが、まだまだ波乱含みだと思いますよ。技術開発、とくに液晶テレビ側の技術開発が帰趨を握っているんじゃないですか。といいますのは、液晶テレビのバックライトには水銀が使われていて、環境に厳しい西欧では3年後にはRohs指令の対象にするのではないかという見方が浮上しているからです。現在のままでは、西欧への輸出が不可能になる可能性があるわけです。
奥田 松下電器が広告の中で「水銀は使っていません」と一言入れているのはそういう意味なんですか。
水野 バックライトに水銀を使わない技術が開発できるかどうか、液晶陣営は必死でしょうね。また、液晶の場合、映像の表示がワンテンポ遅れます。これが体に何らかの悪影響を及ぼすのではないかとして、アメリカでは問題視され出しています。
奥田 キヤノンのSEDやソニーの有機ELなど新しい技術も注目されています。これについては…。
水野 SEDは原理が優れていることは確かなんですが、ここまで開発が遅れてしまったら、コスト競争力をつけるのは大変でしょうね。
ソニーとは意外に仲がよかった
奥田 少し生々しい話もいいですか。松下電器がいわゆる中村(邦夫)改革によって蘇ったのに対し、ソニーはまだ苦戦しています。その差はどこにあるのでしょう。水野 松下とソニーは仲が悪いとされていますよね。でも、そうでもないんですよ。私が副社長の頃、出井伸行さんとは月に1回くらいは食事していました。出井さんが広報担当の取締役の頃で、私がソニーに出向くと「いらっしゃいませ」と迎えてくれて、非常に気持ちの良い会合でしたよ。
まあ、VTRの覇権争いで敗れて、松下とは仲良くしたほうがいいと考える人たちも生まれていたんですね。
出井さんは、ソニーらしくないスマートな人で、発想が豊かな人だなと感心していました。ただ、発想が豊かすぎて、ちょっと収拾がつかなくなったようなところはあるかもしれませんね。
事業的にはプレイステーションの行方が問題でしょう。私も、3DO(スリーディーオー)の立ち上がりに関与しましたのでわかりますけど、ゲーム機というのは半導体の戦いでもあるんです。松下もそうだったし、ソニーさんも半導体を自前で開発路線を取った。ただ、半導体事業をものにするにはそれなりのステップが必要なんです。そこが強引すぎたんじやないかな。