世界を変える、壮大な夢に挑戦――第18回
原丈人
XVD Corporation チェアマン
今回、原丈人さんと面談したのは、この「千人回峰」に掲載するのを目的としていた。ところが、対談した内容、特に「近い将来、パソコンが消えると」いう説は衝撃的であり、IT業界に与える影響は極めて大きなものになりそうなので、PUC(パーペイシブユビキタス)のエッセンス部分については急きょ週刊BCN本紙で紹介した。原さんは、ベンチャーキャピタルの社長を務める傍ら、(1)新基幹産業の創造、(2)次の時代のコーポレート・ガバナンス(企業統治)のあり方の創造、(3)開発途上国の貧困の解消――というテーマに挑戦している。いずれも気宇壮大なテーマだが、それぞれが着実に実績を上げつつあるようだ。彼の夢が実現すれば、日本、いや世界は確実に変わるだろう。【取材:2007年9月13日、ヒルトン東京にて】
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
※編注:文中の企業名は敬称を省略しました。
ボーランドの会長時代、トップ技術者を引き抜かれそうになった
奥田 「21世紀の国富論」を読んで、最初にびっくりしたのは、書かれている内容が実にわかりやすいことでした。いつ、あんな文章テクニックを身につけられたのですか。原 「近い将来にはパソコンが消える」などと言っても、なかなか理解してもらえません。ただし、みんなが共通に思っておられるのは、パソコンは使いにくいということです。この気持ちを汲んだうえで、だれにでもわかるような表現をできるだけするように心がけ、なおかつ本質を外さずにわかりやすく書くようにしています。しかし、それでもまだ不十分です。
奥田 ところで、この本に書かれているようなポスト・コンピューティングを考えるようになった、直接のきっかけは何かあったんですか。
原 じつは、パソコンの時代はいずれ終わると最初に発言したのは、90年代半ばにスタンフォード大学で講演した時でした。当時、私はデータベースを主力とするボーランドの会長もやっていて、ある事件に遭遇しました。
90年代には、マイクロソフトはWindowsに移行するタイミングで、OSに加えてアプリケーションソフトの分野でも寡占状態を作ろうとしました。その結果、ワードパーフェクトはワードにやられ、ロータス1-2-3はエクセルに負け、IBMに買収される形で消えていった。
そのなかで、マイクロソフトの欠落している分野で強い技術力を持っていたボーランドは不死身で、マイクロソフトと戦いを続けていました。それに業を煮やしたんでしょうね、ボーランドの最も優秀なコア技術陣を引き抜きにかかったんです。こともあろうに、ボーランドの駐車場で、ヘッドハンターが口説いていることを逆探知で発見しました。それで、マイクロソフトを訴えた。その時に、勝つためならなんでもする体質の企業がアプリケーションまで支配するようになったら、その産業の発展は終わるなということを強く感じました。
私は新技術こそが、新しい産業を生み出すと考えています。そのためには競合する企業同士の切磋琢磨が必要なんです。知的工業製品の分野で、OSに加えて、アプリケーションまで1社独占になれば、技術の進化が止まることは目に見えていますよ。