日本から人を送り込んでいるうちは決して本物ではない――第74回

千人回峰(対談連載)

2012/11/20 00:00

石黒 和義

JBCCホールディングス 前会長 石黒和義

構成・文/谷口一
撮影/大星直輝

 今年5月、『生きる。―12賢者と語る』(財界研究所刊)を上梓された石黒和義さん。12人の賢者との対談では、独自の時間軸と宇宙空間をもって、世の中と人生と人物をみておられる。スケール観についてとか、物事を考えるときの軸足は何が正しいのか、何をやってはいけないことなのか、そういう判断をするときに賢者の教えが役立つそうだ。自らがさまざまな決断を下してこられた経験のなかから、今回は中国への進出時のエピソードを中心にお話をうかがった。【取材:2012年5月30日 東京・大田区のJBCCホールディングス本社にて】

「パートナーを選ぶにあたっての条件は、信頼関係です。とくに中国の場合はそこが重要になります」と、石黒さんは経験に基づく見解を述べる。
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
 
<1000分の第74回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

対談では、6対4のやりとりを目指す

 奥田 まず、石黒さんの近著『生きる。―12賢者と語る』(財界研究所刊)についてうかがいます。非常に興味深い12人の方々が登場しますが、どういうふうにして対談相手を選ばれたのですか。

 石黒 いろいろな人と相談しますし、私の趣味だとか興味があることだとか、何か知りたいなとか、そういったことを考えながら決めさせていただいております。そのへんは奥田さんのほうがいろんな方と対談を積み重ねていらっしゃるから、ノウハウをもっておられると思いますが……。

 奥田 いえいえ、とんでもない。石黒さんの場合は対談だと思いますが、私のはインタビューで、これは大きく違いますね。

 石黒 対談になっているかどうかわからないのですが、せめて、6対4くらいでいきたいと思っています。7対3では対談にならないですから。6対4くらいでやりとりができればというのが目指すところです。相手の専門領域だと、どうしても話が網羅的にならざるを得ないですけれど、だから、一か所か二か所くらいは、ぐっと突っ込んで、場合によっては本音を聞き出すような。そうでないと面白い対談にはなりませんね。

 奥田 なるほど、6対4ですか。対談の極意のようなものを感じますね。今回の著作が対談集の2冊目ということですが、まず、前文がいいですね。人生の総括で、若者に贈る言葉のように感じました。
 
『生きる。―12賢者と語る』

[参考]前文の項目と本文の抜粋
【項目】
「和らぐ好奇心のその先は」
 ・宇宙のこと、生命のこと
 ・死を見つめて生きる
 ・初心を生きる

「いま日本は、私たちは」
 ・いま世界は
 ・リーダーは育てるもの
 ・グローバル化への対応

「何からはじめるか」
 ・すべては、身体を動かすことからはじまる
 ・自然の中に生きる
 ・行動に裏づけされた教養

「次世代につなげる」

【抜粋】
 12人の賢者との対談は、イスラームのことから森羅万象を畏れず各分野に及び、最新のガン治療からロンドン・オリンピックにまで広がりをみせた。その対談に流れる主調は、人類が考えることをはじめてから最も深く重く追求して来た永遠の主題、「死を見つめて生きること」であった。大変動期ともいうべき今こそ、これを自分のものとして具体的に考え、行動を起こすことが求められる。対談の中で語られた賢者の言葉は、多くの示唆に富んでおり、これから起こす行動のための指針になるものと信じている。

 石黒 7年間にわたって対談をやってきて、JBグループでの仕事も11年間行ってきました。そんな思いをこめて前文を書いてみたのですが、なんか情が入ってきまして、思いがだんだん深くなっていくのですね。そうすると、対談したことや本を読んだことなど、いろいろな蘊蓄が邪魔になってきます。自分の思ったことを文章に書ければいいだけのことですがね。いろんなことが頭に浮かんでくると、なかなかむずかしい。そういうものが浮かぶうちはダメなんでしょうね。

 奥田 私は対談集の前文から三つのことを感じ取りました。「初心を忘れるな」ということと、「動くことからはじめる」、それと「死を見つめて生きる」。この三つにずっとこだわっておられて、対談を通じて確信を得て、最後にまた三つに戻られたという気がしています。

 石黒 最後の段階では、奥田さんがご指摘されたようなことが、ある程度、頭の中にイメージされるのですけど、最初は、そんなだいそれたことはまったく考えていなかったですね。ただ、もともと現場主義だとか、動くことだとか、自分の目で確かめるということは、いつもやってきたことですからね。常々、そういうのが底流にあって、新たな気持ちを奮い立たせていくのでしょうね。それはやはり、生きることにつながるのだろうなという気はしています。「死を見つめて生きる」というのは、それなりに年をとったということですね、これは。いろんなことに遭遇しながら、やっぱり、宇宙の創造の歴史だとか、細胞だとか、そういうことを考えるのですね。避けては通れない話ですから。だから、一度、まじめにどこかで考える必要があるなと。結論は出ないけれど、どこか心の隅においておきたいことだと思います。

 奥田 さまざまな方々との対談のなかで感心するのは、メジャーを動かしていくのがとてもお上手で、すばらしい時間軸と宇宙空間をもって世の中と人生と人物を見ていらっしゃるなというところですね。

 石黒 そういう意味では、宇宙物理学者の佐藤勝彦さんとお話ししたことが印象的だったですね。宇宙の話というのは、われわれはある程度想像するにしても、突き詰めて宇宙の創生から考えることはありません。とことん考えたら、夜も眠れなくなるような話ですよ、これは。宇宙は何から始まったのだろうとか、どうなるのだろうとか。

 奥田 そして、どこへいくのだろうかと……。

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