人の価値を高めるビジネスを中国でも展開する――第79回

千人回峰(対談連載)

2013/02/26 00:00

西本甲介

西本甲介

メイテック 代表取締役社長

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

 上海生活情報サイトのWheneverオンラインを眺めていたら、メイテック上海のバナーを見つけた。覗いてみると、「中国の技術者は、みんなうちに来い!」という勢いが感じられる。私の頭の中に、メイテックの社長、西本さんの顔が浮かんだ。氏と初めて会ったのは、25年も前のことだ。その西本社長が率いておられるメイテックの中国戦略とはいかなるものか、久しぶりにお会いして、じっくりとお話をうかがった。【取材:2012年8月24日 東京・港区赤坂のメイテック本社にて】

西本さんは明言する。「私たちのビジネスは技術者派遣事業ですが、それは派遣を通じてエンジニアのキャリアアップを支援する事業であるということを胆に銘じています」
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 社長 奥田喜久男
 
<1000分の第79回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

日系企業のために人材を育成する

 奥田 中国市場をウォッチしていると、会社ごとの競争というよりは、ワールドカップのような国別対抗戦の様相を呈しているようにみえます。自ずと「日本がんばれ!」という気持ちになるわけですが、現地で優秀な人材を一人でも多く採用できれば、日系企業の力になるのではと思います。技術者派遣業界の雄として、中国での事業はどのようなポリシーをもって展開しておられますか。

 西本 当社は日本で38年にわたって、国内メーカーのパートナーとしての事業を展開してきましたが、今、その日本のメーカーが大きな転換期を迎えています。つまり、中国に進出した企業が、生産だけでなく開発まで現地化するという動きが現れてきています。そんな状況にあって、進出企業が一番困っているのは、戦力となる人材を採用できない、育てられない、定着させられないということです。人材ビジネスのプロである私たちが、その部分でどんな貢献ができるかということを基本に据えて事業を進めています。

 奥田 具体的には、どのような事業を行っておられますか。

 西本 上海に営業拠点を構えて、西安と成都に人材の教育・育成拠点を置いています。その西安と成都で中国の理工系大学の学生たちを半年間無償で教育し、沿岸部の日系メーカーにその人材を紹介するというビジネスを展開しています。

 奥田 教育カリキュラムはどのような内容ですか。

 西本 私たちがこれまで日本で培ってきた技術研修とヒューマン研修の二本立てです。それに加えて日本語教育がありますが、一番力を入れているのはヒューマン研修です。例えば、なぜ挨拶をしなければいけないのかとか、なぜチームワークが大切なのかというところから教え込みます。

 チームワークという概念は、中国の企業にはほとんどありません。ですから、ヒューマン研修のなかで、日本企業が求める働き方のベースとなる価値観や考え方を身につけてもらうわけです。そうした成果が現れて、お客様からは、定着率が高いという評価をいただいています。

 奥田 中国の一般的な定着率に比べてどれくらい高いのですか。

 西本 一概にはいえませんが、感覚的には2倍以上高いといわれますね。

 ただ、この育成型の紹介ビジネスにはリスクがあります。西安と成都を合わせて毎年100名程度の学生を教育しますが、実際には全員が私どもの紹介ルートに乗ってくれるわけではありません。残念ながら、途中で辞めてしまう人もいるのです。

 奥田 歩留まりはどれくらい?

 西本 今は5割くらいです。これをなんとか6割、7割にもっていくことを目標としていますが、このような育成ビジネスのモデルを、ある程度長い時間軸でしっかり構築したいと思っています。まずは西安、成都、上海のトライアングルで確立していくことができれば、中国内での横の展開につなげることができると思います。

 奥田 ところで、中国でのメイテックの顧客は日系企業だけと考えていいのですか。

 西本 まずは日系メーカーです。当社は、日本で国内メーカーのパートナーとして事業を伸ばすことができたのですから、当然、日系メーカーのパートナーとして事業展開したいと考えています。ただ、その先も視野に入れていまして、日系メーカーがどんどん現地化していくということは、サプライチェーンも現地で構築されていきますから、そこに組み込まれた中国の現地企業も、いずれ私たちのお客様として捉えていいのではないかと思います。

 もちろん、その中国企業が日系メーカーのパートナーであることが前提となりますが、早晩、何をもって日系メーカーというのか、何をもって中国企業というのか、ほとんど境界がなくなっていくと思いますね。

 奥田 なるほど、産業のグローバル化とともにいろいろな部分がボーダレスになっていく、と。

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