自助自立の風土で日本ならではの付加価値をつける――第83回
千人回峰(対談連載)
2013/05/20 00:00
NECパーソナルコンピュータ 生産事業部 事業部長 竹下 泰平
構成・文/谷口一
中国・アジアの生産力が大きくクローズアップされている今、日本の「ものづくり」はどこへいくのか。海外勢とどう戦うのか。武器となる日本の「ものづくり」「生産技術」は、どこがすぐれているのか。現場の声を聞きたいという強い思いを抱いて、日本を代表するパソコン工場(NEC米沢事業場/島根富士通/日本HP昭島工場)をたずねることにした。第一回は「なせば成る」の上杉鷹山公の地、米沢だ。レノボとの統合で揺れた2011年。現場は何を感じ、どう変わったのだろうか。【取材:2012年11月16日 山形県・米沢市のNECパーソナルコンピュータ米沢事業場にて】
「少しでも中国より生産性を上げて、コストを下げる。
中国では5人かかるところを1人でやれば、同じことになりますね」と竹下さんは語る
中国では5人かかるところを1人でやれば、同じことになりますね」と竹下さんは語る
「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
<1000分の第83回>
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
2万種類の製品を3日でデリバリする
奥田 2011年7月1日にレノボと統合されて、その後シェアが伸びていますね。竹下 それは、レノボのワールドワイドでの部材調達力、資金力が影響しているからだと思います。世界最軽量のウルトラブックの開発もレノボの資金力に負うところがあります。
奥田 中国の工場でも生産されていますが、米沢との分担はどうなっているのでしょうか。
竹下 ここで扱っているパソコンのベース部分は、全部向こうでつくっています。一から米沢でつくっているものは、今はないですね。
奥田 米沢に残っているのは、どの部分ですか。
竹下 CPU、ハードディスク、メモリ、OSのダウンロード、それらを組み込む最終検査です。
奥田 それを中国にもっていくということはできないのでしょうか。
竹下 コンシューマ向けの構成が完全に決まっている製品だと、中国で完成品まで、つくっているものもあります。ただ、ビジネスPCの場合は、お客様がオーダーしてきて、はじめてその構成がわかるので、これは米沢が担当します。中国でつくらせて、空輸や船で送るやり方はありますが、リードタイムが、ここでつくるのに比べて最低プラス4日はかかります。ですから、ある程度部材をこちらにもって、最終組み立てをこちらでやるというやり方をとっています。
奥田 プラス4日の分母は何日ですか。
竹下 お客様にオーダーをいただいてから、お手元に届けるまでの3日です。1日目にオーダーをいただく、次の日につくって出荷します。その翌日にはお客様に届く。
奥田 3日で届くのですか。それを中国でつくるとなると……。
竹下 最低でも7日になります。われわれが1日でつくるものが、中国では2日から3日は確実にかかります。ですから、空輸したとしても最低プラス4日はかかります。
奥田 人件費とかを勘案した場合、どっちでつくるのがトクになるのですか。
竹下 答えにくいですが、空輸すると間違いなく、ノートPCでも1台1000円くらいはかかります。船だとちょっと安くなりますが、中国から10日はかかります。そこで機会損失がでます。それに、われわれは1台からオーダーを受けています。米沢で生産している半分、日産1万台だと5000台は1台ずつのオーダーです。中国からの空輸では、まったく割に合わないと思います。
奥田 日本で1台受注を50%確保しているほうが、売り上げや収益に貢献するということですね。お客様もそれを望んでいる。
竹下 そのとおりです。日本で生き残るための付加価値とはこういうことだと思います。
情報の一元化で緻密な生産計画を実現
奥田 3日でデリバリということは、生産計画をいったいどんなふうに立てられているのでしょうか。竹下 受注や生産、棚卸などあらゆる情報を一元化したことで、生産ラインでの部品の1個1個の動きまでがみられるようになり、細かな生産計画の変更にも対応できるようになりました。
奥田 量販店に対しては、工場として具体的にどんな動きをしておられますか。
竹下 コンシューマ系はお店で土曜・日曜日に売れるので、その売れ筋情報をキャッチして生産計画に反映しています。以前は情報が入ってから、それが生産計画に反映できるまでに2.5週、18日くらいかかっていたわけです。18日間には、土日が2回入りますから、売れ筋の状況が変わっているかもしれません。これではまったく、お店の要求、お客様の要求に応えられないのです。メーカーにとっては機会損失もはなはだしい。これではいけないということで、2003年頃からバリューチェーンシステムを変えたり基本システムを変更したり、サイクルを見直したりして、今では土日の状況の変化が、翌週の出荷に反映できるようになっています。すべての情報を一元化することで可能になったわけです。
奥田 そのスパンが次はもっと短くなるということはあるのでしょうか。
竹下 これの次というと、あとは一週間に2回、生産計画を変更するかとか、デイリーで計画を変更するかというのがあるのですが、実は現状、市場変化の情報をとれるのが1週間に1回なので、これ以上やっても、今のところは意味がないということです。もし、この市場変化の情報が毎日とれるとか、週2回とれますということになったら、一週間に2回回すことに意味がでてきます。