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原点に帰り、心の入った家電製品を生み出す――第103回(上)

千人回峰(対談連載)

2014/01/23 00:00

阪本 実雄

阪本 実雄

シャープ 健康・環境システム事業本部 副本部長 兼 商品革新センター所長 阪本 実雄

構成・文/谷口一
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2014年01月20日号 vol.1514掲載

 日本の家電メーカーの輝きを知っている者にとって、韓国、中国など海外勢に肩を並べられた昨今の状況はあまりにも寂しい。かつて、Made in Japanは世界市場で光り輝いていた。ソニーが松下が日立が東芝がビクターが三洋が、そして、シャープが……。ノスタルジックな物語の一コマになって久しい。復活は可能なのか。ものづくり日本の再興を期待してやまない。「目のつけどころが、シャープでしょ。」と訴えかけたシャープの、その名も商品革新センター所長の阪本実雄氏に、復活の可能性と新しい取り組みにかける思いをうかがった。(本紙主幹・奥田喜久男) 【取材:2013.11.5 東京都千代田区のBCN本社にて】

2013.11.5 東京都千代田区のBCN本社にて
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第103回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

ものをつくっているからダメ。心をつくるべし

奥田 掃除をするロボット家電「COCOROBO(ココロボ)」を開発された阪本さんですから、ものづくりに対する思いの強さは尋常ではないと思いますが、まずは、ものに対する見方、捉え方などをお聞かせください。

阪本 もう2年ぐらい同じことを言い続けているのですが、ものをつくっているからダメじゃないかと。心をつくりましょう、心づくりをしましょうというのが合言葉なんです。心づくりをするというのは、いわゆるストーリーをつくりましょうとか、そういうのに似ています。ものだけをつくって、「はいどうぞ」って言っても、お客様には何も伝わらないんでしょうね。ここにどれだけ、気持ちとか心とかを、われわれつくり手側の意思といいますか、そういうものを込めて、お客様に届けないとダメでしょう。今世紀に入ってから、そこのところが家電メーカーにはできてないんでしょうね。

奥田 昔は心づくりができていたということですか。

阪本 できていたと思います。まだ、家電製品がほとんどなかった時代に、われわれの先輩が一生懸命考えてものをつくりましたから、しっかりと心が込められていました。でも、ある段階まできたら、そのへんがちょっとおかしくなって、おそらく十数年前から、ずいぶんおかしなことになったのじゃないでしょうか。

奥田 ものと心について、もう少し噛み砕いて話してください。

阪本 ものは、あくまでもものにすぎません。プロダクトです。心をプロダクトに体現するなら、僕はグッズだと思っているんです。このことを若い連中に、しょっちゅう言うんです。われわれはプロダクトをつくるんじゃない。グッズをつくるんだ、と。グッズといえば、goodの複数形ですから、よいものに決まっているんですよ。だから、いいものをつくりましょう。ちゃんとお客様に伝わるものをつくりましょう、と。ものをつくっているのに伝わらないのは、そこに何も入っていないからです。仏に魂を入れるというでしょう。あれといっしょだと思うんですよ。

奥田 なるほど、博物館の仏像とお寺にある仏像の違いですね。

阪本 そうです。その差だと思うんです。だから、いま、世に出ている製品は、博物館の仏像が多いかもしれませんね。お寺で拝んでもらえるような仏像に、われわれの商品もしなくてはいけない。そうすると、毎日使っていて、愛着が湧いたり、感謝の気持ちが生まれてくるんですね。

奥田 でも、心を入れるっていうのは、簡単にできることではないでしょう。

阪本 すごくむずかしい。レベルが高いです。

奥田 それには手順とか手段とかがあるのですか。

阪本 それはもう感覚の世界でしょう。センスですね。
 

価値観の異なる人たちに合わせた商品づくり

奥田 センスとなると、教えるのもたいへんですね。

阪本 若い人を育てるのが、一番難しいです。シャープという会社は、ものづくりが好きというか、ものが好き、商品が好きな人が多くいる。そういう人たちがものをつくってきたんです。でも、いまの若い人たちは、生まれた時からものがあふれていて、冷蔵庫にもテレビにもなんにも感じないんですよ。話していて、ほんとにすごいギャップを感じます。

奥田 ということは、心を求めていない人が多いということですか。

阪本 というか、心を入れないといけないのはわかっているんですけれど、おそらく心が入った商品をみていないんでしょうね。奥田さんも、テレビがわが家に届いたときにみんなで拍手したことって、覚えているでしょう。

奥田 ええ、もう眠れませんでした。

阪本 いまの若い人は、60インチの液晶TVが家に届いても拍手なんかしませんよ。この差ですね。

奥田 iPhoneはどうでしょうかね。

阪本 ひょっとしたら拍手したかもしれませんね。だけど、そういう商品って少ないでしょう。われわれのときは、冷蔵庫にも拍手、洗濯機にも拍手でしょう。そんなのが、もうないじゃないですか。だから、若い人たちに感激を求めるのはかわいそうといえば、かわいそうですね。

奥田 そういう世代の人たちが消費者である市場では、どんな商品をつくっていけばいいのですか。

阪本 ですから、彼らのなかで、魂を入れるようなことをしてもらわないと。ぼくらが一生懸命考えてもぜんぜん価値観が違うと思います。若い人たち、30代以下の人たちの市場に向けての商品企画は、おそらく僕らでは無理かもしれない。ですから、僕が言っている心を、ストーリーに仕立てて、そういうものをどうやってつくらせてあげるか。世代に応じて、どうやってつくらせてあげるか。それが、あと数年の間に僕がやらなくてはいけないことです。だけど、かなりむずかしいことだと思います。

奥田 ストーリーづくりですか。

阪本 心というのがそれに近いと思っています。

奥田 非常に観念的なところですよね。観念的なところを形にしていくっていうのは、なかなかこれは、ひと筋縄ではいかないでしょうね。

阪本 そうです。スイッチ一つにしてもこだわれと言っているんです。守るべきものは守りながら、なにか訴えかけていくもの、そういうものを、うまく表現しながら商品のなかに入れていく。

奥田 どこのメーカーにも共通するお話でしょうか。

阪本 たぶん、日本の他のメーカーの人と話しても共通しているのじゃないでしょうか。

奥田 世界的にみたら、それらを満足させているような商品はあるのですか。

阪本 今はないとみていいでしょうね。ただ、2000年初めくらいの日本の商品をアジアにもっていったら、まだ売れる可能性がありますよ。でも、われわれ日本人って、レベルが高い。年齢層もばらばらです。価値観が少しずつ違う人たちが使う商品ですから、それぞれにちゃんと合わせてつくらなくてはいけないと思います。(つづく)

昔はノート、今は携帯端末

いつも持ち歩いている。読書が好きで、本のページに書いてあることを打ち込む。みんなはたいへんだろうと言うけれども、それがおもしろい。書きながら思考する。
 

Profile

阪本 実雄

(さかもと じつお)  1978年3月、信州大学工学部電子工学科修了、1978年4月、シャープ入社、2010年、健康・環境システム事業本部 ランドリーシステム事業部 事業部長、2013年、健康・環境システム事業本部 副本部長兼商品革新センター所長に就任、現在に至る。