原点に帰り、心の入った家電製品を生み出す――第103回(下)
阪本 実雄
シャープ 健康・環境システム事業本部 副本部長 兼 商品革新センター所長
構成・文/谷口一
撮影/津島隆雄
週刊BCN 2014年01月27日号 vol.1515掲載
日本の家電復活は可能なのかについて、シャープ商品革新センター所長の阪本実雄氏に聞く。その後編は、具体的な家電復活に向けての取り組みや、目のつけどころの違いを謳ったシャープのものづくりに対する考え方などを中心にうかがった。輝く商品は出てくるのだろうか。そして、それはいつ頃なのだろうか。(本紙主幹・奥田喜久男) 【取材:2013.11.5 東京都千代田区のBCN本社にて】
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
2015年には何か出てきそうな気がする
奥田 前回は商品に心を入れ込むということをお話しいただきました。昔はそれがなされていた。ごくあたりまえだったんですね。阪本 家電の黎明期はみんなが必死だったからこそ、心が入っていたと思います。その後、市場にものがあふれる時代がきて、心が枯渇しちゃったんです。いま再び、心を入れるべき時代がきたのだと思いますね。
奥田 実際に心の入った商品はいつ頃になれば世に出そうなんですか。
阪本 2020年の東京五輪の開催決定で元気がついて、早くなるのじゃないでしょうか。一年ほど前には、まだ、5~6年かかると思っていました。でも、日本人って、目標が決まると、すごいパワーを発揮する民族でしょう。ひょっとすると、2015年とかにくるかもしれませんね。
奥田 前倒しでやらなくてはいけないと日本人はみんな考えますよね。早ければ、2015年くらいにはキャッチアップするということですか。
阪本 何か、出てきそうな気がしますね。
奥田 メーカーは、どんなところが考えられるんでしょう。
阪本 わかりませんね。小さな無名のメーカーかもしれません。そこそこ力があって、どこかで空回りしていたのが、いきなりバシッと歯車が噛み合って、出てくるかもしれない。技術っておもしろいですよね。どこで歯車が噛み合ってくるかわからないから。
奥田 コアになるのは技術ですか。
阪本 その通り。技術です。
奥田 技術っていうのは、どういうふうに理解しておけばいいのでしょうか。
阪本 例えば、センサというのがありますが、センサをどううまく活用するかとか。そういうところは一つの技術でしょうね。携帯電話からスマートフォンができたように、まったく違うものを冷蔵庫から創造するっていう考え方もありますね。われわれは2003年に、ヘルシオという電子レンジをつくりました。マグネトロンを使わない加熱水蒸気のレンジです。マグネトロンを使わないで調理するというのは、それまでの20年間はなかったわけですから、そういうふうにまったく違う要素で置き換えてしまう。あるものを別のあるものに置き換えてしまう。そういうふうな技術があればいっぺんに変わる可能性があります。まったく違う方法で部屋を涼しくするとか。
奥田 シャープさんが得意にしておられるような「ものづくりの考え方」ですね。
阪本 だから、やらなきゃいけないんです、やってほしいです。だけど、どこに元気度があるかですよ。
現状を否定してこそ、いい商品が生まれる
奥田 その元気度ですが、何か手を加えれば元気になるという方法はあるのですか。阪本 20代の人に何を与えたら元気が出るのか、まだまだわかりません。
奥田 やっぱり、キーは20代ですか。
阪本 20代が元気にならないと、会社ってダメじゃないかなと思います。アクティブヤングですね。肉食系になってほしい。「草食じゃダメだ」とずっと言い続けているんです。20代が仕事で肉食系になってくれると、いいものが出てくるんじゃないかと思いますよ。
奥田 これは、もう社会の問題ですよね。
阪本 育ってきた環境ですね。水やりとか肥料とか。だから企業に入って、いろいろやっても変わらないかもしれない。
奥田 それでは、どうするのですか。
阪本 土を替えたらいいのじゃないかと。それで組織をバーンと変えて、私も昨年4月に新組織をつくりました。苗は替えられないじゃないですか。苗が草食系だったら、肉食系になるように、土壌を替えてやらないと。
奥田 新しい組織をつくられたわけですが、それが商品革新センターですね。何人くらいの組織ですか。どんなふうにして人材を集められたのですか。
阪本 メンバーは十数名で、こちらからは集めていません。年度初めにビジョンは語りましたが、各部署に「人を出してください」とお願いしただけです。
奥田 どれくらいの人たちに向けて語られましたか。
阪本 1000人くらいですか。2013年の4月にキックオフを行いまして、20分もらって話しました。「4月1日に組織をつくって、いま現在、部員は僕を入れて二人です」と話したら、大笑いが起きました。その場の様子は、海外の拠点にも流れていたので、たった二人でどうするのというメールがたくさん来ました。
奥田 どういう内容を話されたのですか。
阪本 骨子は、やる気度です。自分の頭の中にあるコンセプトや心の話を、現在の商品企画の考え方と対比して、「絶対にダメでしょう。こんなことやっているから商品がダメになる」などと言いながら……。
奥田 言いにくいことを、ずばり言われるんですね。でも、現状を否定をすると、大きな反発があるのではないですか。
阪本 いや、シャープって、現状否定しているからこそ、ずっと商品を出してこられたのです。そういう会社だと思います。あの商品がダメだから、今度はいい商品をつくろう。そう思わないと、いい商品は出てこないし、需要を創造する商品は出てきません。いつも否定して、次のものをつくってきました。
奥田 すごいですね。耳の痛い人もたくさんおられるのでは?
阪本 自分の耳が一番痛いですよ(苦笑)。今まで、若い人たちに、そういうことをやるんだと言って、やってきたことを全部否定したわけですから。
奥田 現状を否定されたのですから、新しいものができてくる前夜というわけですね。
阪本 まさに前夜です。僕はそう信じています。収束でも日の入りでもなく、日の出を待っている、楽しみだと思っています。輝く商品がきっと出てくるはずです。
奥田 今までとは、また違ったシャープ像が見えてきました。ありがとうございました。(おわり)
こぼれ話
商品革新センター所長の仕事は、過去と現在の否定から始まった。過去というのは阪本さん自身だから、世に言う「自分を棚に上げて」のリーダー役だ。話は変わるが、ぶっつけ本番の対談では、話をするうちに最適な質問を投げかけて相手の心の引き出しを開けながら進めることになる。しかし、今回は少し違った。阪本さんは理屈屋の雄弁家である。私にも似たところがあるので、対談をしながらお互いの理屈をぶつけ合うなかから阪本像を切り出すことになった。部署名が表すように、「商品革新」なわけだから、ことは簡単ではない。商品の革新を成し遂げているなら、すでに世の中に出回っているはずだ。その形がないから、商品革新センターを発足したわけだ。阪本さんは自分の役割を承知している。“世界の王”を育てた巨人軍の打撃コーチ、荒川博さんの役柄だ。家電製品の王貞治選手を生んでほしい。関連記事
Profile
阪本 実雄
(さかもと じつお) 1978年3月、信州大学工学部電子工学科修了、1978年4月、シャープ入社、2010年、健康・環境システム事業本部 ランドリーシステム事業部 事業部長、2013年、健康・環境システム事業本部 副本部長兼商品革新センター所長に就任、現在に至る。