<特別座談会>「BCN ITジュニア賞」受賞校の先生に聞く――第106回(下)
いずれは、校内ベンチャーから世界へという時代がくる
構成・文/谷口一
撮影/津島隆雄
週刊BCN 2014年03月10日号 vol.1521掲載
ITジュニア育成交流協会の設立趣旨に、「ITに取り組む情熱の炎が、若者たちに受け継がれることを希求する」とある。その継承に真正面から取り組んでおられる先生方に、今年もお会いできた。子どもたちの成長ぶりにしみじみと喜びを感じ、彼らが勝ち取った栄冠に涙する先生方。個性豊かな先生方に共通するのは、「情熱」だと思う。秘められた情熱もあり、沸騰するような情熱もある。それらが、子どもたちにそのまま伝わっていくのではないだろうか。(BCN会長・ITジュニア育成交流協会ファウンダー・奥田喜久男) 【取材:2014.1.17 東京都千代田区のBCN本社にて】
2014.1.17 東京都千代田区のBCN本社にて
「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
<1000分の第106回(下)>
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
(左上から)松林勝志氏、加藤健一氏、江崎修央氏
(左下から)山本克郎氏、佐藤恒夫氏、青山俊弘氏
(左下から)山本克郎氏、佐藤恒夫氏、青山俊弘氏
出席者<発言順>
宮城県工業高等学校
情報技術科 教諭 加藤健一氏
東京工業高等専門学校
情報工学科 教授 松林勝志氏
北海道札幌国際情報高等学校
情報技術科 教諭 山本克郎氏
鳥羽商船高等専門学校
制御情報工学科 准教授 江崎修央氏
鈴鹿工業高等専門学校
電子情報工学科 准教授 青山俊弘氏
福島県立郡山北工業高等学校
情報技術科 教諭 佐藤恒夫氏
感無量で自然に涙がこぼれる
奥田 先生方は、どんなときが一番うれしいのでしょうか。うれし涙が出たりするものですか。加藤(宮城県工業高校) 涙はこぼれますね。生徒の成長をしみじみと実感した時なんか。年をとって涙もろくなったということもあるかもしれませんが、そもそもタイプ的にも……。生徒からも「先生、熱いよね」と言われますしね。
奥田 ほかの先生方も涙が出てくるシーンってあるものなのですか。
松林(東京工業高専) やっぱり、受賞の知らせを受けた時はそうですね。私はプロコン委員で運営の方面もやっていますので、立場上、少し早く結果がわかったときには、うれしい表情を悟られないようにするのにひと苦労しますけれど。でも、学生が表彰されて文部科学大臣賞なんかをもらう場面になると、写真を撮りながらうれし泣きしています。
奥田 一番クールそうな山本先生は、涙が出るようなことがありますか。
山本(北海道札幌国際情報高校) いや、あんまりないですね。ものづくりのほうではありませんが、担任をもっているときには感慨深いものがあります。生徒が一生懸命やって、それが報われたときとか、彼らが16、17、18歳と成長していく過程をみると、うれしく思います。
松林 江崎先生の学校は学生たちといつも一緒にワイワイやっておられるようですから、学生たちが活躍すれば、やっぱりうれし泣きされるのではありませんか。
江崎(鳥羽商船高専) その場で何かうれしいことが起こっても呆然としているだけで、ふ~んって思ってるんですけど、後で酒を飲みながらスライドなんかを見ていると、よかったなと、しみじみ思います。
コンテストに出場しているだけではダメ
奥田 さっきから感じていますが、青山先生はおしゃれですね。青山(鈴鹿工業高専) プロコンの作品も変なものでないとおもしろくないので、尖ったものを学生に要求してしまいます。なので、こちらも尖ったことをしなければいけないと思って、珍しいとか変わった衣服を着たりします。尖ったアイデアをたくさん並べることが、予選を通過した一つのキーかなと思います。そこからつくり込むところがまだ課題ですけれど……。やはり、楽しませるとか喜ばせるとか、そういう視点が重要だと感じています。
奥田 江崎先生は、最近、感じられることがありますか。
江崎 ただ単にコンテストに出場しているだけではダメだよねというのは、自分たちのなかで漠然と意識しています。半分は冗談で学内ベンチャーみたいなことも始めなくてはいけない時代にきているかなと思っています。学生たちを育てて、みんなで会社を起こすとか。そういうこともやっていかないといけないなと感じています。
奥田 松林先生はどうですか。
松林 夏休みなんかは、毎朝、昨日は何をやって問題点はこれで、今日は何をやるつもりだというのを10分間くらいのミーティングで打ち合わせて、企業と同じようなことをやりながら開発していかなければコンテストで勝てない時代になってきています。江崎先生がおっしゃったように、小さな企業のようなかたちでして、これなら学内ベンチャーもつくれそうだなという思いもあります。でも、それを継続して回していこうとすれば、どうしたらいいのか、いっぱい課題があると感じています。いずれにしても、将来のITを背負っていく学生たちを、私たちもがんばって育てていますので、こういった「BCN ITジュニア賞」のような、企業のトップの方が一堂に会して、その場に学生が参加して、懇親会ではそういった方々と会話ができるというのは、子どもたちにとってものすごく大きな影響を及ぼすと思います。起業しようと考える学生も現れるし、世界に飛び出していくというような気持ちをもってくれる子どもたちもいるはずです。
奥田 ありがとうございます、勇気づけられます。佐藤先生はどうでしょうか。
佐藤(郡山北工業高校) 久しぶりにプロコンの指導とパソコン甲子園に関わらせてもらったんですが、私は、組織力じゃなくて、雑談しながらアイデアを深めていったり、いろいろ質問を投げかけ合ったりということで、個人のほうが楽しくできるなという感じがしています。組織的なマネジメントということをあまり考えずに、そんななかで、何か新しいものがつくれるというのは、生徒自身も楽しんでいると思いますし、私もやっていておもしろいと感じます。プログラミングでも、何かものをつくるのもそうですが、目標がないと本気になって集中的に取り組むということができませんから、目標をもつということが大事だと思います。そこで賞をいただいたり、褒め称えていただけると、次のエネルギーになるかなと感じています。
奥田 加藤先生はどうでしょう。
加藤 自分の一生のなかでこういう機会ができたということは、工業高校の教員として幸せな瞬間だったと思っています。「BCN ITジュニア賞」のような取り組みがきっかけとなって、世界で活躍できる子どもたちが育っていってくれたらなと強く思っています。サザンオールスターズの曲のなかに、「人は涙見せずに大人になれない」というフレーズがありますが、高校の3年間では、生徒はいろんな涙を見せて成長してくれます。こういう現場にいられて、本当に幸せだなと思っています。
奥田 山本先生、いかがでしょう。
山本 先ほどモチベーションというお話がありましたけれど、私はあまり苦労したことはありません。うちの学校は学校行事だとか講習だとかいっぱいあって、なかなか放課後に時間がとれないなかでやっているので、練習に来られるのは、週に1、2回です。なので、中だるみみたいなものがありません。そういう状況のなかで課題を与えて、それを成し遂げたときの喜びがあって、そのつながりで、いい結果を出せたのじゃないかと思います。
奥田 来年、ITジュニア育成交流協会も10周年になります。皆さま方には、来年もまたお会いできたらと思います。今日はありがとうございました。(おわり)