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自社の問題克服の経験をビジネスに結びつけた松下幸之助のDNA――第111回(下)

河田 光央/藤井 宏之

パナソニックシステムネットワークス チームリーダー 河田 光央/参事 藤井 宏之

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2014年05月26日号 vol.1531掲載

 松下幸之助翁の教えに「社員稼業」という言葉がある。従業員であっても一人の経営者として自主独立の精神をもって自らの成長を促し、仕事の成果を上げようという心構えのことだ。藤井さんも河田さんもスタッフ部門に所属し、営業や製品開発の仕事は自身の業務の範疇にはない。にもかかわらず、本来業務を起点に他社をも巻き込んでソリューションビジネスを展開した。まさに社員稼業の精神を体現したのである。私にとって、パナソニックという組織の強さと個の強さを実感する取材となった。(本紙主幹・奥田喜久男) 【取材:2014.4.8 東京・中央区銀座のパナソニックシステムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニー本社にて】

 

2014.4.8 東京・中央区銀座のパナソニックシステムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニー本社にて

 

 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第111回(下)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

当初は守りの要素だったものが、攻めの事業要素に

奥田 苦労の末に本社を説得し、LanScope Catの導入にこぎつけられたわけですが、その後はどのような展開がありましたか。

河田 導入にあたって、既存のLanScope Catにはない機能が必要でした。当社では、メールソフトはBecky!で統一しているのですが、LanScope Catにはそのログをとる機能がなかったのです。そこで、そのためのエンジンをMOTEXにつくってもらったという経緯があります。

奥田 それで、ほぼ機能は完璧、と。

河田 そうですね。「これで他社にも売っていけるぞ」と、MOTEXの担当の方と藤井さんの3人で話しました。

奥田 ちょっとおもしろい話になってきましたね。

河田 パナソニックの創業者である松下幸之助のDNAは私たちにも伝わっていて、「社員稼業」、つまり、社員一人ひとりが経営者であるという意識が根づいていますから。

奥田 なるほど。それで販売先は?

河田 パナソニックグループ内のカンパニーはもちろんですが、グループ外からも引き合いがありました。当社の「レッツノート」というパソコンを売る営業担当者がお客様の会社へうかがったとき、「大量のパソコンを保有しているパナソニックグループは、どのようにして情報セキュリティを管理しているのか」とたずねられました。それならば、私たちの情報セキュリティの仕組みをご覧になりませんかということになって、当社の取り組みをご説明するとともにLanScope Catを紹介したところ、使ってみたいということになったのです。

藤井 私たちはLanScope Catを売り込むのではなく、お客様が抱えておられる問題を解決しようとしたのです。最近は、私たちのようなソリューション会社が、どんなセキュリティ管理を行い、どういったシステムを構築しているのかということを、皆さん非常に興味をもっておられます。そこで、具体的に話をしてみると「同じところで困っていたんだよ」と話が盛り上がるケースがよくあります。私たちスタッフ部門がお客様の元へ行くメリットは、セールストークでなく、お互いに本音で共感し合える点にあると思います。商談というよりは、情報交換の場ですね。そこからのスタートなので、その後もあまりビジネスライクにならず、いい関係で進んでいけるのだと思います。

奥田 当初は守りのためのLanScope Catだったものが、攻めの事業要素にもなってきているということですね。
 

実際に使うことでわかることがたくさんある

奥田 ところで、自社に導入して以降、何か変化はありましたか。

河田 スタートは情報セキュリティの取り組みでしたが、導入以前からLanScope Catは情報セキュリティ以外で経営に貢献するツールになるという確信がありました。これからは経営者に必須のツールになるだろうと思っています。

藤井 なぜならLanScope Catは活用の仕方によって、非常に高いポテンシャルを秘めているからです。現在、われわれはライセンス管理やワークスタイル革新にも有効だと考えて、検証を行っています。ライセンス管理の観点では、PC操作ログからPCにインストールされたソフトウェアが本当に活用されているか確認することができます。使われていないようであればアンインストールしてもらったり、利用頻度が少ないようであれば、ソフトウェアによっては同時接続ライセンスに切り替えることでコスト削減が可能になります。PC操作ログという膨大なデータはまさにビッグデータで、会社のさまざまな課題がみえてきます。また、今後の新たな働き方として、在宅勤務やモバイルワークが進んでくると、PC操作ログは必須のアイテムになるので、そこでの運用ノウハウこそが次のビジネスチャンスにつながると思っています。

河田 世間一般ではBYOD(個人端末の業務利用)の進展によって、いつでも・どこでも・どんな端末でも仕事ができるようになったといわれ、多くの製品やクラウドサービスが溢れていると思います。しかし、BYODは思いのほか企業の間で広まっていません。それは、情報セキュリティの問題と社員の勤務認定の問題が解決されていないからだと思います。例えば、当社でもハードルは高いですが、まずは自社内で使ってそれらの運用課題を解決したうえで、製品と一緒に運用までを提案すれば、お客様にも喜ばれるのではないでしょうか。

奥田 お話をうかがっていると、それはまさにパナソニックの企業運営ノウハウの商品化ですね。ハードだけを売る一過性のビジネスでなく、ストックビジネスだと感じます。

藤井 私たちの付加価値は、そのノウハウの部分だと思っています。実際に使っているからこそ、こういう機能も必要だと商品へフィードバックもできるし、そこからまた次のビジネスへ展開していくことができます。今はそれが好循環になっていると思います。

 LanScope Catは媒体制御やPC操作ログというかたちで情報を管理してくれるわけですが、例えばパソコンからデータをコピーしたUSBはその後どこに行ったのか、持ち出されたノートパソコンはきちんと返却されたのかということは、これまで現場任せの台帳管理(紙)で、まったく見える化できていませんでした。

河田 そう。これまでは内部監査が近づくと、日にちを遡ってまとめて台帳に記入したのでは? という状況も見受けられました。

藤井 それならば、その部分も管理しようと社内でつくったのが「情報資産 持出しくん」というツールです。どの部門のどんなデバイスがいつ持ち出されていつ返却されるのかを、全社レベルでリアルタイムに見える化しています。また、日にちの改ざんもシステムで防止できるようにしました。一つのアイデアから枝分かれするように、別のアイデアが生まれてきました。

奥田 「情報資産 持出しくん」も商品化できますね。

藤井 そうですね。所属はスタッフ部門であっても、事業に貢献していきたいと思っています。(おわり)

こぼれ話

 三人寄れば文殊の知恵──この『ものづくりの環』の紙面にはパナソニックのお二方が登場している。実は掲載した写真の撮影現場の脇には、もうお一方の存在がある。エムオーテックス東日本営業部特販営業部の丸山悠介課長である。今回の開発ドラマの登場人物はこの3人だ。河田さんが使う人、藤井さんがつくる人、丸山さんがLanScope Catを売る人だ。まさにこの連載企画の『ものづくりの環』の連鎖で一つのソリューションシステムが誕生し、外販商品にまでつくり上げた。「私たち3人が出会わなければ、このシステムはこの世に存在していませんね」と、口を揃えて言う。3人がそれぞれのコアコンピタンスを使い切ってゆく過程で信頼が芽生え、文殊の知恵の感動のドラマが生まれたと、そんなふうに感じた。世界に誇るパナソニックの業務運営技術が、これから一つひとつアルゴリズム化されていく。市場はグローバルだ。
 

Profile

河田 光央/藤井 宏之

(かわた みつお)  1991年に入社した後、無線インフラ関連事業場に配属。足かけ3年、年間200日をタイ・バンコクで無線通信インフラ構築に従事。05年、情報セキュリティ部門に配属。子会社を含めて約4300人の情報セキュリティマネジメントを推進中。

(ふじい ひろゆき)  1996年に入社し、一貫して情報システムの業務に従事。プログラム開発から、業務アプリケーションの企画・構築・運用、システム開発プロジェクトのプロジェクトマネージャまで幅広く経験を積む。12年、ITインフラチームのチームリーダーを経て14年4月より現職。現在は、BYOD、MVNO、ワークスタイル革新などのモバイルワーキングの戦略企画を推進。