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日本がもつゆるぎない歴史をもっと世界に誇っていいと思います――第180回(上)

千人回峰(対談連載)

2017/03/21 00:00

マンリオ・カデロ

マンリオ・カデロ

サンマリノ共和国 特命全権大使 駐日外交団長

構成・文/浅井美江
撮影/長谷川博一

週刊BCN 2017年3月13日号 vol.1669掲載

 サンマリノ共和国という国をご存じだろうか。イタリア中部にある世界最古の共和国である。マンリオ・カデロ大使は、同国の特命全権大使であると同時に、日本に駐在する世界154か国の大使全体を代表する駐日外交団長を務められている。新しく赴任する各国大使は、カデロ大使を訪うという。こうした情報は少しばかりの緊張をもたらす。しかし、実際にお会いしたカデロ大使は、豊かな日本語を話される、実にaffascinante(魅力的)な方であった。(本紙主幹・奥田喜久男)


2016.11.18/サンマリノ共和国大使館にて
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第180回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

ロボティズムになってしまった現代の日本

奥田 初めまして、お目にかかれて光栄です。

大使 ようこそサンマリノ大使館においでくださいました。

奥田 大使は1975年に来日されて以来、ずっと日本におられます。日本のどんなところが気にいられているのでしょう。

大使 最初に日本にきたのは子どもの時です。11歳くらいの頃で、その後も何度もきています。その間、アジアのいろいろな国、ベトナム、タイ、ラオス、中国に行きましたが、日本のような国はあまりみたことがありません。他のアジアの国とはすごく違います。

奥田 どんなところが違うのでしょう。

大使 日本は非常に古い歴史をもっています。神秘的です。中国などアジアの他の国は、ヨーロッパの影響がかなりあるのですが、日本にはありません。自らの国の伝統や習慣がずっと守られていて、非常にピュアでオリジナルだと思います。

奥田 そういう風に日本を捉えていただいているのですね。

大使 ですが、日本もずいぶん変わりました。最初に来た時の日本と今は違います。

奥田 どこが変わりましたか。

大使 人間が変わりましたね。

奥田 人間ですか……。

大使 昔の日本はもっとリラックスしていてスローライフでした。今ほど制限が多くなくて。もっとヒューマニズムがありました。

奥田 今の日本は違いますか。

大使 (大使、よろいをまとうジェスチャーをして)ロボティズムね。

奥田 よろいですか(笑)

大使 そう。以前の日本は融通が利きました。今はいろいろなことが、これもダメ、あれもダメ。ちょっとうるさ過ぎます。もうちょっとスローライフでヒューマニズムを考えるべきです。なぜなら私たちはロボットじゃない。今は駐車禁止でも厳しすぎますね。お手洗いも行けないです。ちょっと駐めてお手洗い行って戻ってくると、緑の係の人がいて……。

奥田 ああ、緑の係の人。

大使 すぐ来るでしょ。でも人間は機械ではありません。疲れてしまって少しだけ休みたい時もある。喉が渇いてお茶を買いたい時や具合が悪くて薬を買いたい時もあります。人間にはたくさんの“ちょっとした用”があります。だから10分くらい駐車ができる余裕はほしいと思います。なんでも早くして早くしてと急かすのは身体にもよくないですね。

奥田 ささいなことに神経質になりすぎているということでしょうか。

大使 以前の日本はそんなに神経質じゃなかった。なおした方がいいですね。もっと人間らしい生活をするべきだと思います。あと、民泊もダメといっています。世界ではかなり民泊を認められているのに……。

奥田 確かにそうですね。

大使 私は大学生の時、旅行をするのはずっと民泊でした。学生の時はお金がありませんから。だから民泊は助かりました。でも、日本はダメでしょう。それはちょっとよくないですね。日本らしくない。“おもてなし”じゃないです。

一番緊張するのは天皇誕生日茶会の儀

奥田 大使は、サンマリノ共和国特命全権大使であると同時に、日本に駐在する各国大使全体の代表「駐日外交団長」でもあります。いつから務められているのですか。

大使 2011年の5月からですから、今年で6年になります。

奥田 団長としてのお仕事をいくつか教えていただけますか。

大使 たくさんあります。例えば、陛下が外国にいらっしゃる時のお見送りとお出迎え。陛下が主宰される晩餐会への出席。現在、日本には154か国の大使館がありますが、いろいろな国の大統領や王様がいらっしゃる時、すべての大使を招待することはできません。ですから代表だけが招待されるんです。また、新しい大使が赴任される時に挨拶においでになります。昨年まで米国の駐日大使だったキャロライン・ケネディさんも訪ねてきてくれました。

奥田 すべての大使がおいでになるのですか。

大使 ……おいでにならない大使もいます。

奥田 どうしておいでにならないんでしょうね。

大使 理由はわかりません。私は思うのですが、新しい大使が赴任した時には、最も駐在が古い大使、現在は私になるのですが、やはり挨拶に行くべきでしょう。

奥田 それは世界のすべての国々においてもとお考えですか。

大使 そうです。新しく赴任した大使には、信任状を天皇陛下に棒呈する信任状棒呈式という儀式があります。外務大臣または他の国務大臣が侍立することとされています。信任状棒呈式に出席する大使一行の皇居への送迎に際しては、大使の希望により、皇室用の自動車か馬車が提供されるんですよ。因みに昨年はインド、イラク、アラブ首長国連邦、タイの四つの国の信任状棒呈式がありました。

奥田 興味深いですね。

大使 いろいろな決まりごとがありますから、陛下の前でどうふるまえばいいのか、何に気をつければいいのか、たくさんの大使が質問にこられます。団長に挨拶をするのは義務ではありませんが、マナーです。

奥田 義務とマナー。確かにどちらも大切ですね。

大使 私はそう考えますね。

奥田 団長として、最も大切な仕事はなんでしょうか。

大使 どれもみんな大切ですが、一番緊張するのが陛下のお誕生日のセレモニーです。

奥田 12月23日ですね。どんなことをされるのですか。

大使 セレモニーには全大使と夫人が出席されるのですが、300人の代表として、私が陛下にご挨拶をしなければなりません。緊張します。

奥田 大使でも緊張されるんですか。

大使 それはもう! 緊張しますよ。

奥田 挨拶は毎年変えられるのですか。

大使 毎年テーマを変えています。和歌の話、君が代の話。これまでの陛下がやってこられたことについて……。毎回頭が痛いです(笑)。陛下は普通の人じゃないですから、「長生きしてください」とか言えないでしょう。もっとアカデミックな話じゃないといけない。言葉も難しい。「お誕生日おめでとうございます」とは言いません。「ご誕辰」と言わなくてはいけません。

奥田 それは難しい。勉強になります。日本人でも知らない方もたくさんおいでになると思いますよ。……ところで、陛下はどんな方なのでしょう。ちょっと教えていただけませんか。

大使 では一つ、素敵なエピソードがあるので、次回お話ししましょう(笑)(つづく)

日本がもつゆるぎない歴史をもっと世界に誇っていいと思います――第180回(下)
サンマリノ共和国 特命全権大使 駐日外交団長 マンリオ・カデロ

 
 

 カデロ大使の著書2冊(右側は共著)。日本への造詣の深さには目を瞠る。年齢の話になった時も「私は午だから」とさりげなくおっしゃった
 サンマリノ神社にちなんで製造された、その名も「神社ワイン」。鳥居のなかに干支がデザインされている。ネットの販売店などで一般でも購入可
 

Profile

マンリオ・カデロ

(Manlio Cadelo)
 イタリア・シエナ生まれ。イタリアの高等学校を卒業後、フランス・パリのソルボンヌ大学に留学。幼少期から幾度か来日。1975年日本に移住後はジャーナリストとしても活躍。89年駐日サンマリノ共和国領事、2002年駐日サンマリノ共和国特命全権大使。11年5月からは日本に駐在する各国大使全体の代表である「駐日外交団長」に就任。外交団長として多忙な公務をこなしつつ、講演や執筆活動など幅広く活躍している。著書に『だから日本は世界から尊敬される』小学館、『世界でいちばん他人(ひと)にやさしい国・日本』祥伝社(共著)などがある。