常に成長市場に身を置き 海外に強い会社をつくる――第318回(上)

千人回峰(対談連載)

2022/12/02 08:05

山岸聖幸

山岸聖幸

NextNinja 代表取締役社長CEO

構成・文/小林茂樹
撮影/松嶋優子
2022.10.24/東京都品川区のNextNinjaにて

週刊BCN 2022年12月5日付 vol.1948掲載

【東京・五反田発】この春、会長職に専念したことを契機に、しばらく休んでいたFacebookへの投稿を再開した。投稿内容はこの『千人回峰』の記事紹介が主だが、いろいろと巡回しているうちに、偶然、山岸聖幸さんの名前を見つけた。最初に出会ったのは20年以上前の学生の頃、今はゲーム業界で大活躍とのこと。久しぶりに会って、過去・現在・未来の話をじっくり聞いた。でも、どんなきっかけで知り合いになったのか、不思議なことに二人とも思い出せない。もしかすると、それは小さな過去にこだわらない未来志向型人間の特徴なのかもしれない(笑)。
(創刊編集長・奥田喜久男)

市場の流れの変化を読み
事業内容を変えていく

奥田 初めてお会いしたのは、山岸さんがまだ早稲田の学生だった頃ですね。

山岸 はい。当時、よくお昼をご馳走になり、マイクロソフトにいらした古川亨さんなどにも会わせていただいた記憶があります。

奥田 懐かしいですね。ところで、山岸さんは現在ゲーム業界で大活躍されていますが、起業してから今に至るまで、どんな道を歩んで来られたのですか。

山岸 大学院在学中の2003年10月に起業しました。最初は、携帯コンテンツを手がけました。占いコンテンツや待ち受けサイトとか、いわゆるiモードビジネスにおけるコンテンツをつくっていたんです。

奥田 まだ、ガラケーの時代ですね。

山岸 そうですね。それで、次は動画の時代が来るだろうと考え、携帯コンテンツの次に、ガラケーでの動画配信サービスを立ち上げました。そして、09年頃にはブラウザゲームの開発に乗り出しました。当時はグリーやモバゲーが先行し、まだ携帯はガラケーの時代でしたが、当社もこの分野に参入しました。

 実は、プログラミングとか開発の世界では、ゲームというのはとても難しいジャンルなのです。アート要素が必要で、2D、3Dといった表現、そしてクライアントプログラムや大規模なサーバーにより、何十万人ものアクセスをさばかなければなりません。だから、当初はゲームをつくれるとは思っていませんでした。

奥田 それでも参入したのは?

山岸 大ヒットしたDeNAのソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」を見て、「これなら自分たちの持つリソースでもつくれるぞ」と思い、参入したんです。

奥田 先行する大手にも太刀打ちできるめどがついたのですね。

山岸 それで開発が面白くなって、ブラウザゲームをどんどんリリースしていきました。そうしているうちに、iPhoneの登場によりデバイスがガラケーからスマホに変わっていくわけですが、それに伴いこの市場も、ガラケーのブラウザゲームからスマホのアプリゲームに移行していきました。その結果、この10年の間に世界で10兆円ほどのスマホアプリゲームの市場ができたのです。

奥田 IT業界の常とはいえ、短期間のうちにマーケットが大きく変貌していったことがよくわかります。

山岸 こうした状況をとらえ、13年からはスマホゲームのビジネスを中心に事業を進めています。

奥田 山岸さんは、時代や市場の流れを読むのがうまいのですね。

山岸 そうかもしれません。常に成長市場に身を置くようにしています。市場が成長している限り、そこにいればなんとかなるからです。

奥田 ということは、事業内容を市場に合わせて変えていくことが、自社の成長につながると。

山岸 03年に起業して以来、潰れることなくずっと事業を継続していますが、やっていることは常に変わっています。そして、今は海外シェアを伸ばそうとしているところです。

レッドオーシャンの国内市場より
拡大中の海外市場を狙う

奥田 もう、世界が視野に入っているのですね。山岸さん自身、現在のゲーム業界をどう分析されていますか。

山岸 国内のスマホゲーム市場は1兆円程度ですが、成熟期に入っており、それ以上伸びていません。大資本の中国勢や米国勢がたくさん参入してきており、日本メーカーのシェアは低下傾向にあります。いわば、レッドオーシャンの状況といえるでしょう。ですから、これから日本の企業がゲーム業界に新たに参入して成功を収めるというのはなかなか難しいのではないでしょうか。

奥田 そんなレッドオーシャンの中で『NextNinja』は生き残ってきたわけですが、その理由はどんなところにあるとお考えですか。

山岸 海外に強い事業構造にできたことですね。現在の売上比率は国内50%・海外50%ですが、先ほど申し上げたように、今後さらに海外比率を伸ばしていくつもりです。

奥田 現在の海外売り上げの内訳は、どのような形になっていますか。

山岸 一番大きいのは北米・ヨーロッパですね。その次が中国で、あとは東南アジアが若干というところでしょうか。ちなみに、任天堂の国内市場での売り上げは全体の25%で、売上高の4分の3以上が海外のマーケットになっているようです。

奥田 自社のさらなる成長のためには、頭打ちの国内市場にとどまらず、海外マーケットを攻略する必要があるということですね。でも、競合も同じような動きをするのではないでしょうか。

山岸 実は、レッドオーシャンの国内市場で疲弊して、海外に進出しようとする国内のゲーム会社はとても少ないのです。それだけに、当社にとってチャンスだと考えています。

 そして、海外における日本のコンテンツ市場は潜在的に大きくなっています。メジャーなエンタメの映像作品は、ハリウッドの映画、日本のアニメ、韓国のドラマだと思うのですが、このコロナ禍でNetflixやCrunchyroll、bilibiliなどの配信によって、日本のアニメを世界中の何十億人という人が見るようになりました。こうして、日本のアニメ好きは世界でどんどん増えているのですが、ゲームはアニメほどのスピードでつくることができないため、市場的には遅れているという現状があります。

奥田 つくるのが大変であるにしろ、チャンスであることは間違いないですね。

山岸 世界のゲーム市場の規模はおよそ27兆円ですが、日本のゲーム会社が占める比率は非常に低く、ここを攻めていこうと思っているんです。

奥田 その世界を狙う陣容とコンテンツについて簡単に教えていただけますか。

山岸 従業員は約220人で、資本金はおよそ13億5000万円。近い将来、上場を目指しています。

 現在の主力コンテンツは、いずれもRPGの「グランドサマナーズ(グラサマ)」と「東方LostWord」です。グラサマは16年に出したものですが、6年連続で海外売り上げが伸びているという、かなりめずらしいタイプのゲームです。東方LostWordは2年前に出したもので、中国を含め世界80カ国に展開しています。

奥田 なるほど、山岸さんが着々と世界を狙うスタンスが伝わってきました。(つづく)

かなり雑然としたCEOの執務スペース

 山岸さんは創業経営者であり、プロデューサーであり、開発者でもある。そのため、コンテンツ候補の原作を読み込むことも大事な仕事の一つ。そうだとしても、それが雑然としている理由かどうかは判然としない。
 

心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
奥田喜久男(週刊BCN 創刊編集長)
 
<1000分の第318回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。

Profile

山岸聖幸

(やまぎし まさゆき)
 1977年、大阪生まれ。2002年、早稲田大学理工学部経営システム工学科卒業。03年10月、同大学院在学中に起業しNextNinjaを設立。09年7月、合併により現NextNinjaを設立。RPG『グランドサマナーズ』や『東方LostWord』など多くのコンテンツを手がけ、世界中に発信している。