自らの経験から生まれた食物アレルギー対応アプリ――第160回(上)

千人回峰(対談連載)

2016/05/19 00:00

中馬 慎之祐

iPhoneアプリ「allergy」開発者 成蹊中学校1年 中馬慎之祐

構成・文/浅井美江
撮影/長谷川博一

週刊BCN 2016年05月16日号 vol.1628掲載

 千人回峰にこれまで登場いただいたなかで、最高齢はプロスキーヤー・登山家の三浦雄一郎さんで当時81歳。今回お迎えしたのは最年少記録者となる中馬慎之祐さん。自らのアレルギー経験を生かしたiPhoneアプリ「allergy」で、本年の「BCN ITジュニア賞」をはじめ、幾多の賞を取得。さまざまなメディアから取材があるという。「賞を取って、世界って変わった?」とたずねたら、「取材慣れしました」とのびやかに笑った。堂々の12歳の登場である。(本紙主幹・奥田喜久男)

2016.4.1/BCN22世紀アカデミールームにて
 
心に響く人生の匠たち

 「千人回峰」というタイトルは、比叡山の峰々を千日かけて駆け巡り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借したものです。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れたいと願い、この連載を続けています。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第160回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

自らの経験から生まれた食物アレルギー対応アプリ

奥田 まず、自己紹介をしてください。

中馬 中馬慎之祐です。12歳です。

奥田 好きなものは何ですか?好きなことでもいいです。

中馬 ゲームが好きです。

奥田 どんなゲーム?

中馬 うーん。最近は銃でバンバン撃つゲームとか好きです。

奥田 つくるほうは?

中馬 プログラミングですか?iPhoneのアプリをつくってます。

奥田 つくるほうと使うほうと、どちらが楽しいですか。

中馬 その時によるけど、最近はつくるのが楽しいかな。アプリのアイデアが浮かんだ時はつくるのがすごく楽しくて、それを一通りつくり終わってアップデートしたら、次のアイデアが浮かぶまでゲームしたりとか。

奥田 アイデアって浮かんでくる? 考える? ひねり出す?

中馬 うーん。プログラミングスクールに行ってるときは、自分のアプリをみて考えたりします。でも、ふだんFacebookやTwitter(ツイッター)とか、ほかのアプリのデザインをみて「あ、これいいかも」って学ぶこともある。

奥田 つくるときの気持ちを、もう少していねいに教えてくれますか。

中馬 使う人のことを考えて、その人がどうやったら不便なく使えるかとか、使って楽しいかなとか、思います。押すボタンが小さかったら不便かなァとか。

奥田 なんでそんなこと思うのかな。

中馬 やっぱりダウンロードしてほしいからだと思います。

奥田 なんでダウンロードしてほしいんだろう?

中馬 えええ? なんでダウンロードしてほしい?うーん、やっぱりせっかくつくったアプリだから、使ってほしいから……。

奥田 お金になるからとか思わないのかな?

中馬 うーん。お金にはしたいと思ってるけど、今はそうなってないから……。

奥田 そのうち、開発者にビットコインがいっぱい集まってくるような時代が来るのかな。

中馬 ビットコインってなんですか?

奥田 電子マネー。ああ、そうか電子マネーのほうにはまだ興味ないんだね。

中馬 あんまり……わかんないです。

奥田 わかりました。では「allergy」について、もう少し詳しく教えてくれる?

中馬 僕は食物アレルギーがあって、卵なんですけど、外国に旅行に行ったときにそれをお店の人に伝えられなくて困ったことがあって。それで、アプリにしたらどうかなと思いました。

奥田 なるほど。じゃあ、自分の卵アレルギーへの切実な思いから生まれたんだ。

中馬 はい。で、僕は卵だけど、ほかにもアレルギーの人いるから、それにも対応したらいいかなって。アプリを作る前に、食物アレルギーがある友達のお母さんたちにアンケートをお願いして、誤食の経験とか、注意すべき食材とか。みんな、すごく協力してくれて、応援メッセージをアンケート用紙の裏にまでいっぱい書いてくれたり。

奥田 卵だけではなくて、いろんなアレルギーで困っている人がたくさんいるということだね。

中馬 そうですね。なので「allergy」つくれてよかったです。

奥田 このアプリは成長していくのかな。

中馬 はい。今ちょっと大改造やってて、次のバージョンに向けて全体的にデザインとか変えて頑張ってます。
 

受賞して変わったことは取材に慣れたこと

奥田 一番初めにデジタルのものに触ったのは何歳くらいのとき?

中馬 お母さんがパソコンを使っているのをみて、いいなあって。幼稚園の年長さんの時かなあ。

奥田 パソコンみて、なんか言ったの?

中馬 何それって。だって、テレビみたいだけど、何やってるか全然わからなくて。字も読めなかったから。でもトラックパッドは触って「おおー」って感じでした。

奥田 一番初めにつくった作品は覚えてますか?

中馬 小学校の2年生か3年生のときに、SCRATCH(子ども向けプログラミング言語)でつくったシューティングゲーム。それはSCRATCHの本を丸写ししてつくりました。

奥田 そのときのギアは何を使ったの?

中馬 あ、それはパソコンでつくるやつだったので、マックです。

奥田 なるほど。で、その後の活動は?

中馬 13年の夏くらいから、定期的にプログラミングスクールに通うようになって、14年の秋に初めてアプリをApp Storeにリリースして「アップルストア銀座」でプレゼンテーションをしました。それでいろんなメディアに取材してもらうようになりました。

奥田 何か世界は変わりましたか。

中馬 なんか、取材慣れしました。(笑)

奥田 おもしろいね! 今の!

中馬 まあ、そこで初めて大勢の前でプレゼンをして、それでプレゼンもうまくなったりしたかなと思います。

奥田 ちょっとここで聞きたいことがあるんだけど。僕の知り合いには、学校でパソコンを教えている先生がたくさんいます。その先生がおっしゃるには、パソコンをしている子どもたちは、友達から「あいつら軟弱」とか「オタク」って言われるそうだけど……

中馬 はい。

奥田 だから、パソコンが好きだというのをあまり言いたくないらしい。先生たちは、その子どもたちが「僕はパソコンのプログラミングが好きです」って、堂々と言えるようにしたい。プログラムをつくる子どもたちにエールを送りたいと思ってるんです。そのことについて、あなたはどんな風に思うかな。

中馬 うーん。僕の場合はオタクとかは言われないです。逆にパソコンできると頼られたり。だって、プログラミングって、世界で流行ってるじゃないですか。みんなが使ってるLINEだってプログラミングでできてるんだし。“オタク”って、ほめ言葉でもあるなって思う。それを専門的にできるってことだから。

奥田 プログラミングって、世の中で役に立っているのかな、社会貢献しているのかな。中馬 だって、テレビのなかだってプログラミングで動いてるし。スマートフォンやパソコンやカメラだってプログラミングで動いてるわけだから、けっこう世界を変えてると思います。

奥田 プログラミングをするほかの人たちとの交流はしてますか。

中馬 プログラミングスクールに通っているので、そこの子たちとは話をして情報交換したり。大学生の先生はいるんですけど、先生に頼らずお互いに教え合ったりしてます。

奥田 交流すると、何か得るものはありますか。

中馬 知らないことを教えてくれたりとか。プログラミングのことだけじゃなくて、いろんなことを教えられたりするのでいいなァと思います。(つづく)

 

いつもバックパックに入っている 愛用のMacとiPhone

 iPhoneの画面は、中馬さんが開発したアプリ「allergy」。卵や小麦、大豆、そばなど九つのアレルゲンに対応。言語も日本語、英語、フランス語など9種類。国内でも海外でも、外食時に自分のアレルゲンについてたずねることができる。現在、App Storeで配信中。