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自社の問題克服の経験をビジネスに結びつけた松下幸之助のDNA――第111回(上)

河田 光央/藤井 宏之

パナソニックシステムネットワークス チームリーダー 河田 光央/参事 藤井 宏之

構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2014年05月19日号 vol.1530掲載

 パナソニックという巨大な組織のなかで、情報システムや情報セキュリティといった業務に携わっておられる方というのは、失礼ながら、おそらくきわめて真面目な堅物タイプなのだろうという印象を抱いていた。ところが実際にお会いしてみると、真面目で優秀であることには違いないものの、ビジネスに対する熱い思いに満ちあふれたお二人だった。ちなみに河田さんの座右の銘は「人生一度っきり」。人の縁とものづくりへの情熱が、コラボレーションの輪を広げていったのだ。(本紙主幹・奥田喜久男) 【取材:2014.4.8 東京・中央区銀座のパナソニックシステムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニー本社にて】

2014.4.8 東京・中央区銀座のパナソニックシステムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニー本社にて
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第111回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

情報セキュリティ事案がシステム導入のきっかけに

奥田 今年2月、ネットワークセキュリティのエムオーテックス(MOTEX)が主催するLanScope AWARDで、ユーザーであるパナソニックシステムネットワークス システムソリューションズジャパンカンパニー(SSJC)はセキュリティ部門賞を獲得されました。きょうは、その中心となったお二人にお話をうかがいますが、社内ではまさに使う人とつくる人。おそらく業務側とシステム側の歩み寄りがあったからこそ、成功事例が生まれたのだと思います。まずは、ここに至るまでの経緯をお話しいただけますか。

河田 システム導入の端緒は、2010年12月に情報セキュリティ事案が起きたことです。そこで、再発を防ぐために、翌年1月には情報を自由に持ち出せない仕組みである媒体制御や、パソコンを使って何をしているのかを見える化するため、操作ログの管理システムの導入を開始しました。

奥田 そこで、MOTEXのLanScope Catを導入されたわけですね。

河田 いいえ。当時、パナソニックではグローバルで使えることを条件とした他社製品が推奨されていました。LanScope Catの優秀さは以前から知ってはいたものの、やむなく他社製品を導入しなければなりませんでした。

藤井 当時、私は担当ではなかったのですが、情報システムの観点で言うと、パナソニック本社でガバナンスを利かせて、海外を含むパナソニックグループ全社で、個別最適とならないように、推奨品が決められていたということです。ですから、たとえすぐれた日本製品があっても、グローバルでサポートできるかという観点でみられると推奨品の基準から外れてしまうわけです。また、一般的に外国製品は日本のソフトウェアに対応するかどうかの検証があまりなされていません。そのため、ソフトウェアによってはブルースクリーンになって、障害が発生した例もあると聞いています。

奥田 その外国製品は、ニーズに対応できなかったと。

河田 そうですね。当社はパナソニックのなかでも特殊な事業体で、セキュリティ商材の開発なども行っていて、そういった開発系のものが媒体を制御する仕組みとぶつかって、障害が頻発してしまったのです。1年以上経っても動かない。情報セキュリティの担当者として、私は大きな危機感を抱きました。そこで、LanScope Catを導入できないかMOTEXに相談しました。そして、サーバーの知識のない私にとって幸運なことに、2012年4月、藤井さんが情報システムグループのチームリーダーになりました。今でも記憶に残っているのですが、藤井さんはすぐに「(障害を起こさない)ほかのシステムはないの?」と言ってくれたのです。
 

再投資回避のためにクラウドサービスを活用

奥田 なるほど、河田さんにとって強力な援軍が現われたのですね。そこで藤井さんは初めてLanScope Catと出会われたわけですか。

藤井 そうですね。スペックなどを確認して検証した結果、システム的な観点からは大丈夫だろうと判断しました。

奥田 その時点で、本社サイドには推奨製品以外でもいいという判断があったのですか。

藤井 いいえ、そこから本社の情報企画や情報セキュリティ本部との調整です。ここでクリアすべき問題は二つありました。一つは、本社の推奨製品がなぜ使えないのかということを説明し、説得することです。そしてもう一つの問題は、すでに相当な金額を投資して、不完全ながら他社製品によるシステムを構築しているということ。そのうえで、LanScope Catを導入することが許されるのかという二重投資の問題です。

河田 そこでまず、その他社製品とLanScope Catをあらゆる視点から比較していきました。どこがいい、どこがダメかという説明資料をつくったのですが、それはたいへんな作業でした。そういう比較表をつくるだけで2か月以上かかりましたね。

藤井 これをもとに、問題点を一つひとつ説明して、LanScope Catを導入する必要性を訴えたわけです。このプロセスは、情報システム部門と情報セキュリティ部門が共同で取り組みました。

奥田 二重投資の問題は、どう解決されたのですか。

藤井 当社は、他社製品を購入し、すでに相当な額の初期投資を行っていて、そのうえ保守料や維持費を支払わなければならない状況にありました。そこで「クラウドサービスのかたちで料金を支払うのであれば、初期投資が不要になって、現在の運用維持費のなかで賄える」と思い、そういったサービス提供が可能かどうかをMOTEXさんに相談しました。これは、導入にあたっての大きな一歩になりましたね。

奥田 支出額は変えないで、中身のシステムをリプレースする、と。これなら稟議も通りやすくなるわけですね。

藤井 そうです。これを導入した頃は、パナソニックの業況があまりよくない時期で、投資は極力抑える旨の通達が出ていました。いくら情報セキュリティの再発防止策とはいえ、このタイミングでの再投資は厳しい。そんな局面で、クラウドサービスという考え方は非常に有効だったと思います。

河田 実は、LanScope Catを正式に導入すると決まった時点で喜んだ半面、これでうまくいかなかったら自分は会社にいることができない、と覚悟しました。ところが、懸念していた導入時のブルースクリーン障害はなく、驚くほどスムーズに導入できました。さらに驚いたのは、2012年9月、グローバルでのパナソニックの情報セキュリティ強化月間に、この取り組みによって情報セキュリティ本部から優秀賞をいただいたんです。よく表彰してくれたものだと思います。

奥田 失敗したら、藤井さんを道連れにしちゃうところだったのに?

河田 いや、それは……。

藤井 それは道連れですよ(笑)。もし、システムに欠陥があって情報漏えいしたりしたら、ただではすみませんからね。(つづく)

Profile

河田 光央/藤井 宏之

(かわた みつお)  1991年に入社した後、無線インフラ関連事業場に配属。足かけ3年、年間200日をタイ・バンコクで無線通信インフラ構築に従事。05年、情報セキュリティ部門に配属。子会社を含めて約4300人の情報セキュリティマネジメントを推進中。

(ふじい ひろゆき)  1996年に入社し、一貫して情報システムの業務に従事。プログラム開発から、業務アプリケーションの企画・構築・運用、システム開発プロジェクトのプロジェクトマネージャまで幅広く経験を積む。12年、ITインフラチームのチームリーダーを経て14年4月より現職。現在は、BYOD、MVNO、ワークスタイル革新などのモバイルワーキングの戦略企画を推進。