次代を担う若い力こそがクラウド、ビッグデータ、グローバルを支える――第101回(下)
ITジュニア育成交流協会 理事長 高橋 文男 理事 真木 明
構成・文/谷口一
撮影/津島隆雄
週刊BCN 2014年01月13日号 vol.1513掲載
IT産業を発展させていくには「人の力」が欠かせない。将来を見据えれば、とくに「若い力」の台頭は切に望まれるところだ。シリーズ「ものづくりの環」の2014年のスタートは、「若い力」を支援するITジュニア育成交流協会の高橋文男理事長と真木明理事に登場してもらって、若者への想い、課題、将来について語っていただいた。今回はその後半を紹介する。(本紙主幹・奥田喜久男) 【取材:2013.11.6 東京・千代田区内神田のBCNオフィスにて】
「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
彼らの可能性を広げることが活動の価値に
奥田 人材採用やマネジメントについてうかがいます。お二人は企業に在籍しておられた時には採用面接や指導などもされたと思いますが、ITジュニアの優秀な子どもたちは、企業でも、すんなりと使えるという実感は抱いておられたのでしょうか。真木 IT技術だけが突出しているという人材についていえば、企業で生かせる、すぐに使えるというのは難しいかもしれません。一般常識やものごとの考え方といったものもありますし、大学卒に限るという企業もありますしね。
高橋 スティーブ・ジョブズのアップルもビル・ゲイツのマイクロソフトも、始まりはガレージだったり教室の一角からですから、ITジュニアの子どもたちも、なにも規制やルールがいろいろある企業に入るというだけではなく、自分がもっている能力とか可能性を広げていくには、いろんなチャンスがあると思うんですね。日本にも、起業された方はたくさんいらっしゃる。そういう皆さんにお願いしたいのは、将来に可能性を秘めた若い人たちを、ぜひ、ベンチャー企業のなかで生かして、その可能性を広げてあげてほしいということです。規制や枠のないところでチャレンジしていくのが、子どもたちの夢や才能を花開かせる母体になるんじゃないかと思います。
真木 ITジュニア育成交流協会が応援するような子どもたちは、企業に入って大きなアプリケーションを組むような部署だと、すぐにつまらなくなるんじゃないでしょうか。パーツしかつくらないわけですから、自分の能力をフルには発揮できない。優秀であればあるほど、本来の能力を発揮できないのじゃないかと思います。
奥田 そういうものですか。
高橋 われわれは、「あそこにITジュニア賞を受賞するような生徒さんを輩出している学校がある」というような情報を提供することはできますし、現にそこから採用に結びついたという事例も少しずつ出てきています。
真木 情報はつかめていますし、若干のご紹介はできますから。
奥田 では、BCNがメディアとしてITジュニアの情報を、IT業界に発信していくという活動は、とても価値があるということですね。
高橋 価値がありますし、『週刊BCN』を読んでおられるIT業界の皆さんが、私ども育成協会の活動内容に関する記事を価値のある情報として活用していただきたいと思っています。
「考える」と「つくる」が一体となってこそ
奥田 お二人は、子どもたちのいろいろなコンテストを見ておられると思いますが、そのなかで、印象に残るお話などはありますか。真木 あるコンテストに、以前勤務した会社の二人の技術者を連れていったことがあります。そのとき、二人が異口同音に口にしたことは、「集中力がすごい」ということだったですね。時間内にテーマを解決するわけですから集中力が必須なんです。その集中力をつけさせるために、走り込みをやらせたという先生がおられました。走り込みが集中力を高めるには有効と聞くと、即座に実行する。そこだと思いますね。
奥田 やるかやらないかということですね。
真木 実際に2009年、10年と「高校生ものづくりコンテスト」で二連覇を成し遂げ、ITジュニア賞を受賞した生徒ですが、彼は、就職した1年目で技能五輪に優勝する快挙を成し遂げました。その彼もやっぱり在学中から走っていたそうです。
高橋 工業高校の話ですけど、プログラミングの競技を、その学校の地域の中学校に呼びかけて、中学生にもやらせて、次代の優秀な高校生を探して、応援していこうという取り組みをしている学校もあります。北海道でもやっていますし、埼玉県でもやっています。もちろん自分の高校へ入ってほしいという思いもあるでしょうけれど、若い人たちの芽を開かせてあげようという気持ちも強いと思います。
奥田 中学から高校・高専、そして大学とどこも優秀な子に来てほしいわけですから、いろいろなかたちでの人材発掘は重要ですね。企業だって、当然、優秀な人材を欲していますから。
真木 企業についていえば、ものづくりをきちんと国内で行っているかどうかですね。行っている企業は、高卒であろうと、ものづくりコンテストで優勝した子どもは、是が非でも欲しいはずです。大手にしろ中小にしろ。
奥田 なるほど、納得がいきますね。
真木 例えば高卒であることを理由に門戸を閉ざす企業は、優秀なIT人材のニーズが低いんでしょうね。ここでもう一度、日本を生産立国にするんだとか、そう標榜する企業にとっては、ものづくりの優秀な子どもたちは、かけがえのない金の卵なんですよ。
高橋 ITジュニア賞を受賞された学校の先生もおっしゃっていましたが、ものづくりは、一つは「考える」こと、もう一つは「ほんとうに手足を使ってつくる」こと。この二つがセットになっていなければ優秀なものづくりはできない。最近、日本のIT産業は、中国や韓国に押され気味になっているんですけど、日本は考えるほうにばかり集中して、つくることを外に出し過ぎたんじゃないだろうか。自分で実際にものをつくらないと新しい考えも浮かんでこないし、つくる工程でこうやればもっとよくなるというようなアイデアも湧いてこない。やっぱり、「考える」と「つくる」が一対になっていなければ、強いものづくりの基盤は生まれてきません。そして、そこで優秀な子どもたちの力を生かしてもらえば、日本のものづくりが再生できるのではないかと思っているんです。
奥田 以前、取材にいった米沢のNECでも出雲の富士通でも、同じことをいわれました。考えるとつくるが一体になってこそ、ほんもののものづくりということですね。クラウド、ビッグデータ、グローバルを支える技術もやはりそこですね。そしてプラス“若い力”ということでしょうか。新しい年に向けて指針がみえた気がします。ありがとうございました。
ITジュニア育成交流協会とは
こぼれ話
人の“縁”はたしかにある。私たち3人が一枚の写真に収まるのは、いつも山登りで満足げな顔をしている時だ。それなのに今回はNPO法人の活動の場で手を握りあっている。私たちは、1971年4月にそれぞれの道を経て社会人となった。高橋さんは高知市から神戸の大学へ、真木さんは豊橋市から小樽へ、私は岐阜市から伊勢へ。そしてお二人は東芝に入社。私は電波新聞社に入社して、東芝の広報にいた高橋さんと出会った。真木さんと高橋さんは東芝入社の寮が同じというお仲間だ。その後40年間は別の道を辿り、50代になってから共通の趣味の山にご一緒し、還暦を共に祝った。次の儀式は定年だ。創業者の私には残念ながらそれがないけれども、お二人にはNPO法人の志に賛同してもらって、今も活動をともにしている。うれしい限りだ。Profile
高橋 文男
(たかはし ふみお) 東芝の電子計算機事業部(当時)から総務部門、広報、工場・支社総務、本社総務などを歴任し、東芝不動産(現NREG東芝不動産)で代表取締役、相談役を歴任。同社を退職後、ITジュニア育成交流協会が展開する「ITを学ぶ子どもたちの支援活動」に共感し、2011年8月、協会の理事長に就任。
(まき あきら) 東芝ソリューション元常務。在職中は中国・東軟情報学院の学生たちが高専プロコンに参加できるようにスポンサーとして支援。ITにおける日中の学生交流を促進するプロジェクトを指揮。2011年8月、ITジュニア育成交流協会の理事に就任。