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次代を担う若い力こそがクラウド、ビッグデータ、グローバルを支える――第101回(上)

千人回峰(対談連載)

2014/01/09 00:00

高橋 文男

ITジュニア育成交流協会 理事長 高橋 文男 理事 真木 明

構成・文/谷口一
撮影/津島隆雄

週刊BCN 2014年01月06日号 vol.1512掲載

 2014年は、どんな年になるのだろうか。2020年の東京五輪の開催が決定し、さまざまなインフラ整備投資も活発化するだろう。13年末には6年ぶりに日経平均株価が1万6000円台を回復し、景気にも明るさがみえてきたようだ。IT業界は、クラウド、ビッグデータ、グローバルをキーワードとして動くとみられる。そして、それらを支え、発展させていく「人の力」が不可欠となる。将来を見据えれば、とくに「若い力」の台頭は切に望まれるところだ。シリーズ「ものづくりの環」の2014年年頭は、その「若い力」を支援する、ITジュニア育成交流協会の高橋文男理事長と真木明理事に登場してもらって、若者への想い、課題、将来について語っていただいた。上、下に分けて紹介する。(本紙主幹・奥田喜久男  構成・谷口 一  写真・津島隆雄) 【取材:2013.11.6 東京・千代田区内神田のBCNオフィスにて】

2013.11.6 東京・千代田区内神田のBCNオフィスにて
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
 
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第101回(上)>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

すぐれた子どもたちが多くなってきた

奥田 ITジュニア育成交流協会の活動が着実に社会性を帯びてきていることを、いま、肌で感じています。今日は、協会の高橋理事長と真木理事に登場いただきました。2014年の年頭にあたり、新しい年を、また協会創設10周年を迎える2015年に向けて、どう舵取りしていかれるのか、想いや課題も含めて聞かせてください。

高橋 ITジュニア育成交流協会というNPOの活動に参加させていただいて、2年が経ちましたが、ほんとうに驚いたのは、若い人たちの真剣な姿です。いまの若い者はうんぬんというような世評とはまったく違います。懸命に自分たちの将来を見据えて、ITに真摯に取り組んでいて、しかも、ものすごく立派な成果を上げている若者が多い。その点に大いに感心しております。ただ、彼らが活動をするうえで、まだ、いろんなサポートが必要だと感じています。われわれは長くIT関連の業界にいた人間ですから、そういったところを手助けできればと思っています。ですから、2014年は特段何をするというよりも、いままでやってきたことを、さらに一歩ずつ広げていって、みなさんをサポートできる新しいアイデアがあれば、それも採りいれていきながら、活動の輪を広げていくことだと思っています。

奥田 子どもたちの成果というのは、具体的にはどんなところで感じられましたか。

高橋 プログラミングコンテストを観戦すると、高校生が、すぐに使えるようなセキュリティを確保するためのユーティリティプログラムをコンテストに出してきたり、そういうのがあるのですね。あるコンテストでは、中学生なんですけど、審査員の先生の「このプログラムは、どこからどういう情報を収集してつくったんですか」という質問に対して、「日本の国内にある情報はたいしたものがありません。だから、私は世界を対象に情報を収集しています」と答えたんです。

奥田 インターネットを利用してですね。

高橋 ええ、ネットを駆使して、こういう10代前半の中学生が現れているというのは、驚異ですね。その驚異というのは、夢が広がるというか、期待感を指しているのですが……。

奥田 まさにグローバル、うれしいですね。
 

次は情熱のある先生方をサポートしたい

奥田 協会の具体的な成果としては、真木理事に協会に参加していただいて、業界のリユースPCをITジュニアへ手渡すというプログラムがスタートしましたが、そのプログラムへの思いというのを聞かせてください。

真木 そんなに高邁なビジョンにもとづいて実行するのではなくて、パソコンがなくて困っている生徒がいるから、企業が処分するPCならば、お渡しできるんじゃないかなという、さりげなく手を差し伸べよう、お手伝いしようというくらいのつもりでスタートしたんです。結果的にみると、それが派生してOSにLinuxを入れようかというような話があって、NPO法人のエルピーアイジャパンに指導してもらうとか。そんなふうに、少しずつ環が広がってきました。ある学校では、リユースPCをお渡ししたら、ITクラブの部員が増えたとか。さりげなく始めたことが、少しずつ確実に広がってきているなという気がしています。

奥田 先生方や子どもたちにも喜ばれているんでしょうね。

高橋 私たちが予想していた以上に喜んでもらっています。

奥田 最初にリユースPCを学校にお渡ししたのは何年で、どこの学校でしたか。

真木 2012年の3月で、宮城県工業高校、長野県松本工業高校、愛媛県立松山工業高校です。彼らは自由に使えるパソコンが少なくて、コンテストに出るのも不自由するという状況でした。

奥田 まだまだ、そういう学校も多いんでしょうね。

真木 「リユースPC寄贈斡旋プログラム」は今後も続けていきますが、次のステップというのは、パソコンを渡して、さっき言った技術的な教育のお手伝いを、いろいろな団体に協力してもらって行う。それで、第一段階は完成するかなと思っています。次に、もうワンステップアップとして何かできないのかなと、それが2014年のテーマですね。それはどんなものかといえば、ネットワークだと考えています。

奥田 具体的にはどういうことですか。

真木 子どもたちにパソコンを寄贈しているわけですから、その子どもたちのネットワークを構築することですね。われわれがお手伝いしたリユースPCとネットワークで、子ども同士や学校の部活対部活の交流の促進です。それが一つのキーになるかなと思っています。それと、優秀な子どもには情熱的な先生がついているんです。これは間違いないですね。野球部のすぐれた監督が優秀な選手を育てるのと同じことです。今後は、情熱をもっている優秀な先生をサポートしなければいけないんじゃないかというのが、事務局も含めた重要なテーマなんです。どうやったら、情熱のある先生を応援できるか。

奥田 優秀な子どもたちに対して機材を提供するという筋道ができました。次はその後ろにおられる情熱のある先生たちに対して、何をどうサポートしていくか。大きな課題ですね。

高橋 先生の情熱こそが、優秀な生徒を育む土台だろうと思います。じゃあ、その優秀な先生たちは、どう指導されているかというと、みなさん、子どもたちにあれをやれとかこれをやれとか、そういった指示はしていません。テーマを与えて、あとは自由にさせておくんですね。生徒たちが一生懸命に考える。あるいは仲間や先輩から教えてもらったり、自分でデータをとってきてやっていく。そういうのが、優秀な先生たちの指導の仕方なんです。子どもたちは、自分で自由な発想でやるんです。そういうなかで、先生たちをどういうふうにサポートできるか。そこから優秀な子どもたちが生まれてくるわけですから、取り組みがいのある課題です。(つづく)

BCN ITジュニア賞

 BCNは、技術立国日本の次代を担う若い世代にモノづくりの情熱を伝え、IT産業にひとりでも多くの優秀な人材を招き入れるために、2006年に「BCN ITジュニア賞」を創設し、毎年1月、若きITエンジニアの卵を表彰しています。

Profile

高橋 文男

(たかはし ふみお)  東芝の電子計算機事業部(当時)から総務部門、広報、工場・支社総務、本社総務などを歴任し、東芝不動産(現NREG東芝不動産)で代表取締役、相談役を歴任。同社を退職後、ITジュニア育成交流協会が展開する「ITを学ぶ子どもたちの支援活動」に共感し、2011年8月、協会の理事長に就任。

(まき あきら)  東芝ソリューション元常務。在職中は中国・東軟情報学院の学生たちが高専プロコンに参加できるようにスポンサーとして支援。ITにおける日中の学生交流を促進するプロジェクトを指揮。2011年8月、ITジュニア育成交流協会の理事に就任。