「坂の上の雲」の夢を描いて、人と組織を生かす――第88回

千人回峰(対談連載)

2013/06/27 00:00

河井 信三

河井 信三

東芝ソリューション 取締役社長

構成・文/小林茂樹
撮影/横関一浩

河井 飲みニュケーションだけではありませんが、オフタイムのコミュニケーションがあってこそ仕事がスムーズに運ぶ側面があることは確かです。ところが、最近の日本企業はそういうことを軽視しはじめたのではないかと感じることがあります。一時期、若い社員が上司に飲みに誘われることを嫌う傾向が強まり、縦の人間関係が弱まったこともその一因だと思いますが、今は関係を深めたいと思っている若手も増えています。上司は部下に声をかけ、コミュニケーションが生まれる環境を創り出すことも大切ですね。

「坂の上の雲」は年商1兆円を目指すTSOLの将来像

奥田 重電では世界でトップクラスの東芝ですが、IT系ソリューションでは、どのあたりに位置していると思われますか。

河井 難しい質問ですね。例えば中国と比べた場合、重電の技術では私たちには先進的な技術があり、彼らは発展途上の国です。電力業界は、長年の技術の蓄積と大きな設備投資が必要だからです。ところが、IT分野ではそうとは限りません。国内でも、東芝のような大企業と小さなソフトハウスを比べたとき、どちらの技術力が優秀なのか、わからなくなることもあります。私はインドにもベトナムにも行きましたが、それぞれすばらしいソフトの技術屋がいるわけです。ITの実力は、必ずしも国力や経済力とはリンクしないので、重厚長大産業のものづくりとは異なる考え方をしないといけませんね。

奥田 リーマン・ショック以降は大手SIerも軸足を海外に移しつつあります。そんななかでどのような展開を考えておられますか。

河井 国内だけで食べていけるならそれに越したことはありませんが、そうするのが難しくなってきている状況ですから、外に出る準備はしておかなければならないということです。すでに中国の東軟集団との合弁会社を立ち上げて、その一方でインドのバンガロールとベトナムのハノイにある東芝の研究所が設立したソフト会社の活用を考えています。バンガロールには500人、ハノイには100人ほどのSEが在籍していますが、TSOLとしてもこれを足がかりにしない手はないと思い、一昨年10月にそれぞれ1人ずつ社員を派遣しました。

奥田 それはオフショア開発なのですか。

河井 そうですね。その準備に一年くらいかけて、仕事を出し始めたところです。そして、このようなオフショア開発で利益を出していこうという目的に加えて、TSOL社員の「坂の上の雲」をつくりたいという狙いもあります。

奥田 「坂の上の雲」というのは、海外志向という意味ですか。

河井 海外志向という意味ではなく、TSOLの将来像をどう描くか、今後、何を目指していくのかということですね。例えば、当社の現在の売上高は2300億円程度ですが、1兆円を目指すにはそれに向けて何をしていくのかということを提示することが必要です。もちろん、海外の拠点を一つずつ広げていくということも、社員にとってワクワクすることでしょうし、閉塞感の打破にもつながりますが、やはり、大きな意味での「志」を抱くことが大事だと思います。

奥田 なるほど。ところでTSOLにとってのグローバルとは、日中韓、ASEAN10か国+インドというところですか。

河井 いいえ、あくまでも欧米を含めた全世界です。TSOL単独の展開ではなく、世界各国にある東芝の拠点を活用しながらやっていくつもりです。同時に、オンラインストレージやスマートコミュニティといった成長領域についての基盤づくりを急いで、その先でどのようなアプリケーションを提供できるかが、重要なカギを握ることになると考えています。東芝のITソリューション事業を担う企業として、さらに世界で東芝の総合力を発揮できるよう、頑張っていきます。

「人を大事にすれば、一生懸命働いてくれるということですね」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

河井 信三

(かわい しんぞう)  1954年6月、兵庫県生まれ。78年3月、慶応義塾大学経済学部卒業後、東京芝浦電気(現・東芝)入社。電力事業部電力営業第一部長、電力流通事業部電力流通営業部長、北陸支社長などを歴任した後、2008年6月、東芝ファイナンス代表取締役社長就任。11年1月、東芝ソリューション取締役社長に就任。趣味はゴルフ。