多品種変量生産で「MADE IN TOKYO」を掲げる――第85回
清水 直行
日本ヒューレット・パッカード PPSサプライチェーン本部長兼昭島事業所長
構成・文/谷口一
清水 営業側が言っているのは、お客様、とくにパートナー様からの強い要望です。それは、短納期とフレキシビリティ、それにプレディクタビリティといいますか、約束を守るということですね。
奥田 約束を守るというのは、どういうことでしょう。
清水 この日にお届けしますといったものを、必ずその日にお届けする。日本のお客様だと、遅かったら当然怒られますし、早くてもダメなのです。
奥田 日本ではそこが他の国よりも重要視されるわけですね。
清水 約束を守って、その通りに実行する。それがビジネスを動かすための前提で、パートナーさんにとっては、その先にお客様がいて、HPが約束した納期を守らないと、パートナーさんがまたお客様に謝らないといけない。そうすると当然ですが、そういったメーカーとはつき合いたくなくなります。
奥田 納期厳守は日本の製造業の合言葉のようなものですからね。
清水 先にデスクトップの国内生産をはじめましたけれど、そこで一品一様のオーダーでも5日でお届けできるというオペレーションの制度のよさを確立して、お客様から信頼をいただいているわけです。納期厳守の約束はずっと守り続けてきたと思っています。
奥田 それも東京生産だからこそできるというわけですね。
清水 製品によって、ちょっと違います。われわれはコストを測るとき、部品の調達から完成品をお客様にお届けし、それを問題なく使っていただくまでの間の、トータルサプライチェーンコストという指標でみています。そのなかには、物流費用、在庫関連費用、それから、生産設備、人、スペースなどのコストと、それ以外に付随するものとして、不具合があったときに、再検査とか、リワークするとか、そういったコストも含めて考えています。デスクトップ製品の場合、昭島工場では、一品一様のカスタマイズのオーダーを受けて5日間でお客様にお届けしています。仮にそのビジネスモデルを中国の工場でサポートしたとしますと、実際には5日ではどうやっても無理なのですが、なんとか7日なり8日でやろうとすると、まず、飛行機で運ぶ輸送費がかかります。われわれは部品でもってきますから、ほとんど船ですので輸送費はぐっと縮められる。次は在庫です。さっき生モノというお話がありましたが、製品は時間とともに陳腐化して、価値が下がります。価値減少分のロスがでてくるわけです。もう一つは、生産コストとしての人件費です。
奥田 売値のなかの人件費、工場の人件費は何%ぐらいになるのでしょうか。
清水 具体的な数字はお話できないのですが、人件費は物流費とあわせてトータルサプライチェーンコストの大きな比率を占めています。
奥田 中国と日本ではコストに大きな差があったとしても、製品づくりはやっぱり昭島ですか。
清水 完成品を海外の工場から運んできて、何も手を加えずにお客様にお届けできれば、余計なコストはかからないわけですが、なかなかそうはいかないのが実状です。取扱説明書を同封したり、製品を検査したりとか、日本に入ってきてお客様に届ける前に、もう一回手をかけるような状況というのが結構多いのです。ここでつくっていると、万が一問題が起きても、完成品の在庫をもっていませんし、すぐ、ラインに反映したり、停めることができます。海外の工場で問題があった場合は、すでに輸送途上にあるものが何万台となっている場合もあり、その場合は、日本に製品が到着してから手を加えなくてはならなくなってしまうのです。そういうコストも大きいです。デスクトップ製品に関しては、人件費で差がある部分を、トータルサプライチェーンコストで補い、コスト面でも十分に競争力があるという数値が実際に出ています。
奥田 ということは、中国の人件費はますます上昇していく一方ですから、こちらにとってはかなり有利になるわけですね。
清水 その比較でいくと、有利になります。
奥田 一番不利な時期は過ぎたということですね。ただ、市場がインターナショナルになれば、どこかが勝者になる。日本が勝者になる可能性があると思っていますが……。
清水 そのときには、昭島のノウハウが世界のHPの工場で生きると思っています。
奥田 ただ、今の段階では、日本のなかのガラパゴス、日本の特性に対応することに関して、「MADE IN TOKYO」は的を射ていると思います。しかし、その先もあります。今後の方向性に、大いに期待しています。
奥田 約束を守るというのは、どういうことでしょう。
清水 この日にお届けしますといったものを、必ずその日にお届けする。日本のお客様だと、遅かったら当然怒られますし、早くてもダメなのです。
奥田 日本ではそこが他の国よりも重要視されるわけですね。
清水 約束を守って、その通りに実行する。それがビジネスを動かすための前提で、パートナーさんにとっては、その先にお客様がいて、HPが約束した納期を守らないと、パートナーさんがまたお客様に謝らないといけない。そうすると当然ですが、そういったメーカーとはつき合いたくなくなります。
奥田 納期厳守は日本の製造業の合言葉のようなものですからね。
清水 先にデスクトップの国内生産をはじめましたけれど、そこで一品一様のオーダーでも5日でお届けできるというオペレーションの制度のよさを確立して、お客様から信頼をいただいているわけです。納期厳守の約束はずっと守り続けてきたと思っています。
奥田 それも東京生産だからこそできるというわけですね。
中国との人件費差を補ってコスト面でも十分に競争力がある
奥田 NEC米沢、島根富士通、そしてHP昭島におうかがいして、みなさん、ある部分では同じ要素で競争をしていらっしゃるということがよくわかります。一つは個別対応、そして納期のスピードです。生モノを運んでいるようなイメージですが、その点はみなさん同じのように感じます。ただ、日本に工場がある製品の売値と、中国の工場でつくっているものの売値と、差があるのではないかと思っているのですけれど。差があっても、昭島の工場でつくったものが、マーケットシェアにプラスにはなるとお考えなのでしょうか。清水 製品によって、ちょっと違います。われわれはコストを測るとき、部品の調達から完成品をお客様にお届けし、それを問題なく使っていただくまでの間の、トータルサプライチェーンコストという指標でみています。そのなかには、物流費用、在庫関連費用、それから、生産設備、人、スペースなどのコストと、それ以外に付随するものとして、不具合があったときに、再検査とか、リワークするとか、そういったコストも含めて考えています。デスクトップ製品の場合、昭島工場では、一品一様のカスタマイズのオーダーを受けて5日間でお客様にお届けしています。仮にそのビジネスモデルを中国の工場でサポートしたとしますと、実際には5日ではどうやっても無理なのですが、なんとか7日なり8日でやろうとすると、まず、飛行機で運ぶ輸送費がかかります。われわれは部品でもってきますから、ほとんど船ですので輸送費はぐっと縮められる。次は在庫です。さっき生モノというお話がありましたが、製品は時間とともに陳腐化して、価値が下がります。価値減少分のロスがでてくるわけです。もう一つは、生産コストとしての人件費です。
奥田 売値のなかの人件費、工場の人件費は何%ぐらいになるのでしょうか。
清水 具体的な数字はお話できないのですが、人件費は物流費とあわせてトータルサプライチェーンコストの大きな比率を占めています。
奥田 中国と日本ではコストに大きな差があったとしても、製品づくりはやっぱり昭島ですか。
清水 完成品を海外の工場から運んできて、何も手を加えずにお客様にお届けできれば、余計なコストはかからないわけですが、なかなかそうはいかないのが実状です。取扱説明書を同封したり、製品を検査したりとか、日本に入ってきてお客様に届ける前に、もう一回手をかけるような状況というのが結構多いのです。ここでつくっていると、万が一問題が起きても、完成品の在庫をもっていませんし、すぐ、ラインに反映したり、停めることができます。海外の工場で問題があった場合は、すでに輸送途上にあるものが何万台となっている場合もあり、その場合は、日本に製品が到着してから手を加えなくてはならなくなってしまうのです。そういうコストも大きいです。デスクトップ製品に関しては、人件費で差がある部分を、トータルサプライチェーンコストで補い、コスト面でも十分に競争力があるという数値が実際に出ています。
奥田 ということは、中国の人件費はますます上昇していく一方ですから、こちらにとってはかなり有利になるわけですね。
清水 その比較でいくと、有利になります。
奥田 一番不利な時期は過ぎたということですね。ただ、市場がインターナショナルになれば、どこかが勝者になる。日本が勝者になる可能性があると思っていますが……。
清水 そのときには、昭島のノウハウが世界のHPの工場で生きると思っています。
奥田 ただ、今の段階では、日本のなかのガラパゴス、日本の特性に対応することに関して、「MADE IN TOKYO」は的を射ていると思います。しかし、その先もあります。今後の方向性に、大いに期待しています。
「中国の人件費はますます上昇していく一方ですから、こちらにとってはかなり有利になるわけですね」(奥田)
(文/谷口 一)
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Profile
清水 直行
(しみず なおゆき) 1964年、群馬県生まれ。85年、日本DEC入社。96~97年、台湾に赴任。合併により98年にコンパック、02年に日本ヒューレット・パッカードとなる。PC生産の品質マネージャ、製造・技術部長を経て、09年から、PC事業部門のサプライチェーン本部長兼昭島事業所長。12年から現職。