日本市場で品質を磨き、アジア、そして世界に展開する――第81回

千人回峰(対談連載)

2013/03/05 00:00

金 範洙

金 範洙

オンザアイティ 代表取締役社長

構成・文/小林茂樹
撮影/横関一浩

 金 12年経ちましたが、いまも初心に戻ること、back to the basicということを大事にしています。目標をどこまで達成したかということより、いつも新しい気持ちでベンチャーに向かう心が大切だと、毎年繰り返し社員たちに話しています。

 奥田 それを社員のみなさんには、どのように意識づけているのでしょうか。

 金 初心に戻るということは、自分の気持ちを律してコントロールすることだと、いつも言っています。そして、多くの知識をもつことより、真面目できちんと仕事に取り組むことのほうが大切であるとも話しています。知識も大事ですが、もっと大事なのは自分の思いや人柄。外見より中身だと思います。

 奥田 金社長が高く評価する人は、どんなタイプですか。

 金 サムスンで人事採用業務に携わったことがありますが、面接のノウハウの一つに、「相手の目を見ながら話を聞いているか」ということがありました。つまり、それは相手のことに配慮しながら仕事ができるかどうか、という観点ですね。採用時にはそういう部分を重視しています。また、社員を評価する際には、自分ひとりで結論を出さずに、周りの人や本人の意見を聞いてから最終判断をするようにしています。自分のフィーリングや先入観だけを頼りにせず、現場での働きぶりを客観的に把握することが大事です。

 奥田 金さんは人を大切にしておられますね。

 金 どこの業界でも人材は大切だと思いますが、ことにこのソフトウェア業界では、一人だけ突出して優秀な人がいる組織よりも、他人ときちんとコミュニケーションができ、周りに配慮しながら自分の実力を発揮できる人が多くいる組織のほうが強いと思います。協調性やチームプレーは不可欠です。

 奥田 「KnowledgePlus」のマーケットシェアと主な顧客を聞かせてください。

 金 韓国でのシェアは1位で、顧客数は400社ほどです。顧客は大手と中小・中堅が半々。大企業の代表として挙げられるのは現代起亜自動車で、ユーザー数はおよそ10万人、また、官公庁では環境部(省)、国道海洋部、気象庁、鉄道公社など、15省庁で使われています。

 奥田 それはすごいですね。では、日本での競争相手はどこになりますか。

 金 まったく同じ機能のものはありませんが、サイボウズなどが展開するグループウェアから進化したポータル製品と、マイクロソフトの「SharePoint」のように文書管理から進化したポータル製品ですね。

 奥田 日本での導入事例はどのくらいありますか。

 金 現在24社ほどで、基本的にパートナー企業経由で入れていただいています。日本でのパートナーは、独立系の中堅SIer(2000人規模)など4社です。

 奥田 中国への事業展開は、これからどのように進めていくつもりですか。

 金 政治体制の違いもあるので、現地に拠点を設けずに、しばらくはパートナー経由で展開していきます。今は中国の大連を中心として展開していますが、今後は北京、上海でも展開する予定です。

 奥田 今、日中韓の間には難しい問題が起こっていますが、その点はどうお考えですか。

 金 たしかに難しい問題ですが、政治と民間企業の事業は切り離して考えるべきだと思います。

 奥田 同感ですね。アジアでの展開、大いに期待しています。

「アジアでの展開を大いに期待しています」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

金 範洙

(Bum-Soo Kim)  1963年生まれ。国立忠北(チュンブク)大学でコンピュータサイエンスを専攻し、卒業後、サムスン電子に入社。SIerであるサムスンSDS勤務を経て、1999年、オンザアイティを設立して代表取締役に就任。2007年、日本法人を設立した。