人の価値を高めるビジネスを中国でも展開する――第79回
西本甲介
メイテック 代表取締役社長
構成・文/小林茂樹
撮影/津島隆雄
西本 産業のグローバル化について検討される場合、企業のグローバル化やグローバル戦略ばかりに目が行く傾向があります。しかし私は、その向こう側にある「人のグローバル化」や「働き方のグローバル化」がより大きな課題だと思っています。最近社内でよく言うのは、これからのメイテックが持続的に成長していくためには、エンジニア自身がグローバル化していく必要があるということです。
エンジニアがグローバル化する、エンジニアの働き方がグローバル化するとはどういうことかというと、海外に行かず国内で仕事をしていても、働き方はグローバルにならざるを得ないということです。国内でモノをつくっていても、全部純国産部品でつくることなどあり得ません。いまは、世界中のサプライチェーンの中から最もローコストで最適な部品調達をするからです。
ということは、何かモノを開発しよう、設計しようというときに、グローバルなサプライチェーンを視野に入れた設計をしなければならないということです。また、国内で開発していても国内市場向けだけの開発ということはほとんどないので、国内と海外の開発拠点をリンクさせながら、世界の市場を視野に入れて製品開発をする必要もあります。
つまり、国内で開発していても、海外の開発拠点と情報共有し、連携しながら設計するというのがあたりまえになってきたわけです。これが、エンジニアの働き方がグローバル化するということです。もちろん、そこには言語の違いがあり、コミュニケーション能力を高めることも求められますが、より重要なことは、エンジニアとしての自分自身の働き方がどう変わっているかということをもっと意識することでしょう。そのうえで、そういう働き方が求められている人たちを、私たちは企業としてどう育成していくのかということが、問われていると思います。
西本 私どもは人材ビジネスに携わっていますが、それは人の価値を高めるビジネスでなければいけないということです。そのことを、社内外を問わずよく話していますし、われわれの事業もそうありたいと思っています。というのは、リーマン・ショックの前後に、いわゆる派遣切り騒動がありましたが、そのほとんどがお客様(メーカー)ではなくて、派遣事業者サイドが起こした問題だと思っているからです。
派遣労働市場は大きく膨らんで、2007年のピーク時には7兆円規模になりました。ところが、そこに参入してきた一部の業者が人の価値を損なうようなビジネスをやってしまい、問題を起こしたわけです。それはもはや人材ビジネスではありません。だから、技術者派遣業界No.1という評価をいただいている企業としては、やはり人の価値を高めるビジネスでありたいと言い続けています。
奥田 では、西本さんはどんなものを人の価値として考えておられるのですか。
西本 ずばり、成長することです。人材の価値を高めるということは、人が成長するということだと思います。ですから、私たちのビジネスは技術者派遣事業ですが、それは派遣を通じてエンジニアのキャリアアップを支援する事業であるということを胆に銘じています。
奥田 2008年のリーマン・ショックでは産業全体が落ち込みましたが、人材ビジネスの業界にも大きな影響があったのでしょうね。
西本 あれはつらかったですね。まず国内で決断したのは、人材ビジネスを展開しているからこそ、当社自身がなんとしても雇用を守り、一切リストラをやらないということでした。「それは情緒的に言っているのですか」と聞かれたりするのですが、当然「人」ですから情緒的な部分はあるものの、経営合理的に考えても、人材ビジネスに携わる企業が、景気が悪くなったから人を切るというのはナンセンスです。そんなことをすれば、もう二度と私たちの会社に優秀な人材は来てくれません。さらに次の成長を目指すのなら、この危機を乗り越えて歯を食いしばっても雇用を守らなければだめだということで、社員みんなががんばってくれました。再び私どもが成長のプロセスに乗っているのは、雇用を守った力が今に生きているからだと思っています。
奥田 それは中国でのビジネス展開でも同じですか。
西本 もちろんです。月1回の上海出張でも、メイテックの一番大事にしている部分を失わずに現地でビジネスをやっているかどうかをチェックしています。
奥田 なるほど。人の成長、そしてメイテックの成長ですね。
エンジニアがグローバル化する、エンジニアの働き方がグローバル化するとはどういうことかというと、海外に行かず国内で仕事をしていても、働き方はグローバルにならざるを得ないということです。国内でモノをつくっていても、全部純国産部品でつくることなどあり得ません。いまは、世界中のサプライチェーンの中から最もローコストで最適な部品調達をするからです。
ということは、何かモノを開発しよう、設計しようというときに、グローバルなサプライチェーンを視野に入れた設計をしなければならないということです。また、国内で開発していても国内市場向けだけの開発ということはほとんどないので、国内と海外の開発拠点をリンクさせながら、世界の市場を視野に入れて製品開発をする必要もあります。
つまり、国内で開発していても、海外の開発拠点と情報共有し、連携しながら設計するというのがあたりまえになってきたわけです。これが、エンジニアの働き方がグローバル化するということです。もちろん、そこには言語の違いがあり、コミュニケーション能力を高めることも求められますが、より重要なことは、エンジニアとしての自分自身の働き方がどう変わっているかということをもっと意識することでしょう。そのうえで、そういう働き方が求められている人たちを、私たちは企業としてどう育成していくのかということが、問われていると思います。
人材ビジネスの本質を追求
奥田 西本さんにとっての経営の根幹とは? つまり、どんなことを大切にして事業を進めておられるのでしょう。西本 私どもは人材ビジネスに携わっていますが、それは人の価値を高めるビジネスでなければいけないということです。そのことを、社内外を問わずよく話していますし、われわれの事業もそうありたいと思っています。というのは、リーマン・ショックの前後に、いわゆる派遣切り騒動がありましたが、そのほとんどがお客様(メーカー)ではなくて、派遣事業者サイドが起こした問題だと思っているからです。
派遣労働市場は大きく膨らんで、2007年のピーク時には7兆円規模になりました。ところが、そこに参入してきた一部の業者が人の価値を損なうようなビジネスをやってしまい、問題を起こしたわけです。それはもはや人材ビジネスではありません。だから、技術者派遣業界No.1という評価をいただいている企業としては、やはり人の価値を高めるビジネスでありたいと言い続けています。
奥田 では、西本さんはどんなものを人の価値として考えておられるのですか。
西本 ずばり、成長することです。人材の価値を高めるということは、人が成長するということだと思います。ですから、私たちのビジネスは技術者派遣事業ですが、それは派遣を通じてエンジニアのキャリアアップを支援する事業であるということを胆に銘じています。
奥田 2008年のリーマン・ショックでは産業全体が落ち込みましたが、人材ビジネスの業界にも大きな影響があったのでしょうね。
西本 あれはつらかったですね。まず国内で決断したのは、人材ビジネスを展開しているからこそ、当社自身がなんとしても雇用を守り、一切リストラをやらないということでした。「それは情緒的に言っているのですか」と聞かれたりするのですが、当然「人」ですから情緒的な部分はあるものの、経営合理的に考えても、人材ビジネスに携わる企業が、景気が悪くなったから人を切るというのはナンセンスです。そんなことをすれば、もう二度と私たちの会社に優秀な人材は来てくれません。さらに次の成長を目指すのなら、この危機を乗り越えて歯を食いしばっても雇用を守らなければだめだということで、社員みんなががんばってくれました。再び私どもが成長のプロセスに乗っているのは、雇用を守った力が今に生きているからだと思っています。
奥田 それは中国でのビジネス展開でも同じですか。
西本 もちろんです。月1回の上海出張でも、メイテックの一番大事にしている部分を失わずに現地でビジネスをやっているかどうかをチェックしています。
奥田 なるほど。人の成長、そしてメイテックの成長ですね。
「産業のグローバル化とともにいろいろな部分がボーダレスになっていく、と」(奥田)
(文/小林 茂樹)
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Profile
西本甲介
(にしもと こうすけ) 1958年、愛知県生まれ。81年、愛知県立大学外国語学部英米学科卒業後、カネボウ化粧品に入社。84年、メイテック入社。社長室長、人事部長を経て、95年に取締役人事部長、96年に専務取締役、99年に代表取締役社長に就任。2006年よりメイテックグループCEO兼代表取締役社長。日本経済団体連合会理事、日本エンジニアリングアウトソーシング協会代表理事などの公職を務める。