IT業界の規模が今の3倍になってもおかしくない――第77回

千人回峰(対談連載)

2013/02/20 00:00

江崎 浩

東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授 江崎浩

構成・文/小林茂樹
撮影/大星直輝

 奥田 なるほど、IT業界の役割は大きいということですね。

 江崎 もっといえば、いままでIT業界はITしかやってこなかったわけです。けれど、このようなインフラの神経系として、かなりの部分を占めることができることがわかりました。イーサネット上に直流電流を流すPoE給電が実用化されれば、制御したり情報を取ったりというだけでなく、もっと大元の部分まで乗っ取れるかもしれません。

 奥田 そこをもう少し具体的にお話しいただけますか。

 江崎 IT業界の規模はGDPの8%ほどで、発電に関係する業界は25%ぐらいです。仮に電力業界の1割をIT業界が取ればプラス2.5%となり、30%近い成長になります。あるいは残りの92%の産業が、その効率化とスマート化に投資すると考えれば、相当な成長が見込めます。そうなれば、IT産業の規模が現在の3倍になってもおかしくないでしょう。

 奥田 なるほど。IT産業が電力と情報の両方を握るかもしれない、と。

 江崎 そういう状況になれば、電力線と情報線を同じマンホールに通してシティデザインを行う、あるいはデータセンターに自家発電機を装備して、そこを発電所兼情報の貯蔵庫にするということが考えられます。

 奥田 ずいぶん具体的ですね。

 江崎 私は最近、青森県弘前市のスマートシティ構想というプロジェクトに呼ばれました。このプロジェクトは、電力会社へのエネルギー依存度を低下させることと、エネルギーの循環システムによる省力化・効率化を目的としています。もっと具体的に言えば、弘前市は除雪対策に多大な経費を使っていることから、たとえば発電所の熱エネルギーで雪を溶かすことはできないかといったことを検討しているわけです。話を聞いてみると、区画整理も計画的に行われていて、整理後の道路には電柱がないんです。

 奥田 それは立派ですね。

 江崎 立派ですよね。そこで私が提案しているのは、いわゆるドーナツ化現象で廃校になった市の中心部にある小学校の敷地に、小さな発電所を設置するという話です。発電機は熱を出しますから、それで冬場は雪を融かせばいいし、古いボイラーを使っていた隣にある病院にも発電機の熱で温水を提供することができます。こうすることで、町の真ん中で電力自給ができ、遠くからの送電に頼らず自立可能になるわけです。

 発電所兼情報の貯蔵庫は、コンテナサイズで実現可能です。そのままトレーラーに乗るサイズでつくっていますから、災害支援にも、短期間での都市開発という用途にも使えるし、駐車場4台分のスペースがあれば設置できます。サーバールームの床荷重を気にする必要もありません。3・11の最大の教訓は、情報システムが動かなくなると経済活動が止まるということでした。この方法なら、情報に加えて、エネルギーも確保できます。

 奥田 それはおもしろい試みですね。頭の中にそのコンテナの姿が浮かんできます。興味深いお話をありがとうございました。

「IT産業が電力と情報の両方を握るかもしれない、と」(奥田)

(文/小林 茂樹)

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Profile

江崎 浩

(えさき ひろし)  1963年、福岡県生まれ。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。1990年、米国ベルコア社、1994年、コロンビア大学で客員研究員として高速インターネットアーキテクチャの研究に従事。1998年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。工学博士(東京大学)。