インターネットで情報が動く、モノが動く、人が動く。そこに産業の“発芽”がある――第59回
ミツイワ 常務取締役 羅本礼二
構成・文/谷口一
伊勢湾の養殖マグロも銀聯モールで売る
羅本 先ほど話しました銀聯モールでは、伊勢湾の養殖マグロも中国向けに売ろうと思っています。奥田 美濃焼と伊勢マグロ、ずいぶんとものが違いますが、どういう出会いがあったんでしょうか。
羅本 昨年10月に三重県で漁協大会があったのですが、その時に、三重県の水産業が衰退して、10年後には県の水産業は消滅するのではないかという危機感があって、二つのことを決議をしました。第一点は、今24ある漁協を一つに統合するということ。もう一つは水産振興プロジェクトを立ち上げてそれを不退転の決意でやっていくということです。その際には、自分たちの力だけではなく、外部の力も入れてやっていく。そういう決議でした。そのなかでキーワードとなったのがインターネットだったわけです。インターネットを活用した新しい流通のしくみをつくる、と。
奥田 そのインターネットのところをミツイワが担うわけですか。
羅本 そうです。そこを私どもで。それから、インターネットを活用して情報発信もします。国内・国外に。そうすることによって、県外の旅行者も、中国からの観光客にも三重を訪れて、漁港にも足を運んでもらう。中国からは中部国際空港で降りて、フェリーで津に来てもらいたい。そういう情報発信ももミツイワならできるということで、やらしていただいているわけです。
奥田 三重の漁港とミツイワとの出会いにはどういう経緯があったのでしょうか。
羅本 三重にある漁港のITシステムの保守サービスをやらせていただいていまして、その保守品質の高さを評価してもらったのです。小さな仕事の積み重ねが認められて、先般は三重にある12の漁協の合併に際しての基幹システム構築などを、本業としてお手伝いさせていただきました。
奥田 これは既存事業の分野ということですね。
羅本 そうです。今後、三重の漁協は今ある24の漁協が一つに合併しますから、そのお手伝いもできればと思っています。これは本業のディーラー事業のターゲットになります。そうなれば相乗効果が生まれてくると思います。
奥田 システムを必要とするところのすべてをミツイワが賄うということですか。
羅本 これまではシステムだけの商売をしてきたわけですけれども、目線をまったく違うところに置くと、違うアプローチで入っていくことができる。どんな事業でもITシステムは欠かせません。だから、結果的にはシステムも受注が可能になると、そういう動きをしています。
奥田 「つくって売る」から、その先へいくわけですね。
羅本 BCNさんも、ものづくりの三つの環で、つくる人・売る人・使う人とおっしゃっていますが、ミツイワはつくる、売る、使うすべてに関わっていこうというわけです。
奥田 そこにネットを活用した新しいビジネスの芽があるというわけですね。
ネットで情報が動けば、必ずモノが動き、人が動く
羅本 こういったインターネットサービスの原点が私どもの「マイ・メディア・サービス」というわけです。奥田 それはどういったサービスですか。
羅本 今やホームページはどこの会社でもつくる時代になっているわけですが、そのホームページを毎日更新している企業というのは、たぶん数パーセントしかないと思います。つまり、インターネットの情報発信を本気でやっていないということです。だけど、インターネットの力というのは政治革命を起こすほどの力があるわけですから……。
奥田 ジャスミン革命ですね。
羅本 にもかかわらず、日本のほとんどの企業がインターネットで定期的な情報発信をしていない。そういう状況をみて、「マイ・メディア・サービス」というものを始めたわけです。
奥田 つまり、お客さんの情報発信を代行するということですか。
羅本 そうです。企業には、毎日、何らかの情報が生まれているはずです。その生まれている情報のなかに、価値ある情報が埋もれているのではないかということを企業の経営者に訴える。そうすると、そこに気づいていただければ、ホームページの情報の発信の仕方が変わる。そしてわれわれは情報発信のところをサービスとして請け負ってやりますというのが、「マイ・メディア・サービス」です。
奥田 何かわかりやすい喩えのようなものはありますか。
羅本 例えば奥田さんが非常に経営力のある運送会社の社長で、5台のトラックをもっている。私は隣町にいて、経営がへたくそなので、トラックを5台もっているけど稼働しているのは2台という状況。奥田さんところは常に5台のトラックがフル稼働で、さらに2台でも3台でもほしい。そのときに私のほうは3台余っているから、運転手代くらいで使ってくれませんかという情報をインターネットにあげていれば、奥田さんはそれを見て利用すると思うんです。
奥田 たしかに利用します。こういうのが埋もれている情報というわけですね。
羅本 「マイ・メディア・サービス」を使ってネット上に情報をあげておけば、そういうことが可能になるわけです。道具はそろっているのにそれをやってない。
奥田 情報を共有してそこから何かを生み出すということですね。
羅本 インターネットで情報が動けば、必ずモノが動き、人が動きます。
奥田 リアルのリソースが結合していくというのは面白いですね。今日は興味深いお話をありがとうございました。
「水産物の流通というのは、SIerが立ち入る領域ではなかった。ミツイワはそこに入っていくわけですね」(奥田)
(文/谷口 一)
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Profile
羅本 礼二
(らもと れいじ) 1979年、早稲田大学政経学部卒業。81年、三岩商事(現・ミツイワ)に入社。98年、取締役東京支店長。09年、常務取締役経営管理本部長。11年から常務取締役新規プロジェクト本部本部長。SIビジネスの枠を超えた新規事業を指揮する。