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「中国では一気にクラウドという流れもある」――第58回

千人回峰(対談連載)

2011/11/04 00:00

高澤 信哉

富士通グループ 中国総代表/富士通[中国]有限公司 董事長 箕田好文、富士通[中国]有限公司 総経理 高澤 信哉

構成・文/谷口一

ローカル企業とともにつくり上げる

 奥田 中国では、政府の関係者とのおつき合いがあってこその仕事だと聞いたことがありますが……。

 箕田 いやあ、それは案件があって、初めてついてくるんですよ。

 奥田 では、中国で案件を獲得していくにはどうしたらいいのでしょうか。

 高澤 富士通グループは1970年代末から汎用機のビジネスを開始して、80年代には固定電話の局用電子交換機、大学や企業などへの中・大型汎用機納入を展開してきたわけですけれど、今はそういった案件はなくなって、会社自体もハードウェアからソリューションの会社に移行してきました。今、案件といえば、ソリューションを中国にどうやって売っていくかという話になってきますね。ところが、日本のソリューションはあくまで日本に適応したソリューションであって中国のものではないので、中国に適したパッケージはここでつくらなければならないんです。

 箕田 そこをわかってない人は、日本の優秀なパッケージを持ち込んで売ればいいと言います。パッケージというのは、「こういうものがあります」という事例であって、それをそのまま使うというのは無理なんですよ。かつて、IBMも日本にパッケージを持ち込んできましたけど、結局はパッケージではダメで、IBMの日本人が日本のユーザーとあれこれ打ち合わせながらソリューションをつくり上げていったという経緯があります。

 奥田 なるほど。中国でもそういうふうにやっていかなければならない、と。

 箕田 そうです。今まさに中国では、ローカルの企業と協業しなくてはいけない状況にあります。ローカルの営業やSEがローカルの企業と一緒になって、中国に合ったソリューションをつくり上げていかなくてはならない。それには、人を育てる投資も必要となってきます。

 奥田 そういう時期に今、来ているということですね。

 箕田 そうです。でも、それさえも飛び越えてクラウドもありかなと思っています。

 奥田 ソリューション展開から、一気にクラウドですか。

 箕田 中国はこういうスピードはものすごく速いですから。

 奥田 ソリューションとクラウドのどちらを狙うわけですか。

 箕田 市場や相手があってのことですから、今はまだ明言できませんが、一気にクラウドという流れもあろうかと思いますね。といっても、5年後をみてみないと、結果はわからないけれども……。

5年後の中国にさらなる巨大市場をみる

 奥田 5年後の中国は、どうなりますかね。

 高澤 5年前と比べると、走っているクルマのグレードも違いますし、携帯電話の普及台数も今では10億といわれています。とんでもないスピードで、加速度的に発展を遂げている。北京にいると、そうみえます。だけど、ここからクルマで2時間くらい走って、少し市外へ出ると、5年前と何も変わっていない。

 奥田 そのようですね。

 高澤 ほんとに何にも変わっていないですよ。13億人のうちおそらく3億人くらいは、5年前と今とはものすごく変わっていると思いますが、残りの10億人は5年前と同じ生活をしているんです。

 奥田 それをどう読めばいいのでしょう。

 高澤 われわれは、まだまだ沿海部の3億人から4億人相手が精一杯です。農村部への普及はまだ5年以上の期間はかかると思いますね。つまり、市場はまだまだ拡大します。

 箕田 それと、今は銀行のATMが止まっても平気な中国人も、いずれ声を上げてくるでしょう。その時きっと、日本のきめ細かいサービスが商品として生きてくると思います。

 奥田 サービスの質という点では日本のほうがすぐれている。そういう観点からすれば、まだまだ中国の潜在市場はボリュームがあるということでしょうか。お二人のお話に心強い思いがします。

中国・中国人に対する見方が変わるターニングポイント

 奥田 高澤さんは中国に7年間滞在しておられると聞きましたが、日本と中国の違いをどうみておられるのでしょうか。

 高澤 この国は変わるのが速いですけど、一方で日本はすごい勢いで弱くなっていく感じがします。

 奥田 「弱くなっていく」ですか。

 高澤 こちら側から観察していると、中国が上昇していくスピードよりも日本が落ちていくスピードのほうが速い。日本は止まっているのではなくて、弱くなっていっているんです。そこに気がついてないように思いますね。

 奥田 そのことは、東日本大震災の前から感じておられる?

 高澤 ええ、若い人のパワーが違うという感じです。もちろん、日本のほうが強いところもあるんですが。

 奥田 日本にいれば、そうした面にはなかなか気がつきませんね。いつ頃からそう感じましたか。

 高澤 中国に対する印象がコロッと変わるポイントがあるんですよ。最初来たときは、マナーが悪いとか雑然としているとかルールを守らないとか、マイナーなイメージで捉えていたものが、あるポイントで、それがマイナーな意味だけでなくてプラスにみえてくることがあるんです。そこに気がつくと、この国の強さ、長所がみえてくる、そういうポイントがありますね。

 奥田 その辺りを少し具体的に聞かせていただけますか。

 高澤 例えば道路の信号を例にとれば、中国では、信号があってもなくても関係ないんです。

 奥田 ええ、確かに。

 高澤 こちらの運転手は、自分の進行方向の信号が青であっても、交差点に入るときは必ずスピードを緩めます。歩行者は、大丈夫と思えば赤信号でも渡っていきますから。

 奥田 街中でよく見かける光景ですね。

 高澤 もちろん、信号の青とか赤とかは日本と同じ意味をもっているんですけど、それぞれの人が、リスクを自分でとるっていうことなのです。青だけどリスクがあれば止まるし、赤でもリスクが少ないと判断すれば渡る。それぞれの局面でリスクテークを自分の価値観に基づいて天秤にかけて、どう出るかということを、信号一つ渡るときにも、クルマも考えているし人も考えているということです。

 奥田 個人が自分の責任で行動するというのは、欧米的な思考に似ています。

 高澤 日本の場合、青は進め、赤は止まれで、赤ならクルマ一台走っていない真夜中でも止まっている。日本は仕組みを守ることに汲々としている感じがします。もちろん、それは大事なことでもあるんですが……。ですから、ルールを守って負けるのと、レッドカードをもらって二人くらい退場しても1対0で勝つのと、どっちを選ぶかということですね。そういうところでは、日本に弱さを感じるんです。「正しい」けれど「弱い」では、国際競争のなかで生き残っていくのは難しいです。

 奥田 ルール遵守という点では、日本人は踏み越えられないようなところがありますね。

 高澤 危なければ止まれ、安全なら行けということを日本では考える機会すら与えられていないと思います。

 奥田 う~ん。

 高澤 そういうことを考えずに、ルールさえ守っていればいいと教えていることは問題だと思うんです。信号を守ることが大事だと教えるだけですから、自分で考えることはしない。

 箕田 正しいとか間違っているとかの問題じゃなくて、本質は何かですね。人に迷惑をかけないというのがすべての根底にあると思います。

 奥田 今日は、中国・北京という現場ならではのお話をおうかがいできました。ありがとうございました。 

「サービスの質という点では日本のほうがすぐれている。そういう観点からすれば、まだまだ中国の潜在市場はボリュームがあるということでしょうか」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

高澤 信哉

(みた よしふみ) 1974年、富士通入社、金融営業本部本部長、経営執行役兼金融ソリューショングループ副グループ長、経営執行役兼中国副総代表、富士通(中国)信息系統有限公司副董事長兼総経理。2009年、富士通グループ中国総代表、富士通(中国)有限公司董事長に就任。

(たかざわ のぶや) 1984年、富士通入社、富士通川崎スポーツマネジメント(現・川崎フロンターレ)、富士通日立プラズマデイスプレイを経て、2005年、富士通(中国)有限公司兼富士通(中国)信息系統有限公司へ。2009年、富士通(中国)有限公司総経理に就任。