中国で成功しなくては、将来はない――第57回

千人回峰(対談連載)

2011/10/27 00:00

小澤 秀樹

キヤノン(中国)有限公司 社長 小澤秀樹

構成・文/谷口一

人を見たらお客様と思え

 小澤 風土改革の一つが「挨拶」と「感謝」ですが、もう一つ、販売会社ですから販売マインドをもつように仕向けました。

 奥田 販売マインドをもつとは、どういうことでしょう。

 小澤 要するに、「人を見たらお客様と思え、お客様と思ったらモノを売れ」です。「私は人事、経理の仕事をしているのだから、販売には関係ありません」ではないよ、ということです。外で人に会ったら、「どこの複写機を使っているんですか」と声をかけて、販売につなげろと。経理、人事、所属している部門に関係なく、人と会ったときにチャンスがあれば商談しろ、ひと言売り込んでこいという指導ですね。

 奥田 なるほど。

 小澤 お客様と接するのだから、まず元気がないとダメ。そういう意味で、月曜日は週のスタートの日だし、販売マインドの盛り上げるために、元気をつけなくてはいけない。だから、男性は全員、赤いネクタイを身につけます。お互いが見えるわけだから、元気をつけなきゃと意識を奮い立たせる。まあ、私はもともと赤が好きなんですが……。

 奥田 中国だから、ということでなく?

 小澤 トリガーになっているのはタイガー・ウッズです。勝負の時や大事な場面ではウッズもアメリカの大統領も中国の国家主席も必ず赤を身につけますね。キヤノンのロゴも赤だし、中国も赤でシンガポールも香港も赤ですよ。みんな赤を使っているんです。東京の本社から出張してこちらへ来る人も、そのことを知っているので、赤いネクタイを締めています。

 奥田 よくそこまで徹底していますね。スタートのころはハードルが高かったのでは?

 小澤 いや、最初から「やれ」と絶対命令です。これについては、いちいちどうしようかと聞くようなことはしませんでした。挨拶もしないし、それを何回指摘しても聞かないですから、からだで覚えさせるしかない。

 奥田 小澤さんが挨拶を大事にされることの原点には、何があるのでしょうか。

 小澤 中・高校の野球部の体験と、日本でのセールスマン時代に、からだで覚えましたね。元気に挨拶ができなかったら、モノなんか売れるはずがない。

 奥田 からだで覚えるというのは、今は新鮮ですね。

 小澤 それから、販売マインドでいえば、みんな貪欲さが足りない。東京の本社から何かいわれれば、諦めてしまう。正しいと思えば通せと言うんです。われわれは高い目標をもっているわけだから。

 奥田 売上高1兆円という、とてつもなく高い目標ですね。

 小澤 そうです。中国で成功しなくては、将来はありません。

 奥田 なるほど。すべてはそこですね。

継続は力なり、「越来越好」の精神で

 奥田 先ほどの朝の挨拶運動にしても、続いているのが素晴らしいですね。

 小澤 継続なくして成功はないと信じていますから。挨拶運動なんかでも、まあ、1週間はできる、3か月はできる、でもこれを10年20年30年となると大変ですよ。

 みんなに言っているのですが、成功するのは簡単だよ、いいと思ったことを継続しろと。中国人は上昇志向の強い人が多く、将来社長になりたいとか、金儲けしたいとか言うけれども、「全然問題ない、簡単だよ」と。やると決めたことを必ず実行する。ただし、それを30年続けること。それができたら希望がかなえられると。

 奥田 小澤さんは自らが実行して、素晴らしい手本を示しておられるから、説得力がありますね。

 小澤 それから、もう一つは「Challenge&Passion」、挑戦と情熱が大切と言っているんですよ。挑戦には三つあって、変化に対する挑戦/改革に対する挑戦/成長するための挑戦、この三つの挑戦する気持ちと情熱を毎日もって、30年、40年持ち続けたら絶対成功すると断言しています。

 もう一つ、情熱をもつことですね。成功した人は必ず情熱が溢れています。情熱のない人は、仕事に成功しないし、私生活も楽しめない。だから、挑戦する気持ちと情熱があれば絶対成功すると言っているんですよ。ただし、継続しなきゃいけないよと。うちの社員にはみんな言っているんです。

 奥田 うーん、簡単そうでむずかしい。

 小澤 人間だから、なんか調子出ないなとか、やる気出ないなという時もあるじゃないですか、そういう時でも、「Challenge&Passion」ができるかどうかが成功するかどうかの分かれ道になる。

 奥田 中国の街のあちこちにはスローガンが目につきます。今のお話もスローガンのようですね。

 小澤 そうですよ。「継続は力なり」も「団結は勝利」も毛沢東の言葉です。スピーチするときも要所要所にそういうスローガンを中国語で入れます。反応が違いますから。

 奥田 なるほど、そうでしょうね。

 小澤 それから、私がよく言っているのが「好好学習天天向上」(ハオハオシュエシーテンテンシャンシャン)、これは中国人のすべて、13億の人が知っています。なぜかというと、小学校で必ず習うからです。「よくよく勉強しなさい。毎日向上する」という意味です。日本人の私がこの言葉を言えば、中国の人たちはみんなびっくりしますよ。

 奥田 どうしてそれご存じなんですか。

 小澤 中国の人と話していてそういう言葉が、ぽっと出るじゃないですか。「それ、ちょっと頂戴」って。

 奥田 教師が目の前にいるわけだ。

 小澤 ほかにもそんな言葉がいっぱいありますよ。あと、私がよく使うのが「越来越好」(ユエライユエハオ)。だんだんよくなるという意味です。今はまだ不十分だけど「越来越好」、今日より明日、明日はよくなる、そういうことです。

 奥田 最後にいい言葉を教えていただきました。お忙しいところ、今日はありがとうございました。「越来越好」。

「小澤さんは自らが実行して、素晴らしい手本を示しておられるから、説得力がありますね」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

小澤 秀樹

(おざわ ひでき) 慶應大学法学部卒。78年 Canon U.S.A. カメラ事業部、92年 Canon Singapore カメラ事業部長。03年 Canon Hongkong 社長に就任。04年、Canon Singapore 社長を経て、現在キヤノンアジアマーケティンググループ社長、キヤノン(中国)有限公司社長、本社常務取締役を兼任。