中国が栄えれば、必ず日本も栄える――第55回
クオリティ 代表取締役社長 浦 聖治
構成・文/谷口一
アメリカよりも中国進出のほうが容易
奥田 日本から中国に進出しようとしている企業は、商慣習も違うし考え方も違うって言いますけど、アメリカとビジネスをする場合も同じだと思う。浦 同じですね。アメリカだって大変ですよ。みんな大やけどして撤退しています。
奥田 そうですね。
浦 アメリカで商売をやるんだったら、相当の覚悟をして、9割の勝率でもって臨まないと……。
奥田 中国のほうが成功しているでしょう。
浦 そうでしょうね。アメリカはダイナミックなマーケティングを展開しますから、日本側がぶっ飛んでしまうという気がします。
奥田 たしかにそんな面がありますね。
浦 すごいハッタリをかますバイスプレジデントセールスみたいなのが出てきて、俺をいくらで雇えとか言って、うまくいかなかったら「商品が悪い」とか言い訳をして、姿をくらましてしまう。身ぐるみ剥がされるなんてことがよく起こるじゃないですか。
奥田 中国ではどうですか。
浦 そういうタイプの国ではありませんね。
中国でつくって、中国で売る
奥田 2008年からは中国での販売に力を入れてこられたわけですね。浦 そうです。それまでは、日本でつくったものを「売れ!」で、ずっとやってきましたけど、これは無理だなとつくづく感じたんです。
奥田 なぜ、そう感じられたのでしょう。
浦 いくつか要素はありますけれど。例えば、アメリカのソフトを日本に持ってきたときに、非常につらいことがあるんですね。アメリカというでっかい市場で売っているソフトを日本に持ってきて販売した場合、もしユーザーから何か要望が出てもなかなかアメリカ側は応えてくれません。同じことが日本と中国の間でも起こるわけです。
奥田 なるほど。
浦 それに、中国の人が中国のお客様の声を聞いてつくったものではないから、もともとカルチャーがマッチしてないことが多い。
奥田 そういうことですか。
浦 ローカルに向けて販売するのなら、中国のメンバーが中国のお客様の声を聞いて開発して、それで生まれた製品を売るしかないと判断しました。昨年の12月にそういう考えでつくった第一弾のソフトが完成しました。今年はそれを販売していこうと力を入れているところです。
奥田 社員の意識も変わったのではないですか。
浦 この間、うちの幹部連中と飯を食っていて、ポロリと出てきたのが、「以前は言っても直らないから、お客様のところへ行っても要望なんかを聞けなかった」という愚痴でした。要望を聞いても、実現できなければ嘘つきになってしまいますからね。今は、自分と同じ部屋で仲間がつくっているから、何かあったら、すぐに直してくれる。
奥田 ソフトをつくるにあたって、コアになる部分はどうしているのですか。
浦 核になる部分と日本の輸出管理に抵触するものは出せませんが、それ以外ならわれわれがもっているものは、どんどん使っていいし、支援もする。だから、自分たちで自由にお客様の満足するものをつくっていい。もし助けがほしかったら言ってくれと、そう指示してスタートしました。
奥田 それですぐにつくれるだけのスキルがある人がいるんですか。
浦 います。中国ではどんどんそういう人が出てきています。こちらが1年かけてもできそうにないものを、彼らは短時間にやってしまうんです。だから反省点は、日本でつくったものを売るというのは、大間違いだったということですね。
奥田 雇用に関してはどうなんでしょう。定着率が低いという印象ですが。
浦 幸い私のところではみんな長く働いてくれています。賃金に関しては、外部の専門会社に調査をしてもらったら、相場よりも若干低いことがわかった。それでも、我慢して働いていてくれていたんですね。で、すぐに引き上げました。企業は人ですから。
奥田 すごくいい感じで回っているようですね。
浦 今、彼らは燃えてますよ。自分たちの商品をつくったぞ、これから売るんだと。営業担当者も要望を伝えれば仲間が修正してくれますから、お客様との関係も深まります。
奥田 業績も伸びていますね。
浦 ええ、お蔭さまで。まず、オフショア開発から始まって、次に真似事みたいな営業をやってみて、そして本格的に販売に取り組もうとして。で、今度は中国でつくって営業にも力を入れて…。それで次のフェーズというのは、会社をローカルにしようと、われわれは中国の会社になるんだということです。日系企業という意識から脱却する。もともと日本にお金を持って帰ろうとして中国に設立した会社ではないですし。日本にお金を持って帰りたいと考えたら、成功しないんじゃないかと。
奥田 私もそう思います。中国の中で増殖しなければいけない。
浦 喩えていうならば、中国にすごい金持ちの親戚がいると思えばいい。隣の国が栄えれば、日本も必ず栄えます。
奥田 そうですね。その通りだと思います。