2020年、中国の著作権問題はクリアになるか――第54回

千人回峰(対談連載)

2011/06/22 00:00

谷口由記

弁護士法人フラーレン 代表 谷口由記

構成・文/谷口一

中国進出企業の撤退歩留まりは50%

 奥田 先生が2003年に上海に進出されてから、ほぼ10年ですが、この10年間でどんな風に中国は変化しましたか。

 谷口 制度的にも大きく変わったのは2001年。中国がWTOに加盟したので、市場開放のハードルが下がってきましたね。日本企業が中国に進出しやすくなってきています。それまでは低賃金・低コストのメーカーさんの製造ということで進出していって、製品は日本に輸出して売るというのがメインでしたけど、今はもう中国のマーケットを求めて出て行く。中国市場も最初は日本製品・外国製品に対しては関税や何かで高いハードルを設けて整備していましたけど、WTOに加盟した関係でそのハードルをどんどん下げてきましたから、日本製品も売りやすくなったし、マーケットの様子がコロッと変わりましたね。

 奥田 具体的にはどんな風に変わりましたか。

 谷口 日本の技術をもって中国で作った製品が、中国市場でどんどん広がってきたということです。それは中国の人たちが豊かになって、日本の製品は品質的にはすぐれているということで、好感されて広がったということですね。

 奥田 92年以降は大企業が進出して、2003年当時はどんな企業が出て、今はどうかと、進出企業の推移はどうなっているんでしょう。

 谷口 92年以降はメーカーさんが中心でしたし、それで2003年以降はハードルが下がってきましたから、第二次産業や第三次産業の業種も進出のチャンスが訪れているということです。

 奥田 今、2万5000社くらい中国に出てるといわれていますが。

 谷口 そうですね。2000年以後に出られた企業さんは中小企業が多いですけど、統計的に見ますと4割~5割の撤退があるんですね。

 奥田 中国進出の歩留まりは50%という感じですか。

 谷口 年によって違いますが、多い年で6割、少ない年で4割、ただこの数字は欧米・韓国に比べると低いんです。彼らのほうが撤退企業は多いんです。

 奥田 ほう、そうなんですか。

 谷口 もともと彼らは、進出のときに十分に練って考えて進出したのでないかもしれませんね。

 奥田 今は簡単に法人をつくることはできるんですか。合弁とか独資とかの。

 谷口 WTO加盟以降は、外国の企業の設立の許認可の足かせをなくしてきていますから、創りやすくはなっています。日本企業は合弁で撤退しているところも結構ありますから、独資を希望するんです。だから独資が7割くらいではないでしょうか。独資を認めていない業種もありますので、自動車がそうです。だから合弁でマジョリティは中国側にあります。トヨタさんもホンダさんもそうです。ただ、技術はこちらにありますからもめることはまずないですね。

街には違法コピーソフトが溢れている

 奥田 われわれの業種はITで、ソフト、ハードがありますが、中国へ進出されているソフトの会社の方が押しなべて言われるのが、ソフトのコピーの問題ですね。ソフトの会社にとって不法にコピーされたら、身も蓋もありませんからね。そういったソフトの問題でご経験はありますか。

 谷口 日本のゲームメーカーの委任状をもらって、ゲームソフトの取締りをやったことがあります。ネットユーザーがネットにアップロードして、違法にソフトを流しているんです。まずはプロバイダに警告文を送ります。そしたら、善良なプロバイダはすぐ削除してくれますね。協力的でないプロバイダも何回も何回もやることで削除してくれました。ただ、その時は一応功は奏すのですけど、そういうプロバイダは、結局また違う名前でやり始めたり、イタチごっこ、モグラ叩きみたいなことにもなってしまうんです。

 奥田 ソフトの会社で中国に出られた方とお話しすると前途多難という気がしますね。

 谷口 町で売っているDVDでもCDでもあれはほとんど海賊版です。正規の製品をなかなか見つけられないのが現状です。それだけ違法コピーに汚染されているんです。アナログ的なソフトの場合は簡単にコピーできませんけど、デジタルの場合は大量生産がいとも簡単ですから、中国の違法コピー市場にはもってこいの商品だったわけです。

 奥田 相性が良すぎますね。

 谷口 ただ、事あるごとに欧米や日本からコピー問題は槍玉にあがりますから、中国政府もなんとかしなくてはと、腰を上げて号令かけて、やってることはやってるんですよ。ところが中国は国も大きいし、組織の壁もいろいろあって、中央の号令がなかなか末端の所まで届かないという組織的な問題も抱えているんですね。

 奥田 中国政府は模造品に対して取り締まりを厳しくして、著作権も認める方向に活動を開始したと。それは、外資系の企業もさることながら国内でのデジタルコンテンツの市場を立ち上げていかないといけないからという話を聞いたんですけど、本当にそうなんでしょうか。

 谷口 それはその通りです。中国の「国家知的財産権戦略」にも謳われています。要するに2020年までに、中国は知的財産に関して高水準の国に変わるんだと謳っているんですけど、あと8年でできるかというと、ほぼ不可能な状況なんですね。

 奥田 そうですか。でも、上海のモノレールの建設の終盤の早さとか、北京オリンピックの時のメイン競技場「鳥の巣」完成間際のすごさをみると、ひょっとすると著作権に関しても最後の1年でクリアできるのではないかと期待もあるんですけど。

 谷口 そこまで国の威信をかけてやっているとは、僕らからは思えないんです。

 奥田 威信がかかると、短期で決着できるんですね。

 谷口 2020年と謳っていますけど、中国も本音ところでは徐々にしか改善できないとわかっていると思いますけど…

 奥田 徐々にかもしれませんが、いずれは著作権問題もクリアになると期待できるということですね。それが2020年に限りなく近いことを希望しています。

 今日はお忙しいなかをありがとうございました。今度は上海でお会いできればと思っています。

 谷口 私どもの上海事務所へぜひお越しください。 

「いずれは中国の著作権問題もクリアになると期待しています」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

谷口由記

(たにぐち よしのり) 1974年、関西大学法学部卒業。1977年、司法試験合格。1980年4月、弁護士登録(大阪弁護士会入会)。1986年、谷口法律特許事務所開設。1998年から2000年にかけて北京外国語大学、北京大学、復旦大学に短期留学。2002年、弁護士法人フラーレン設立。2003年、合流聯咨詢(上海)有限公司設立。2005年、上海事務所設立。日本工業所有権法学会会員、著作権法学会会員、関西特許研究会会員、アジア法研究会会員等。『中国知的財産権法令集―日中対訳』(I・P・M刊)など著作・論文多数。 URL:http://www.fullerene.jp