2020年、中国の著作権問題はクリアになるか――第54回

千人回峰(対談連載)

2011/06/22 00:00

谷口由記

弁護士法人フラーレン 代表 谷口由記

構成・文/谷口一

中国進出の形態と事業継続の難しさ

 奥田 谷口先生は2003年に中国に進出されたのですが、日本の企業の多くもそれ以前からも中国に行っては戻りを繰り返していました。中国に進出して戻ってくる企業はどんな問題を抱えて戻らざるを得ないのか、その辺りを聞かせていただけますか。

 谷口 早い時期に進出した企業は大企業が中心ですから、資本的にも人材的にもパワーがあります。中国も、来て欲しいですから「歓迎歓迎」ということで、何か問題があったときはできる限りのことはしますという感じでしたね。ですから撤退率は低い。90年代の第2次進出ブームの時に出て行った企業さんが中小企業のなかでは先駆けでしたが、そういう一群のなかにはうまくいかなくて撤退する企業もそこそこありましたね。半分まではいきませんが、それに近い数だったと思います。

 奥田 うまくいかない要因みたいなものは何でしょう。

 谷口 中国への進出の形態は、中国国内企業と日本企業が資本を出し合って一つの会社を設立する合弁企業と、外国資本100%の独資という進出形態、この二つが多いんですけど、撤退率が高いのは合弁企業なんですね。独資はそんなに撤退率は高くないんです。つまり、うまくいかない要因として、中国側と日本側の意思の疎通に問題があるということですね。

 奥田 合弁の出資比率はどうなんでしょうか。

 谷口 業種によって異なります。基幹産業については中国側がマジョリティをもっていて、意見が対立した場合は中国側の経営で進められることになりますから、これが日本側の撤退につながっていくというケースも結構あるんですよ。これは一般的・表面的なことなんですけど。

 奥田 ほかには?

 谷口 中国側が日本企業に求めるものは技術力です。だから最初は歓迎されるんですね。しかし、その技術を彼らが身につけてしまうと、結局、外資を排斥というか大事にしてくれなくなるんです。そうすると日本企業はせっかく技術を導入して、やろうと思っていたことが、思惑通りにいかなくなって、結局は撤退というケースもあるんです。

 奥田 いわゆる使い捨てのようなものですか。

 谷口 そうですね。

 奥田 使い捨ての意思はどんなかたちで表示するんでしょうか。

 谷口 排斥運動というか、社員はほとんどが中国人で、日本から行っているのは一部の幹部社員だけですから、そういう日本人に対するいやがらせみたいなことを運動的にやるんですね、彼らは。

 奥田 ほう。

 谷口 そうなると、もうそこに居れない。日本側も帰ってきなさい、彼らとは縁を切りましょうとなるんですね。そこで問題になるのが出資持分です。彼らが相場で引き取ってくれるのかというと、ほとんど二束三文です。だから放棄して帰ってくるわけです。

 奥田 放棄して…。

 谷口 ええ、そういう企業もあります。

 奥田 先生のところに相談にくるのは、どの段階あたりなんでしょうか。排斥運動あたりでしょうか。

 谷口 そうですね。最初はそういうところですね。それがいちばん露骨なケースですけれど。そうされると、私ら弁護士ももう打つ手がないというか、ただ円満なかたちで撤退できないかとか、出資持分をそこそこの値段で買い取ってくれないかとか、そういう交渉になります。

 奥田 はあ。そうなると、こちらは弁護士の先生をつけるとして、向こうの排斥運動をやっている側も弁護士をつけてやりあうのですか。

 谷口 (弁護士を)つける場合もありますし、つけない場合もあります。

 奥田 だとしたら、日本側は弁護士、向こうは会社員という交渉もあるんですか。

 谷口 ただね、私が直接窓口に行くのではなく、私の事務所の中国人弁護士でないとそういう折衝はできません。

 奥田 ああ、なるほど。

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