独自の情報分析で中国と日本に提言する――第49回

千人回峰(対談連載)

2011/02/23 00:00

柯 隆

柯 隆

富士通総研 主席研究員

構成・文/谷口一

志をもったファイター

 奥田 そういう中国の現状とつき合わなくてはならない日本の企業には、どういう取り組みが必要なのでしょうか。

 柯 日本の会社が中国へ出て行くにあたって、いろんなコンサルの人に頼んで講演してもらうと、だいたい人脈が重要だとか、そういう胡散臭いことを言うんですけど、一番重要なのはそんなことではない。ファイトできる日本人、戦っていける日本人が必要だということです。それには少し「悪」をもってなくてはいけません。日本のサラリーマンは、みんないい子ばっかりで、これではダメ。「悪×欲」の世界でやっていけるような日本人が今はいないんです。だから、日本にとっては人材戦略をどうするかが最大の課題なんです。

 奥田 具体的には?

 柯 日本の一流の銀行や会社の場合はたいてい、これから中国へ行かせようと思う人間には、北京大学へ1年間留学させて語学を勉強させる。そのやり方は、まったく意味がありません。現地で遊んで、ホームシックになっておしまいです。そういうことをやるくらいなら、北京じゃなく敦煌か甘粛省へ2年間くらい送り込んで、根性を鍛えるんですね。生きて戻ってこられたら、どんどん昇進させて中国で戦っていくんです。

 奥田 文化大革命のときの下方ですね。

 柯 日本の草食系の若者と肉食系の中国の若者と共存できるかというと、食い物にされるだけ、こっちはウサギとヤギで向こうはライオンとオオカミだから、食われるのが当然です。

 実はそれは若者だけではなく、日本の政治家も同じことです。民主党や自民党のいろんな方とお話ししたことがありますが、世界的にみてこの人たちのサイズが小さいですよ。草食系ばっかりで、口は達者だけど、それだけでは…。日本人は過保護をやめたほうがいいですね。とくに中国で戦うには。

 奥田 さきほどシンクタンクの話がでましたが、シンクタンクは何をもって何を考えていけばいいのでしょうか。

 柯 いろんな所で講演をさせてもらっていますが、たとえばワシントンで講演すると、終わった後に必ず二人、三人と聞きに来ますね。上院・下院の人たちが。「よかった」「これはおかしい」と。日本でも年間100回くらい講演をしていますが、日本の国会議員は一度も来たことがない。全然勉強しに来ない。そうするとシンクタンクをやっている人間にとってもやりがいを感じないのです。要するに政治につながらない、政策につながらないということです。

 鶏が先か卵が先かはわかりませんが、政治に携わる人はもっともっと勉強するように、そしてやり方もちゃんと計算してやっていく。残念ながら、大学の有名な先生方はみんなテレビに出たがる、それで講演料が上がって収入はいいんだけれど、ちゃんとした勉強はしなくなっています。われわれはここにいてデータベースを毎週操作して、また現場へ行って見てくる、そうでなければ、ふわっとした話しかできなくなるのです。シンクタンクというのはしっかりとしたフィロソフィーをもたなくてはいけない。それから社会における責任感ですね。そういう志が不可欠です。

 奥田 志ですね。志をもったファイター、志のあるシンクタンク。今日は大変興味深い話をありがとうございました。 

「柯さんの思い切った発言と深い分析には、心底感心しました」(奥田)

(文/谷口 一)

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Profile

柯 隆

(か りゅう)  中国・南京市生まれ。1992年愛知大学法経学部卒業、1994年名古屋大学大学院経済学修士課程修了。1994年長銀総合研究所入所。1998年より富士通総研経済研究所へ移籍。現在、富士通総研経済研究所主席研究員。財務省外国為替審議会アジア専門部会委員、財務省財務総研中国研究会委員などを歴任。中国中央電視台(CCTV)財経チャンネルコメンテータ。日中での講演多数。 <編注>柯氏が卒業した愛知大学は、東亜同文書院大学(1901年、上海に設立された日本人のための高等教育機関)が中華民国に接収されることとなった際に、同大学の学長を務めていた本間喜一(後に最高裁判所事務総長)が同大学の学生・教職員を受け入れる大学として1949年に創設した旧制・法文系大学である。愛知大学が編纂する「中日大辞典」は、中国語を学ぶ人にとってのバイブルとなっている。